彼女が言っていた『マグネットパワー走法』とは一体?
遂に始まった入部テスト。
賑やかだった会場は途端に静まり返り、やって来ている他チームのトレーナー達には何故か解説席のような場所が急遽、設けられた。
「なんか、変に注目を浴びてるんだけど…」
「そりゃあ、こんな席に座らせられたらね」
「解説ってよりは、まるで面接官のような感じですけど」
そして、毎度の如くゴルシはいつの間にか用意しておいた弁当を販売し始める。
「お弁当~いかがっすか~。お茶やお菓子もありますよ~」
いつもの事だから気にしてはいけない。
というか、もう誰も何もツッコもうとしない。
それどころか、普通に買おうとしていた。
「こっちに一つくだサーイ!」
「あいよー、エルコンドルパサー。お茶もいるか?」
「貰いマス!」
一体いつの来たのかは不明だが、エルコンドルパサーがゴルシから弁当を購入したのを皮切りに、次々と色んなウマ娘達が買い始める。
「あれ…いいのかしら?」
「誰も何も言わないから、いいんじゃないんですかね……多分」
「悲しい事に、アレの売り上げって地味にうちのチームの維持費に使ってるんだよな……」
沖野トレーナー、まさかのゴルシに助けられる。
実はこれが、彼が彼女に頭が上がらない理由の一端だったりする。
「それよりも、重要なのはテストの方よ。丁度いい機会だから、こっちに引き抜けそうなウマ娘でも探そうかしら」
「相変わらず強かだよ…おハナさんは」
そうこうしている内に、最初のテストレースが始まろうとしていた。
スタートの合図を出すのはパスチャーキングで、スタート地点にて白い旗を持って待機している。
「では、これより入部テストをStartシマース! ミナサン…Are you ready?」
「「「「「はい!」」」」」
「いいお返事ネ! それじゃあ、First runnerの子達は順番に並んでネ!」
全員が真剣な面持ちでスタートラインに立つ。
先程の寺田トレーナーの言葉で気は楽になったが、それはそれ、これはこれ。
レースという名目である以上、勝ちたいと思うのは当然の事だった。
パスチャーが旗を上げると、それに合わせて構えを取る。
「位置について……Lady…」
数瞬の後、勢いよく旗が振り下ろされる!
「GO!!」
合図と共に、最初の走者12人が一斉にスタートする!
「ふ~ん…悪くないわね。けど……」
「なんだろう…無意識の内に気負い過ぎてるような気が……」
「だな。まるで、初めて会った頃のスペを思い出すよ」
「えっ!? 私ってそんな風に思われてたんですかッ!?」
近くでゴルシ印の弁当(現在48個目)を食べていたスペが激しく反応した。
彼女の頬に付いたご飯粒をスズカが取ってパクリと食べる。
「あ…ゴールした」
「向こうで見てる寺田さんもこれといった反応してませんね」
「別に悪くは無かったが、かといって目立つものも無かったな」
トレーナー達三人も寺田と似たり寄ったりの反応。
それはチームSRWのメンバーも同様だった。
「ふむ……」
「磨けば光る…とは思うが……」
「みんな…なんだか焦ってるみたいだったね~」
「ウララちゃんの言葉は真理を突いてますねー」
そう呟いている間に、第二陣がスタートラインに並んでいる。
その中には一番の注目株であるパーンサロイドも混ざっていた。
「遂に来たな……」
「ゴーカート世界王者の実力…見せて貰うわよ」
「彼女…笑ってますね。不敵な笑みって感じじゃなくて、心から楽しそうに」
パーンサロイドの番号は24番。
つまり、一番端の方にいる事になるが、明らかに他のウマ娘達とは表情が違う。
並んでいるウマ娘達は、一体彼女のどこにそんな余裕があるのか分らないようで、隣り合っている者などは困惑しているようだった。
「次、行くわヨ! Lady……GO!!」
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スタートと同時に、全員が団子状に固まって走っていく。
全員が自分の適性なんて考えないままに、少しでも前に行くために足を動かしている中、たった一人…パーンサロイドだけ冷静に状況を判断していた。
(何をそんなに焦っているのかな~。こんなんじゃ、すぐに差が開いちゃうって分からないのかな? 現にほら、隣で走ってる子なんて早くも僅かではあるけど減速し始めてるじゃん)
パーンサロイドの指摘通り、変化はすぐに訪れた。
スタミナを持つ中~長距離が得意なウマ娘達は安定した走りで速度を落とさずに済んでいるが、余りスタミナに自信が無い短距離やマイルが得意なウマ娘達はハッキリと遅くなり始める。
その結果、僅か数秒の間に先頭集団と後方集団に分かれてしまう事に。
(やっぱりね。こうなると思ったよ。自分の
そんなパーンサロイドはというと、先頭集団のど真ん中にて前を防がれるような形で走っていた。
相当なパワーが無ければ、この防壁から抜け出すのは難しいが……。
(早くもレースは中盤に入る。なら、そろそろ仕掛け所かな~…?)
緊張を楽しみ、レースを楽しむ心をこの歳で既に知っている彼女は、レース中でも極めて冷静沈着に頭の中をフル回転させて状況判断が出来た。
この才能は、天才科学者と呼ばれている彼女の祖父の頭脳を継承している形になる。
(前に行きすぎちゃ逆に警戒されるし…かといって、後ろ過ぎたらギリギリで足りないかもしれない。となると、狙うはあの人で…仕掛けるタイミングはあそこか……)
第一コーナーを曲がり、先頭集団の中で一気に順位の変動が起きる。
その瞬間、パーンサロイドは目を大きく見開き、口を開けて歯をカチン! と噛み合わせた!
(今だ! マグネットパワー……オン!!)
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「なっ…!?」
「あれは……!」
まず最初に気が付いたのは、沖野と東条だった。
二人は思わず立ち上がり、先頭集団に注目し始める。
「ど…どうしたんですか?」
「あの子が…動いた…!」
「それって、パーンサロイドって子ですか?」
「あぁ…!」
南坂も一緒に立って先頭集団の方を見る。
そこで初めて『変化』に気が付いた。
「くっついている……?」
「そうだ。二番手にいる奴の付近にピッタリとくっついて絶対に離れようとしないんだ。まるで『磁石』のように」
「走り方から察するに『先行型』であるのは間違いようだけど、彼女の場合はかなり特殊な先行型ね」
「レース中における『追従』って行為は、そう簡単に出来るもんじゃない。それこそ、相手以上のスピードとスタミナ、追い抜く時に備えたパワーが必須になる。それを迷わず仕掛けたって事は……」
「彼女は自信があるって事なんでしょうね。自分のスピードとスタミナとパワーに」
突かず離れず…なんて次元ではない。
完全に同じ距離を常に保って走り続けている。
それは最初のカーブを越え、ストレートを走っている時も全く一緒。
「いつでも仕掛けられる位置に自分を置きつつも、同時に周りを牽制してプレッシャーを与えている。『その気になれば、いつでも追い抜ける』とアピールしてるんだ…!」
「これに関しては嘘でも本当でも関係ない。重要なのは『そう思わせる事』にあるのだから」
「無言の駆け引きをすることにより、他の子達を焦燥させてスタミナを消費させるのが目的なのか……」
南坂の言った事は的を得ていたようで、実際に先頭を走っていたウマ娘が少しでも引き離そうと速度を上げ、それに合わせるようにして二番目を走っているウマ娘を初めとする面々もスピードを上げ始める。
だが、ちょっとやそっとのスピードアップでパーンサロイドは引き離す事は叶わず、逆に彼女にチャンスを与えてしまう結果となった。
「テストであっても関係ない。全力で走って、全力で楽しむ。それがパーンサロイドってウマ娘なんだな……」
沖野の呟きと同時に、先頭集団が最終コーナーに入り、レースが一気に動いた。
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(凄い! 凄い! 凄い! これが自分の足でレースをするって感覚なんだ! 成る程な……大きなレースで大活躍してるウマ娘の皆が夢中になる気持ちが言葉じゃなくて心で理解出来る! こんなの、ゴーカートじゃ絶対に味わえない! 仮に不合格でも全然後悔なんてない! このテストを受けられただけでも、このトレセン学園に来た価値は十分にあるよ! だけど……)
最終コーナーに差し掛かろうとした時、パーンサロイドの全身に力が漲り、その笑みが力強いものへと変化した。
(やるからにはやっぱり勝ちたいよねぇっ!!)
このコーナーで勝負を決める!
パーンサロイドはコーナーに入った瞬間、これまで溜めこんでいたパワーが一気に解放されたかのように爆発的に速度が上がり、まるでカミソリのような鋭さでコーナーを曲がっていった。
(磁石ってのは引っ付くだけじゃなくて……)
最後の直線に入ると、そこから急激に差が大きく広がる。
その伸びは衰える事は無く、ゴールに向かって速度は更に上がって行く。
(『反発』もするんだよ! これが私のマグネットパワーだ!!)
これまでは所謂『引き合い』の状態。
相手と自分を異なる極として見立てて、引き寄せあって徹底的にマークをしつつ好位置をキープし続けつつ体力を温存、ゴール付近になると、これまでとは逆に同じ極として見立てて反発し、これまでに温存したスタミナを一気に解放して最高速度まで引き上げてスパートを掛ける。
パーンサロイドがゴーカート選手時代に使っていた最も得意とする戦法で、試しにレースで使ってみたら見事にマッチングしてくれた。
(このまま一気に突き放す!! ゴールまで一直線だ!!)
徐々にゴールが近づいていくる。
因みに、パスチャーがどこで手に入れたのか、チェッカーフラッグを持ってニコニコ笑顔でパタパタと振っている。
ゴールイン直前、パーンサロイドは満面の笑みで両手を広げていた。
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第二レースが終了し、寺田はある一人のウマ娘の事を考えていた。
(今のレースは、最初のとは明らかに違っていたな…。一人だけ、桁違いに眩しい子がいた。24番…確か名前は…『パーンサロイド』。つい昨日来た転入生で、貰った資料によると、あの歳で元ゴーカートのプロ選手で、世界大会での優勝経験もある…か。道理で、プレッシャーにも全く飲まれず、自分のペースでレースが展開出来たわけだ)
手元にある端末で録画したさっきのレースの様子をもう一回見直しながら、時には一時停止をして映像を拡大する。
(レースの運び方。スタミナ配分。駆け引き。そして、あの特殊な戦法…全てが他の子達とは完全に一線を画している。恐らく、これはゴーカート選手時代の戦法をやったんだろう。だが、これが通用するのは今回のような相手達だけ。少なくとも、スピカやリギル、うちのメンバーには効かない。それは彼女自身も分かっている筈だ。それでも、あの子はレースを全力で楽しんだ…)
スローで映像を見ながら、パーンサロイドの動きを細かく確認していく。
(これでまだレース初心者とは恐れ入るよ。彼女のこれからの課題は、レースに向けての身体作りと、あの戦法の改良…だろうね)
そこで初めて気が付く。
自分が彼女のトレーニングメニューを考えている事を。
(はは……僕もまだまだだな。他の子達には申し訳ないが、合格者は決まってしまったようだ)
端末のスイッチを切って立ち上がる。
背伸びをしながら空を見上げた。
(ウララがまだ誰にも発見されていない未知の原石ならば、パーンサロイドは発見はされているが誰にも研磨されていない原石だ。これから先、彼女はどんな風に磨かれていくのか、今から楽しみだ)
こうして、チームSRWの二回目にして、パーンサロイドの初めてのレースでもあった入部テストは幕を閉じた。
【アウセンザイターのヒミツ】
以前、ウィニングライブでうまぴょい伝説を全力ノリノリで歌ったらシンボリルドルフを初めとした友人達に本気でドン引きされて、それを地味に気にしている。