五等分の花嫁~五月のお団子が美味しい御話~   作:鈴木ヒロ

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二「ちょっと三玖!私の色ペン勝手に使わないでよ!」

三「このペン、ゴツゴツして使いづらい・・・・・」

二「人の勝手に使っておいて文句言うな!てか、あんたのペンは地味すぎるわ。ぜっんぜん可愛くない」

三「落ち着いたデザインの良さが分からないなんて、二乃はお子様」

五「まぁ二人とも。そんなことで喧嘩しないでください。私のペンを貸しますから」

一「五月ちゃんのペンは、全部匂い付きのペンだよね」

四「あれ、この流れ前にも見た気が・・・・・」






「それでは少し出てきます。出発までには戻るので」

お見送りに来てくれた三玖と四葉に一礼して廊下で待つ上杉君の下へ向かう。壁に背中を預けながら単語帳をめくる彼を見ると、本当に勉強の虫なんだなと呆れてしまう。

「すみません、お待たせしました」

「遅い。準備にどれだけかかるんだ」

デリカシーの欠片もない発言に、自分のこめかみがピクッと動いた気がする。この頃の上杉君は本当に本当に他人の配慮がない。いや、大人になった上杉君も変わらない気がするけど、今よりはずっと優しい。多分。

しかし私はもう大人。これしきの事に怒るほど弱くない。

「廊下にいては落ち着きませんし、とりあえず歩きましょう。お互い、話したいこともありそうですし」

そう言って彼の横を通り抜けて振り返ると、彼は驚いた様子で私を見ていた。その顔を見て「フンッ」と少しだけ気が晴れた。

エントランスホールに向かうエレベーターの中ではお互い無言だった。上杉君はというと、決して長くない時間にも関わらず単語帳をめくっていた。

一階まで降りると、開いた扉から上杉君がサッと出ていき、私がその後に続く。しかし、それより先は彼の前を私が歩く形で外まで出ると、マンション近くにある自動販売機を指差した。

「飲み物を飲みながら話しましょう。奢りますよ」

「いらん。意味もない施しは受ける気にならない」

「そうですか」

スマホを自動販売機にかざしてボタンを押す。ガコンッと小さな音が鳴った後に取り出し口から缶ジュースを取り出す。

「あ、間違えました。水を買うつもりがジュースを買ってしまいました、どうしましょう」

一息で言い終え、怪訝そうな顔をしている彼に差し出した。

「申し訳ありませんが飲んでくれませんか?私は水を飲みたい気分だったんですが間違えてしまったので」

「馬鹿かお前は。それなら他の姉妹にでもくれてやれよ」

「まぁそう言わずに。らいはちゃんにプレゼントしたら喜ぶんじゃないですか?」

挑発的にニコッと笑って押し付けるようにさらに差し出す。引いたような不満そうな何とも言えない反応の末、渋々と受け取った。

「言っとくが金は払わんからな。てか持っていない」

「はいはい、それで構いませんよ」

自動販売機に向き直ってもう一度スマホをかざし、今度は間違いなく水を購入した。

2人飲み物を用意終えてからマンション前に戻ると、マンション前の休憩スペースに腰を下ろす。上杉君にも座るように勧めたが、彼は頑なに拒んだ。そんな些細なことでも、彼との信頼関係もリセットされたと少し寂しさを感じる。

「あまり時間をかけてはみんな変に思われますし、早くお話に移りましょう」

さてここからだ、と自分を鼓舞する。目標は上杉君の花火大会への同伴。まずは勢いよく切り込もう。

「えぇっとですね・・・・・う、上杉君からどうぞ!」

前言撤回。真意は違うとはいえ、男性をデートに誘うこと自体のハードルが高すぎる。

「お前・・・・・ここまで誘導しておいて俺が先かよ」

本人にその気はなくても、こちらから見ると呆れて馬鹿にしているようで、急激に恥ずかしくなる。カーッと頬に熱を感じて膝に置いた水を両手で握りしめる。買ったばかりの冷水がありがたい。

「あー、俺からの話はだな。その、なんだ」

「歯切れ悪いですね。ハッキリと言ってください」

上杉君が「自分のことを棚に上げるな」と言いたそうな不満な顔をするが、言葉にはしなかった。頭をガシガシと掻くと、決意した目で私をしっかりと見る。

「五月、俺に勉強を教えてくれ」

「えぇ、分かりうぇっ!?」

予想外の頼みに変な声が上がってしまう。彼の口から間違っても出ない願いに脳が混乱を起こしている。

「いや、待て勘違いをするな!」

彼は慌てて訂正すると流れを変えるようにわざとらしく咳をつくが、そんな簡単に切り替わるほど今の一言は軽くないのは、私が一番知っている。

「う、上杉君が、私に、勉強を、頼む、え?」

「待て待て!まずは話を聞け」

どうやら混乱しているのは私だけじゃないようで、先程いらないと言ったはずの缶ジュースをカシュっと勢いよく開けるとそのままグイッと飲んだ。一口飲み終えた彼は少し落ち着きを取り戻したようで、長めの息を吐いて再び私を見る。

「俺は頭が良くて学年一位で、勉強面が完璧な男だ」

「それ以外は壊滅的ですけどね」

「お前に何が分かる」

何となくイラっとしたので口を挟んでしまった。続きをどうぞ、と促すと腑に落ちない顔で再開する。

「人に教えるのは初めてだが、やってみると案外できるものだった。流石俺だと思う。だが―――」

言葉を一度切ると私から目を逸らす。表情こそ変わらないが、何だか暗い印象を受けた。

「素人目の俺から見ても、お前の教え方は正しく分かりやすい。悔しいがあの口うるさい姉妹の言うとおりだ」

「二乃のことですね」

「お前がいながら何で俺に声がかかったのか知らん。だが俺にもバイトを続けなければならない理由がある。だから」

逸らした視線を再び向けてくる。その表情にはもう暗さを感じない」

「俺に勉強の教え方を教えてくれ」

その目は強く、私がよく知る瞳だった。

「それなら、私と二人体制で見ればいいのでは?給料だって変わらないんですし」

「いや、それはしない。給料分の働きはしたい。それが俺の義理だ」

二人体制にしても、きっとお父さんは給料を減らしたりしないだろう。それ以前に二人体制の方が効率いいのは彼も分かっている。姉妹同士で教え合ったのは双方の学力向上のためとして、純粋に誰かの手を借りるのは彼の信念に反するのだろう。

(だからこそ私たちは、貴方に―――)

自然と口元が緩んでしまう。それを誤魔化すよう勢いよく立ち上がった。

「分かりました。私もまだ勉強する立場ですが、可能な範囲で貴方に教育学を教えます」

「ん、んあぁ、た、助かる」

真面目な話をしていた反動だろうか、彼が恥ずかしそうにしていた。そんな様子すらも何だか嬉しくなる。

「ですが、こちらもそれなりの報酬を要求します」

「なんだよ、言っておくが金はないぞ。もしかして、給料から一部お前に流せってことか・・・・・?」

「そんなこと言いません!私をなんだと思っているんですか」

引いた様子の彼につい怒鳴ってしまう。今度は私が持っていた水を一口飲んだ。冷たいものが喉を通るのが心地良い。

「そうですね、では」

マンション入り口前の明かりが規則正しく点灯する。もうそんな時間なのだろう。恩返し、というには些細なことだが、少しでも彼の助けとなるのが嬉しく思う。

「今夜の花火大会、貴方も一緒に来てくれませんか?」

「あ?なんだそりゃ」

「貴方は保護者です。私がらいはちゃんをお誘いするので、貴方は保護者として同行してください」

らいはちゃんが来るなら彼も一緒、そういう形ならおかしくないだろう。

「それとも、らいはちゃんを置いて1人家にいるつもりですか?」

挑発的な口調で彼を煽ると効果は目に見えた。引きつった笑みで「んなわけないだろう!」と了承を口にした。

「決まりですね。では待ち合わせ場所は追って連絡します。とりあえず家に帰ってらいはちゃんに私がお誘いしたことを伝えてください。それでは―――」

既に部屋を出て10分は経過しているだろう。既に姉妹たちに詰め寄られそうな時間は経っているが、らいはちゃんを誘っていたと言えば納得してくれるはず。

「あ、おい待て!」

用事が済んだため急ぎ部屋に戻ろうとすると呼び止められた。何事かと振り向くと、上杉君は何か言葉が詰まっていそうな顔をしていた。

「すみません急いでいるんです。何か質問があれば携帯で連絡して―――」

「だからそれだ!俺、お前の連絡先知らないんだが」

両者固まる。風が横切る音が聞こえた気がした。これだけ偉そうに話して、貴方のことはよく分かっていますよ、という雰囲気で去ろうとしたのに、根本的なことを忘れていた。この世界ではまだ、彼と連絡先を交換していなかった。

固まる空気の中をかき分けるようにギッギッギッと彼に近づくと、無言でスマホを取り出す。彼との連絡先交換中は、恥ずかしくて何も言葉にできなかった。

 




熱があるうちに続投を、と思い筆を走らせましたが、会話多めになっていました。情景が浮かびづらかったら申し訳ないです。

前回の投稿が久しぶりだったのにも関わらず、お気に入り登録していただいた方が多くて驚きました。とても励みになります。
映画の影響か、ごとよめが注目され、ごとよめロスになったファンの方々がこういった二次創作を見ていただいているのかと思うと、私も頑張りたいと思います。
かく言う私もロスに陥り、ゲームや二次創作、再放送でなんとか命を繋いでおります。

さて、最近ですが前文でも述べた通り映画の影響でロス気味になったと同時に、他のカップリング二次創作も書いてみたくなりました。
もちろんメインはこちらですが、息抜きや気分転換として、短編タイプで他姉妹の二次創作を書くかもしれません。

執筆した際は後書きにて報告させていただきます。また、掲載ページは今や失踪気味の同作者「五等分の花嫁~イベントでも五月のお団子が美味しし御話~」に掲載したいと思います。誰から書くか未定ですが、気長にお待ちください。

長々となりましたが、梅雨入り目前です。常に携帯雨具を用意して、風邪などにお気をつけてお過ごしください。

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