仮想現実の魔術師   作:仮想現実に引きこもりたい

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6話

「やあ、お邪魔しているよ」

 

 戦闘訓練シミュレータの内部に入るとそこには一人の女性が待ち構えていた。

 周囲には彫刻や絵画などの美術品の数々。

 圧倒されながらも怪訝そうな顔で周囲を見渡す。

 

「ああ、これかい?まだ戦闘訓練をする人はいないから少し趣味で使わせてもらってるよ」

 

「君は確か……」

 

「カルデア技術局特別名誉顧問、レオナルド・ダ・ヴィンチ。ダ・ヴィンチちゃんでもなんでも好きに呼んでくれたまえ」

 

 英霊召喚システム・フェイト、第三号のサーヴァント。

 サーヴァントであると同時に技術部門のトップでもある女性。

 そう、今は女性らしい。

 

「やっぱり覚えてないか、君の昨日の様子は尋常じゃなかったからなあ。ロマン……あーっと、医療部門の人も随分心配してたよ」

 

「ああいや元から名前を覚えるのが苦手でね。心配させてしまったようですまない」

 

 カルデアに辿り着いたあの後、疲労で頭は回っていなかったが挨拶回りは済ませていた。

 面識自体はあったが名前をド忘れしていたため、勘違いさせてしまったようだ。

 

 並べられている美術品を眺めていると、ふと女性が描かれた絵画に目が止まる。

 

「おや?そういう女性がタイプかな?」

 

「いや、そういうわけではないが……」

 

 吸い込まれるかのような漆黒の瞳。

 何故か目を離せずにそのままじっと見つめていると、その瞳から涙が零れ落ちる。

 絵画から絞り出されるかのように滲み出る、漆黒の玉虫色に光る液体のような何か。

 それはとても綺麗で――

 

「大丈夫かい?」

 

「……ああ」

 

 声を掛けられて正気に戻る。

 目の前の絵画も何ともない美しい女性が描かれた普通の絵画に戻っている。

 

「それで女性のタイプだったか。そうだな、私の好みはもっと不定形で、漆黒の玉虫色に光って、それでいて表面に無数の目が……いや?」

 

 おかしい、これはおかしいぞ。

 そんな特殊な性癖になった覚えはない。

 

 そんな違和感を認識した瞬間、ひどい頭痛が発生する。

 頭の割れるような痛みに思わず膝をついてしまう。

 

「おいおい、本当に大丈夫なのかい?」

 

 駆け寄ってくる彼女に体を起こされながら考える。

 間違いなく何者からか暗示か魅了を受けている。

 恐らく雪山で転がり落ちたところだ。そこで意識を失い何者かに魔術をかけられた。

 だが何故?その理由が分からない。

 考えれば考えるほどどんどん酷くなる頭痛に根を上げ、一旦考えるのを止める。

 

「ああ、ありがとう。だがそうか……、そうだな少し話題を変えよう」

 

「まだ登山の疲れが残ってるみたいだし休んだ方がいいと思うけども……」

 

 心配はありがたいが一人でいたほうが余計なことを考えてしまう危険性があるため、興味を引きそうな話題を無理矢理考え出して話を続ける。

 

「それにしてもここでは随分と変なことをしているな」

 

「というと?」

 

「あのデザインベビーの少女のことだ。外からの勝手な意見だがあの実験は駄目だな」

 

「へぇ?」

 

 興味深そうにこちらへ相槌を打つ彼女を見て、会話が続けれそうだと感じそのまま続行する。

 

「デザインベビーでは失敗に対してリスクが高すぎる。失敗して新たに作り出して成長するまで何年かかる?まずはホムンクルス……いや、無機物からアプローチを進めるべきだな。それに力を借りるにしても一時的になど段階があるだろうに」

 

「あ、そっちね」

 

 心の中の落胆を隠そうともせず、がっかりした表情になる彼女。

 

「ん?ああ、なるほど。どんな答えを求めていたか想像は付くが、それは現代の魔術師には期待しないほうがいい」

 

「……はぁ」

 

「それでサーヴァントの君に聞きたいんだが、例えばホムンクルスの中に召喚された場合は現世に留まってくれるのか?」

 

「うーん……、それはどうだろう」

 

「ふむ、それでは人工知性を付与する前のホムンクルスでは――」

 

「いやそれ以前に君ら魔術師が用意した肉体だろ?何か細工されてるに決まってるじゃないか。君はそんな体を使いたいかい?」

 

 その問いについては考えるまでもなく答えが出た。

 そんな体を使うわけがない。

 反抗しないように暗示や魅了などは当たり前、自爆装置などもついてくるに違いない。

 魔術師(こちら)側は安全装置の意味合いだとしても、やられる側はたまったものじゃないだろう。

 

「なるほど、無理だな」

 

「だろう?」

 

「それでは……いや、駄目か」

 

 英雄と現代の魔術師は性格的な意味で極めて相性が悪いことを改めて実感する。

 魔術師が欲しいのはただ命令通りに動く優秀な使い魔だが、実際出てくるのは全く違うものだ。

 英霊が持つ知識は魅力だが、サーヴァントにしてどれだけ格を落とそうとも、英霊というのは魔術師に扱いきれるものではない。

 

「君は少し変わっているね、魔術師っぽいようでそうでないと思ったらしっかり魔術師だ」

 

「ああ、よく言われる」

 

 彼女がこちらを見ながら考えこみながら何やら唸っている。 

 

「……難しいけどギリギリアウト、かな?」

 

 脅威になるかどうかの判定だろうか、それにしては敵意というものが感じられない。

 何の判定か尋ねようとすると続けて彼女が喋り出す。

 

「うん、それじゃあ付き合ってもらって悪かったね。それとまだ万全じゃないみたいだからしっかり休んだほうがいいよ」

 

 それだけ言い残すと同時に消えてしまう。

 残された美術品の数々、消してしまうにはもったいない。

 だがそんなことより何より……

 

「……解呪、どうしたものか」

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