五「二乃!?この卵焼き」
二「何!?もしかして美味しくなかった―――」
五「鰹節が良い仕事してますね!一緒に合わせた出汁との相性が―――」
二「良かったいつもの五月だわ」
時間は過ぎて正午。私は懐かしい学校食堂で一人ため息をつく。
今日の午前中は学校案内だった。一花や二乃は新しい校舎に目を輝かして、三玖は半分も回らないうちに足を重そうに動かしていた。四葉は言葉数が少なく、転校した原因に引け目を感じているのかもしれない。
(というか状況に急かされて忘れていたけど、今日が転校初日ということは・・・・・・)
この日の食堂、私たち姉妹にとって大事な出会いが待っている。
どうアプローチをするべきだろうか。そもそも現状を完全に理解している訳でもないため、下手な行動は後々の失敗に繋がりそうで怖い。果たして過去をなぞるのが正解なのだろうか。
そんなことを考えながら懐かしいメニュー表を眺める。
焼き肉定食400円、うどん250円、海老天150円、いか天100円、プリン180円。
美味しそうなラインナップだが、悩みや不安のせいか空腹を感じない。
「すみません、うどん1つとトッピングに―――」
とりあえずできるだけ過去をなぞろう。ここで彼に会わないのは得策ではない気がする。
昔を思い出す。初めて彼と出会った場所、隅っこの2人席。
ここで大切なのはタイミングだ。先に座れば彼は避けてくるだろうし、後々になって同席を求めると他の席に座れと言われて反論しにくい。
トレーを持ちながらゆっくりと歩く。孤独感ある姿と特徴的なアホ毛が当てはまる男子生徒を探すがなかなか見つからない。
ずっと歩き続けると周りの目が気になってしまう。とりあえず一旦席に座って、姿が見えたら偶然を装って仕掛けようか。
わざわざ座りなおしてでも接近しようとする自身の精神が頼もしい。
とりあえず混雑の邪魔にならないよう2人席に座ることにした。
今後どうしようかなぁ、と考えながらトレーを置こうとすると、別方向からもう一つのトレーが重なった。
「え」
「あ」
そこには目つきの悪いアホ毛の男子生徒がいた。どうやらわざわざ偶然を装う必要はなかったらしい。
この瞬間のシミュレーションは登校中に何度もしている。
一緒に座ろうと提案したら彼は強く否定するだろう。作戦としては大人な私が大人らしい対応で説得して同席するか、大人な私が大人らしく折れたふりをして隣席を狙う。
「あ、あの―――」
しかし彼の顔を見たら続く言葉が出なかった。理由は分からない。ただ胸の裏側がキュっと締まるような感覚に襲われ、呼吸器系が麻痺しているような錯覚。
声を掛けられた彼は怪訝そうな顔で続く言葉を待っていたが、すぐに諦めて席に座った。
「どけ、ここは俺が毎日座っている席だ」
そう言うと単語帳とテスト用紙と見られる用紙を片手に食事を始める。
予想通りの対応に懐かしさを感じる反面、自分に興味を示さない態度とどこか棘のある口調にイラっとした。
そのことに事前シミュレーションのことなんか忘れ、衝動的に向かいの席に座ってしまった。
「おい、ここは俺の席……」
「椅子は空いていました。そんなに気になるのなら移ったらどうですか?」
売り言葉に買い言葉。結局用意していた大人な対応はどこかに行ってしまい、子供っぽい言い合いの末の出会い方となってしまった。
「上杉君が女子と飯食ってるぜ・・・・・・」
「や、やべぇ・・・・・・」
周りからの視線が気になる。普段一人でいる彼が誰かと、しかも異性といれば気になる気持ちは分かるが、当事者としては良い気分ではない。
「ちっ、あいつら・・・・・・」
そっぽを向いて恥ずかしそうに呟く。一人に慣れている彼でさえ、話題の中心にされるのは居心地悪いのだろう。と、自分のことを棚に上げて分析して動揺を誤魔化す。
「まぁ勝手にしろ」
そう言うと彼は食事とテストの復習を再開した。あの頃は食事中の勉強を行儀が悪いと非難したが、四葉との約束を知っている今となっては少し微笑ましく頬が緩んでしまう。
「・・・・・・なんか用か?ニヤニヤしながら見やがって」
視線を煩わしく思った彼が不機嫌そうな顔をする。
「別に何でもないですよ」
緩む頬を意識的に抑えて、私もうどんを食べることにした。
さっきまで静かだったお腹が急に仕事し始める。ふぅ、お腹が空きました。
学食ある高校に通ってみたかったです。
大学で初めて食堂を利用できましたが、どうして学食のうどんは冷凍ものなのに美味しく感じるんでしょう。
家で食べるうどんは素うどんにラー油を掛けて中華風(仮)にしてます。
今度の休みにうどん食べに行こう。
次回の更新予定は4月15日です。