一人でレイシフトした上にサーヴァントの召喚も契約も行えなくてもうどうにもならない 作:カンタレラ
F特異点 炎上汚染都市冬木 1
これは、一つ。たった一つの違いが大きな影響を与えた世界線。
「………………あの、夜でも朝でもありませんから、起きてください。先輩」
正史通りにマシュに起こされ。
「貴方達は各国から選抜、あるいは発見された稀有な──」
正史通りにオルガマリー所長から叩き出されて。
「はーい、はいってまー──ってうぇえええええ⁉︎」
正史通りに通りにロマニと出会う。
だが、ここからは少し違ったようだ。
「所長、お疲れ様です、後の片付けは私の方で終わらせておきますので、先に休んで大丈夫ですよ」
それは、マシュが所長との位置を入れ替わり。
「そう? それじゃあお願いするわ」
所長が部屋に戻る。
そう、それだけだ、それだけし変わらないが、これが大きな分岐点となった。
マシュが爆発の影響を一番に受け、デミサーヴァント化する前に再起不能なほどの致命傷を受けていたら。
所長が爆破による一切の影響を受けなかったら。
縁を結べず、マシュと契約出来ず、マスターとして選ばれず、それでも人類最後のレイシフト適正者として。
ただ孤独に前へと進み続けて、時には死にそうになったとしても、時には裏切られたとしても、それでも歩みを止めずに人理修復をし続ける人類最後のレイシフトへの適正者。
味方が居なくとも、力を持たぬ唯の人間であったとしても。それでも諦めを踏破し、前へと進み続ける最後の希望。
それはこんな物語。
これはそんな物語。
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レイシフト 定員に 達していません。
該当マスター 検索中…………発見できません。
代案 適応番号 48番 藤丸立香を
代理者 として 再設定します。
アンサモンプログラム スタート
量子変換を 開始します。
レイシフト開始まで あと3
2
1
全工程 完了
ファーストオーダー 実証を 開始 します。
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「ここ……は……?」
目を覚ませば、そこは燃え盛る炎上都市であった。
傍目に映るのは武器を持った蠢く人骨、それが此方へ向かって来ている。ここに居たら不味い事は分かる。だが周りには誰も居ない。
困惑を隠せないが取り敢えず隠れることにした。息を潜め、物音を立てないように物陰に隠れしゃがみ込む。
此方に近づいてくるにつれ自身の心音が激しく音を発し、徐々に酸素が足りなくなって呼吸が自然と荒くなってくる。
だが気付かれるわけにもいかない。俺は努めて息を静に、ゆっくり大きく吸い、そして吐く。
あの人骨がどれだけの探知能力があるのかはわからないが、わからないからこそ大胆に動くわけにも行かない。
徐々に一歩、また一歩と音が近くで響き──
緊張から息が詰まり、脳に酸素が行き届かない。
本能は激しく呼吸を欲するが、今息を吐けばバレるかもしれない。
そんな状態で動けずにいること数十秒。
──そして離れて行く。
十分に離れたのを確認した後、彼は深く安堵の息を漏らす。
危なかった、武器を持った相手を徒手で制することが出来るほど、武術に精通しているわけではない。
恐ろしい。
緊張や恐怖が足を竦ませるが、だからといってここでじっとしていれば見つかるのは時間の問題だろう。
そう考えた俺は、極めて慎重にその場を去って行く。
「ああ、やっと繋がった!」
「うわぁ‼︎」
突如空中にホログラムが投影され、先ほどまで気を張り詰めていた俺は情けない声を出してしまう。
「ああ、ごめんごめん。ようやく繋がってくれたからつい舞い上がっちゃって」
と言いながら謝罪してくるロマニ。
「ってそうじゃなくて! そんな事をしてる場合じゃないんだ。自分の手の甲を見て欲しい」
思い出したかのように言ったロマニは、どこか焦燥感を感じる。正直この時点でもう嫌な予感しかしない。
「手の甲って、それがどうしたんですか?」
「……やっぱり令呪がないのか? その、赤い紋様みたいな」
手の甲を見るが至って何もない平凡な手の甲だ。令呪やら赤い文様やら何を言ってるんだろうか。
「……ないですね、何か問題でもあったりとか?」
そういうとロマニは絶望したような表情を取る。
「不味い……不味いぞこれは」
不安を煽るようなことはやめて欲しい。徐々に俺の中の嫌な予感が確信に変わって行く。それも結構悪い方向に。
「良いかい、簡単に事情を説明するよ」
それからロマニから様々な話を聞いた。
サーヴァントの存在、令呪の存在、聖杯や特異点。そしてカルデアの目的。端的でありながらも現在の状況を鑑みるとドッキリや嘘でないことは理解出来た。
「そして一番不味いのはサーヴァントとの召喚や契約が行えないこと、そして現地にいる野良サーヴァントとの仮契約を行えないこと」
正直あまり理解はできてない、それでもそれが良くないことだってのは分かる。
「人類史の危機だ、大方のサーヴァントは君に力を貸してくれるかも知れない。けれどサーヴァントは仮とはいえ契約無しでは本来の力を発揮出来ない。魔力の供給源をマスターに頼っているからね」
徐々に現状を理解してくる。恐怖が体を震え上がらせ、緊張で口内が乾燥する。
「本来ならカルデアの電力を使って魔力を供給する手筈だったんだ……だけど何故か君はシステムからマスターとして認識されなかった」
ロマニは「適正は問題無いはずなのに……」と言っていたが耳に入らない。
震えた声で俺は聞いた。
「つまり……つまりこれは、自分一人で戦わなきゃいけないってことなんですか?」
何も力を持たない一般人である俺が?
そんな怯えきった俺を見兼ねたロマニは、慌てて違うと否定した。
「契約ができないとは言え英霊であることには違いないんだ。本来の戦闘力発揮できないかも知れないけど、それでも戦えないわけじゃない」
そう悲観することはないとロマニは言うが、嘘だ。言葉の裏には不安が見え隠れしている。
それもそうだろう。俺一人に人類の命が掛かっていると言うのに、その俺がサーヴァントを召喚も契約できないとなると……その内心はある程度察する事ができる。
「……すみません」
何に対して謝罪しているのか自分でも分からない。
サーヴァントと契約できなかった事だろうか。俺みたいな凡人に人類史がかかってしまっているからだろうか。俺の代わりに他のマスター候補が生き残ってれば良かったとさえ思う。
訳も分からない罪悪感が燻っていき、自然と謝罪が口から出てくる。
「君が謝る事じゃない! ……そもそもこの状況がイレギュラーなんだ、君の所為、いや誰の所為でもないんだ」
暗くなった雰囲気を無理やり変えるため、ロマニは明るい声で今後のやるべきことを話し始める。
「とりあえず! 霊脈の強い場所を探そう。魔力が豊富な所なら、通信も安定するし、現地にある礼装を調達できるかも知れない」
「……そうですね、まずはやれる事をやりましょう」
そう言って俺は、ロマニの指示に従いながら霊脈を探して行った。
「そういえばオルガマリー所長はどうしたんですか?」
俺は何故ロマニが出てるのかが気になって、聞いてみることにした。
そう聞くとロマニは若干曇った表情を取る。
「所長はショックで倒れ込んじゃったんだ、自分の身代わりでマシュが爆発に巻き込まれたんだーって感じでね。それに普段から相当なストレスや重圧に耐えてきたものだから、今回のことで一気に来てしまったんだろうね。だからあまり責めないであげてほしい」
そう言う事ならばしょうがないだろう、所長がいち早く復活してくれる事を祈る。
「分かってます、状況が状況ですし責めることなんてできないですよ」
そう言うとロマニは少し安心したような表情をする。
「有難う、そう言ってもらえるとこっちも幾分か気が楽になるよ」
そう話している事数十分、ロマニが何か発見したようだ。
「あ、600m先あたりに強い霊脈を発見したみたいだ。もしかしたら魔術師の家かも知れないしそこへ行ってみよう」
そう言われたどり着いたのは、名札に遠坂と記された家だった。
その名前を見たロマニが遠坂家について話し始める。
「遠坂家は第五次聖杯戦争で活躍した優秀な魔術師を輩出したとされているんだ。特異点化の影響で何かしらの魔術礼装、あるいは概念礼装が置いてあるかも知れない」
「そう言えばその魔術礼装とか概念礼装ってなんですか?」
ロマニが言うには魔術礼装は、様々な魔術や魔力が施された道具のことを言い、概念礼装はあらゆるものを概念として抽出し結晶化したもの。らしい。
概念礼装は本来サーヴァントへの概念を付与することで、サーヴァントの強化や特殊効果の追加としての使用が想定されていたものだが、その技術を転用すれば俺に対する概念付与や道具等の具象化に使えるかも知れない。とのこと。
そして、召喚等が出来なくとも概念の抽出は此方の設備でできるからその地に縁ある物のデータを取ったりすれば低級の概念なら何とかなるらしいし、先程の動く骸骨の様な魔物から採集できる素材を使えば高位の概念を抽出出来るようだ。
ただし、道具類ならまだしも人間に概念付与を行なった場合の反動や副作用は計り知れない為過信は禁物みたいだ。
「正直人間に対する概念付与なんて、その存在に異物を追加するような行為なんだ。君の一個人としての存在や思考が危ぶまれるからあまりお勧めはしたくない……それでも、君はどうする?」
俺は悩む事なく答える。
……どうせこの状況だ、我が儘を言っていては死ぬのは自分だってのは良く理解出来ている。ならばやるしか無いのだろう。
「俺はやります、現状も大して理解出来てないけど、それでも窮地に立たされていることは理解出来ています。ならば手段は選びません」
「……それが例え、長く険しい茨の道だったとしても?」
俺は迷いなく頷く。
「…………ごめん、本当は君だけに押し付けるべきではないと言うのは分かっているのに……」
「気にしないでください。必ず、とは言えませんが出来る限りやってみようと思います」
正直この先どれほどの長い道があるのか分からない。どれだけ苦痛に満ちた旅路になるのかも分からない。それでもやっていくしか無いのだ。人理を修復すると言うことも、果ては自分の日常を取り戻すには、どれだけ辛かろうと苦しかろうと、前に進むしか無いのだから。
マシュが居らず召喚も行えない。
超絶ベリーハードな世界線で血反吐を吐きながら前へと進み続ける主人公が見たーい、と言うことで書いてみました。
あと感想を下さると私が狂喜乱舞します。