仮想現実の魔術師 作:仮想現実に引きこもりたい
5話
「お帰りの際もこちらでお待ちしております」
ヘリコプターを操縦してここまで送ってくれた現地の局員が声を掛けてくる。
事前に話には聞いていたが、魔術の使えない一般人が協力者として存在していることに改めて違和感を覚えてしまう。
「ああ、よろしく頼むよ」
「では失礼します」
プロペラが再度回り出しあたりに爆音が響き渡る。
飛び去るヘリコプターを見上げながらうんざりとした気持ちで目的地を見上げる。
「……登るか」
ヘリの影響で雪が舞い上がり白く染まった視界、それを魔術で払いながら目的地の方向を見上げる。
標高6000m、その頂上付近に存在する『人理継続保障機関フィニス・カルデア』。
いまだに何故か神秘が残っている謎の山脈を利用したということで秘匿性はかなりのもの。
しかしそこにはヘリではたどり着けない高度であるため、移動手段は徒歩のみというアクセスがしにくいという問題点が存在していた。
「物資の搬入などはどうしているのやら、考えただけで担当職員の苦労が思い浮かばれるな」
侵入、脱走の警戒という理由があることは想像できる。
だがそんなことは今登っている私には関係がないため文句は止まらない。
普通に歩くペースだとカルデア到着まで大体8時間ほどかかるこの山道。
更には歩いても歩いても変わらない銀景色。
魔術による強化で肉体的な疲労などは感じないが、精神的な疲労はまた別の話だ。
「……」
ヘリに降ろされた地点から歩き続けてはや数時間。
徐々に風も強くなっていき天候が荒れていくのを感じながらも先を急いでいた。
そして途中に設置されている中間ポイントに差し掛かろうとしたときに問題が発生した。
「……何も見えん」
暴風雪の影響で視界全てが白一面に染まり数歩先の場所までしか見えない状態。
支給されたGPSは神秘の影響か狂った数値をはじき出し、さらには何故か位置を特定する魔術が上手く作動しない。
雪山の登山ではこういうことはあると知識では知っていたが、実際体験してみるとまた違った印象だ。一歩踏み出そうにも自分の向いている方向すら分からない。
どうするか一瞬悩むが中間ポイントまではあと少しということもあり、平衡感覚すら怪しい状態のまま一歩足を踏み出す。
「……ん?」
一歩足を踏み出した先に待っていたのは想像していた以上の下り坂。
いやそれはおかしい、いくら何でも一歩先までの視界は確保できていた。
だが体はそんなことを気にせず徐々に前へと倒れていき、勢いが付きすぎた体を支えきれずそのまま転がり落ちる。
「これはまずい……ッ!?」
ぐるぐると回る視界、何故か上手く動作しない魔術。
焦りながらも死を覚悟したその瞬間、今まで白一面だった世界が急に切り替わる。
見渡す限りの黒。
幾何学法則を不気味に歪ませた石造物の群れからなる巨大な都市の姿。
人類の創造力では到達し得ない建築物の数々。
不気味ながらもどこか惹かれてしまう景色、だが本能が理解してはいけないと訴えかけてくる。
そんな忠告を無視して建物に触れたその時――
私は■を見た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『―――塩基配列、ヒトゲノムと確認。―――霊器属性、中庸・中立と確認』
誰かに声を掛けられている。
頭がぼーっとして思考がまとまらない。
私には何かやらないといけないことがあったはず。
『ようこそ人類の未来を語る資料館へ。ここは人理継続保証機関カルデア』
「カルデアだと?」
その言葉に驚きあたりを見回すと、既に目の前には施設の入り口が存在している。
『指紋認証、声紋認証、遺伝子認証、クリア。魔術回路の測定……完了しました。どうぞ、善き時間をお過ごしください』
「……幻覚?」
神秘がまだ残っている土地なため、何が起きてもおかしくはない。
まだ寝起きのように頭がぼーっとしているが、それ以外の異常は感じられない。
少し軽くなった気がする荷物を担ぎなおしカルデア内部へと足を進める。
「……待て、何かがおかしい。……だが、何だ?」
何かを忘れている気がするが思い出そうとすると頭がひどく痛む。
「まあいい、さっさと仕事を済ませて帰るか」
違和感を覚えながらも頭の痛みから逃げるように思考を放棄する。
寒さ以外の理由で震える体に気付かないふりをしながら。