五等分の花嫁~五月のお団子が美味しい御話~   作:鈴木ヒロ

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二「それにしても五月、あんだけ食べてよく太らないわよね…。何か運動でもしてるの?」

五「そ、そんなにジロジロ見ないでください!まぁ運動といえば」

二「何よ教えなさいよ。ヨガ?それともランニング?」

五「たくさん噛んでるので顎の運動はしてます」

二「………」

五「それから汗をかくために激辛料理を食べたりーーー」

二「分かったもういいから」


冷たくてぬるい抹茶ソーダ④

二乃とお風呂でやり取りした次の日の放課後、上杉君が不自然に教室を出た。それを見て慌てて後を追おうとしたが、悪意のないクラスメイトに捕まってしまう。

結局どこに行ったか分からず見失い、当てずっぽうで屋上へ行くと校庭付近で目的の2人を見つけた。

何やら話しているようだが、突如として三玖が振りかぶり、逃げるように階段の手すりを滑ってその場を去った。上杉君は三玖を追いかけて階段を駆け下り、それを見て私も急いで屋上扉へと走った。

本来、私は運動が得意でも不得手でもない。

姉妹の中で運動能力を格付けするとしたら、一番が四葉で五番が三玖、他三名は同等といった感じだ。

(苦手、では、ないんだけど、な―――)

先程まで2人がいた場所へたどり着く。当たり前だが二人の姿はもうない。

肩で息を整える。屋上から一気に階段を降りた為、両足と肺が痛みとして負荷を訴えてきた。

(見つけたと思ったら、急に走り始めるんだから・・・・・・!)

激しく打ち続ける脈を深呼吸で落ち着ける。とりあえず2人が降りた階段を早歩きで降りた。

姉妹同士の直観を頼りに校舎をなぞるように探す。もしかしてこのまま見つからず無駄足に終わるのではないか、と思い始めたところで一階廊下を歩く四葉を見つけた。姉妹同士の直観はあながちバカにできない。

「四葉!上杉君と三玖を知りませんか?」

窓越しに駆け寄るとびっくりした様子で手に持っていた荷物を落としそうになった。

「わお、今度は五月か。みんなして鬼ごっこでもしてるの?」

「今度は?」

「うん。さっき上杉さんも三玖を探していて―――」

「上杉さんはどこに行きましたか!?」

「うぇっ!?あ、あっちの方に三玖を見つけたみたいで、そっちに走っていったけど―――」

「あっちの方向ですね。ありがとうございます!」

「え、ちょっと五月!?」

四葉が何かを言いかけていたようだが、その言葉を最後まで聞くことなく駆けた。

学校敷地内という限定があったとしても、あっち方向というヒントだけで見つかるほど旭高校は小さくない。それに加えて相手も移動しているのだから、見つけるのは容易ではないだろう。

(も、もうダメ、疲れ、た・・・・・・)

真夏にはまだ早いとはいえ、快晴の日に外を走れば暑くなるし汗もかく。

一休みしようと最寄りのベンチを探す。ついでに自動販売機があると良い。

記憶を頼りにベンチ方向へ足を動かすと、遠目だったが目的地に目的の2人がいるのに気づいて慌てて自動販売機の陰に身を隠した。

運が良いのか悪いのか。自動販売機を背もたれにしているもの、足に疲れが溜まり立っているのも辛いため、その姿勢のままズルズルとお尻を下ろして静かに座り込む。

大きく深呼吸をして息を整える。何を話しているのかと気になりコッソリと顔を出すと、何やらベンチの上を二人で覗き込んでいるようだった。

「だが俺はここに可能性を見た」

三玖の声は小さくて聞き取ることができないが、何かを力説している上杉君の声はハッキリと聞こえた。

「一人ができることは全員ができる。一花も、二乃も、四葉も、五月も、そして三玖お前も、全員が100点の潜在能力を持っていると俺は信じている」

三玖に向けられたはずのその言葉に私の心臓が反応する。心臓が反応すれば血液の巡りも良くなり、頬に熱が帯びる。あくまでも生理現象なそれをペチッと叩いて叱った。

(もう子供じゃないんだから)

自分は精神的には二十歳を超えていると心に言い聞かせる。しかし一度走り出した血液はなかなか減速せず、自らの体温の上昇を自覚するだけの時間になる。

気付くと私はその場から去っていた。そもそも私の目的は彼の家庭教師が円滑に進むサポートだ。これ以上あそこにいる理由がない。

散々走り回ったせいだろう、先程まで感じなかった重さを両足に感じる。心臓が早打つのも身体に急な制動がかかったせいだ。

鞄を取りに教室に向かう途中で自動販売機を見つける。ライトアップされたショーケースの中には有名な炭酸ジュースからお茶まで様々な種類が並んでいる。しかし目が惹かれたのはそんな有名どころではなく、追いやるよう端に配置されている飲み物だった。

「抹茶、ソーダ?」

どこの会社が考案したのだろう、と開発部の味覚を疑ってしまう独特な飲み物。これをどこかで見たような―――

ふと浮かんだのは三玖と食堂で昼食を共にした記憶。そういえは三玖がこれをよく飲んでいた。同時に先程のベンチの2人の記憶がフラッシュバックし、落ち着いてきた頬が再び反応しそうになることに気づいて顔をブンブンと横に振った。

おサイフケータイ機能を使って自動販売機に入金すると、興味本位で抹茶ソーダを購入した。

ガコンッと落ちてきたそれを取り出し、プルタブを引く前に頬に当ててみる。

火照った頬に丁度良い、なんて表現はよく見るが、実際にやってみると丁度良いのは数秒だけですぐに冷感が勝って離してしまう。どうやらもう少し火照らないと丁度良くないみたいだ。

「お前もそれ飲むのか」

「ひゃぁいっ!」

周りに誰もいないと思って油断していたところに急な声掛けで奇声を出してしまう。

とても人に聞かせられない声を上げてしまい、羞恥心で声の主へ振り向けない。しかし振り向かなくても耳馴染んだ声で相手は分かる。

「な、何の用ですか上杉君」

「おまっ、変な声出すなよ。勘違いされたらどうするんだ」

死角から急に声を掛けてきた方も悪いのに、さも私だけ非があるように文句を言ってくる彼にムカッとする。

「背後から急に声を掛けてくる人の方がどうかと思いますよ。大体上杉君はいつも配慮に欠けています。誕生会の時だって飲み物って言っているのにカレーだと―――」

「は?誕生会?」

「な、何でもありません!それよりも何の用ですか!?」

本調子ではない精神が油断を覗かせる。危ないことを口走りそうになるのを勢いで誤魔化すが、本人は不可解さが残った顔をしている。

そんな上杉君に「用がないなら行きますよ」と追い打ちをかけて話題を流そうとすると、「ちょ、待て待て!」と慌てた様子で制してきた。

「・・・・・・まだ何か?」

警戒した目になった私の顔を見て上杉君が一瞬怯む。

彼と意図として羞恥心を刺激したわけではないだろうが、それでも彼に刺激されたのは事実なわけで、無意識に彼を警戒してしまう。

「別に用があるって訳ではないが。つか、そんなに睨むことないだろ・・・・・・」

怒りや悲しみというより呆れた感じで文句を言ってきた。昔、小テストの点数を報告した時も似たような顔していたな。

そんな呆れ顔に懐かしさを感じたのも一瞬。私はため息をつき呆れてる様に見せかけて、自身を落ち着ける。

「そういえば三玖の件はどうなりましたか?」

強引にこの場を去ることもできたが、せっかくの機会だったため先程の件を探ることにした。

「あー、そっちは何とかなりそうだ。そうだ、これから図書室で勉強会をするんだが、お前もどうだ?」

何気ない誘い文句。他の人だったら何も感じないその言葉に引っ掛かりを感じた。

「別に行ってもいいですが・・・・・・そこは『お前も参加しろ』じゃないんですね」

私の知っている過去の彼なら、判断をこちらに委ねる余裕はなく、もっと手際悪く強引に動いていたと思う。眉をひそめながら疑問を問うと、彼の方が疑問そうな顔をしていた。

「いや、だってお前は勉強できるだろ?授業中に先生に当てられても答えられていたし」

そう言われて前に授業で応用問題を解いたことを思い出す。授業の問題は解いているのに、上杉君のテストでは赤点とは、思い出すと随分と意味の分からないことをしていた。

「それはたまたまですよ。現に貴方のテストでは他の姉妹と同じ赤点ですし」

ここまで言って自分の言動に違和感を覚えた。なんで私はわざわざ自虐しているんだろう。

そもそも彼の発言に違和感を見つけても指摘する意味がないし、ここまで広げる理由もない。これではまるで、自分の扱いに不満があるみたいな―――

バシッ

「お、おい!いきなりどうした!?」

自分で自分の頬を叩いた私の奇行に驚く上杉君に対して、「何でもありません」と制する。強く叩き過ぎた。頬がとても熱い。私は顔を下に背けながら持っていた抹茶ソーダで叩いた頬を冷やした。

「―――何でもありません。勉強会の件は了解しました。都合が合えば参加するので、貴方は早く図書室に行ってください」

何も考えずに出たその言葉は、いつもより早口になっていた。視線を落としているため彼の表情は分からないが、「お、おう。じゃあ先に行っているぞ」戸惑った声を残して去っていった。

足音が離れていく。彼がもうそこにいないことは分かっているが、顔を上げることはできない。次第に顔に普段以上の重さを感じて、それに耐えきれずその場でしゃがみ込んでしまう。

「もう、子供じゃないのに」

叩いた頬の熱に抹茶ソーダを当てていたはずが、当てていない側の頬が熱い。今度はそちらの頬に缶を当てると、やはり反対側の頬が熱くなる。それを何回か繰り返していると、結局どちらの頬を叩いたのか、宿った熱で判断するのは難しくなった。

どっちつかずになったそれのプルタブをカシュッと開ける。両手で持ちながら口に流した液体に冷たさを感じることはなく、更に言うと味も曖昧で分からない。

「ぬるいなぁ・・・・・・」

既に冷たさを失った抹茶ソーダを額に当てて俯く。中庭を抜ける初夏の風だけが、頬に心地よい冷たさを与えた。

 




ようやく三玖の序章終了です。この調子だと年内でどれだけ進むか・・・・・・
亀更新なのはもう今更感ですが、それでも申し訳ないです。

前半はサクサク進んだのですが、後半の五月ちゃんの心情を突き詰めると私の文章力では上手く表現できず、何度も書き直してしまいました。

次の大きなターニングポイントとして、一花の花火大会編がありますが、原作ではその前に五月デート篇がありますね。
五月ヒロインを売りにしている身としては、皆様の期待に応えられる話を頑張ります。

前回作った更新報告用のTwitterアカウントが何故か凍結されたので新規で作りました。
今度こそ大丈夫のはず・・・・・・

更新確認のために逐一サイトを見てもらうのも悪いので、読者の皆様方にはこちらをフォローして更新を確認してもらえると幸いです。
アカウント:@GotoyomeDango
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