そのかわり、入部テストの話は頑張りたいと思います。
一通り学園を見廻っていたら外は完全に夕方になっていて、誰も彼もが練習や活動などを終えて自分達の寮へと戻ろうとしていた。
「あ…もうこんな時間か~」
「誰かと一緒にいると、不思議と時間って早く感じますよね」
「仲のいい友達と遊んでると、あっという間に時間は過ぎていくってタンホイザも言ってた!」
「あぁ…マチカネタンホイザさんね」
ポジティブなのかネガティブなのか、よく分からない先輩の事を思い出しつつ、ぞろぞろと帰路につくウマ娘達を眺めていた。
「そういえば、パーンサロイドってどっちの寮に入る事になってるの?」
「一応、美浦寮って言われてるんですけど……」
「けど?」
「まだ、部屋の場所を教えて貰ってないし、鍵も渡して貰ってないんですよね…」
「「たづなさん……」」
「ダメダメだな~」
トレセン学園には大まかに分けて二つの寮が存在している。
『栗東寮』と『美浦寮』の二つで、基本的に同じチーム同士のウマ娘達が入寮しているのだが、例外としてチームSRWのメンバーは両方の寮に別れて住んでいた。
フウウンサイキとユニコーンドリル、ハルウララは栗東寮。
アウセンザイターとパスチャーキングが美浦寮に入っている。
「このまま放置は可哀想だし、一緒にたづなさんを探しに行ってあげようか?」
「困った時はお互い様、ですしね」
「ターボもさんせ~!」
「決まりだね。ってことだから、校舎の中を捜索してみよう?」
「テイオーさん…ユニコーンさん…ターボさん……」
頼れる先輩達の優しい言葉に、思わずパーンサロイドは両目からの滝涙ジョー。
夕日が反射してキラキラしている。
「パーンサロイドさ~ん!!」
「「「あ」」」
噂をすればなんとやら。
探しに行こうと話していた矢先に、向こうの方からやって来てくれた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。申し訳ありませんでした…寮の部屋を渡すのを忘れてました……」
「そ…そんなに焦らなくても大丈夫ですよ?」
「うぅ……こっちのミスなのに慰められた……くすん」
本人としては彼女のことを思って掛けた言葉だったが、却って大人の尊厳を傷つけてしまったようだ。
「と…とにかく、これがパーンサロイドさんの部屋の鍵になります。部屋番号は鍵についているキーホルダーに書かれてますから」
「ありがとうございます」
「それと、ここの寮は基本的に相部屋で、パーンサロイドさんが住む予定となっている部屋にはもう既にルームメイトとなる子が入っているんです。仲良くしてあげてくださいね?」
「勿論です。寧ろ、仲良くなれるか心配なのはこっちの方というか……」
元気があっても、初めての場所で不安に思ってしまうのもまた事実。
こればかりは仕方がない事なのかもしれない。
「それでは、私はこれで失礼します。本当にすみませんでした」
申し訳なさそうにしながら、たづなは校舎の中へと戻っていった。
あの様子だと、まだ溜まった仕事とやらは終わっていないようだ。
「…一件落着…なのかな?」
「なんじゃないんですか? 始まる前に終わったような気もするけど」
「終わりよければ全てよし! …って、前にゴルシが言ってた」
「「あいつは全く……」」
言ってる事は尤もだが、他にも余計な事を教えてないか不安になる。
ターボの場合は、それこそなんでも信じて覚えそうだから怖い。
「疲れちゃったし、ボク達も戻ろ?」
「ですね」
「パーンはターボと一緒の寮だから、途中まで一緒だな!」
「はい。道案内よろしくお願いします」
「任された!」
「「大丈夫かな……」」
自信満々なターボに一抹の不安を覚えるテイオーとユニコーンだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「んじゃ、ターボはこっちだから! また明日な!」
「はい。また明日」
割り当てられた部屋の前まで来て、ターボと別れる事に。
一人になったパーンサロイドは、目の前にある扉を見て立ち竦んでしまう。
(生まれて初めての寮生活…ちゃんと出来るのかな…? というか、それ以前にルームメイトの人に迷惑を掛けないようにしないと! 出来れば仲良くなりたい!)
緊張を解す為に何回か深呼吸をした後に、意を決してドアに向かってノックをする。
「どなたですか?」
「あ…あの! 私、今日トレセン学園に転入して来て、このお部屋でお世話になる予定でして……」
「あぁ~! お話ならば伺っています! どうぞ、遠慮なく入って来て下さい!」
「し…失礼します!」
許可が出たので、意を決して扉を開ける。
人生初のルームメイトとなるウマ娘は一体誰なのか?
「ようこそいらっしゃいました! 初めまして! 私の名前は……」
「サ…サクラバクシンオーさんっ!? スプリンターステークスや高松宮記念、果てはマイルチャンピオンシップと言ったレースを圧倒的な速さで逃げ切り、『神速のスプリンター』とまで呼ばれていた、日本最強の短距離特化型ウマ娘のサクラバクシンオーさんですかっ!?」
「おぉ~! まだ自己紹介の際中なのに、私よりも早く私の事を紹介してくれるとは! 中々のバクシン具合ですね!」
「あ…ありがとうございます!」
ルームメイトは、まさかのサクラバクシンオー。
トレセン学園ではいい意味でも悪い意味でも有名なウマ娘だ。
本人には微塵も悪気が無いので、怒るに怒れないのが難点である。
「わ…私はパーンサロイドといいます! これから、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします! まずはゆっくりとしてください。転入したてで疲れたでしょう?」
「ありがとうございます」
事あるごとに叫んでばかりだと思われがちな彼女であるが、実は気遣いもちゃんと出来る子だったりする。
伊達や酔狂で学級委員長はやってない。
扉を閉めてから中に入ると、バクシンオーが使っていると思われるベッドの反対側に未使用のベッドが置いてある。
そこが今日からパーンサロイドが寝るベッドなのだろう。
ベッドの傍には、実家から届けられた彼女の私物や服などが入っている段ボールがあった。
「もしかして、いつの間にか運び込まれていた謎の段ボールは、パーンさんの物ですか?」
「多分そうですね。えっと……」
「荷解きのお手伝いをしましょう! 委員長ですので!」
「助かります」
段ボールは幾つもあったので、二人で手分けして取り掛かる事に。
「これには何が入ってるのかな~…っと。あ! ハニちゃん!」
「ハニちゃん?」
パーンが段ボールの中から出したのは、結構な大きさのハニワ型の抱き枕。
デフォルメされたデザインなので、妙な愛嬌がある。
「私愛用の抱き枕なんです。これが無いと眠れなくて~」
「成る程…そういえば、こちらの段ボールにはハニワ型の目覚まし時計もありますね」
「実は、うちの実家の近くって沢山のハニワやら土器やらが発掘されてる場所なんですよ。町長さんがそれを利用して町おこしをしようとした結果……」
「数多くの古代系グッズが出来たわけですね。それとは別に車の模型とかもあるようですが……」
「実家が車の整備工場をやってて、お父さん自身もプロレーサーしてるんです。その影響なのか、いつの間にか私もそーゆーのが好きになってて……」
「なんと! パーンさんはご家族揃ってバクシンなのですか! それは素晴らしいです!!」
感動の余り、パーンの手をガシッと摑むバクシンオー。
もしかしたら、この二人は出会うべくして出会ったのかもしれない。
「んん? これは…トロフィー?」
「え? そんなの入れた覚えないけど…もしかして、お母さんがこっそりと入れたのかな?」
「どれどれ……えぇっ!? これはッ!?」
トロフィーをよーく観察していたバクシンオーは、思わずいつも以上の大声を出してしまった。
寮の部屋が防音加工されていなければ、確実に隣から文句を言われていただろう。
「これ…マジですか?」
「マジですよー。あ、こんなのも入れてたっけ」
驚きの余りバクシンオーは言葉を失い、震える手でそっとトロフィーを床に置く。
鼻歌を歌いながら荷物を出していくパーンの背中を見て、彼女は歴戦のウマ娘として一つだけ確信してる事があった。
(これはもしかして……とんでもない天才がやって来たのでは…?)
足元に置かれているトロフィーには、こんな事が書かれてあった。
【世界ゴーカート大会 全年齢の部 優勝】
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
全ての荷解きを終えて、やっと落ち着けたパーン。
ベッドの上に置かれている、ハニワ型抱き枕こと『ハニちゃん』を抱きしめながらリラックスしていた。
「はぁ~…やっぱ、ハニちゃんがあると落ち着くな~」
机の上にはスーパーカーの模型や車の資料集が置いてあり、ベッドの傍にはハニワ型目覚まし時計が。
何気にシャーペンのノック部分にもハニワがあった。
「ところで、もうパーンさんはどこのチームに入るのか決めたんですか?」
「はい。チームSRWに入ろうと思ってます」
「成る程、成る程。確かに、フウウンサイキさんが五人目の三冠ウマ娘となった事で、あそこに入りたいと思っている子達が沢山いますからね。納得です」
「沖野さんってトレーナーさんからも聞きましたけど、そんなに凄いんですか?」
「そうですね。前にチームリーダーであるアウセンザイターさんが四人目の三冠ウマ娘となった時も相当に凄くて、あの時も確か同じように入部テストを行ったんですよ。で、それに見事合格したのがユニコーンドリルさんなんです」
「ユニコーンさんが……。合格者はたった一人だったんですか?」
「みたいですね。噂では、専属トレーナーである寺田さんのお眼鏡にかなったのがユニコーンさんだけだったとか、なんとか」
「き…厳しい方なんですね……」
パーンの中には、グラサンを掛けて竹刀を持ったジャージ姿の無精ひげを生やした強面のトレーナー像が思い浮かんだ。
「ところが、その素性や正体は全くの不明で、学園内でも姿を見た人はごく少数らしいですよ」
「えぇっ!?」
「一応、他のトレーナーさん達やチームに所属している方々とはよく会っているそうなのですが、誰も詳しく話そうとはしてくれないんですよね。秋川理事長が直接会ってスカウトしたらしいですが…真相は闇の中なんです。委員長として是非とも解明したいところなのですが、私一人では難しく……」
拳を握りしめてグググ…と悔しがるバクシンオー。
どこまで本気なのか分らないのが恐ろしい。
「なので! もしもパーンさんが入部テストに合格をして寺田トレーナーに会う事が出来た暁には、どうか私にも彼の事を教えてください! 私…気になります!」
「どこかで聞いたことがあるようなセリフですけど…分かりました。もしも本当に会えたら…ですけど。その前に合格しないとですけどね」
「大丈夫ですとも! パーンさんなら絶対に合格間違いナシです!」
「バクシンオーさんにそう言われると、自信が付いちゃうな……ハハハ……」
数多くのレースで実績を残してきたバクシンオーにそう言われて、パーンは恥ずかしそうに頬を掻く。
まだ何も始まってもいないのに、そこまで期待をされては、嫌でも気合が入ってしまう。
「そうと決まれば、まずは腹ごしらえです! 食堂に行って夕食を食べましょう!」
「喜んでお供させて頂きます!」
唯でさえ元気が有り余っているバクシンオーに、同じくらいに元気なパーンが一緒の部屋になった事で、賑やかな美浦寮が更に騒がしくなったのは言うまでもない。
【ユニコーンドリルのヒミツ】
実は、親友であるブルちゃん(ブルホーン)が経営している農場から、よく新鮮な牛乳を送って貰ってバストアップしようと頑張っているが、結果として健康になって骨が丈夫になっただけだった。