仮想現実の魔術師 作:仮想現実に引きこもりたい
フラウロスから時計塔への呼び出しの手紙。
内容はいつも定期的に届けられる触媒などについて今回は直接引き取りに来て欲しいとのこと。
「いい機会か」
カルデアへと送った戦闘シミュレータについても確認をしておく必要もある。
どうせ外に出るなら全部の用を済ませておくべきだろう。そんなことを考えながら出立の準備を進めていると、扉が開きいつものようにオルガマリーが顔を覗かせる。
「……え?出かけるの?」
「ああ」
「……出会ってから三年間ずっと引きこもってるあなたが?」
オルガマリーが信じられないものを見るかのような目でこちらを見つめる。
「何やら言い方に棘があるのが気になるが、心配せずともここは解放しておく。好きなように使うといい」
「別に、そういうことじゃなくて……」
言いよどむ彼女にかねてから思っていたことを伝える。
「私が言うのも何だが君は友人を作るべきだ、空いた時間のほとんどはここにいるのではないのか」
「うっ」
どうやら図星のようで小さくうめき声をあげる彼女を横目に、出立の準備を進めながら雑談を続ける。
「君は魔術師らしい性格をしていないから難しいとは思うが……、いや今はそうでもないのか」
ロード・エルメロイ二世の台頭により、勢力が大きく増した現代魔術科のことを思い出し言葉を訂正する。
ロード・エルメロイ二世、ウェイバー・ベルベット。
先代の所持していた召喚の触媒を盗み出し聖杯戦争を生き延び、そして当主が死んだ後のゴタゴタの最中に教室を買い取り退職した非主流派の講師を雇って囲い込み、さらには跡継ぎの姫を誑し込んでまんまとロードの座を手に入れた男。
変わったという噂の現代魔術科を一度見てみたいという考えはあるが、下手に手を出して目を付けられるのも馬鹿らしい。噂話には尾ひれがつくものであるため全てを信じているというわけではないが、余計なリスクを背負う必要もないだろう。
そんなことを考えながら小言を続けていると、ついにオルガマリーの我慢の限界が訪れる。
「よ、余計なお世話よ!!私にだって友人の一人や二人……、ああもう!それで何処に行くの!」
露骨に話を逸らしたことを理解しつつ一旦小言を中断し、今回の外出の目的について答える。
「時計塔だ、フラウロスに呼び出されてね」
「ふぅん、それにしてはやけに大荷物だけど」
「なに外に出るついでにいくつか所用をこなしておこうかと思ってね。具体的に言うならカルデアに送った戦闘シミュレータが上手く動作しているかの確認などだな」
期間としては数ヵ月程度の予定。
不便な立地にあるカルデアだが一度は顔を出しておかないといけない。
「そう、それじゃあ結構かかるのね……」
彼女の様子を見るに連れて行って欲しいということなのだろう。だが同時にそれは無理だということも理解できている。
しばらくお互いに沈黙が続く。
「……久方ぶりの訪問だ、現代の時計塔に精通している者がいた方がいいのかもしれないな」
「え?」
驚いた顔をするオルガマリー。
「君が同行してくれると大変助かるのだが、一緒に来てもらえることは可能だろうか」
「え、ええ!もちろん!」
「では外出の準備を頼むよ」
その言葉に急いで準備を始める彼女を眺めながらこちらも準備を続ける。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
予定していた通り本来呼び出しに指定された時間よりも早めに時計塔の周辺へ辿り着く。
最後にこのあたりに近付いたのが二十年ほど前。流石に変化は感じるが所々に懐かしさを覚える街並みに、少し感慨に浸りながらオルガマリーのショッピングに付き合っていた。
だがそんな穏やかな時間は数十分前のこと。
ショッピングの休憩中に立ち寄ったカフェで何気なく放った一言が全てを引き起こす。
「こういうところに友人と来るのか?」
何気ないただの雑談のつもりがそこから何故か話が進み、彼女が友人を紹介するという流れとなってしまった。
そして現在時計塔の内部にて、出会う生徒とぎこちない会話をこなしながら天体科の街を歩き続けている。
「……オルガマリー、君の交友関係は十分に思い知った。それにもうそろそろ約束の時間になる」
「……分かってるわよ」
少し拗ねた様子のオルガマリーにどうしたものかと頭をひねらせていると一人の男が彼女に声をかけてくる。
「ご機嫌はいかがかな、オルガマリー」
男のほうに視線を移すと全体的に白の印象を受けるその装いと美しい金色の長髪が目に入る。
「うげっ」
「何やら君が
「だ、誰が!……ゴホンゴホン。あ、あらごめんなさいねキリシュタリア」
一瞬声を荒げるがすぐに思い直したかのように、顔に笑顔を張り付けるオルガマリー。
そしてそのまま少し離れた場所にキリシュタリアを連れて行き、こちらに視線をちらちらと向けながら何やら相談を行っている。
「では改めまして自己紹介を。天体科所属、名をキリシュタリア・ヴォーダイムと申します。以後お見知りおきを」
出てきた名前に驚きながらも挨拶を返す。
「ウィル・ホーキンスだ、よろしく頼むよ。……しかし風の噂で活躍は耳に入ってきてはいたが、まさかこんなに若いとはな」
十三番目の新しい学科を創設できるだろうと噂されているヴォーダイム家の天才児。
そのままぜひとも古い常識を打ち破ってくれることを願いながら握手を交わす。
「こちらもお噂はかねがね、それでなのですが私も彼女のようにホーキンス殿の研究室にお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」
「は?あなた急に何を――」
先ほどしていた打ち合わせと違うのだろう、予定外の言動に動揺しているオルガマリーを余所に彼に対して答えを返す。
「それは別に構わないが、私は所用で数ヵ月ほど外に出なくてはならなくてね。その間は彼女に色々教わるといい」
「はァ!?」
「なるほど、ではよろしく頼むよマリー。前々から気になっていたんだ、何やら面白そうなことをしてるとね」
「や、やっぱ今のなし!こいつなんか友人でも何でもないわよ!」
それは初めから見るからに明らかだったので特に言うことはない。
「それではこの機会に友好を深めるといい。さて、もう少し話をしていたかったがそろそろ時間なので私はこの辺で失礼するよ」
キリシュタリアに詰め寄っているオルガマリー、なんだかんだで相性がよさそうな二人を残し、その場を立ち去り本来の目的地へと足を進める。