五等分の花嫁~五月のお団子が美味しい御話~   作:鈴木ヒロ

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夢を見ていました。

貴方と出会った高校二年の日。

あの夢のような日の夢を。

私はあの瞬間を、大人になってからも夢に見ます。


神様の巻き戻し①

「あー、疲れたわ・・・・・」

二乃が勢いよくベッドに倒れこんだ。化粧も落とさずに横になる姿は、姉妹の中で一番女子力の高い二乃らしくもない。でも今日1日がハードスケジュールだったため仕方がない。

「二乃、下着見える。はしたない」

三玖が鞄から寝間着を取り出しながら注意をする。昔の三玖こそ真っ先に倒れこみそうだけど、どうやらこの5年で随分と体力が付いたみたい。喫茶店経営も力仕事って事だろうか。

「あはは・・・・・、最近体力つくりしてたから自信あるつもりだったけど、運動とはまた違った疲れがあるねぇ」

一花は自身の上着をハンガーにかけていた。あの魔窟の主も5年以上女優業をしていれば矯正ができたようだ。あとの問題は寝ている時の脱ぎ癖だが、これは明日を迎えていないと分からない。

「上杉君の几帳面さは相変わらずだね。一花が迷子になった時は焦ったよ」

スマホを充電器の上に置く。最近になって買い替えたスマホのバッテリーの持ちは良く、置くだけで充電できる便利なものだ。

「あー、あの時ね。電話して駆けつけてみればファンに囲まれそうになってるし」

化粧を落とす使命感と睡眠欲を戦わせて、ベッドの上でスマホを弄りながらぼやく二乃。その後、四葉が一花のフリをしてファンを引き付け、持ち前の脚力で逃げ切ったんだっけ。

「あの時は四葉に助けられたけど、ネットで変な噂になってそうだなぁ」

アクション系のオファー増えそう、と嘆く一花も何だかんだ嬉しそうに見える。自身の仕事が楽しいのかもしれないし、または運動神経抜群の妹が誇らしいのかもしれない。

「その四葉はフー君と同じ部屋で今頃・・・・・、邪魔してあげようかしら?」

スマホ画面に四葉の電話番号を表示して指で弄んでいる。二乃の言葉に四葉が上杉君とベッドの上にいる姿を想像する。

(なんか、モヤモヤするな・・・・・)

もう夫婦だしそういう事をするのは当たり前だと分かっている。

でも長く過ごした姉妹が彼とそういうことをしている想像すると、言葉で説明できない不快感がある。

「悪いこと考えてないで早くシャワー使って。二乃が一番時間かかるんだから」

「嫌よ。これからオキニの俳優が出るドラマが始まるの」

「海外で日本のドラマやるはずない。後ろが詰まるから早く入って」

「そういえばそうね。録画し忘れてないかしら・・・・・」

睡魔に打ち勝った二乃がゆっくりとベッドから起き上がり、思案顔でシャワールームに向かった。三玖は一花と一緒に海外のテレビ番組を見ているが、見るというよりBGM代わりにして二人で談笑していた。

(今頃四葉たちは・・・・・)

一度感じたモヤモヤがなかなか消えない。気分転換に少し外を散歩しようか。

「小腹が空いたから外で何か探してくるね」

モヤモヤを晴らすため、とは言えずに適当な理由をつけて外に出ることにした。

充電途中のスマホを持って玄関に向かう。すると後ろから慌てた一花の声がかかった

「それならルームサービスを頼めばいいじゃない。一人じゃ危ないよ」

確かに慣れてない土地を1人で歩くのは心細いが、この気持ちは誰かが傍にいたら腫れない気がした。

「来るときに気になったお店があったから見てくるの。それに明るい道を歩くから大丈夫だよ」

気になった店があったのは本当だ。でもこの時間は閉店しているだろう。

一花が「でも」と続けてきたが「大丈夫だから」と強引に押し切って部屋を出る。あんまり騒いで二乃に聞かれたら、姉妹愛の強い彼女は絶対に1人で行かせてくれないだろう。

上杉君と四葉が泊まる部屋は別階のため、廊下でばったりなんて展開にはならない。新婚に配慮して予約した過去の自分に感謝だ。

ホテルのエントランスにはホテルスタッフが数人働いていた。何だかんだ娘たちに甘いお父さんが、セキュリティしっかりしている良いホテルを予約してくれた。成人してまでお父さんに甘えるのは全員反対したが、江端さんが「旦那様なりのお祝いです」と耳打ちされたら、その好意は無下にできない。2人には良いお土産を買って帰ろう。

休憩スペースの横を通ると40代に見える男性がソファに座りながら陽気に挨拶してきた。

『そこの素敵なお嬢さん。一緒に一杯どう?』

英語のリスニングテストに出すには難易度が高い、地域特有の訛りがある英語だった。それでも大学時代に嫌というほど働いた耳はしっかりと聞き取り、培った知識を使って翻訳する。

よく見るとテーブルの上にお酒があった。わざわざエントランスでお酒を飲むのは、一緒に飲む相手を探しているのか。

(格式が高そうなホテルだけど、こういうところは注意されないのかな)

特に騒いでいるわけでもないから気にしないのか、そもそも見た目に反して意外とルーズなのかもしれない。

『ごめんなさい。今夜は先約があるの。でも素敵なお誘いをありがとう』

適当な理由をつけて断る。男性は『オーケー、素敵な夜を』と爽やかに返してきた。昼間でも実感したが、必死に努力した英語が通じると頬がニヤけるほど嬉しい。

そしてもう一つの実感。昔の自分になかった柔軟さがあること。

高校三年生の文化祭。あの日をきっかけに少しずつ変化した。いや、変化があったのはそれより前だったかもしれない。

(きっかけはやはり彼だろうな)

夜の海岸沿いを歩く。観光地のこの場所も夜になれば昼間ほど賑やかではないが、店の明かりや夜遊びを楽しむ人の声など、ある程度の活気は感じる。

立ち止まって海を眺める。浜辺では若い男女がお酒を片手に盛り上がっていた。

咄嗟に抱いた感想が「若いなぁ」だった自分に苦笑いする。大した年も離れていないのにその姿が子供のように思えてしまった。

(今の自分は大人になれたのだろうか。それともまだ子供の延長にいるのだろうか)

一人の夜はどうしても難しいことを考えてしまう。考えて、考えて、結局答えは出ないで終わる。

海風を頬で受け止めながらゆっくりと空を見上げた。雲が少ない夜空には大きな月が浮かんでいた。

私は思い出す。

二乃と喧嘩して、彼の家にお世話になったこと。そしてその夜に二人で話しながら歩きながら散歩したこと。

(ッ~~~)

思い出して悶えたくなる衝動がやってくる。あの日の夜を思い出すと自分の失言も一緒に思い出して恥ずかしくなる。当時は意味わからずにいたが、大学の講義で夏目漱石の話が出た時は今と同じように講義中にも関わらず悶えたくなった。

(奥手な人が伝えるために考えた告白が、今では有名な告白になるって知ったら昔の人はどう思うかな)

昔の人の反応をコミカルに想像すると、羞恥で強張った顔が少しだけ柔らかくなった。

『やぁお姉さん。一人で散歩かい?』

考え事に夢中だったため、急に後ろから声を掛けられて驚く。振り向くと焼けた肌の青年3人組がいた。流暢な言葉と雰囲気から予想するに地元の人だろうか。

『お姉さんが一人なのは勿体ないよ。俺らと一緒に遊ばない?』

お母さんから貰った素敵な容姿はとても人受けが良い。日本でも都会に出れば声を掛けられることもあったため戸惑いはしないが、何回経験しても慣れはしない。私より目立つ一花ならもっと声を掛けられるのだから素直に尊敬と同情を送りたい。

『心配ありがとう。でもごめんなさい、先約があるの』

ホテルの男性の時と同じ断り文句を言う。正直なところ、この台詞は昼間に一花がナンパに合った時に言っていた台詞だし、これ以外の言い回しを知らない。

『先約って友達?女の子ならお姉さんと一緒に奢っちゃうよ』

今度のナンパはしつこかった。先ほどの男性と同じお酒のお誘いだったが、比べて品がないし何より下心が丸見えだ。

『えぇっと、私の彼氏よ。だから貴方たちとは遊べないの』

予想外のしつこさに思わず言葉が詰まってしまった。アドリブとなると一花のように上手くいかないな。

『へぇ、でもその彼氏より俺たちの方と遊んだほうが楽しいよ。ほら、行こうよ』

青年が手首を掴んでくる。言葉に詰まった私を見て押せばいけると判断したのか。

残りの二人もいつの間にか背中側に回って囲むような立ち位置になっていた。焦った私は手を振りほどこうと大きく腕を振って「離してください!」と叫ぶが、恐怖と焦りから日本語になってしまい相手には通じない。通じたとしても素直に話す相手ではないことも、冷静になったら分かることだが余裕がなかった。パニック状態になると声も出ず、頭が真っ白になってきた。

自衛のため反射的に相手の足を強く踏もうとした時、急に相手の手が離れる。

勢い余ってヨタヨタと後ろに下がると、その空いたスペースに第三者の身体が入ってくる。

『こいつは俺の女だ。手を離してもらおうか』




閲覧ありがとうございます。
アニメ2期、ゲーム発売などの熱に当てられて勢いよく執筆しました。
リアルの合間に執筆するので投稿頻度はマチマチですが、ゴールのイメージは描いているので頑張って走り切りたいと思います。
五月ちゃんの物語と私の駄文を暖かい目で見守ってください。
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