「アッハァ!! ちんちくりんの提督が居るのは此処かァ!?」
司令室のドアを蹴破り、アビスは両側に天龍と龍田の首を抱き寄せながら意気揚々に突入した。
アビスの登場に、提督の周りに居た数人の艦娘たちは驚愕し、すぐに敵意を向け、構える。
「おっと、大人しくすることだなァ! 大事なお仲間が目に入ってないのかァ?」
「くっ、すまねぇ提督……!」
「不覚にもこの有様、申し訳ないわ……っ」
敵意を向けていた艦娘たちは、二人が人質にされていると理解すると動揺した。
その中でも赤城は小さく舌打ちして、奥歯を嚙み締めた。
「ハハハハハッ!! オレを捕らえた時は凛々しくも気高かったのに、今は悔しそうにしてるなァ、加賀ッ! そう、その表情が見たかったァ。というかオイ、そこのちんちくりん! こっち見ろや!!」
「……ごめん、今は相手してる暇ない。ちょっと、苦戦してて……」
「……はっ? オイ、こいつらがどうなってもいいのか?」
「大丈夫、貴方は傷つけない。絶対に」
提督の言葉に、アビスだけでなく周りの艦娘たちも驚愕する。なにを根拠に言っているのか、その自信はどこから来るのか。
はたまた、馬鹿にされているのか。アビスは奥歯を噛み締め、こっちを見ようともしない提督にそのまま歩み寄ろうとした。
しかし加賀と赤城の二人が提督を守る形で阻んだ。
「提督、さすがにその根拠のない言葉は目に余るわ。今この場に居るのは深海提督、もっと危機感を有するのよ!」
「うん、そうだね。でも、彼は大丈夫。私を、信じて」
「提督……!」
責任感の無い提督に、加賀たちが怒りを募らせる。その中で、アビス自身も理解できず苛立ちを募らせた。
「どいつもこいつも、オレをコケにしやがって……!! おいちんちくりん! オレはテメェに要求するもんがあんだよ! そんなにこいつらよりも戦況の方が大事なのかァ!?」
「……うん、この場で貴方をなんとかする方法はある。でも、戦場に向かっていった艦娘たちは今この状況の中で指示をしっかりしないと、もう会えなくなったりするかもしれない。……貴方も、“そうだった”」
「あァ? テメェ、なにを言って――」
瞬間、ズキンと脳に激痛が走る。その際に二人を拘束していた手が緩み反射的に離してしまう。
天龍と龍田はアビスの隙を突いて、同時に蹴りを入れた。その反動でアビスは吹っ飛び、背中に衝撃を弾ませた。
何かが記憶を駆け巡る。頭を押さえながらもふらふらと立ち上がり、仕掛けてくる加賀や赤城、大鳳たちの攻撃を避け続ける。
時には反撃をし、逃れ続けた。だがやがて頭痛も治まり始め、艦娘たちの攻撃を捌きながら提督の背後まで接近した。
複数人の攻撃をいとも容易く流したアビスの行動もそうだが、それよりも提督に近づけてしまったことに艦娘たちはどよめく。
だがその時にはすでに、提督の首にはアビスの腕が回されていた。だが回されていただけで、アビスは特に行動はしなかった。
「……テメェは目先の状況がなんとかなれば、オレの要求に応えてくれるのか?」
「うん、私の大事な“家族”が無事に帰れるなら、貴方の要求はなんだって聞くつもり」
「そうかよ」
脳裏によぎった記憶から、アビスの様子に変化が見えた。自分の要求を呑むなら、手助けをするつもりのようだ。
アビスはドローンから見える映像に目を通す。確かに、出撃している艦娘たちは深海棲艦相手に苦戦を強いられていた。
だがそれよりもアビスは深海棲艦に目を見張らせた。
「ありゃオレんとこの深海棲艦じゃねえな」
「わかるの……?」
「そもそも深海棲艦もテメェらの所で言う深海提督の指示が無ければ出撃することはできない制約になっている。いわば地下でテメェらにオレの可愛い部下どもが押し寄せるってのも単なるハッタリだァ。映像に映っている深海棲艦どもは陣形もしっかりしていることから、恐らくではあるが別の深海提督による指示があるはずだ」
「……どうすれば、退避できるのかがわからない」
「この状況から退避は難しいだろうがァ。だが安心しろ、見た限りでは奴らの陣形は少しだけ捻ればすぐにでも崩れる。前衛に走ってるこの艦娘を下げて、後衛で援護してる艦娘を前に出せ、それから――」
気付けばアビスは協力していた。地上の提督と、深海の提督。この二人の話し合いの中で、周りに居た艦娘たちは唖然とする。
深海提督であるアビスの放つ言葉を鵜吞みにするつもりなのかと問いただそうとするも、その指示が的確に合っているのか、戦況は劣勢から優勢に変わっていった。
「嘘……でしょ……?」
大鳳が小さく言葉を漏らした。優勢になったことで、気付けば敵戦力はほぼ壊滅に陥っていたからだ。
アビスはそんな周りの艦娘による反応を知らずして、哀れに崩れていった他所の深海棲艦を見て嘲笑っていた――。