我ながら、よくもまぁ…これだけのキャラを振り絞ったもんです。
ダブルアールが全速力で練習場へと向かうと、そこでは彼女にとって驚きの光景が広がっていた。
「な…なんじゃこりゃぁっ!?」
自分のチームメイトたちと他のウマ娘達が交流しながら一緒に練習を行っていたのだ。
まさか、これが入部テストだというのか?
そんな訳は無いと思いつつも、確かめずにはいられなかったダブルアールは、一番近くにいたチームメイトであるパスチャーキングに話しかける事に。
「おいパスチャー! こいつは一体どういうこったっ!? 入部テストをやってるんじゃねぇのかッ!?」
「ワオッ!? ダブルアールッ!? いつの間にCampusに戻って来てたんデスかっ!?」
「ついさっきだよ! それよりも、これはどうなってるんだっ!? ちゃんと説明しろ!」
「その役目は私に任せて貰おうか」
「「!!?」」
これまた突然に近づいて来ていたのは、リーダーのアウセンザイター。
ダブルアールが心から尊敬している数少ないウマ娘の一人だ。
「アウセンザイターの姉御! お久し振りっス!」
「うむ。まずはお帰りと言わせて貰おう、ダブルアール」
まるで子供の用にダブルアールの耳が激しくピョコピョコと動きまくる。
完全に彼女が喜んでいる証拠だ。
「あっ! ダブルアール先輩っ!?」
「アールちゃんだ~!」
「帰って来ていたのか」
彼女の声を聞きつけて、他のメンバーも集まってくる。
ダブルアールからしたら馴染みの仲間達だ。
「ユニコーンにウララ! それにフウウンサイキか! お前らも元気そうじゃねぇか!」
さっきまで怪訝な顔になっていた彼女の顔が一気に明るくなる。
やっと、いつものダブルアールに戻ってくれた感じだ。
「で、これって一体どうなってるんスか?」
「それはだな……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…という訳だ」
「成る程。ついさっきテストは終わっちまって、今は不合格になっちまった連中のアフターケアの真っ最中…と」
「納得してくれたか?」
「うす! そういうことなら何も文句は無いっス! けど、テストをするならせめて、オレが戻ってくるのも待ってからしてほしかったッス」
頬を大きく膨らませてから不貞腐れるダブルアール。
良くも悪くも自分の感情を真っ直ぐに表現するウマ娘だ。
「それに関しては悪かったと思っている。だが、いつお前が帰ってくるか分からない以上、それは難しくてな……」
「え? オレ、ちゃんと寺田のオッサンにメールで今日の昼過ぎ頃に戻るって伝えてる筈なんスけど……」
「「「「へ?」」」」
思わず全員が揃って寺田のいた場所に目を向けるが、何かを感じ取ったのか、彼の姿はいつの間にかいなくなっていた。
「トレーナーがいなくなってる……」
「あのヤロー…! オレ様の姿を見つけて、そそくさと姿を暗ましやがったな! 今度会ったら容赦しねぇ…!」
両拳の骨をボキボキと鳴らしながら怒りを露わにするダブルアール。
他のウマ娘達ならばいざ知らず、もうすっかり慣れてしまったチームメイトに皆にとっては分かっていた。
彼女は本気で怒ってはいない。もし仮にどこかで会っても、精々が文句を言うだけで終わるだろう。
喧嘩っ早いと思われがちではあるが、実際に手を出した事なんてただの一回もありはしない。
「まぁいい…それよりも!」
パスチャーの肩を掴んでから、ニカッと満面の笑みを零す。
「この前の日本ダービー、テレビで見てたぜ! また一段と実力をつけやがったな! やるじゃねぇかパスチャー!」
「Thank youネ! けど、まだまだミーは速くなってみせるネ!」
「ったりめぇだ! じゃねぇと、このオレ様とは渡り合えねぇぜ!」
喧嘩を売っているようにも見えるが、実際には友人のレース優勝を純粋に祝福していた。
同時に、自分自身の実力にも絶対の自信があるので、こんな事が言えるのだ。
「そして…フウウンサイキ」
「ん? 今度は私か?」
彼女の場合は肩ではなくて、その両手を包み込むようにして優しく握りしめた。
「秋華賞優勝と三冠制覇おめでとうなぁ~…! 本当にすごがっだ…マジで感動しちまったよぉ~!」
「そ…そうか。ありがとう…」
派手に号泣しながら本気で喜んでいた。
ダブルアールにとって、フウウンサイキは大切な友人であると同時にライバルでもある。
競い合う時が全力ならば、喜ぶ時もまた全力なのだ。
「ぐす……情けねぇ話だけどよ…お前のレースをテレビ中継で見てて…優勝した瞬間によぉ…今以上に大泣きしちまった……ヘヘ……」
「ふっ…恥じる事はあるまい。友への祝福の涙は何よりも価値がある」
「姉御……どもッス…」
アウセンザイターからティッシュを借りてから鼻をかむ。
勿論、後でちゃんと持ち帰ってから捨てる。
「ユニコーン、お前はどうよ? 自慢の『突き』に磨きを掛けてんのか?」
「当然です。僕だって、トゥインクルで勝ちたいですから」
「良い目をするようになったじゃねぇか…! どうやら、やっとお前の『野生』ってのを見れた気がするぜ」
絵に描いたような優等生のユニコーンと、絵に描いたような不良のダブルアールであるが、この二人はかなり仲がいい。
まるで本当の姉妹のようなので、初見の人は本当に勘違いをしてしまうほど。
そして、それは彼女も同じだった。
「ウララ! 少しは速くなったか?」
「うん! いっぱいトレーニングしてるから、アールちゃんにも負けないぞ~!」
「言うようになったじゃねぇか! なんなら、今度試しに模擬レースでもしてみるか?」
「やるやる~! 今から楽しみだな~!」
乱暴に頭をグリグリと撫でているが、されている方のウララはそれを完全に楽しんでいる。
実は、入学当初からずっとウララの事を目に掛けていて、一番の仲良しと言っても過言じゃなかった。
「んでよ。今回の合格者ってはどいつなんだ? いるんだろ?」
「勿論だとも。パーンサロイド! こっちに来てくれ!」
「は…はい! って…えぇっ!?」
アウセンザイターに呼ばれて来たパーンサロイドは、毎度のように目を丸くして驚きまくった。
「こ…この方はまさか…あの…!」
「おう! お前が新しいチームメイトか! オレは……」
「ダブルアールさんっ!? 誰もが苦手とする筈のダートを最も得意とし、しかも長距離からの逃げという前代未聞の走法を見せてくれた、あのダブルアールさんですかッ!? 特に、雨降る中の有馬記念…コースのコンディションは史上最悪とまで言われていた状態だったにも関わらず、そんな事なんて知るかと言わんばかりの全力疾走を見せつけてくれて、見る者全てを感動の渦に包みこんだ…あのダブルアールさんっ!? この方もチームSRWの一員だったんですかぁっ!?」
「お…おう……長々と説明ありがとよ……これからよろしくな…」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
流石のダブルアールもドン引き。
完全にナレーションの仕事を奪ってしまった。ちくせう。
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・・
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急にやって来たダブルアールによって、一段と賑やかになった練習場。
彼女に注目したのはチームメイトたちだけではなかった。
「帰って来たのね、ダブルアール」
「これで、チームSRW全員集合だな」
「彼女は現時点で『長距離』の『ダート』で『逃げ』の組み合わせを持つ唯一無二のウマ娘ですからね。ウララちゃんとは真逆ですから…完全に隙が無くなりましたね…」
学園が賑やかになるのはいいが、他のチームの戦力が大きく増強される…というか、元に戻るのは微妙な気分だった。
それは、トレーナー達だけでなく、他のウマ娘達も同様だった。
「なんだか皆、騒いでるけど…あの人、有名なんですか?」
「そっか。スペちゃんが転入してきた時にはもう、ダブルアールさんは休学してたものね」
「知らないのも無理はありませんわね」
「えっと…?」
自分以外は全員が彼女の事を知っていた。
それ程までに凄いウマ娘なのだろうかと小首を傾げた。
「ダブルアールさん…本人はダートを最も得意と自称していますけど、実際には芝のコースでも十分過ぎるほどの実力を発揮してますわ」
「けど、あの人が凄いのはそれだけじゃない」
あのテイオーすらも真剣な表情でダブルアールの事を見ている。
彼女ほどのウマ娘にそんな顔をさせる程なのかと思ってしまう。
「前に一回…スズカ先輩はダブルアール先輩に負けた事があるんです」
「スズカさんが…負けた…?」
スカーレットの言った言葉にスペは思わず固まってしまう。
勝負事である以上、必ず誰かが勝って、誰かが負けるのは当然の事だ。
そんな事はスペだってよく理解している。
けれど、自分の尊敬しているスズカを負かした人物がいるということが俄かには信じられなかった。
「あの時の事は今でも覚えているわ…。僅かな差で負けたのならば、まだいい…。けど、あの時の私はあの人の影すら踏めなかった……!」
「スズカさん……」
「だから、次こそは絶対に勝つと決めてるの。あれ以来、あの人と同じレースには出た事無いけど、もし次があった時は必ず…!」
リベンジに燃えるスズカなんて始めて見たので、スペにはなんだか彼女が別人のようにも見えた。
以前に、スズカがフウウンサイキやパスチャーキングの事を激しくライバル視している事は教えられていたが、それ以上の感情を向けている相手がいるとは思わなかった。
「悔しいけど、ダブルアール先輩って会長を初めとする『三冠ウマ娘』の人達とほぼ互角の実力を持ってるんだよね……」
「生徒会長たちと…互角…!?」
「随分と前に実家のご用事で休学していたのですけど、ここにああしているという事は、それを終えて戻ってきた…と見るべきなのでしょうね」
これで、チームSRWは全戦力が揃った事になる。
それは同時に、学内でもトップクラスのチームに戻った事と同義だった。
「ここから見るに、体は鈍っていないようですわね…」
「ダブルアール先輩…いつ見ても凄い迫力だぜ……!」
マックイーンがダブルアールの事を観察している横で、彼女の事を昔から尊敬しているウオッカが冷や汗を掻きながら見つめていた。
どうも、彼女は憧れている人物が多すぎるような気がする。
「…ちょっと行ってくる」
「ス…スズカさんっ!?」
意を決したのか、スズカが徐にダブルアールのいる場所へと歩いて行った。
それを追いかけてスペも後ろに続く。
「ダブルアール先輩」
「なんだ…って、スズカか。どうした?」
なにやら只ならぬ雰囲気に、傍にいた皆は空気を呼んで少し離れる事に。
だが、スペだけは離れようとはしなかった。
「次は絶対に勝ちます」
「ふぅ~ん……いいねぇ…いいじゃねぇか。それだよ、それ。オレが見たかったのは、お前のその目だ」
強く睨み付けてくるスズカの目を、負けじとダブルアールも睨み返す。
傍にいたスペには確かに見えた。二人の間に激しい火花が散っているのが。
「余計な御託なんざいらねぇ。ただ勝ちたい。戦う理由なんざそれだけで十分なんだよ。野生の獣のように、貪欲に勝利だけを求める姿勢。前のお前にはそれが無かった。そりゃそうだよな。あの頃のお前は勝つことが当たり前になりかけてたんだからよ」
「私のそんな傲慢を粉々に壊したのが貴女…。だからこそ気が付けた。ウマ娘にとって最も大切で重要な事に」
あの人に勝ちたい。
そう思っているのは、なにもスペやテイオー、マックイーンだけではない。
スズカも同じだったのだ。彼女もまた、自分達と同じ『挑戦者』だったのだ。
そんな当たり前の事に、今初めて思い至った。
「今のお前となら、最高に楽しいレースが出来そうだな。一応、実家の方でも体は動かしてたけど、それでもちゃんとトレーニングはしとかないといけないから。お前と走るのは、まだ少し掛かっちまうかもだが…それでもいいか?」
「勿論。万全で全力の先輩と戦って、勝ちたいから」
「上等だ。首洗って待ってろ」
「その台詞、そのままお返しします」
ニコっと笑ってから、二人は軽く拳をコツンとぶつけて再戦を誓う。
そんなスズカを始めて見たスペは、言葉に出来ないムズムズとした気持ちを胸に感じていた。
【ダブルアールのヒミツ】
実は、クレーンゲームが凄く得意で、前に実家の近所にあるゲームセンターでぬいぐるみを取りまくった結果、出禁になったことがある。
彼女の寮の部屋には、その時に取ったぬいぐるみが飾られている。