遊☆戯☆王:OCGワールドストーリー”深淵の烙印世界”   作:erugon

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第八章 《スプリガンズ・ブラスト!》

 

 

 急加速に全身を後ろに引っ張れるアルバス。髪の毛が流星の尾のように靡かせるエクレシア。今まで感じたことのない加速感をその身に受けながら砂漠を突き進む。

 

『エクスブロウラー、出航!!』

 

 同時に、スプリガンズたちの船も砂漠へと漕ぎ出した。まるで逃げ惑う魚を狙う漁船――と言ってもアルバスもエクレシアも漁船を見たことがない。

 巨大な腕を持つエクスブロウラーは、これ自体も巨大なスプリガンズなのだ。

 正確には煤状の彼らが寄り集まって巨大なエクスブロウラーを動かしている、というのが正しい。サルガス、ピード、バンカー、ロッキーのどれを見ても、彼らの機体の中にいるスプリガンズは一体だ。

 

 だが、エクスブロウラーは違う。その巨体をそれぞれ各部にあるスプリガンズの本体が操作を担当する。そのために砂海を高速で航海することもでき、巨大な腕を振り回すことも、砲塔から仲間を発射することもできるのだ。

 

「アルバスくん、右から来ます!」

「本当に撃って来た!」

 

 先にキットから聞いている、スプリガンズ・シップ エクスブロウラーは彼らにとって便利な移動手段であると同時に、外敵に対する攻撃手段でもある。

 基本的にロッキーを用いるのだが、その気になればピードやバンカー、サルガスさえも弾丸にして放つことのできる全種対応砲台が、エクスブロウラーには存在する。

 実際のところはロッキー用の砲塔があるだけで、あとの奴らは両側についている腕による投擲なのだが、それでも十分威力は高い。

 高精度の照準機能と走破性能により、あらゆる敵を追い詰め粉砕する。

 

「ま、あたしが作ったんだけどね!」

 

 という言葉を聞いたときは呆れればいいのか怒ればいいのか、アルバスに判断はつかなかった。エクレシアは手放しで褒めていたが、今は涙交じりに跳んでくるスプリガンズの方向をアルバスに必死に伝えていた。

 これがスプリガンズ・ブラスト――暇を持て余した弾丸野郎どもの暇つぶし。

 戦闘経験を積むという意味では訓練になるのだが、彼らが戦うべき相手などそうそういない。

 

 しかも、彼らの普段の相手は同族。つまり……

「くっ、容赦がない、手加減を知らないらしい……」

「砂漠のどこかに出現するホールにまで辿り着けば勝ちって話ですけど、ホールなんてありませんよ!」

 

 太陽が沈むまで逃げ続けるか、砂漠の大穴に辿り着けば勝ち。

 大穴とやらが、天空のホールと同じものなんかは判断つかないが、そこにまでつけば太陽が沈むのを待つ必要はない。

 スプリガンズの猛追を掻い潜りながら砂漠に視線を走らせるが、砂、砂、砂――砂ばかりで遠近感がおかしくなりそうだった。

 

「今度は左、いえ右からも!」

「掴まれ、加速する!」

 

 爆風を受けながら、鉄駆竜スプリンドは前に進む。

 

「これ、逃げ切ったら勝ちなんだよな」

「そ、そうですけど?」

「反撃しちゃいけない、わけじゃないよな」

「アルバスくん!?」

 

 アルバスは鉄駆竜スプリンドのブレーキを思いっきり掛けると、さらに左のスラスターを噴射。機体の方向を一気に転向する。機体下部には一門の砲塔があり、それは攻撃角度を変えるには機体ごと動かさなければならない。

 

「くらえ!」

 ――ズドドドドドドドドッ!!

 激しい炸裂音とともに、小さな弾丸が飛んでく。果てしなく武骨な音を響かせながら、鉄駆竜スプリンドはエクスブロウラーに接近、その真横を飛んでいく。

 

『旋回、旋かーい! オエー、オエー! 取ォリ舵』

 

 サルガスの号令に合わせてエクスブロウラーは方向を変える。

 その間に鉄駆竜スプリンドは距離を開く。

 ロッキーの砲撃からピードの投擲に切り替えながら攻撃を加えてくるが、十分な距離が空いたことにより到達までの間に回避が可能だ。

 

「このまま振り切って、大穴を見つけて到達するぞ!」

「はいっ……アルバスくん、ありました!」

 

 ちょうどいいタイミングで見つかってくれた。

 砂漠には珍しいどんよりとした雲の下に、その大穴はあった。アルバスが落ちて来たホールにも似た菱形の穴が砂漠にぽっかりと空いている光景は、まるで何かが菱形にくりぬいて見せたかのようにも思えた。

 言い知れない不安が頭をよぎるが、あそこがこの追いかけっこのゴールである以上、見逃すことはできない。

 

「さっさと終わらせよう。行くぞ」

 

 鉄駆竜スプリンドの舳先がそちらに向く。

 だが、それを遮るように眼前にバンカータイプのスプリガンズが落ちてくる。自立飛行を可能とするバンカータイプは飛距離が長い。

 しかもよく見れば、その両肩にロッキーとピードのタイプが乗って飛んでくるではないか。

 

「兄弟なんでしょうか、彼らは。肩車ってちょっと憧れます」

「言っている場合じゃない!」

 

 残念ながら、現在のアルバスもエクレシアも、個人的戦闘能力はほとんど持ち合わせていない。鉄駆竜スプリンドに取り付かれたら振りほどくことはできない。

 機体目掛けて落ちてくるスプリガンズを避けながら、ホールへと近づく。

 

『追イツイタぞ!!』

 

 サルガスが船から飛んでくる。キャプテン自ら飛んでくるということは、ここが正念場だと彼も理解しているのだろう。

 刻一刻と迫る巨体。これを避けることはできない。アルバスは瞬時にそう判断した。

 

「エクレシア、ベルトを外せ!」

「は、はいっ!」

 

 アルバスはガチャンとベルトを取っ払い、後部座席に身を乗り出す。だが、エクレシアは戸惑っている様でベルトを外せていない。

 

「ひ、引っ掛かっちゃって――」

「ナイフ借りるぞ」

 

 アルバスはエクレシアがフェリジットから譲られていたナイフを抜くと、ベルトを切断。彼女の体を抱えると同時にハンドルを蹴って方向を急速転換。自分たちは鉄駆竜スプリンドの巨体から飛び降りるが、サルガスに向かって機体は飛んでいく。

 二人は砂漠に転がりなら着地し、飛んでいく機体を眺める。

 サルガスは空中で避けることも叶わず、突撃してくる鉄の竜と激突。そのまま上昇していき、途中で鉄駆竜スプリンドは爆発した。

 

「あたしのスプリンドォォォォーー!!」

 

 何か悲鳴のようなものが聞こえたが、アルバスは気にしない。

 

「急ぐぞ。そう長い時間、引き付けてもいられない」

「す、すごかったですアルバスくん! 大舞台の役者さんみたいな動きですよ!」

 

 かなり危険なことを行い、さらに機体まで失ったというのにエクレシアは彼のことをすごいと称する。慣れたら危険だな、と思いつつ、嬉しいので口には出さない。

 手をつないだ二人はスプリガンズたちがやってくる前に、大穴の淵にまで辿り着いた。

 そこは本当にきれいな菱形で、見えない壁でもあるのかと思えるほどに、きれいな断面を作っている。むろん、本当に壁があるわけではない。

 

「似ているな、ホールの形に」

「でも、暗いホールというわけではありません。降りてみます?」

「ああ。スプリガンズたちが来る前に、少し調べよう」

 

 掴んだ砂を投げ入れてみると、暗さの割にそこは浅い。

 意を決したアルバスが飛び込んでみると、問題ないようでエクレシアを呼ぶ声がする。

 

「奥まで続いているらしい、行ってみる」

 

 同じく飛び込んだエクレシアは、アルバスの後を追って暗い穴を進んでいく。縦方向に降りて来たところで一度折れ曲がり、どこか先へと続いているらしい。

 

「穴の奥に、こんなものが……」

「遺跡みたいだな。多分、近くの塔に続く……」

 

 古代遺跡の一角から飛び出た穴が、ほぼ直角に折れ曲がって地上へと伸びたらしい。それを道なりに進んでいくと、石とは違う物質でできた壁に辿り着く。

 

「どうやら、ここがゴールらしい」

 

 壁に触れた時、経年劣化のせいなのか、ガラガラと崩れ落ちていく。顔を見合わせたアルバスとエクレシアは、意を決して奥へと進んだ。

 

 

 そのころ、地上の穴の付近まで辿り着いたキットたちは、見当たらない二人を探す。

 

「おーいアルバスー? エクレシアー? どこ行ったんだよー。スプリンド壊したことなら怒ってないから、出てきてよー」

 

 別にあれ一機しかないわけじゃないしー、と付け加えながら穴を見下ろす。スプリガンズは穴に降りようとはしない。ゴールに定めている割に、そこには入らない。

 このテストは度胸試しの一環だ。決して本気でこの穴に落ちるような勢いで駆け込むわけじゃない。だが、あの二人は降りて行ってしまったらしい。

 このどこに続くかもわからない縦穴に。

 

「こいつはだいぶ小さい穴だから大丈夫だと思うけど、まさかアイツに食われたりは……」

『キット、アレ』

 

 隣のロッキータイプが指差した方向を見ると、近くの塔がある。彼らの目にはいくつかのセンサーが仕込まれている。その一つがどうやら二人を捉えたらしい。

 

「行くよ、みんな」

 

 若干焦げたサルガスも他のスプリガンズも含めて塔に向かうと、その一角が開き、見知った顔が現れる。

 

「アルバス! エクレシア! もー、心配したよ」

「ごめんなさい。さっきの穴を下りたら、この中に続いていたので……」

「なるほどね。この塔、スプリガンズの皆でも壊せない代物なのに、どうやってあけたの?」

「さぁ?」

 

 アルバスは首を傾げる。地下の部分が脆くなっていたから中に入り、風の向くまま気の向くまま、歩いていたらこうして外にまで到達しただけだ。

 

「それより、こっちへ。見せたいものがある」

 

 アルバスが奥を示すと、エクレシアもニコニコと嬉しそうにキットの手を引く。

 

「多分すっごくびっくりしますよ!」

「えー、なんだよー早く教えてよー」

 

 キットはワクワクしながら手を引かれるまま進み、角を曲がる。

 そこにある扉をアルバスが開けると、言葉を失った。

 

「多分、宝物庫かなんかだろう」

 

 そこにあったのは、文字通りの金銀財宝に宝石の山。

 この砂漠がゴールド・ゴルゴンダと呼ばれるように、ここにはホールから、そして古代文明が残した宝が金の如く埋まっている。

 その一つが、この塔の中にあった。

 

「おたからだぁっ!!」

 

 同じような叫びをスプリガンズも上げ、財宝へと飛びつく。

 

『スゴイ、オマエラさいこー!』

『ミゴトだ、新入り。おおっ! これはマサカ、ペガサスのサファイヤ!?』

 

 サルガスもご満悦の様子で、様々な宝物に目を惹かれていた。アルバスは宝物庫の一角に腰を下ろし、彼らが眺める宝石を一つ手に取る。

 外ではサルガスに率いられたロッキーたちが合体し、六連装の大砲となる。

 

「こんな石ころ一つで、こんなに喜んでくれるんだな」

『メリーメーカー、ファイヤーー!!』

『ヒィヤッホォォォォ!!』

 

 とてつもないハイテンションである。それを見たキットは笑いながら答えた。

 

「そりゃあ宝石は貴重だからね。この子たちにとってはキラキラした綺麗なものっていうだけで、価値があるのさ」

「キラキラ……か。ならおれにとっては……」

 

 そう呟きながら、アルバスは足元に転がるものを手に取った。

 

「なんだこれ、宝石でも、金でもないぞ」

「え? どれどれ……え、うそ、ナニコレ!?」

 

 キットはアルバスが握っているものを見て、目を大きく見開いた。

 

「あたしこんな古代遺物見たことないよ! え、なんだろう、ねぇみんな分かる?」

 

 キットの知らない古代遺物。それにスプリガンズたちも視線を向けるが、誰もわからないと首を傾げる。どうやらここにあるのは、キラキラしたものばかりではないらしい。

 

「そういえば、こんなものもありましたよ!」

 

 ふいに、エクレシアがそう言って持ってきたの。それは、巨大な生物の頭骨。鋭い鼻先と牙を備えた、怪物いうのに相応しい形相。

 

『ヒィィィィィィィィィィィィィッ!!』

 

 それに対し、とんでもない勢いでスプリガンズが飛び退いた。

 

「どうしたんですか? ただの骨ですよ。歴史資料として価値があるなぁと思って持って来たんですけど……」

 

 ドラグマにいたころはそのようなものの収集を手伝ったという彼女に、キットが周りの反応を理解して説明する。

 

「そいつはこの砂漠の主の、幼体の骨だね。確かに珍しいと言えば珍しいだろうね。なんたってアイツは……。ちょっと待って」

 

 何かに気づいた。ガクガク震えるスプリガンズを不思議そうに見るアルバスたちに対し、キットの表情は険しくなっていく。

 

「その骨、この近くで見つけたんだよね」

「はい、隣の部屋に」

「じゃあ、この近くにアイツがいるかもしれないってわけだ……」

 

 周りで怯えるスプリガンズを他所に、彼女は砂漠を見つめる。

 

「さっきから、アイツって、誰だ」

 

 アルバスの問いかけに、キットは短い深呼吸をしてから答えた。

 

「この砂漠の主、覇蛇大公ゴルゴンダだよ」

 

 それは、ホールより現れた、砂漠の支配者。

 

 

 大地の底から、魂に恐れを叩きつける雄叫びが響き渡った。

 

  

 

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