五「コーヒーくらいは奢ります。あ、貴方はコーヒー苦手でしたね」
風「コーヒーが苦手ってなんで分かるんだ?」
五「な、何となくですよ。そう!貴方の家にコーヒーがなかったので」
風「・・・・・・お前、俺の家来たことないだろ」
五「何となくです!!」
「―――つまり、俺が家庭教師をするのはお前を含めた五つ子で、さっき一緒にいたのは姉妹だと」
「はい、そうなります」
一通り説明を終えてふぅと一息つく。注文していたパフェも先ほど届き、上に乗ったイチゴを口に運ぶ。
「あー、頭が痛くなるな。じゃあ昨日の昼間に話しかけてきたやつもお前の姉妹って訳か」
「話しかけられた?」
イチゴを口に含んで首をかしげる。詳しい話を聞くと、私を追ってウロウロしている時に話しかけられたらしい。その人は代わりに呼ぼうとしたが、それを彼が断わると「何かあったらお姉さんを頼るんだぞ」と言って去っていった。
「それは長女の一花ですね。間違いないかと」
「ちなみにお前は何番目なんだ?」
「私ですか?私は五女、末っ子です」
そう言うと上杉君は黙って何か考え込む。「どうしましたか?」と尋ねると「末っ子ぽくない。母親のようだ」と言われた。
精神年齢では既に二十歳を超えているので、その表現は当たっているとも言える。こういう人を見る目はあるくせに、どうして日頃のデリカシーはないのだろうか。
「そこは大人っぽいと言った方がスマートですよ。まぁ、母に似ていると言われるのは悪い気がしませんが」
私は教師を志すきっかけとなった人物。そして憧れの人。
(もう一人の憧れは目の前にいるけど)
彼の後ろを眺める。そこを見れば私が憧れた人が見える気がしたが、そんな怪現象はおきず壁掛け時計があるのみ。
「ん?あぁ、もうこんな時間か。早くしないと勉強の時間が無くなるな」
私の視線が時計にあると勘違いしたのか、荷物をまとめて席を立つ。
理由は違うが時間が惜しいのは違いない。家庭教師初日から遅刻した日には、ただでさえ悪いスタートが尚更悪くなる。
「えぇ、行きましょう。家まで案内します」
テーブルの上にある伝票を持って立ち上がる。喫茶店に寄って会計が1000円でお釣りがくるのは初めてかもしれない。
喫茶店から自宅までの間で姉妹の誰かに見つかって一波乱、なんてことは起きずに自宅前まで辿り着いた。
私にとっては見慣れたマンションだが、上杉君はそうではないようで首を上に向けて心底驚いた様子だ。
「ここかよ・・・・・・マジもんの金持ちなんだな」
「父が私たちのために用意してくれた場所です。私たちが凄いわけではないですよ」
鍵を使ってオートロックを開ける。ドキドキとワクワクの中間くらいの顔で周りを見渡す彼に、高校生くらいの年相応な一面を感じて少し笑ってしまった。
「この扉はオートロックなので、部屋に来るときは私たちの部屋番号を入力してください。私たちの部屋は―――」
扉の開け方、エレベーターと階段の位置まで教えてエレベーターに乗る。そこまで話すともう説明することもないため、エレベーター内で沈黙が流れる。
他より広いエレベーターといえど所詮はエレベーター。狭い閉鎖空間に二人で沈黙だと気まずさを感じる。
それは彼も同じようで、わざとらしく視線をそらして壁にある普段見ないような広告に目をやっていた。
いつもより遅く感じるエレベーターがようやく目的の階に着いた。開けた扉から入る空気が新鮮に感じて思わず深呼吸をしてしまう。
「なんで深呼吸してるんだよ」
「べ、別に他意はありません。ただこれから姉妹にどう説明しようかと考えてですね」
「頼むぜ。少なくともお前のところの次女に良いイメージを持たれてねぇんだから」
「それは上杉君の責任でしょ。まぁ恐らく問題は二乃だけではないでしょうが」
「あ?それはどういう―――」
ポーン
隣のもう一つのエレベーターが開く音が聞こえた。
中から四人の女子高生が出てきて、私たちの横を通った瞬間に全員が振り向いた。
「あれ?優等生くん。五月ちゃんと2人で何してるの?」
「いたー!こいつがストーカーよ!」
「えぇ、上杉さんストーカーだったんですか?」
「二乃、早とちりしすぎ」
「おい!五月、こいつら何とかしろ!」
「み、みんな落ち着いてください!」
マンション廊下に響く6人の叫び声。6年前の記憶と違うのは、立ち位置が5対1ではなく4対2で私が上杉君側にいるという点。
この時、私の脳内は急激な負荷でショート寸前となり、あり得ない一つの答えを導き出す。
(夢だ。きっとそのうち目が覚めて残りの旅行を楽しむんだ)
あり得ないと分かっていてもそう考えてしまう辺り、私の脳は今日までの負荷でおかしくなったみたい。
(とんでもない悪夢だなぁ・・・・・・)
今日はまだ続く。そう考えると頭の前方部が痛くなってきた。
ここまでの配分を間違えた為、今回は少し短めになりました。
ここまできてようやくリスタートですね。一花との出会いは最後に原作引用の台詞を言わせたいが為、やや強引な展開になってしまいました。
本当は風太郎と五月の小競り合いなんかを書きたいのですが、未来五月と過去風太郎の場合はどう言い合うのか、しっかりとイメージしないといけませんね。
原作では次も五月ターンですので、次回以降も鈍足で物語が進みそうです。
なるべく飽きが来ないように考えながら執筆進めていきますね。
※来月仕事が忙しくなりそうなので、更新予定日から数日遅れる場合があります
ご容赦ください
次回の更新予定は5月6日です。