遊☆戯☆王:OCGワールドストーリー”深淵の烙印世界” 作:erugon
本日(2022/1/15)はDIMENSION FORTHの発売ですね。
ストラクチャーデッキに11期シリーズパックと、また彼らの物語が進んだのは1ユーザーとして楽しい限りです。
どうか彼らの道行きに、幸あらんことを。
砂漠の下、そのさらに下にある冥府より届くかと思わせる咆哮の後、砂漠の一部がへこんだ。
大量の砂が地下水のたまり場に落ちることで流砂ができるという。
それと似たような現象だが、すぐに違うとわかる。
へこんだ部分が盛り上がり、海面から巨大な魚が跳ねるように弾け飛んだ。
「嘘、だろ……」
「お、おっきい、ですね……」
巨大な塔の遺跡は、十分巨大だ。
ドラグマの王城と大差ない大きさを誇るそれは、きっとここに巨大な都市があったのだろうと予想させる。
だが、砂漠より現れたそれは、もっと巨大だった。
先ほどエクレシアが拾ってきた頭骨と似た形をしているが、その大きさは数十倍、いや、百倍以上にもなるだろう。街一つに匹敵する巨大な紫の蛇。
体にホールと同じ靄を抱くそれは、
「こいつが、この砂漠の主……覇蛇大公ゴルゴンダだよ」
この砂漠の名はゴールド・ゴルゴンダ。この蛇が砂漠の主だからそう名付けられたのか、この砂漠の主だから覇蛇はゴルゴンダの名を与えられたのか。
知るものなどもう生きてはいない。
数多のトレジャーハンターがこの砂漠に挑む最大の理由であり、生きて帰れぬ最大の理由。
「早く逃げるよ! あいつは体中にホールと同じ物質を持ってる。下手に触れるとどうなるか分かったものじゃないからね!」
そう言ってキット、そしてスプリガンズは持てるだけの宝を持って遺跡から外に走り出す。
爆発と激突を娯楽とするスプリガンズですら、一目散に逃げるのだ。
アルバスやエクレシアが何かしたところで、その動きを止める手立てなど何もないのだろう。
まして、下手にちょっかいを懸けてこちらに意識を向けさせるなどもってのほかだ。
「急いで急いで! シップで逃げるよ!」
これもスリルの一つ――と割り切ることなどできない。
体中から紫色のエネルギーを放出するゴルゴンダは、一度頭を砂の中に戻した。
しばらくその巨体が砂の中を遊泳する様子を見られるが、尻尾が近づくとおかしいことに気づいた。
「あいつ、尻尾がない?」
「そうだよ。ゴルゴンダはどういうわけか、尻尾の先端からホールと同質のものを放出してるんだ」
キットの解説の通り、ゴルゴンダが通った後には、紫色の物質が残った。
個体でもなければ液体でもない。霧のようにも見えるが確かな形を持ってそこに存在する。
「ホールと同様の物質で構成された存在……。あいつも、ホールの向こう側から現れたのか?」
下顎一つがスプリガンズ・シップと同等の大きさを誇る。下手をすればこの塔ごと呑み込まれる可能性だってあった。
「まずい、見られてる!」
アルバスの声に、その場にいた全員が顔を上げた。頭上に影が差す。雲の少ない砂漠に太陽を覆うような厚い雲はほとんど生まれない。
ならば、答えは一つだけ。
紫の虚ろな穴を口内に持つ覇蛇が、砂漠からその巨体を伸ばしている。そしてアリのように小さな彼らをその視界に収めた。
「ジャガァァァアァァァツ!!」
ヘビの方向が、爆音……いや、嵐となって砂漠に吹き付ける。鎌首をもたげ、地面に向けて突っ込んでくる。余りに巨大なためにその動きが緩慢に見えるが、気づいたころにはすでに接触している。
全速力で砂漠を走ったアルバスたちは、間一髪その牙から逃れた。
「うわぁぁぁっ!」
「エクレシア!」
吹き飛ばされたエクレシアを抱き留め、ゴロゴロと転がるアルバス。その体をサルガスが担ぎ上げ、砂漠を必死で走っていく。
「サルガス……!」
『隊員をマモル。それハ、きゃぷてんノ務メだ!』
すでにロッキーたち小型のスプリガンズは自力で飛んだり、バンカーのような大出力で空を飛べる個体にくっついたりして離れていく。キャプテン サルガスは乗組員の乗船を確認するために最後まで残っていた。
そして、新たな仲間として認められているアルバスとエクレシアも、キャプテンが守るべき乗組員の一人になっているのだ。
『逃ゲルゾ。あいつト戦ってイイコト、何モない!』
そう断言する後ろで、ゴルゴンダはもう一度首を持ち上げる。食らい付いた砂は口から零れるものもあれば、その喉の奥にあるホールに消えていくものもある。
「あれの巨体こそが、覇蛇大公ゴルゴンダ最大の武器だよ。しかもどうやったのか、天空に現れたホールを食らったって言うあのボス個体が、この砂漠の主さ」
「あんな大きいなんて。皆さん普段からあんなのに追われているんですか?」
「ううん。あたしは話にしか聞いたことがないよ! あんな巨大なのは初めて見たし、実際いると思ってなかったし。普段はもっと小さい、幼体しか見ない!」
『ワシは何度か遭ぐうシテいるゾ』
「キャプテンここでの生活長いもんねー」
キッドの気の抜けた声がするが、たとえ小型個体でも十分な脅威とはなるのだが。
それ以上に信じられないのは――
「おれを、見ていた?」
サルガスに担がれながら、アルバスは覇蛇の六つの目を見る。紫に光るその眼は、眼球らしいものはなく、虹彩や瞳の位置もわからない。
だが、見られている。それだけは、何となくアルバスにもわかった。
『砲雷撃戦ヨーイ! 攻撃開始とともにタイヒー!』
サルガスの指示が飛んだ。同時にスプリガンズ・シップが動き出す。
飛び乗ったサルガスを仲間たちが中に引っ張り込むと、同時に砲台からロッキーが発射される。
様々な方向から飛んでいく弾丸たち。激突と同時に爆発を起こし、覇蛇を煙に包み込む。同時に左右のアームからも投擲、連続した爆発が砂漠に響き渡る。
「すごいです! これならあの蛇も――」
「だめだ。サルガス、舵を切れ!」
エクレシアの歓喜をアルバスは遮った。サルガスはエクスブロウラーの舵を一気に切る。背部のブースターも前回にして加速。煙から飛び出した覇蛇の顎を寸前で回避した。
『ダメージナシ! カテッコナイー!』
スプリガンズの一体となった魂の叫びが、真実を表していた。
あまりにも相手が巨大すぎる。おそらく幼体のゴルゴンダならば、あの頭骨が示していたように倒すことも可能なのだろう。
だが、街のように巨大な砂漠の主を倒す術は、あいにくとここには存在しない。
できることは、ただひたすらに逃げること。
「ガォァァオアオアァァオォォァ!!」
咆哮で船が揺れる。ゴルゴンダの通った後はホールと同質の存在に呑まれ消えていく。これほどの巨体が毎日動いているのだとしたら、とっくにこの砂漠は無に帰している。
だがそうなっていないのは、通常覇蛇大公ゴルゴンダは休眠しているからに他ならない。
頭上でいくらスプリガンズがドンパチかまそうとも、小型個体以外は起き上がることのない。しかし、アルバスたちが来てから、覇蛇が目覚めた。それはやはり異常なことなのだ。
「キャプテン、右から!」
キットの叫びにサルガスは左舷に向けて舵を切る。全てのブースターを全速力で放出した方向転換。スプリガンズたちもそれに耐えきれず船から投げ出される者さえもいた。
『ウワーッ!』
「――! 離れちゃだめぇ!」
ゴルゴンダに呑まれる、それを拒絶した少女がいる。むろん、エクレシアだ。
金髪を風に揺らしながら、船の縁に捕まって手を伸ばす。見た目通り、否。それ以上に重たいスプリガンズの腕を掴んで必死に引っ張る。
聖痕の力があれば簡単に助けられたであろう。
けれど、今の彼女はただの少女。
『ダメ、ハナシテ!』
それは、スプリガンズとてわかっている。自分を助けようとすれば危険だと。
けれど、彼女はやはり聖女なのだ。
聖女の証は、聖痕の有無ではない。
たとえどんな者であろうと慈しむ心があるから、彼女は聖女と呼ばれるに足る少女なのだ。
その慈愛ゆえに、聖域を追放されし者は、その志をたがえることはない。
「離しま……せん、から!」
「ゴァッ!!」
ゴルゴンダの大きさはエクスブロウラーの数倍、数十倍。砂漠にその身を横たえた衝撃だけで、甲板上の者たちの体は跳ね上がる。
「きゃっ! ――ッ!」
「エクレシア!」
加速するエクスブロウラーから投げ出されたその小さな体が、ゴルゴンダの顎の中へと消えていく。
最後の力を振り絞って、掴んでいたスプリガンズを牙の外に投げ飛ばした。その体をアルバスが受け止めると、少女はふっ、と笑う。
「――――――――」
遠くで、口が動いたのがわかる。眼前で閉じられるゴルゴンダの顎。それだけで巻き起こる風に煽られて、エクスブロウラーのマストはギシギシと音を立てる。
「エクレシア……」
けれど、アルバスにはそのようなことは些細な微風に過ぎない。
彼は船の後部から手を伸ばす。だが、握り返す手はない。鎌首をもたげたゴルゴンダは、狙いをもう一度エクスブロウラーに定め頭部を揺らす。
今度こそ食らってやる、そんな意思を感じさせる。
呆然としたアルバスは、その腕をゆっくり降ろす。隣でゴルゴンダを睨むキットは、ぐっと拳を握り絞めて何かを決意したような表情をした。
「絶対あの顎ばらして、エクレシアを助け出す……。あたしの友達に手を出したこと、後悔させてやるからね!」
意気込んだキットは、格納庫に向かおうと踵を返す。その時――
「……アルバス?」
彼女は気づいた。
隣の少年から膨大なエネルギーが、熱が、漏れ出していることに。
当の少年は、全く意に介していないようだったが。
「サルガス、頼みがある」
静かな、落ち着いたアルバスの声が響く。ただし、反論も問いかけも許さない、そんな威圧感を持って。
「おれをあいつに向けて投げろ」
『……リョウカイ! 投擲、用意!』
有無をいわず、サルガスは承認した。
サルガスが用意したのは、爆発したスプリンドのシート。エンジンとウィングは壊れて存在しないが、そこだけは残っていた。シートに座ったアルバスは、シートベルトで固定することもなく、そのままエクスブロウラーのアームに捕まれる。
ぐぐっと振りかぶり、もう一方のアームで狙いを定めた。
『ハッシャァァッ!!』
スプリンドのシートとともに飛んでくアルバス。その眼は、焔のような赤い光を伴っていた。
近づいてくるアルバスに、ゴルゴンダは歓喜するように鳴き声を上げる。
同時に溢れ出すホールのエネルギー。それはスプリンドのシート、その上に立ったアルバスを包み込んでいく。
「エクレシアを……」
炎が、その身に宿る。
シートを燃やし、大気を焦がすその炎は、彼の背中で八の字を描く。それに重なるように横向きにも八の字を描く。
まるで、遥か東方にてヒトの域を超えた者の背後に現れるという、光輪にも似た印象。
だがこれは、ホールのエネルギーが集まって出来上がる焔だ。彼の両腕、額、胸の白い宝玉が光を放ち、右腕をゴルゴンダに向けて伸ばす。
「エクレシアを、返せ!!」
ゴルゴンダの叫びが、歓喜から悲痛なものに変わる。
アルバスから溢れる炎がゴルゴンダの身を焼いていく。痛みに体を振るうその顎の中から、一筋の光がアルバスのもとへとやってくる。
まるでハッシャーシーンから聖痕を奪った時のように、エクレシアの体そのものが、アルバスの腕の中に納まった。
「アルバス、くん? わたし……」
「大丈夫。もう、アイツの好きにはさせない……!」
溢れ出す焔がアルバスの体を包み込む。それはまるで火傷のような跡を彼の体に刻まれていく。だがそこに痛みはなく、むしろ心地よさすら感じる。
砂漠に着地し、エクレシアを降ろす。威嚇するゴルゴンダへ向けてゆっくりと歩きながら、その身は巨大な火柱へと変わっていく。
焔は次第に形を持ち、太い腕を、長い尾を、雄大な翼を、鋭い棘、並び揃った牙、全てが焔で出来上がった赤竜が、その姿を大地に君臨させる。
アルバスの体に刻まれた烙印より生まれたる焔の竜――遠く教導の城の中で、預言者はその名を呟く。
同時に、少年の背を見つめていた少女の口からも、その名は紡がれた。
「――《烙印竜アルビオン》」
「グォォォォォォオオオオオオォォォォンッ!!」
ゴルゴンダの眼前を舞う烙印竜アルビオンに呼応し、共鳴するかのように、その紫の光は強さを増していく。
ふと、ゴルゴンダの体に刻まれたホールの輝きも、また烙印のように見えた。
◆
突如現れた竜に慄くキットとスプリガンズ。
だが、呆然としている時間はない。
「サルガス! あたしのとっておき使うから、ハッチ開放!」
キットはそう言ってエクスブロウラーの中に降りていく。サルガスは彼女の言葉に従い、船の下部にあるハッチを開いた。
「いっくよぉ! ベアブルム!!」
そこから走り出す、黄色いクマ。
否、クマ型機動強化外骨格、キットお手製
ちなみに第一号はスプリンドだ。
砂漠を四つ足で進むベアブルムは、お互いに咆哮をぶつけ合う竜と蛇を見上げる。
「いやぁ、すごい光景だね。まるで神話や昔話を現実に見ている気分だよ」
世界樹の物語に出てくる世界蛇なんていう単語を思い出すが、ゴルゴンダはもう生物と言っていいのかよくわからない。
ましてあのドラゴン。アルバスの炎から出現したあのドラゴン!
「メカモズに記録されていた情報からある程度の事情は知ってるけど、本当に竜化するなんて、一体あの子なんなのよ……」
やたらいろんなことに興味津々でリアクションが大きい聖女と、物静かで口数の少ない少年という組み合わせは、見ていて面白い。
特に無口な少年が聖女のことを心から大切に思っているところが、ところどころ見えていてこれは確かに姉が力を貸したがるのもわかると納得できる。
そんな保護欲掻き立てられる二人の内一人が、大切な聖女を助けたとたんに、どういうわけかドラゴンと化してしまった。
このまま、放っておくことはできない。
「さて、あたしなりの
パキパキ、と指を鳴らしたキットは、ベアブルムを迷わずゴルゴンダへと突っ込ませた。
上空を旋回する烙印竜アルビオン。
その身が纏う炎は、灰燼竜バスタードの時とは比べ物にならない。
あの時は羽の一部や棘の一部が熱を帯びていた。剥き出しの骨のような硬質な皮膚は固く、テオの攻撃をほとんど受け付けなかった。
だが、今回はそのような外骨格はない。全身が炎に包まれ、まるで溶岩や炎そのものが竜の形をとっているようにも思える。
しかし、内部の肉体はきちんと存在し、歯並びはとてもきれいだ。
「グゥゥ、ゴォォォォ!!」
体表に半透明な膜が広がっていく。
それは炎を纏った結界で、ゴルゴンダの咆哮を押しのけて突撃していく。茶褐色のゴルゴンダの皮膚を焼く炎の結界。だが大きさとしてはエクスブロウラーと烙印竜アルビオンの大きさはさほど変わらない。
つまり、ほとんど痛みを与えられていない。
「援護するよぉ~ アルバス~!」
その声は、ゴルゴンダの背中から聞こえていたことだろう。
烙印竜アルビオンに意識を集中しているゴルゴンダは、背中を這う虫のように小さいベアブルムの存在に気づいていないらしい。
指状の機関から放出する青白いエネルギーを爪代わりに使い、茶褐色の鱗を駆けあがる四足歩行の機械。そこにキットの姿を見出したかどうかは、わからない。
なにせ、ゴルゴンダに向けて容赦なく、ベアブルムへの被弾を考慮せずに火球を放つからだ。
「うわちょっと! ナニコレ暴走中なの!?」
ブリガンドに変身した時は、言葉はともかく意思疎通くらいはできたと、メカモズのデータにはあった。だが、今度の変身体はそうはいかないらしい。
烙印竜アルビオンに移動に合わせて、ゴルゴンダの首が前に延びる。
ゴルゴンダの首が前に傾き、道が平坦に近づくと、ベアブルムはより速く登っていく。
「でっかいおつむに、脳みそはほとんど詰まってないみたいだね!」
登り切り、大きく跳躍したところで、肩に備えられたランチャーを構える。
「くらえ!」
スプリガンズの技術を基にして作り上げた新型ランチャー。単体でエクスブロウラーの主砲一門と同レベルの火力を引き出すそれを、至近距離でぶっ放す。
むろん、先ほどのスプリガンズの攻撃と同じく、焼け石に水なのだろうが。
「かったっ! だったら、肉弾戦でどう!」
前足部分の指から光り輝く爪を創り出す、ゴルゴンダの鱗の隙間へと深くねじ込んだ。
「ギシャァァァァッ!!」
さすがに肉を直接焼かれては痛みがあるのか、ゴルゴンダは激しく体を振るう。
その隙を狙って、烙印竜アルビオンは顔面に飛び掛かる。目に当たる部分に牙を、爪を突き立て切り裂いていく。
ゴルゴンダの巨体は二体を振りほどこうと地面に頭を叩きつけ、次に遺跡の塔へと激突する。振りほどかれたベアブルムは砂漠を転がり、エクスブロウラーが途中でキャッチ。烙印竜アルビオンは翼で空中に逃れ、土煙に呑まれた巨躯を見ていた。
「ジャゴゥ!」
その真下、ゴルゴンダの大顎が突き上げて来た。
膨大な熱量を持つその竜体を、ゴルゴンダは丸ごと噛み砕こうと顎を閉じる。
烙印竜アルビオンは両手両足を使って顎が閉じないように抑えるが、炎の体は強靭な噛み付きに耐えきれないと軋みを上げる。
「まずい、やっぱり戦力差がありすぎて、どうにも……」
ゴルゴンダは噛み砕くよりも烙印竜アルビオンを行動不能にすることを優先した。
吐き出す息とともに遠心力を持って投げ飛ばし、倒れている塔に向けて投げつけた。
エクスブロウラーの投擲をはるかに超えた勢い。砂と瓦礫に埋もれた烙印竜アルビオンの動きが、止まった。
「そんな、アルバス……」
不安が立ち込めるキットたち。
だが、双眼鏡を覗く眼は驚くべきものを捉えた。
浮遊する、幼体ゴルゴンダの骨。
その奇妙な現象に、主である覇蛇大公も動きを止めた。自分の何世代も後の子らが、一体なぜ浮かび上がっているのかと。
その中心にいたのは、烙印竜アルビオン。このドラゴンが発する熱が、死した骸を浮かび上がらせているのだ。
「アルバスの体から、炎が漏れてる……」
烙印竜アルビオンは両手を左右に伸ばし、その先にある骨に放出した炎を纏わりつかせていく。炎の中には金色の光も混じり、左側には白い光、右側には金色の光が纏われていく。
そしてその光は次第に形を成し、二つの巨躯を砂漠に降り立たせる。
「うそ、あれって、メカモズのデータにあった……」
キットの隣では、デカモズがメカモズから送られたデータを表示させる。
そこに写っているのは、アルバスの変身体。
「これが、あの赤い竜の力……?」
きっと眼前では、炎と光の中から生まれたのは、二体の竜だった。
灰燼竜バスタード。
痕喰竜ブリガンド。
そして、アルバス本人が変身した烙印竜アルビオン。
三体のアルバスの変身体が、この砂漠に降りたった。
三種の咆哮を上げる竜。その翼を羽ばたかせ、ゴルゴンダと相対する。
この光景を目にする者は、エクレシア、キットと、スプリガンズのみ。
もしもドラグマの民が見れば、邪竜と覇蛇大公、勝った方が自らの敵となる運命を分ける一戦と捉えるだろうか。
もしもトライブリゲードの面々が見れば、砂漠を渡るための最大の危険要素を排除できる絶好の機会と、ドラゴンたちを応援するだろうか。
ただわかるのは、これはもう
「アルバスくん……あなたの力は、一体……」
エクレシアは、誰よりも先に天空から現れるその巨体を見た。薄れゆく意識の中で伸びていく金色の角を見た。
そして今度は、彼女を守るように目の前で焔が翼を得た。
伸ばした手は遠く届かない。怒りに雄叫びを上げるドラゴンたちに、徒人は何もできない。――だが、ここにいるのはただ事態の収束を待っているだけの、少女ではない。
彼女は、聖女エクレシアなのだ。
巨体をくねらせて迫る覇蛇大公ゴルゴンダ。
灰燼竜バスタード、痕喰竜ブリガンド、烙印竜アルビオン、全ての口蓋に熱が集まっていく。
ドラゴンの最大の特徴、それは体の内から溢れ出すエネルギーの攻撃、ブレス。
かの伝説の白竜に至っては、その一撃で都市一つを壊滅させる疾風の爆裂弾や、威光を放つという。
それに匹敵するエネルギーが、彼らの中で膨れ上がる。
「――――――――!!!」
三条の熱閃が、ゴルゴンダへと放たれた。
「ゴギャガァァオオォァ!!」
それに対し、ゴルゴンダは体内のホールエネルギーを口内に凝縮。巨大な穴を創り出した。
全てを呑み込む虚無の穴。光り輝く熱閃に向けてその穴を開けば、深い谷底のように全ての炎を呑み込んでいく。
ドラゴンたちの攻撃力では、ゴルゴンダを倒すには値しないということなのか。
「グォォォォォォォォォンッ!」
だが、彼らもまた諦めてはいない。
一番手を名乗り出た烙印竜アルビオンが、ゴルゴンダへと突っ込んでいく。
ホールに類する力が共鳴の音を響かせて、まるで砂漠全体に歌のように広がっていく。彼らがこうまでして戦う理由は、戦わなければならない理由は、未だ誰もわからない。
ただ、勝たなければ生き残れない。それは確かだった
鎌首をもたげたゴルゴンダは、上から烙印竜アルビオンを抑え込もうと体を伸ばす。それを追い抜かんとこちらも羽ばたく。
その頭上に、ホールの出現に似た暗雲が立ち込めていく。
そして、黄金色の光が、その内側で瞬いた。
「今度は、なんなのさ……」
キットの呟きは、ゴルゴンダを襲う巨大な雷に向けられていた。ゴルゴンダそのものと遜色ない太さの雷撃。それは烙印竜アルビオンにまで被害を及ぼし、灼熱で構成されたその身を討ち貫く。
《烙印の裁き》――誰がそう呼ぶのかは、わからない。
だがこれは、決して自然の雷ではない。
◆
教導国家ドラグマ祭儀場。
天に現れたホールに向けて、マクシムスが両腕を掲げている。紫電の光が走るホールに、歓喜とともに彼は自らの奇跡を行使する。
「今こそ、福音の時、来たれり」
ドラグマ聖文の第六六六項には、こうある。
『福音の日来たりし時、汝らの聖なる烙印は輝き、落とし仔たるその身は天に還り、再び神の子となるだろう』
ならば、これは福音の日が来たという証拠なのか。城下の信徒たちの祈りに呼応するように、彼ら身に宿った聖痕は光を放つ。
「さぁ、目覚めるのだ。我らの騎士よ」
これは、『
彼の前には、禍々しい青灰色の鎧を身に纏い、体の各所にホールの文様を刻んだ騎士が、その背に醜悪な黒い腕を携えて、膝を付いている。
「来たれ。《
人を導くはずの神の教えは、今、禍を導く凶変へとなった。