五等分の花嫁~五月のお団子が美味しい御話~   作:鈴木ヒロ

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ら「ごめんなさい五月さん、本当はお茶菓子があればいいんですが」

五「気にしないでください。お茶を頂けるだけで嬉しいです」

ら「お茶菓子じゃなくて昨日のカレーならあるんだけどなぁ・・・・・」

五「ありがとうございます」

ら「え?」

五「え?」


ずれた栞と頭痛がする読者②

「わー!こんなところがあるんだ」

止むことのない機械音の中でも嬉しそうならいはちゃんの声はハッキリと聞こえる。

料理や掃除など一家の家事を任されて大人に見える彼女も、こういった場所では年相応の少女のようだ。

「なんでお前も来てんだよ」

「仕方がないでしょう・・・・・・らいはちゃんの頼みなんですから」

お互い顔を合わせずに歩く姿は、人によって初々しいカップルに見えるだろうが、実際は何も興味のない男子に後悔している女子だ。

「お兄ちゃん、これやろう!」

トカトカと歩き回っていたらいはちゃんが足を止めて指をさしたのは、祭りの射的でよく見る長い銃で動く的を当てて商品を落とすゲームだ。

「ふっ、こんなゲームで満足できるんだから、まだまだ子供だな」

そう言って涼しい顔で笑う上杉君。私はこの後に起こる彼の姿を思い出し、「あはは・・・・・・」と引きつった笑いで返すことしかできなかった。

「おかしい」

そしてそれは変わることなく起きた。彼が撃ったコルク栓は何回も的に命中したが、的は倒れることなく上下に動いている。

数回やればこれが確率のようなシステムが絡んでいると勘付くはずだが、ゲームセンター自体慣れていない彼からすれば、そういった発想は出てこないのだろう。

かく言う私も、大学生まで俗に言う確率機といったものを知らず、その話を知った時は素直に納得した。恐らく、運が絡まないと熟練した人に何度も取られて赤字になってしまうのだろう。

「今の衝撃で落ちないのは物理の法則に反している!」

そう言って騒ぐ彼には是非ともさっき自分で言ったことを思い出してほしい。彼が子供と評価したらいはちゃんは「お兄ちゃんもうやめとこ!」となだめている。

それでも納得がいかない彼はくるっと私の方に顔を向ける。

「五月、まだ玉残っているだろ。あれを狙え、そして不正を暴くんだ!」

「私ですか・・・・・・」

こうなる事は予め知っていた。そして、この時に彼が顔を近づけることも覚えている。

「別にいいですが手助けは無用ですよ。やるとなれば私一人の力でできます」

事前に分かれば対策もできる。両手を銃に添えて左目をつぶり、小銃の先端にある突起物を的と重ねるように銃を動かす。

(まぁ私も大人だし、彼の顔が近い程度で何もないけど、ないに越したことは―――)

ゆっくりと視線を的に絞っていくと視界が狭まっていく。そのせいで、隣にある気配にギリギリまで気づくことができなかった。

「いいか、照星に合わせて飛距離を計算してだな―――」

「―――え・・・・・・わぁっ!」

パァンッ、と音を立ててコルク栓は狙っていた商品の的ではなく、隣の商品の的に当たった。すると、的はパタリの後ろに倒れて商品を入れた器が手前に傾いた。

「え」

「あ」

小さな商品は音を立てて落ちると、ベルトコンベアによってゆっくりと受け取り口に運ばれる。予想外の幸運に固まっていると「すごい五月さん!」と素直に喜ぶらいはちゃんが意気揚々と商品を取り出した。それは小さな黒い箱のようで、開けてみないと中身は分からないようだ。

「どうせなら実用性のあるものだといいが」

「もう、お兄ちゃんつまらない事言わないでよ」

らいはちゃんは爪でビニールテープを剥がそうとする。それを上杉君が無言で取り上げて自分で剥がし始める。箱の中身を取り出すと、白いジュエリーボックスのような小さなケースが出てきた。

「箱の中からまた箱かよ」

「箱ではなくジュエリーケースです。それにもしかしてこのケースは―――」

上杉君が蓋を開ける。仕舞われていたそれは予想通り、指輪だった。

「わぁー!指輪だ!」

「と言ってもオモチャの指輪だろ。売っても金にならんな」

「貴方って人は、本当にロマンの欠片もないんですね・・・・・・」

彼の言葉に呆れつつ指輪を見つめる。リングの材質も上に乗る宝石も、丁寧な作りだがあくまでも玩具。それでも指輪というだけで特別なものに感じて、一段と魅力的に見える。

(指輪なんて、四葉が大事そうにしていたものしか見たことない)

日常的に付けていたシンプルなデザインとは違う、美しい宝石で飾られた幸福のリングを一度だけ間近で見させてもらったことがある。指輪を見た時は綺麗や素敵といった感想しか出てこなかったが、幸せそうに笑う四葉を見て、少しだけ羨ましいと思った。

「・・・・・・いいなぁ」

ボソッと出てしまった言葉に自分でハッとなる。機械音が鳴り響く店内にも関わらず、近くにいた二人は聞こえてしまったようで驚いた顔をしていた。

「お前、こんな玩具が欲しいのか・・・・・・?」

「お兄ちゃん、女の子はいくつになっても指輪が好きなんだよ」

呆れたような顔をする上杉君を叱りつけるらいはちゃん。らいはちゃんは上杉君の手からジュエリーケースを取り上げると、くるっと私の方に向き直って両手に持ったそれを差し出した。

「はいどうぞ五月さん!お兄ちゃんからだと嫌だと思うので、これは私からです!」

思わず「いえ、そういうつもりでは」と言いかけたが、らいはちゃんの目は純粋なもので、とても断ることはできなかった。

「あ、ありがとうございます、らいはちゃん。大切にしますね」

受け取ったそれは思ったより軽く、思わず「あはは・・・・・・」と乾いた笑いをしてしまう。

「そんなもんで喜ぶとは、お前もまだガキだな」

お手本のような彼の煽り言葉にイラっとしたのは言うまでもないだろう。しかし彼に何も言わず受け取った指輪を鞄へと保管した。フッと挑発的に笑っている彼には苛立ちしか感じないが、ここで言い返さずに我慢できたのは精神年齢が大人な証拠だろう。

しかし脳内で仮想上杉君をサンドバックのようにバシバシ叩いている。それはもう彼の挑発的な笑みが気にならないほど集中して。

だからだろうか。

「お兄ちゃん、五月さん」

あの機体にだけは近づかない。そう思っていたのに気づいたら近くにあって。

「最後に三人であれやってみたいな」

この後の展開を知っていたのに避けられなかったのは。

 




危うく失踪シリーズになるところでした。
お久しぶりです。

10月になったのに蚊に刺される私です。
寒くなったので暖を取るために蚊は室内に入りやすいらしいですよ。
換気する時はお気をつけて

現在の章を境に少しずつストーリーを動かしていこうと思います。
辻褄が合わないって事にならないよう頑張ります。


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