あなたはマインクラフターである。   作:トリ3世

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マインクラフター、ミミコとナナコに会う。

設定ガバは許してください。
追記: あとがきにある設定の最初の部分が載っていなかったので記入しなおしました。失礼しました。


3

 「ハァン」

 

 視界がぐるぐる回る。

 世界が揺れているようだ。

 自分が揺れているようだ。

 頭が揺れているようだ。

 

 地面へとくずれおちたあなたは、突如陥った空腹状態によるダメージと脱力感に苛まれていた。ムラビトが村人に変わってしまった衝撃。なぜ変わったのかという疑問に、思考を巡らせる余裕がない。

 あなたは空腹によって力尽きることがない。体力は減りつづけるが、あと少しというところで必ず持ちこたえられる。そういう身体なのだ。煩わしいのは、延々と体力の回復とダメージとが繰り返されること。空腹状態が解除されなければ、時間経過で回復した体力も削られる。

 そしてあなたが倒れたのは、事件があった木造平屋の前。あなたの周りにいるのは邪悪なムラビトども。敵にとってあなたはかっこうの餌食だろう。

 あなたは震える手でインベントリからリンゴを選択した。鉄の斧から持ち替えたリンゴをひとつ、シャクシャクと頬張ってひとまず空腹状態を解除し、なんとか手足を動かしつつ距離を取ろうともがく。

 しかしそれよりも早く、硬直から解放され動き出すものがいた。

 

「あ、ああああああっ!!」

 

その声は、最初に子供二体を犯人だと言って叫んでいたムラビトだった。地面に両手をついて身を起こそうとしていたあなたの背中を硬い衝撃がおそった。かはっと口から空気が押し出される感覚。あなたは再び倒れこんだ。

 

「バケモノ! バケモノ! 死ね! 死ねぇっ!」

 

ガン、ガン。衝撃は続く。棒のようなもので身体を叩かれている。あなたが体勢を立て直すよりも早く、強い力で何度も、何度も、何度も。攻撃されるたびに声が漏れ出る。這いつくばって逃れようと試みるあなたの頭が警鐘を鳴らす。一撃一撃のダメージは弱いが、あなたの体力はあとハートひとつ分に迫っている。

 

「死ね、死ね! 死ねぇ!」 

 

 視界は赤い。

 回復が間に合わない。

 身体を襲う硬い衝撃。

 減っていく体力。

 

 あなたは逃げようとするのをやめた。逃げようとするのをやめた。

 身体から一切の力を抜いた。地面へ身体をまかせた。ダメージを享受する。体力がつきるのを待った。あなたの思考はすでにリスポーン後の行動へと移っていた。

 リスポーンしたら、すぐにここへ戻ってこよう。ヤマノカズヒトらの家からベッドもといフトンを拝借したあとに、ちらばった経験値とアイテムの回収。一旦拠点にもどり、鉄装備をすべて揃えてバケツをつくる。それから水を拝借しに──強大なモンスターに気を取られてそれどころではなかったが、このムラには用水路も川もあった──ふたたびムラへやってくるのがベスト。最低でもバケツみっつ分確保できれば無限水源が作れるので、草からゲットした種で小麦畑をつくれば食料供給も安定する。

 

 あなたは逃げようとするのをやめた。

 あなたは生存を諦めた。

 あなたはちからつきた。

 白いドットとなって散った。

 その場にきみどり色のオーブが残された。アイテムが残された。鉄の剣、斧、ツルハシ、ハサミが。石製の道具、リンゴ、腐った肉が。原木、木材、丸石がその場に残された。

 恐怖と狂気、錯乱に満ちていたムラビトたちが残された。

 村人が残された。

 

 「ハァー」

 

 

 

 

 あなたはヤマノカズヒトらの家にあるフトンの上にリスポーンした。アイテムと経験値がデスポーン位置にすべて置き去りになっているので、インベントリはすっからかんだし経験値はゼロ。懐が寒い。ここはすでに敵地、いつヤマノカズヒトとニョウボウノミエコが戻ってくるか分からない。のんびりしていたらアイテムが消滅してしまう。なるべく早めにここを出なけれ、ば──

 

 身体に力が入らない。

 視界があか、い?

 

 はらがへっている。ちからがぬけていく。

 しかいがまわる。

 

 あなたはフトンに手をついた。どうしてだ、ちからつきる前の状態異常は、リスポーン後に継続されない。満腹かつ体力の満ちた状態で活動が再開できるはずなのに。ぐるぐるまわる視界とゆれる頭にひっしに耐える。空腹をいやす食料はもっていない。

 あなたはフトンだけでもと右手をかざす。本来なら一瞬でアイテム化できるはずなのに、いっこうにその気配がない。エイムはズレていない。なんど試みてもできない。…………埒があかない。あなたはいったん諦めた。アイテム回収を優先させることにしたのだ。

 足をふんばって家から出、ぐらぐらゆれる身体をなんとかもちあげながら通りをのろのろ進む。ムラビトに見つからぬようこっそりと平屋に近づいたあなたは、いまだその場にムラビトたちが残っているのを発見した。併設している小屋の裏へと座り込んで身をひそめる。たまに襲い来るめまいに耐えつつ、アイテムを回収できる機会をうかがう。

 奴らはあなたの落としたアイテムに視線を集めてなにやら騒いでいたが、やがて二体の大きなムラビトが黒髪と茶髪の子供たちを連れて離れていった。それを機に方方へ散っていき、ヤマノカズヒトもニョウボウノミエコも家へと戻っていった。

 最後に残ったのは三体のムラビト。あなたを殺したムラビト、平屋で蹲っていたムラビト、それに寄り添っていたムラビトだ。それらは動かず、それぞれにどこか一点を見つめて固まっていた。あなたとしては早く家に入るなり立ち去るなりしてほしいものだが……。様子を伺っていると、寄り添っていた方のムラビトがなにやらつぶやいて家の中に入っていった。その言葉を機に、残る二体ものろのろと追従する。

 静寂がおとずれた。

 周囲に視線を巡らせ、なんの姿も気配もないことを確認。あなたはできるだけ素早くアイテムと経験値を回収して、ふたたび物陰へと姿を隠した。インベントリからリンゴを選択してむさぼり、ふぅとひといき。空腹状態がなくなっただけでもかなり楽になった。気だるさが未だあなたの身体を支配しているが、ここに残るわけにもいかない。あなたはすぐさま拠点へと踵を返した。

 

 さて。太陽が真上を過ぎてしばらくしたころ、無事に拠点へ辿りつくことが出来た。疲労困憊、かつ、どういうわけか空腹になりやすくなってしまったあなたは、体力と食料の温存のため地道にあるいて帰還した。

 拠点のなかに入って、ようやく人心地。階段ブロックとトラップドアでつくった椅子に全身をあずける。

 もうなにもかんがえられない。さんざんな目にあった。つかれた。今日はもう、動きたくない。

 あなたは虚空をみつめて、そのまま無の時を過ごした。

 

 

 翌日。

 おひさまがおはようして天の頂きに昇った頃。活動できるほどに体力と気力をとりもどしたあなたは、鉄装備をそろえるためにブランチマイニングを試みようとした。

 ブランチマイニングとは名前の通り枝のように坑道を広げていく採掘テクニックのひとつである。Y座標11の高さで掘り進めるのがメジャー。本命はたくさんの鉄鉱石の採掘にあるが、最中にラピスラズリや金鉱石、ダイヤモンド鉱石を見つけられたら御の字、という感じである。

 

 昨日はベッドすらアイテム化できなかった。すこし緊張しながらツルハシを振るうと、無事にアイテム化することができた。あなたは意気揚々と──と言いたいところだが、気怠さがまだ尾をひいているので、小休憩を挟みながらのんびりブランチマイニングを進めることとした。

 道中で石炭や鉄鉱石を見つけたら積極的にゲットしていき、耐久が尽きていく石のツルハシをなんども持ち替えながらY座標11の高さにたどりついた。ブランチマイニングの拠点となる小部屋を作り、せっせと作業台やかまど、チェストをそろえていく。ブランチマイニングのハプニングは、つい夢中になり拠点への帰り道がわからなくなる迷子、ことごとく洞窟にぶちあたって採鉱どころじゃない徒労、砂や砂利ばかりで採鉱どころじゃない part 2、唐突に流れ出たマグマに当たって焼死などなど枚挙にいとまがない。あなたもそれを警戒していたのだが、どこを掘ってもそんな気配がなかった。作業が円滑にすすむのは歓迎するところなのだが、はなはだ不思議である。

 この世界はやはりあなたの知るマインクラフトのワールドとはかなり勝手が違う。そんな大規模なアップデートを聞いたことがないあなたは、ささやかな鬱憤を手元のツルハシへと乗せた。

 

 ブランチマイニングの結果。

 鉄鉱石がおよそ1. 5スタックほど溜まった段階でいったん打ち止めとした。その他に石炭およそ2スタック、丸石たくさん。おまけに砂と砂利と火打ち石。安山岩や花崗岩はインベントリを空けるために、不要な丸石とともに処分した。

 そして希少鉱石はレッドストーンダストが30個、金鉱石がふたつ、ダイヤモンドがみっつ、ラピスラズリがななつ。

 ちなみに鉱石の1スタックは64個だ。

 予備を含めた鉄の装備が揃い、ついでにダイヤモンドみっつでツルハシもクラフトできた。どれほどの時間掘っていたのかは分からないが、あなたが地上にもどると夜だった。ファントムがいつ出るかも分からないので足早に拠点へ戻る。あなたは翌日にムラへ行くこととした。

 

 おひさまのおはようと共に拠点を出発する。体力も満腹度も問題なし、身体の倦怠感もスッキリだ。

 今回の装備は以下の通り。鉄の剣とツルハシがふたつずつ。鉄防具一式、バケツよっつ、ハサミ。リンゴ、腐った肉。オークの原木、鉄インゴッド。ダイヤモンドのツルハシは貴重品なので拠点のチェストで眠っている。

 ちょくちょく道に迷いつつムラに辿りつくと、そこは以前よりもしんと静まりかえっていた。まだまだ日中なのにもかかわらず、ムラビトが誰も外に出ていない…………ベッドの回収は諦めたほうがよさそうだ。

 河から水を拝借した後、めぼしい植物がないか畑を物色。ジャガイモとニンジンとスイカを手に入れることができた! ジャガイモはおおきな収穫だ! 一度の収穫量が小麦よりもおおいので、食料供給の効率がいいのだ。これは大躍進である。

 …………それにしても、と。あなたは首を巡らす。

 空を飛ぶゾンビ、物陰でじっとしているゾンビ、同じ言葉を繰り返すゾンビ…………敵モンスターの数がなにやら増えている。姿が大きいものもいる。そして、あの強大な力を持つモンスターの気配もより広く、濃くなっている。

 不穏だ。いったい何があったのか。努めて視線を向けないようにしながら、目があってしまった場合は鉄の剣を一閃しながら、あなたはムラの様子を伺う。

 家のなかから姿を認められてしまっては元も子もないので、ムラと森の境界あたりを、ムラに沿って進む。あなたが向かっている方向には、あの強大なモンスターの住処がある。次第に重くなる気配。偵察だけでも、と考えていたが軽率だったかもしれない。

 あなたは方向転換をしようとしたところで、一体のムラビトがモンスターの住処からやや離れた小屋に入るのを目撃した。何かを手に持っている。興味を引かれて、小屋の壁にくっついて耳をそばだててみると、なにやらぼそぼそと話し声。ムラビトのほかに、誰かが居るようだ。

 ムラビトが足早に去っていくのを見送ったあなたは、扉から小屋の中をこそりと覗き込んだ。

 

「っ! だれ!?」

 

そこにいたのは二体の子供たち。あなたを殺したムラビトに糾弾され、二体のムラビトに連れていかれた。そしてなにやら強大なモンスターについて知っているようだった子供たちだ。ここにいたのか。

 あなたは小屋に立ち入り、木の柵でできた檻ごしに対面した。

 

「み、みみこ!」

「うん、ななこ。え、でもなんで……消えちゃったんじゃ」

 

それぞれのユーザ名は、黒髪のほうがミミコ、茶髪のほうがナナコというらしい。

 あなたは、自分は確かに一度死んだが、ふたたびこのムラに戻ってきたと伝えた。

 

「えっ、と? そ、そう……なんだ……」

「……ここになにしに来たの?」

 

聞いてきたのはナナコ。あなたの出方をうかがっている。あなたは少し考えて言った。

 特になにも。強いて言うならば、気になったから様子見に。

 

「……そうなんだ……」

 

 沈黙。

 

ミミコとナナコはあなたとどう接していいか、はかりかねているようだった。俯いて目をキョロキョロさせているし、元々くっついていたのが更にぎゅうぎゅうになっている。

 あなたは先ほどから口に出していないものの疑問に思っていることがあった。二体とも、どうやら木の檻に囲まれて出られなくなっているようなのである。あなたとしては、そっちこそ何故ここに居るのかと問いたいのだが、ぎゅるるるる……

 …………ぎゅるるる?

 あなたは首をぐいっと傾げた。目の前には顔を赤くしているミミコとナナコ。その視線の先は床に置かれた、おそらく食べ物。白い球体がふたつ、水の入ったコップもふたつ。これはヤマノカズヒトとニョウボウノミエコ宅で振る舞われたものからは幾分か少ないものの、食事で間違いないはずだ、多分……ゴハン、とか言ったか。

 

 これは食べ物か?あなたは尋ねた。

 二体はしょんもりしてうなずいた。

 空腹ならば自分のことは気にしないで食べてほしい。食べなければなにも活動できないのだから。あなたは自分のことは気にせず食事をとるよう勧めた。

 のろのろとゴハンに手を伸ばし、もそもそと口を動かす二体。それを横目にさてこれからどうするかと考えていると、ミミコがおずおず言った。ひとかたまりのゴハンを一部割ってあなたに差し出している。

 

「えっと、きみも食べる?」

「! な、ななこも!」

 

ふたつの手の中にあるゴハンのかけらを見、それからミミコとナナコの顔を見つめる。あなたは食料に余裕があるわけでもないが、同時に困っているわけでもない。それらは二体のために用意されたのだから断るべきなのだが……

 キラキラ光る色ちがいの、しかしよく似た瞳が二対。

 あなたを見つめている。

 あなたは断りきれず、ふたかけらの少し固くなったゴハンを受け取った。前にもこんなことがあったような……あなたなんともいえない気持ちに身を小さくしたのであった。

 

 

 改めてどうしてここに居るのかと疑問をぶつけてみると、ナナコが「あのあと、村の人たちにむりやり連れてこられたんだ」、ミミコが「それからずっと閉じ込められてるの」と口々に答えてくれた。緊張と警戒がほぐれたようで、先ほどとは打って変わって雰囲気も声色もやわらかい。

 なるほど。これは予想の範囲内だ。ひとつ頷いたあなたはもう一つ尋ねた。どうして甘んじて閉じ込められているのか。

 

「あま……?」

 

揃って同じ方向に首をかしげるので、あなたはもう一度噛み砕いて説明した。この程度の木の檻ならば簡単に壊せるだろうのに、どうしてそうしないのか。わざわざここにのこる理由でもあるのだろうか。

 ミミコとナナコは首を大きく横に振った。曰く、「こわせない……!」。

 今度はあなたが首をかしげた。いや、壊せるだろう、と。

 鉄の斧を手にもって檻にエイムを定めると、二体はサッと牢屋の奥へと遠ざかった。

 木の柵はやわらかい。たった三回ほど振っただけで、ひとつぶんの柵が取れてしまう。それを何度か繰り返すと、木の檻はその役目を果たさなくなった。

 ほら壊せた、満足げなあなたを、目も口もまあるく開いたミミコとナナコが凝視する。

 

「そんなかんたんに……!」

「わたしたちがやってもビクともしなかったのに!」

 

これで外に出られるだろう。二体は瞳を輝かせたが、しかしすぐにまた顔を下に向けてしまった。

 

「でも、みみこたち、わかんない……」

「もうどこにも行くとこ、ない……」

 

拠点がないということなのだろうか。まあ確かに、あの邪悪なムラビトたちのいるムラなど危険極まりない、ここを出るのが懸命だろう。

 

「そういえば、きみはかえるところがあるの?」

「お母さんもお父さんも、しんせきの人もいないって、やまののおじちゃんがいってたよね……」

 

あなたはこのムラからすこし離れた場所にひとりで住んでいる。今日もそこから走ってきたのだ。オカアサンもオトウサンも、シンセキノヒトも知らないが、ワールドを共有しているプレイヤーは居ない。

 ミミコとナナコは沈黙ののち目を見合わせ、声を揃えて言った。

 

「ね、ねえ。わたしたちも、いっしょに行っていい……?」

 

自分の拠点にくるということか。

 ムラビトと住処を共有するという発想はあなたにはなかった。一時的にベッドを借りることはあるが。虚をつかれたものの、あなたは特別ことわる理由をもたなかった。口をきゅっとむすんでいる二体に是と伝えようとした時、あなたの背後から物音がした──扉のひらく音。息を呑む音がみっつ。

 

「ヒッ」

「あっ……」

「あ、なたたち……!」

 

やってきたのは一体の邪悪なムラビト──あなたがこの小屋にくる前に、出入りしていたものだ。

 あなたは反射的に鉄の剣を選択してムラビトを斬りつけた。一瞬の躊躇いが負傷につながる。迷うことはなかった。ムラビトは低いうめき声と共に床へ伏した。赤い水のようなものがぱたた……したたり落ちて床を染める。またたく間の出来事に、ミミコとナナコは声すら出ない。

 

「ひっ、あ、あああ……なん……なんで、この子供が生きてるのぉっ!? ふ、双子も……!」

 

 あなたは木造平屋の前で大きなムラビトを村人にしたときとは異なる手応えにきょとんとした。別にそんなつもりがあったわけではないが、いったいなにが原因で結果が異なるのかあなたはよく分かっていなかった。

 這這の体であなたから逃れようとするムラビトへ向けて、今度は前回と同じ斧に持ち替えて振りかざしてみる。

 

「ひ、だ、だ、だれがあっ、だすけでぐぇッ」

 

 一閃。

 あなたの身体から力が抜けていく。力が抜けていく。

 異常な速度で満腹度がさがっている。

 異常な速度で体力が減っている。

 視界は赤い。

 世界がぐらぐら揺れている。

 

「ハァン」

 

ぐるぐる回る視界のはしで、村人となった元ムラビトが遠ざかっていく。あなたから逃げるような、速いスピードで。

 …………なるほど。

 目眩に襲われつつ、取り出したリンゴをむしゃむしゃ頬張りつつ、頭のどこかであなたは仮説を立てた。剣はダメージを与える。斧はムラビトを村人に変える。剣と斧の違いは、武器か否か。たしかに斧は剣より攻撃力が高く武器としても使えるが、木を切りとるところに本来の用途がある。どういう原理かは分からないが、モンスターを対象として想定されて作られた道具と、木材つまりアイテ厶やブロックを対象として想定されて作られた道具の違いがここに現れているのだろう。

 このシステムについては、まだまだ更なる検証が必要だ。…………身体が重い。

 

「……あの人、どうなっちゃったの……?」

 

ふるえた声でナナコがつぶやいた。あなたに分かることは、あの邪悪なムラビトが無害な村人へと変化したという事実だけだ。

 

「じゃあく、むがい……?」

 

そうだ。あなたたちを攻撃する悪いムラビトから、攻撃しない村人になった。

 そこまで伝えると、ミミコとナナコは「そっか」とぽつり零して座りこんだ。

 

「あ、あの人。みみこたちのご飯をおいて、ちょっとしたらお皿とりにきてた」

「いつもイヤなことばっかりいってきて、キライ」

「だから……」

 

 そっか。よかった。きみがきたからだね。ちょっとホッとした。

 あなたは肩の力を抜いた二体へ近づいて、それぞれのボロボロな手をにぎった。あなたを見上げる二対の色違いな、しかしそっくりな瞳に向かって言う。

 自分と一緒に来るならば、はやくここを出よう。邪悪なムラビトが追いかけてくるまえに。

 

 

 

 

「きみの名前はなんていうの? ななこはななこで、」

「わたしみみこ!」

 

──あなたに名前はない。あなたはただのマインクラフターである。

 

「クラヒトくんっていうんだ!」

「あの、よ、よろしくね!」

 

だから、“クラヒト”とは一体なんなのか。

 

 

∵ 

 

 

 ■■県■■市、標高数百メートルの山中に位置する旧■■村にて。

 およそ一カ月前から呪霊によるものと思われる神隠し・変死が発生。行方不明者は四名、内一名が変死体として後日発見。先述した変死者を含め、死者は五人──否、最新の報告によれば数日前に変死者が一人増加、計六人にのぼる。

 事件勃発当初は現地の住人が内々に処理、解決の依頼により一連の事件が遅れて発覚。

 

「私は車を置いてきます。夏油君は……」

「先に現場へ向かいます。さっさと終わらせましょう」

 

 等級は一級程度と推定。

 担当者として高専3年 夏油傑の派遣を決定する。

 

 

 




あなた
世界の名前:呪術廻戦
デフォルトゲームモード:サバイバル
難易度:ノーマル

生得術式:マインクラフト
生得領域:マインクラフトのワールド
天与呪縛:膨大な呪力を得る代わりに術式の常時発動が強いられます!

 あなたは物語冒頭においてただの幼児でしたが、術式の覚醒・使用と同時にマインクラフターとしての身体能力を手に入れました! マインクラフターとしての自意識が強く、覚醒してからは冒頭のように身体に傷を負ったり癇癪を起こしたり涙を流したりすることが不可能になりました。

 あなたの術式は、現実世界にマインクラフトのアイテムを構築したり、現実世界を侵食したりします。構築術式に似ていて、膨大な呪力を必要とします。その呪力は天与呪縛によって増幅され、継続した術式の発動を可能にしています。
 
 呪力が枯渇した場合、あなたは空腹状態に陥り、体力が削れてゆきます。回復するためには、マインクラフト世界の食料を摂取して空腹状態を解除しなければなりません。呪力がもどるまでは、一切の構築・侵食ができません。回復には一定の時間を要します。

 あくまでもマインクラフトの能力は身体に刻まれた術式です。あなたは16×16のドットではなく、ムラビトたち同様の身体を持っています。現実世界のものは身に着けたり使用したり食べたりすることができます。マインフラフトの世界に存在するものであれば、ドットに変換することも可能です!


 一度ドットに変換したものは、もとに戻すことができません! 
 人間の変換には膨大な呪力が必要です! 注意してください!
 村人になってしまったムラビトは、村人のまま活動を続行します。

 あなたの術式は日常生活上のハンデや行動制限があります。
 あなたの倫理観や常識は現実世界に適用されません! 情報をアップデートしてください!
 あなたは死にません! 死んでしまった場合は、リスポーン位置にリスポーンします。
 あなたは死ぬことができません! あなたはさながら、呪力で動く呪力人形です。

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