五等分の花嫁~五月のお団子が美味しい御話~   作:鈴木ヒロ

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風『いいか、こいつをナンパしたら食費が馬鹿にならないぞ』

五「上杉君?」

風『甘く見積もるなよ?こいつは人一倍、いや人五倍食べる!』

五「上杉君?」

風『例えるなら餌を与えれば与えるほど食べ続ける肥えた金魚のような』

五「上杉君?」



神様の巻き戻し③

『私悪くないよ!』

思考に入ろうとした意識は、突然の高い叫び声で遮られた。

その声の方に目を向けると、小さな女の子がその子と瓜二つの女の子に向かって放った声のようだ。少女たちの間には男性が困り顔で立っている。

『何もお前が悪いとは言っていない。ただ、もう少しはお姉ちゃんのことを考えてだな』

『お父さんはいつも味方してくれない!いつもいつもお姉ちゃんばっかり!』

女の子の声に通行人が足を止めるが、家族喧嘩と分かると興味を失って歩き始める。

「早口すぎてリスニングできん。トラブルか?」

「多分姉妹喧嘩かな。それをあのお父さんが仲裁しているみたい」

見た目がそっくりな小さな姉妹に昔の私たちが重なる。よく喧嘩をした訳ではないが、1つだけ四葉と大喧嘩したのを覚えている。確かおやつの取り合いだっただろうか。

最初は口喧嘩だったけど次第に手を出すほどの喧嘩になって、それを止めにきた一花と二乃を巻き込んで大喧嘩になった。その後、三玖がお母さんを呼んできてみんな怒られたっけ。

『もういい!お父さんもお姉ちゃんも大嫌い!』

女の子が声を荒げて走り出す。お父さんは追いかけようとしたが、もう一人の娘を置いてはいけず戸惑っていた。

「上杉君、追いかけましょう」

一度面影が重なってしまえば他人事には思えなくなる。私の咄嗟の提案にも彼は頷いてくれた。

「言っておくが俺は体力に自信がない。もしもの時は先に行ってくれ」

ただ、すごく情けなかった。

戸惑っている父親に簡単に声を掛けて女の子の後を追う。距離があっても相手は女の子の為、5分もしないうちに追いついたが、5分もしないうちに上杉君は見えなくなった。

女の子は浜辺に隣接する堤防の上に足を投げ出すように座っていた。決して低い堤防でないため、この暗さだと誤って転落すれば子供でなくても危ない高さだ。

『お嬢さん、そこは暗くて危ないよ』

近くの階段を見つけて少女へ歩み寄る。女の子は急に声を掛けられて驚いた様子だったが、声を掛けた私の顔を見て安心したような、落ち込んだような目をしていた。

『平気。慣れているから』

『そうなんだ。よくここに来るの?』

『ううん。偶に来るくらい』

いざとなったら腕を掴める距離まで近づいてしゃがみ込む。少女と同じく足を投げるように端に座った方が楽だけど、暗さと高さに怖気づいてしまう。

『貴方のお父さんが来るまで隣にいてもいいかな』

『来ないよ。お父さんはお姉ちゃんの方が大事なんだもん』

そう言って塞ぎ込む彼女に、私は何と言葉を掛けるべきか迷ってしまう。下手な言葉は逆効果な気がするが、何か言わないと気不味い。

『そんなことないよ。きっとお父さんは貴女のことも大事に思っています』

結局出たのは当たり障りのない普通の言葉だった。しかしその言葉は少女に届かなかったようで、全く反応が見られない。

『お父さんは――』

『子供に、差を付ける親なんか、いるもんか』

後ろから声が聞こえた。その声に振り向くとそれと同時に彼が横を通り、少女の頭に手を置く。荒げた呼吸が、彼がどれだけ急いでくれたか察せる。

『父親からすれば、全員が等しく大切な子供だ。そこに差別はない』

頭に手を置かれた少女はそれを払うでもなく上杉君を見上げる。

『・・・・・差別?』

『あー、つまりどちらも大切だってことだ』

上杉君は少女の横に胡坐をかいて座る。

『そして子供は等しく親に甘える権利がある。だからお前のそれは悪い事じゃない。存分に困らせろ』

意地の悪そうな顔で笑う。その顔は二十歳を超えた成人の顔ではなく、思い出に多くある高校生の彼の顔に近かった。

上杉君はそのまま優しい声で少女に話しかけ続け、少女は少しずつそれに答えていった。

昔、みんなに彼のどこが好きなのか聞いたことがある。その時に三玖が「人の気持ちに寄り添える温かさを持っている」と言っていた。

当時は冷酷非情な彼がありえない、なんて笑ったが、きっと姉妹のみんなが惹かれた彼はこういうところなんだろう。

彼の呼吸が落ち着き、波音が場を満たす頃には慌てた父親が追いついてきた。

少女の無事を確認できた父親は膝を崩して安堵し、少女はそんな父親を見てバツの悪そうな顔をしていた。

父親が私たちに気づくと物凄い勢いでお礼を言われ、最初はお金を渡してきたがそれこそ物凄い勢いでお断りした。

来た道を手繋ぎで戻る親子たちの背中を見送り、合わせたわけでもなく二人同時に息を吐く。

「君もまともな事を言えるんだね。四葉の教育の賜物かな」

「賜物なんて言葉を使うお前は違和感しかねぇな」

幕を下ろした舞台のような黒い海を眺める。帰らないといけないのは分かっているが、月明かりや波の音に惹かれてしまい、何だか帰るのが勿体なく感じてきた。

ゆっくりと夜空を見上げる。黒いキャンパスには光り輝く満月がよく映えている。

(月が綺麗ですね、か)

私は無意識に月へ手を伸ばす。ゆっくりと肘を伸ばし、これ以上伸びないところで手を握る。もちろん手の中には何もない。

「何してんだお前・・・・・」

不可解な私の行動を訝しげに目を向けてくる。何もそんな可哀想な人を見るような目をしなくてもいいじゃない。

「何でもない。何となく手を伸ばしたかっただけ」

少し恥ずかしくなって慌てて手を引っ込める。そのままと目合わないように振り返り、先程の行動を誤魔化すように昇ってきた階段を早足で下る。

「おい、暗いんだから走ると危ないぞ」

「暗くなんてないよ。今日は月が綺麗なんだか、ら・・・・・・」

口に出した後に自分が言った言葉に気づく。私は慌てて振り返り訂正する。

「今のは違うよ!ただ単に満月が綺麗だって意味で深い意味は―――」

フワッと、突然の浮遊感。ゆっくりとなる視界。自分が足を踏み外したと気づいたのは、まるで走馬灯のように加速する思考の中でだった。

視界の先で彼が慌てて手を伸ばす姿が見えた。その手を掴もうと手を伸ばす自分が、他人事のように認識できる。

二つの手が触れそうな距離まで近づき、しかし触れずに離れていく。

揺らぐ視界の中で彼の必死の表情だけがはっきりと見えた。

(なんだ、そんな顔もできるんだ)

場違いな感想を最後に、私の意識は暗い海へと消えていった。

 




長いプロローグが終わり、自分の文章表現が読者の皆様に情景としてしっかり伝わっているか心配な作者です。

次回からは週1くらいの頻度で投稿します。
休日や空き時間に週刊誌感覚で読んでもらえると幸いです。

この物語が誰かの性癖に刺さることを祈って、鈴木は今日も珈琲を頂きます。
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