書いていますが、アビスのセリフは普通に見えて
提督、そして艦娘たちからすると同じです。
『オレの名前はアビス』
『オレノナマエハアビス』←本来
司令室で即座に状況を読み取り、提督と的確な指示の出し合いをして戦況を大きく優勢へと変えたアビス。
無事に出撃した艦娘たちが生還したという事実に、提督含め警戒する艦娘たちは感謝せざるを得なかった。
だが事が終わった後でアビスは、なぜこんなにも協力的な行動をしたのか、意識してから不思議に思う。
何かが脳裏に過ぎり、フラッシュバックで蘇った知らない記憶の数々……。
不思議でありながら、気味が悪い。そう思いながらもアビスは、提督に最初に出した条件を呑むように促した。
ーーそして。
「うおああああああああああああッ!! ヲ級、元気にしてたかァ!?」
『ヲッ……ヲッ……! アビス、アビス……!』
「私たちは一体何を見せられているのでしょうか」
「……というよりも、このような光景が目の前で広がってる事実がありえないのだけれど」
「なのです……」
大勢の艦娘、そして提督に見守られながらも海岸でヲ級含め他の深海淒艦と再会を果たすアビスは涙を流しながらヲ級を抱きしめていた。
対するヲ級も一週間以上も不在だったアビスが無事だったことに歓喜しているのか、涙は無くとも嬉しそうに抱きついていた。
そんな光景を見せられている気味悪さを大鳳が口に出し、続けて加賀、そして出撃で無事に生還した電などが呟いた。
だがそれよりも異様なのは、深海淒艦がぞろぞろと目の前に居るのに、一切の敵意を感じないということだった。
「提督、あの野郎が言ってたこと本当だったんだな。指示が無い以上は勝手な行動はできないって言ってたし」
「うん、だからアビスを信用した」
「信用とはまた違う気がするけどな……」
混じり気も無く、繊細で透き通った気持ちのまま微笑む提督に、天龍は小さい溜息を吐いた。
「でも一つ、疑問に思う事があるわ。それはなぜ貴方たち深海のモノは私たちを襲うの? いえ、これはまた違うかしら。言葉を変えて、海を脅かす意味はなんなのかしら」
「あ? ンなもんオレだって知らねぇよ」
「「「「なっ……」」」」
「知らねえが、オレの中ではテメェらが図太く縄張りに侵入するからだと思ってる。だが実際のところ、オレもテメェらの抱く疑問の通り、争う必要性がわからねぇんだよ」
『アビス……』
「んっ、よしよし。だって言ってしまえば、互いに関与しなけりゃ争う必要性がどこにもないわけだろうが。けどオレ含め深海の提督に刻まれている記憶に、艦娘は悪であり、お前らがオレたちに向けるそれと同じように海の脅威者ってのがあんだよ」
ヲ級を優しく撫でながら、アビスは加賀の質問を一蹴した。
もちろん、その答えに周りの艦娘たちは驚きを隠せなかった。
対する提督も、同じだった。
「じゃあ、アビスは私たちと争うつもりは無いの?」
「深海の提督として成すべき事が定められているだけで、オレはわざわざ可愛いコイツらを危険な目に遭わせるつもりはねぇよ。ちなみに、オレたち深海の提督は記憶に刻まれている艦娘との争うことの定めに則り動いている。だが言ってしまえば、本能のままにってことだな。それ以外の感情、思考は無い。こうして自我はあるのに不思議なもんだよな」
「では、今此処で争うことをしないと誓い合えば私たちは貴方たちと対立しなくなるということも可能なんですか?」
「あぁ、不可能ではないな。だがそうした場合、オレに代わって他の深海淒艦、及びその司令塔である深海の提督どもが怪しんでこの海域に来る可能性があるだろうな。それにそこの第六駆逐艦のメスガキどもを襲った奴らはオレんとこのこいつらじゃないことからするに、もう海域に踏み込まれているわけだしな」
元々は横須賀鎮守府の付近にある海域は、アビスの支配下にあったようなもの。
だが監禁されてからこの一週間、アビスの行動が止まっていることを感じ取った別の海域を支配する深海淒艦及びその提督たちが縄張りの広大化を求め、押し寄せてきている。
そう説明するアビスに、結局争うことを有する事実は変わらないと感じ取る艦娘たち。
「オレは争うこと自体やめてやってもいい。めんどくさいし、互いに損しかないからな。だが結局のところオレ以外の奴らがここに集い、戦果を上げようとする。変わらない、そして終わらないんだよ……。オレとテメェらの関係はな」
「でも、アビスと争わないだけでもこの子達の負担は軽減される」
「あぁ、けどそれも一時だけだ。すぐに他の奴らが押し寄せて、元通りだ。まぁせいぜい、やられねぇように頑張ることだ。ーーじゃあな」
「ッ! ま、待って……!」
話すべきことは話したと、アビスは手をひらひらさせてヲ級の手を引いて海の中に戻って行こうとする。
だがそれを、提督は普段よりも少し大きめな声で引き留める。
珍しくも感情を表に出す提督に、艦娘たちは静かに驚愕する。
だがこの日、この瞬間。提督の口から発せられた一言で、これまでの互いの関係にあった常識が裏返ることとなる。
「ーー私たちを、助けてほしい」
「……あ?」