二「えぇ、爪先がデコボコしてると色々と邪魔になるもの。料理とか」
五「分かります。爪に食べ物のデザインがあったら勉強に集中できなさそうですし」
四「それは五月だけだと思うよ・・・・・」
二「アンタの場合、無意識に食べてそうで怖いわ」
五「そ、そんなことないですよ!多分・・・・・」
二「絶対に塗るのやめなさいよ」
「今日はせっかくの花火大会なのに・・・・・・」
スパンコール入りの紫色のシャープペンシルを強く握りしめながらプルプルと肩を震わせる。
「なんで私たち家で宿題してんのよ!」
「週末なのに宿題終わらせてないからだ!」
悲痛な叫びをあげる二乃に対して一喝する上杉君。過去世界でも同じことになったとはいえ、今回は私の発案だった事と私だけ宿題が終わっている二重の罪悪感に苛まれる。いえ、宿題を終わらせているのは良い事なんですが。
二乃の顔を見られずスッと視線を外に向けると外はまだ明るい。昼に始めた勉強会も、この調子なら夕方には終わるだろう。
「しかし五月、まさかお前は終わらせているとな。感心したぞ」
「いえ、まぁはい。今回は学力がありますし・・・・・」
人に言えない理由もあって最後は小声になってしまう。その様子に不思議そうな顔をする上杉君だったが、三玖に呼ばれて勉強を教えに行く。
過去世界では意欲はあっても学力がなかった為、宿題1つにも膨大な時間がかかった。今はある学力と高校大学に身に付いた習慣が相まって、その日の内には終わってしまった。
(とりあえず誰かの手伝いをしていた方が、罪悪感が紛れるなぁ・・・・・)
上杉君はテーブルで真ん中分けして三玖四葉側を見ているので、私は反対側の一花二乃側に回ることにする。
「あはは・・・・・まさか五月ちゃんに教わるとはねぇ・・・・・」
「ホントよ。あんた、いつの間に頭良くなったのよ」
あっけらかんと笑う一花とは対象に、二乃は不満そうに見つめてくる。やはりこの状況を含めて怒っているのだろうか不安になる。
「た、たまたまですよ。あ、一花、そこは先にこっちの計算をですね―――」
無理がある言い訳を勢いで通す。そのまま誤魔化すように一花に勉強を教えるつもりが、仕事のスイッチが入ってしまい本格的に指導してしまう。
一花も「あ、そっか」とか「わーすごい!」と反応してくれるものだから、指導に熱が入って気が付くと全員が私を見ていた。
「すごいよ五月!まるで先生みたいだよ!」
「本当。正直、驚いた」
反対側の四葉と三玖が褒めてくれるのがこそばゆい。「いえ、そんなこと」と返すが頬に熱が宿るのは自覚できた。
「ホントよ。てか」
二乃まで肯定したが、顔は何か含みのある笑みだった。二乃は私に顔を向けながらも、視線は上杉君に向けて言う。
「そんなに上手なら、家庭教師なんていらなくない?」
その一言で二乃以外の全員の動きがピタッと止まり、空気が凍り付くのが分かった。場の冷気に当てられて私の頬の熱も失い、冷めるを超えて血の気が引いてきた。
ガガガガガッと油の足りないロボットのように首を動かして上杉君を見る。彼も表情が固まっており、何を考えているのか全く読み取れない。
この静寂の中カリカリと手を動かすのは二乃。この雰囲気にアタフタしているのが四葉。そして睨み付けるように二乃を見るのが三玖。年長者(精神的に)としてどうにかしないと、と焦るのが私。
そんな空気を変えたのは年長者(本物)の一花だった。パンッと両手を叩くと私たちの注意を自分に向ける。
「お祭りまで時間に余裕あるし少し休憩にしよ。二乃、ごめんだけどお茶淹れてもらっていい?」
勉強から解放されることには肯定的な二乃は「しょうがないわね。ローズマリーでいいでしょ?」と言ってすぐにキッチンへ向かった。
張本人が退席したことで空気が少し和らいだように感じた。思わず小さな息が漏れる。
一花を見ると、三玖や四葉だけではなく上杉君にも笑いながら声をかけている。こういう気遣いができる長女を誇らしく思う。
その後は二乃がハーブティーを上杉君以外の5人分持ってきて、それを三玖が注意して、上杉君が別に気にしてないと言い、窓から見える空の色が変わってきたことでスパートをかけて、何とかお祭り前に終わらせることができた。
「よし、何とか終わったな」
上杉君のその一言で全員、空気が抜けたような声を漏らす。
「ま、間に合ったよー」
四葉が机に伏せるように身体を伸ばし、一花がヨシヨシと頭を撫でる。
「さっ、早く準備するわよ。浴衣を着ないといけないんだから」
二乃はテーブルに並べられていたティーカップを手早くトレーに乗せるとゆっくり立ち上がる。三玖は脱力した様子で後ろにあるソファに身を任せている。
上杉君はと言うと、全員分の終えた宿題を確認していた。
「ふむ、まぁとりあえずはいいだろう」
納得した表情でノートを机の上に戻すとスッと立ち上がった。
「んじゃ帰るわ」
その言葉にハッと思い出す。そういえば過去世界では、らいはちゃんがいたから彼も一緒だったが、今回は彼一人のため、上杉君には同行する理由がない。
(ど、どうしよう・・・・・)
この夏まつりは彼だけではなく私たち姉妹、一花にとって大事なこと。詳しくは知らないが、この出来事が一花にとって重要な転機なのは間違いない。
「う、上杉くぅん!」
ビックリした様子で上杉君が振り返った。少し上ずってしまった声を恥ずかしいと思う以上に、みんなの前で彼を呼び止めたことに羞恥心を感じた。変に上がった声のせいで大きな声になってしまい、座っていた一花たちだけではなく、キッチンに向かう途中の二乃まで注目してしまった。
これだけ注目された中で上杉君を誘うのは、流石の私でも良い印象を与えないのは分かった。
あぁー、ええっとー、と脳内の私が目を回しながら考える。グルグルと考えを回すが、適切な言葉が見つからない。
最初は面食らった表情をしていた上杉君も、なかなか話し始めない私のせいか、いつの間にか馬鹿を見る目になっていた。ついには振り返るのをやめて玄関へと足を動かしたが、ドアの前でぴたりと足を止めた。
「あー、五月、その、なんだ」
不自然な口調になる彼に、今度は視線が集まった。その居心地の悪さを感じ取った為か、一度咳をついて振り返った彼はぎこちない顔をしていた。
「ま、まだこのマンションに慣れてないから、外まで案内してくれ」
少し早口で話す彼は明らかに不自然だ。しかしこの誘いは私にとってもありがたい。三玖の視線が気になるが、今回は許してほしい。
「え、えぇ!エントランスまで案内しますよ!少し準備するので玄関でお待ちください」
誘う口実を考えるため意味のない準備で時間を稼ぐ。素振りを見えるために一度部屋に戻ろうと階段を上がる途中で、ふと彼がなぜこのような行動をとったのか気になった。
私の様子に気づいたということはありえないし、本当に案内してほしいということもないだろう。
(何か話があるのかな)
そんなこと考えていたのも少しの間だけで、すぐに目的に戻る。ここ最近、こんなことばかりな気がしてきた。
お久しぶりです。
色々と慌ただしい日常を過ごしていたら、投稿をすっかり忘れていました・・・・・
一時期は熱が冷めていたのですが、ごとよめの映画やゲームの影響で再燃して、何とか執筆に辿り着けました。本当に申し訳ないです。
さて、執筆する際に自分のを読み返していたのですが、どうにもテーマというか芯のようなものを感じられず、なんだかフワフワしているなと思うようになりました。
かと言って書き直すと途中で力尽きそうなので、お見苦しいですがこれからの投稿で強引に修正したいと思います。
原作との差異だけではなく、前話までと設定がずれることあるかもしれません。見逃せないずれだった場合は教えていただけるとありがたいです。
ちなみに、見返すと連載初期はガラケーだったんですね。最初からスマホのつもりで執筆してました・・・・・
映画、とても面白かったです。