五「私たち妹で撮る時は二乃がやってくれているので、私はあんまり触れたことがないです」
風「あぁー、あいつか。何となくイメージ通りだな」
五「落書きも一花と二乃が担当して、三玖と四葉は楽しそうにそれを見ています」
風「お前は見ないのか?」
五「見ません。落書きにある食べ物のスタンプを見るとお腹が空くので」
風「お前もイメージ通りだな・・・・・」
建物の外に出ると、空は綺麗な夕焼けだった。夕陽に手をかざして随分と時間が経ったんだと思っていると、ふと何かを忘れているような気がしてきた。
「結局土曜日が潰れちまった・・・・・・。いや、まだ明日があるか」
少しだけ落ち込んだ様子を見せる上杉君。それよりも、彼の言葉が頭の中で反復される。
(土曜日・・・・・・明日・・・・・・土曜日、明日、土曜日、明日・・・・・・日曜日?・・・・・・日曜日!?)
突如として思考に衝撃が走った。忘れていたことを思い出し、これからすることを考えるだけで気が重くなっていく。
重くのしかかる気持ちを脳内五月が両手でひっくり返すと、「上杉君!」と勢いよく彼に向かい直った。
突然声を掛けられた彼は「な、なんだよ」と驚いた様子を見せるが、そんなことを気にしている余裕は私にはない。
「あし、明日は!その、あ、空いていますか・・・・・・?」
精一杯出した声は徐々に萎むように小さくなってしまったが、しっかり聞き取れただろうか。
明日の花火大会に彼を誘う。それが今回の一番の目的だった。
―――――
「え、上杉君にですか?」
『あぁ、先ほど君たちの口座に生活費を入れておいた。彼への給与分も含まれているから、明日渡してほしい』
今週の通学日が終わりの金曜日の夜、花の金曜日は学生に戻っても変わらずで、各々が自由に過ごしていた。と、そこに突然リビングの電話が鳴り、一番近かった私が応対すると、電話の相手はお父さんだった。
「分かりました、では渡してきます」
『それから、すまないが明日までに渡してほしい。彼らとの契約時、毎月その日に渡すと伝えてある。こちらがそれを破るわけにはいかないからね』
今月分の生活費を入れておいた、それと家庭教師の彼に給与を渡してくれ、そう伝えると他には何も聞かず電話を切った。当時の私は当たり前のように受け入れていたが、今になって考えるとなんと不器用な父親だろうか。
「パパから?」
テレビを見ながら爪の手入れをしている二乃が軽い調子で聞いてくる。「そうです」と答えると「ふーん」と興味なさげな返事で会話が終わった。
「お父さん、なんて?」
代わりにリビングで勉強していた四葉が続けてきた。私は先ほどまで座っていた四葉の隣に座ると、少し間を置いてから電話での会話を二人に伝えた。
「今月の生活費を入れてくれた事と、上杉君に今月分の給料を渡してほしい、とのことです」
変わらず興味なさそうな二乃とは反して、「あ、なるほど」と反応を示してくれた四葉。
「そっかー、もう一か月経つんだね」
そう言って天井を見上げる四葉の顔は、今だからこそ分かる「恋する乙女」の顔だった。
その表情を見て、私はかねてから考えていた案を上げることにする。
「はい。それで、早く渡すに越したことはないので、そのお給金を四葉に渡してきてほしいのですが」
「え、私が!?」
予想外のパスに動揺する四葉だったが、その反応は予想通りだった。どんな些細な理由でも、それを付ければ四葉が断わる理由はない。
ここ最近予定通りにいかなかった事が多かったため、久しぶりの確信を持って内心でガッツポーズをとる。
「えぇ、場所は私が教えるので、後で紙に書き―――」
「なら五月、アンタが行けばいいじゃない」
予想外のパスに固まってしまう私。パスを投げた本人は手をかざして爪の具合を確認している。
「同じ学区内なら誰が行っても夕方までかからないでしょ。なら場所を知っているアンタが行けばいいじゃない」
わざと言っている訳ではなく、二乃の言い分は当然のものだろう。「確かにそうだね!」と言って同調する四葉は、「それに」と言葉を続ける。
「私、明日はバスケ部の練習に付き合うって約束あるから」
あははー、とバツが悪そうに笑う四葉を見て、ふとある疑問が浮かんだ。
「約束って、ちゃんと夕方の花火大会には間に合うんですか?」
毎年この時期の花火大会は5人で見るという暗黙がある。協調性を重んじる四葉が自ら輪を崩すことはないと思うが、この花火大会は私たち五つ子のターニングポイントだからこそ確証は欲しい。
少し真面目な顔になってしまったようで、キョトンと不思議そうな顔をする四葉が、笑いながら私に話しかけてきた。
「何言ってるの五月―。花火大会は日曜日、明後日だよ」
―――――
という経緯があり、またもや計画が破綻した私は大慌てて修正しにきた。
どういう訳か、この世界線では給料を渡す出来事が一日早く、このままでは彼が花火大会に来ることはなく、一花の件で五つ子が崩壊してしまう可能性がある。彼には何としても花火大会に来てもらわなくては。
「明日?あぁ勿論。明日は心置きなく勉強できる日だからな」
勉強の虫の彼を動かすにはそれなりの大義名分が必要だが全くアイデアが浮かばず、少しでも外出するならあるいは、と思っていた希望も一瞬で消えてしまい「そ、そうですか」と返事する他なかった。
そんな私の様子を不審そうに見るのも一瞬、すぐにいつもの悪人顔になり「あ、そうだ」と切り出した。
「お前ら、家庭教師の日じゃないからって勉強サボるなよ。宿題は出ているだろうし」
ビシッと指を差してくる彼。多分、遠い目をしているであろう私は「あはは・・・・・」と笑うしかなかった。
が、遅れて彼の言葉が脳裏に引っ掛かる。瞬間、「あ!」と思わず声を出して、強引ながらも大義名分を閃いてしまった。
「そ、そのことなんですが」
「ん?なんだよ」
不思議そうに尋ねる彼への返事に二の足を踏んでしまう。諸刃の剣というか、この案を強行すれば、二乃と明日の自分に怒られるのは容易に想像できる。他の姉妹も怒りはしなくても不審がるだろう。
それでも、この案以外は思いつかず、このタイミングを逃せば次はないだろう。
「じ、実は姉妹全員まだ宿題が終わっていなくてですね」
肉を切らせて骨を切る、ではないが、大きな益を得るにはある程度の損を覚悟しなくてはならない。
「明日の午後、追加で家庭教師をお願いしていいですか?」
帰ってからするみんなへの説明を想像するだけで頭が痛くなってきた。一度、定期検診に行こうかな、と本気で考える土曜日の夕方だった。
今年もよろしくお願いします。
地方に住んでいる私のところは大雪で、毎朝除雪をしないと通勤すらできません。
って愚痴を言おうとしたら都内でも雪が大変そうでした。
さて、本編はようやく夏祭り編ですが、予定ではここから物語を動かして行こうと思っています。
と言っておいて、そんなに動かないかもしれません。
話題の感染症以外にもインフルや通常の風邪にもお気を付けてください。
※17話誤字報告を頂き、訂正しました。報告ありがとうございます。
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