ニ「五月、あのちゃんと写真消してた?」
五「本当に消していいのですか?」
二「当り前じゃない!なんであんなやつとの写真残さないといけないのよ」
五「未来の二乃ならお金出してでも買いそうだなぁ・・・・・・」
二「え、なんか言った」
五「いえ、何でもないですよ」
(か、帰りたい)
ドアノブを握っては離し、再び握ってやっぱり離す。それらの反復動作のおかげで、もはやドアノブには金属特有の冷たさは残っていない。
「やっぱり一度帰ってみんなで来よう!その方が礼儀がなっているし、何より―――」
「人の家の前で何してんだお前」
「ひゃい!?」
意識外からの声に思わず手提げバッグを落としそうになった。油の足りない歯車のようにギギギと振り向くと、外階段に不審者を見る目で上杉君が立っていた。
「う、上杉君!どうして外に!?」
「なんで俺が外にいると驚くんだよ・・・・・」
「それはその、休日に貴方が外出していることが意外で」
「余計なお世話だ」
彼は冷たく言い放つと、「どけ」と私に指示する。すぐに半歩下がって場所を譲ると、こちらを見ずにドアノブにカギを差し込む。先程まであれだけ躊躇っていた用事も、流れが進むと自然と躊躇いが消えて、役目を果たさないといけない義務感が勝る。
「そうだ上杉君!今日伺ったのは渡したいものが―――」
バタンッ
目の前でドアが閉まった。あまりに突然のことで手を伸ばしたまま固まる。
「え、いや、ちょっとあの」
人は予想外や異常に遭遇すると、その状況を整理するのに思考を回す。結果、一瞬から数秒、もしくはそれ以上の間で無防備な状態になりやすく、第三視点から見ればアホな姿に見えるだろう。
「う、上杉君!?なんで閉めるんですか!」
ドアに両手を当てて中に聞こえるよう訴える。普段なら周りの視線を考えて決してしない行動だと思う。長時間続けたら状況を自覚して声を小さくしたかもしれないが、それより先にドアが開いて、中から羞恥半分不機嫌半分な顔をした上杉君が出てきた。
「おい、近所迷惑だろうが」
「理由もなく閉める貴方が悪いんじゃないですか」
「いや、お前なぁ」
「お兄ちゃんおかえりーって、あ!」
頭をガジガジと強めに書きながら文句を口にする彼の後ろから、とても可愛いらしい声がした。ドタドタと足音が近づき、上杉君の身体が小さく横にのけ反ると、そこから声のイメージ通りの可愛い少女が顔を出した。
「あー!五月さんだ!いらっしゃい、遊びに来てくれたの?」
パァーっと満開の笑顔を見せくれる妹らいはちゃん。とても彼の妹とは思えない天使っぷりに、つい頬が緩んでしまう。
「こんにちは。実は彼に渡すものがあって来たのですが、なぜか門前払いを受けてしまって」
「もんぜんばらい?」
らいはちゃんは知らない言葉を聞いて上杉君の顔を見る。普段から疑問を彼に聞いているからこその無意識の行動だろうが、今の彼にとってはその質問は都合悪いらしく、彼はすぐに目を逸らした。
「話を聞かずに追い返すって意味ですよ」
「お兄ちゃん!」
大切な妹には反抗できないようで黙秘することで僅かな抵抗を見せたが、上杉家のカーストは妹の方が上のようで、兄を無視して「どうぞ五月さん」と笑顔で迎え入れてくれた。
お邪魔します、と一礼して靴を脱ごうとしたところで不満そうな上杉君と目が合った。少し意地悪したくなり「お邪魔しますね」とわざとらしい笑みを彼に向けて入室した。
奥の茶室まで案内されると、テーブル横に座布団を置いてもらった。促されるままそこに座ると、対面に彼が座り、麦茶を持ってきたらいはちゃんがその横に座った。
「んで、渡したいものってなんだ」
諦めた様子の彼は早く用事を済ませて欲しいと言わんばかりに促す。こちらとしても長居をするつもりもないので、鞄から「給与」と印字された封筒を取り出してテーブル上に置く。
「父から預かった上杉君のお給料です」
出されたものが予想外だったのか、上杉兄妹は少しだけびっくりした表情を見せる。その後「頑張ったね」「二回しか行ってないし期待しない方が」と言葉を続けて、中身を見て本格的にびっくりした顔になった。
喜ぶらいはちゃんの横で固まる上杉君だったが、すぐに真面目な顔になり封筒を裏にしてテーブルに置き直す。
「受け取れねぇ。確かにお前たちの家に行ったが、だが俺は何もしてねぇ」
そう言って返してくる彼。その行動は昔の彼と同じものであり、彼らしさが変わってないことに小さな喜びを感じた。
「何もしてないことはないですよ」
曖昧にしない。今度は言い切る。
「貴方の存在は5人の何かを変え始めています」
それは未来を知っている私ができる、せめてもの応援の形。
「―――5人って・・・・・・」
「えぇ、5人です」
今日ずっと言いたかった言葉。昨日の夜から迷い、それでもこの気持ちは伝えない、と考えてようやく口にできた言葉。
「返金は受け付けません。どう使おうが貴方の自由ですから」
そう言って静かに封筒を表にする。腕を組んで悩み始める彼を、穏やかな気持ちで見つめられた。
だからだろうか。
「らいは。何か欲しいものはあるか?」
用事を済ませたらすぐ帰る、と自分に散々言い聞かせていたのに忘れていて。
「私、ゲームセンターに行ってみたい!」
この後の展開を知っていたのに避けられなかったのは。
残暑になっても暑さ厳しい日が続きますね
実は二乃とのトラブル編も執筆していたのですが、書いてて「あれ、原作なぞってるだけじゃね?」ってなったので、急遽予定を変更して五月ちゃんメイン回を執筆しました。
おかげで遅くなってしまいましたが大体の構成は決まっているので、回はきっと早く更新できる(はず)です。
あまり五月ちゃんが関わらない原作シーンはカットして更新頻度を重視していきます。
でも他姉妹のターニングポイントはしっかりと触れていけるように執筆頑張ります。
残暑もまだまだ厳しいので、感染症予防だけではなく熱中症にもお気を付けて。
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更新確認のために逐一サイトを見てもらうのも悪いので、読者の皆様方にはこちらをフォローして更新を確認してもらえると幸いです。
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