本当は一話で終わらせたかったんですけど、毎度の如く話が長くなってしまう病になってしまいました。
今回こそは終わらせて、次に考えている話に持っていきたいですね。
食堂にてアウセンザイターの作ってくれた絶品ハンバーガーを堪能した面々は、偶然にも居合わせていたシンボリルドルフとエアグルーヴの提案によって、次に生徒会室を見学することに。
本人達に案内されることで迷うことなく生徒会室へと辿り着いた彼女達は、生徒会長直々の歓迎を受ける事に。
「ようこそ。ここがトレセン学園の生徒会室だ」
「「「おぉ~…」」」
「今日も綺麗にしてあるね~」
普段からあんまり生徒会室に行く機会など無いユニコーンドリルとツインターボは真新しく驚き、初めて訪れたパーンサロイドは二人以上に目をキラキラさせて感激していた。
一方、シンボリルドルフに懐いているテイオーは割と頻繁に訪れているので、特にこれといった驚きは無いようだ。
「といっても、どこまで目立つようなものは無いな。自分で誘っておきながら、アレだが……」
「そんなことありません! 私にとって、ここに来れたこと自体に感動してますから!」
「そ…そう…なのか?」
「いや、こちらに振られても困るんですが」
生徒会メンバーからしたら、この部屋は第二の自室と言っても過言じゃない程に居座っているので、パーンサロイドのような反応は本当に新鮮だった。
「よくよく考えると、生徒会室って職員室と同じぐらいに来る機会が無い場所ですよね」
「言われてみればそうかも。でも、ターボはよく職員室に行くよ?」
「それは、先生に怒られているからでしょう? 今度の定期テスト…大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ! 問題無い!」
「「「「「それはフラグ」」」」」
この場にいる全員が同じツッコミをした。
エアグルーヴやシンボリルドルフがこのネタを知っている事は驚きだが。
「いや~…前に私がいた学校の生徒会室とは雲泥の差だなぁ~……ん?」
キョロキョロと室内を見渡していると、ふと本棚に収まっている幾つものノートを見つけた。
一番古いものは、完全に色褪せている程に使い込まれている。
「なんですか? このノート…もしかして、帳簿の類とか?」
「残念ながら違うよ。これは……」
自慢げにノートを取って後輩たちに見せつける。
その後ろではエアグルーヴが痛そうに頭を抱えていた。
「この私がずっと温め続けているネタ帳だ。中等部の頃に学園に入った時からずっと書き溜めてるんだ」
「会長……」
ノートには150と書かれていて、取った場所にはまだ左右にノートが置かれていた。
少なくとも、200近くはネタ帳がある計算になる。
「折角だし、この前にふと思いついた渾身のネタを披露して……」
「お…お前達! もう十分に見学出来ただろうっ!? よし、もう行って良いぞ!」
「え…えっと…?」
転入生に変なイメージを吹き込まない内に、彼女達の背中を押して生徒会室から追い出す。
傍から見るとアレだが、これはエアグルーヴなりの善意だった。
「なんだ…聞いて行かないのか? 今回のは、かなり自信があったんだがな……」
「私になら幾らでも聞かせてくれて構いませんから…何も知らない転入生に妙な事を言おうとしないでください……」
「え~…」
『女帝』エアグルーヴ。
またの名を『トレセン学園の縁の下の力持ち』。
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生徒会室を出た四人がやって来たのは図書室。
その理由は『生徒会室から一番近い場所にあるから』。
「ここは図書室。まぁ…詳しい説明とかはいらないと思うけど、一応ね」
「はい。けど、トレセン学園程の学校にもなると、図書室も凄いんですね~。見渡す限り本だらけですよ~」
ここには娯楽の為の本もあれば、レースの為の専門書のような本もあり、中には勉強の為の参考書まである。
しかも、その蔵書量が半端じゃないから侮れない。
「テスト前とかになると、よくここで勉強会とかやってるんだよね」
「実際、やってる人もいるみたいですよ? ほらそこ」
「あ、ホントだ~」
ユニコーンが視線を向けると、そこには設置されているテーブルに座って勉強をしている三人のウマ娘の姿が。
「あれは…ウララちゃんですね。そういえば、今度クラスで小テストがあるって言ってたっけ……」
「一緒にいるのって、パスチャーキングとスーパークリーク?」
「ターボ…図書室は苦手だなぁ~…本なんて読んでたら眠くなっちゃう」
「「だろうね……」」
寧ろ、ターボがここで熱心に本を読んでいる姿が想像出来ない。
もし仮にそんな事が起きたならば、すぐに彼女を保健室に強制連行するだろう。
「えっと~…ここはこう…で、合ってるんだよね?」
「Yes! そこまで分かれば、後はもうAll rightネ?」
「うん!」
「偉いわね~ウララちゃんは。いい子、いい子」
「えへへ~…♡」
完全に姉二人に可愛がられている妹の絵になっている。
もしくは、母二人に可愛がられている娘か?
「『嵐を呼ぶカウガール』パスチャーキングさんに、『癒しの聖母』スーパークリークさん…どっちも超有名なウマ娘だ……。あのウララって呼ばれてる子は一体……」
図書室であると分かっているからか、流石にここでは大声を出さないパーンサロイド。
逆を言えば、ここが外ならば間違いなく大騒ぎをしていた。
「あの子はハルウララちゃんって言って、僕と同じチームSRWのメンバーなんです」
「ユニコーンさんと同じチーム…? って事は、あの子も凄いウマ娘なんですか…!?」
「まぁね。まだ本格的なデビューはしてないけど、着実に実力は伸ばしてる。今現在、学園内で最も成長を期待されてるウマ娘の一人なんだよ」
「そうなんだ……」
あの子も自分の先輩になるんだと思うと、急に気が引き締まる。
将来有望だと言われているのならば、絶対に失礼のないようにしなくては!
その気持ちが変に空回りしなければよいのだが。
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「本当は全部の教室を案内してあげたいけど、一日じゃ絶対に無理だから……」
「これから絶対に使う機会が多い場所を紹介していくね。という訳で……」
テイオーが扉を開けると、そこにはよく磨かれた板張りの床に、正面には鏡張りの壁がある。
それを見た途端、パーンサロイドは一瞬でここが何をする部屋なのか理解した。
「ここはレッスン場。文字通り、ウィニングライブに備えてダンスの練習とかをする場所だよ」
「始めて見ました……よくアイドルのドキュメントとかで見た事はありますけど……」
選ばれしウマ娘しか入ってはいけないような、不思議な神聖さが漂っているような気がする…少なくともパーンサロイドには。
ダンスなんて、小学生の時のフォークダンスしか経験が無い彼女にとって、ここはまさしく未知の場所だった。
「どうやら、ここにも先客がいるみたいだね」
「あれって…オペラオーだよな? さっきから鏡の前で変なポーズをして、何やってるんだ?」
先に来ていたのは、ジャージ姿のテイエムオペラオー。
ウマ娘としての実力は間違いなく超一流なのだが、真面目なのか不真面目なのかよく分からない節が多々あるので、ユニコーンたちを含む数多くのウマ娘達も距離感の取り方をよく分かっていない。
彼女と普通に会話が出来るのは、今のところはアウセンザイターとハルウララ、それからパスチャーキングとタイキシャトルぐらいだ。
それ以外では会話にすらならない可能性がある。
「あれが…『世紀末覇王』とまで呼ばれているテイエムオペラオーさん…。なんか、さっきから凄いウマ娘ばかりに会ってる気が……」
思わず背筋が伸びてしまったパーンサロイドの視線の先では、彼女達に全く気が付かないまま、鏡に夢中になっているオペラオーが。
「あぁ……なんて美しいんだ…ボク…! どんなポーズをしても様になるなんて…これでは、日常生活でも道行く皆を魅了してしまうじゃないか……」
「「「「…………」」」」
ユニコーン、テイオー、ターボ。
この時初めて三人の心は一つとなって、顔を見合わせてから無言で頷き、静かに扉を閉めた。
今の彼女達ならば、三つの心を一つにする事で本領を発揮する変幻自在のロボットすらも乗りこなせるかもしれない。
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廊下を歩きながら、オペラオーに捕まらなかった事に安堵している三人と転入生。
「別に悪い人じゃないんですけど……」
「ナルシストすぎるんだよね~……。あれで、学内でもトップクラスの実力者ってのが納得いかない……」
「オペラオーの奴…前にターボに変な服を着させようとしたから苦手~…」
「あはは……」
まるでレース後のような疲労感を見せている三人に苦笑いしか出来ないパーンサロイド。
いずれ、彼女もオペラオーの厄介さを身を持って体験する事だろう。
「今度はどこに行こうか~? プールにトレーニングルーム…それからえっと~…」
「こうして考えると、トレセン学園の施設って本当に沢山ありますよね~…」
テイオーとユニコーンがうんうんと唸っていると、前から非常に見慣れた二人組が歩いてきた。
「お? テイオーにユニコーン? ターボまで一緒か。また珍しい組み合わせだな」
「トレーナー!」
やって来たのは、テイオーが所属するチームスピカのトレーナーである沖野と、彼と仲がいいチームリギルのトレーナーである東条ハナ。
こちらとは違って、向こうは比較的ポピュラーな組み合わせだ。
「一緒にいるのは…見慣れない子ね。もしかして、たづなちゃんが話してた転入生かしら?」
「は…はい! 初めまして! パーンサロイドと申します!」
「俺は沖野。チームスピカのトレーナーをしてる。で、こっちが……」
「東条ハナよ。チームリギルのトレーナーをしてるわ。よろしく」
「よろしくお願いします!」
思い切り腰を曲げてからの挨拶だが、そんな光景は慣れっこなので特に何か言う事は無い。
それよりも二人が気になっているのは、パーンサロイドの身体の事だった。
「ふぅ~ん…?」
「成る程ね……」
「ふぇ?」
なにやらトレーナー二人からジロジロと身体を見られて、なにがなんだか分からずに目を何度も瞬きさせる。
ユニコーンやテイオーは、二人が何をしているのか知っているので、敢えて流した。
「中々に引き締まった足に、しなやかな筋肉……」
「立ち姿も悪くないわね。体幹がしっかりしている証拠だわ」
「あ…ありがとうございます?」
褒められたと思い、一応の礼を言う事に。
彼女が困惑していると、窓の向こうから誰かの叫び声が聞こえてきた。
「もっと声を出せ! いくぞ!」
いきなりなんだと思い、全員が窓を開けてから覗いてみると、声は中庭から聞こえてきたのが分かった。
「スカーレット! 腋が甘いぞ! ウオッカ! 足を踏ん張って腰を入れろ!」
「「はい! 先輩!!」」
中庭では、フウウンサイキが後輩たちに武道を指導していた。
指導といっても、まずは基礎的な事からやっているようだが。
「今日も張り切ってるわね。フウウンサイキの青空教室は」
「あいつが三冠を取って以降、今までずっと尊敬はしていたが近寄れずにいた後輩のウマ娘達が一気に押し寄せてきたからな」
「その中に、あなたの所のダイワスカーレットとウオッカもいるようだけど?」
「あいつ等の場合は別だよ。一緒にレースを走ったせいか、完全にフウウンサイキを目標にしてやがるからな。それと同じぐらいに尊敬もしてるから、そりゃ真っ先に駆けつけるのは当然だろうよ。って……なんか、約一名だけ似つかわしくない奴がいるような……」
沖野が目を細めて注視すると、それが誰なのか分かった。
「…アグネスタキオン…あいつが一緒になって特訓とか…明日は雪でも降るのか?」
「何気に失礼な事を言うわね……気持ちは分かるけど」
それだけ、タキオンのイメージが固定している証拠だった。
「あれが…フウウンサイキさん……」
自分が最も憧れているウマ娘が、目と鼻の先にいる。
パーンサロイドの感動が一瞬で限界突破し、言葉すら出なくなった。
「実は、僕も前に一回だけお願いしてアレをやらせて貰った事があるんですよね…」
「どうだった?」
「滅茶苦茶ハード。ぶっちゃけ、普段のトレーニングが天国に感じるレベル」
「カッコいい……!」
その時の事を思い出して冷や汗を掻くユニコーンに少しだけ同情するテイオー。
横ではターボが特訓をしている皆を純粋なキラキラした目で見ていた。
「よし! ここで小休止だ! ちゃんと水分を取っておけよ!」
「「「「「はい!」」」」」
全員が予め持ってきておいたタオルで汗を拭き、水筒に入っているお茶を飲んで喉を潤す。
ウオッカとスカーレットは当然のように休憩中もフウウンサイキの傍にいるが。
「トレーニング以外でここまで体を動かしたのって初めてかも……」
「オレもだ。けど、なんかすっげぇ楽しい!」
「そう言って貰えると、こっちもやった甲斐があるというものだ。しかし、タキオンも参加すると言い出した時は驚いたぞ」
「これまで散々と言ってきた筈だよ? 私もまた『限界の先』を目指しているのだと。一足先に『向こう側』に辿り着いた君と一緒にいたいと思うのは当然の事だろう?」
「ふっ…そういえばそうだったな」
「いつの日か必ず、私も『そっち側』に行って見せよう」
「その日を楽しみに待っているぞ。お前ならば必ずや明鏡止水に目覚める事が出来るさ」
会話自体は何気ないものだったが、ウオッカとスカーレットはあるワンフレーズを聞き逃さなかった。
「今…タキオンさん…一緒にいたいって言わなかった…?」
「言った…確かに言った……」
「これって…」
「もしかして……」
「「告白ッ!?」」
「「違うよ?」」
本人達は否定しているが、周りはそれで盛り上がってしまった。
この瞬間、トレセン学園に新たなカップリングが誕生した。
今までは『サイキ×マックイーン』だったが、『サイキ×タキオン』が成立したことで、禁断の三角関係に発展……。
「「しないから」」
そりゃまた残念。
「完全に青春してやがるな~…」
「別にいいんじゃない? ああして体を鍛える事は決してマイナスにはならないわよ。フウウンサイキがそれを証明してるんだし」
「確かにな。んで、さっきからずっとフウウンサイキばかりを見ている転入生はどうしたんだ?」
今までずっと興奮しまくりだったパーンサロイドであったが、一番会いたかったウマ娘であるフウウンサイキをすぐ近くで見て完全に固まっている。
「この子、フウウンサイキが三冠を取ったレースを直で見てるらしいんだよ」
「ってことは、あのレース場にいたのか? 成る程なぁ~…」
スペシャルウィークがサイレンススズカのレースを見て憧れを抱いたように、パーンサロイドはフウウンサイキのレースを見て強い憧れを抱いたのだ。
ならば、トレーナーとして出来る事は一つしかない。
「それじゃあ、今度あるって言うチームSRWの入部テストを受けてみたらどうだ?」
「入部テスト…ですか?」
「あぁ。フウウンサイキが三冠を取った直後から、チームSRWに入りたいって奴らが殺到してるらしくてな。流石に全員を入れる訳にはいかないから、リギルみたいにテストをする…んだよな?」
「寺田さんはそう言ってましたね。といっても、実際に入れるのは一人から二人が限界だと思いますけど……」
「入部テスト……私が……」
転入早々にやって来た転機。
このチャンスは絶対に掴みたい。
「ま、今日はまだ初日だし、一晩かけてゆっくりと考えればいいさ」
「そうね。今後の自分に関わる事だもの。焦って答えを出す必要はないと思うわ」
「そーゆーこった。んじゃ、俺達はそろそろ行くわ」
「それじゃあね」
大人なアドバイスをするだけして、トレーナーコンビは去っていった。
「入部テスト……そういや、スピカってそれらしいことをまだ一度もやってないよね~。スペちゃんの時も殆ど誘拐に近かったし」
「誘拐って……」
「ターボたちのチームに入ればいいんだよ!」
「「はいはい」」
三人がショートコントをしている間も、パーンサロイドは考えていた。
いや、実際にはもう答えは出ていた。
(やるっきゃない…よね…!)
こうして、新たな世代の風が吹き始めた。
【フウウンサイキのヒミツ】
実は、テイエムオペラオーがルームメイトで、彼女の勧めで割と頻繁に薔薇風呂に入っている。