我ら! チームSRW!   作:とんこつラーメン

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今回でようやく、ダブルアールを主軸とする話は取り敢えずの終わりを迎えます。

彼女のレース回になると、再び主役になるかもですが、一応は今回までです。




壁は乗り越える為にある

 ダブルアール達が食堂に入ると、そこは案の定と言うべきか、席が大勢のウマ娘達で賑わっていた。

 そこには当然、彼女もいる訳で。

 

「アウセンザイター! 大盛りチャーハンおかわりだ!」

「少し待っているといい、我が友オグリキャップよ! 行くぞトロンベ!!」

 

 だが、今日は彼女だけでなく、他のウマ娘達も一緒に手伝っていた。

 どうやら、流石にアウセンザイターにばかり負担を掛けさせては…という事のようだ。

 

「あいよ! ふわとろオムライスお待ち!」

「ありがとうございます! ヒシアマゾン先輩!」

「お待ちどうさま。君が注文した味噌ラーメンだよ。ポニーちゃん」

「はぅぅ…フジキセキ先輩に食事を持って来て貰えるなんて…なんて幸運なの…」

 

 アウセンザイターの手伝いをしているのは、栗東寮の寮長をしているフジキセキと、美浦寮の寮長をしているヒシアマゾンの二人。

 どちらとも、アウセンザイターとは友人でありライバルでもある間柄。

 

「済まないな、我が友達よ。後で君達に最高の賄いを用意すると約束しよう」

「おぉ~!」

「その言葉だけで、やる気が漲ってくるよ」

 

 この二人も、他のウマ娘達の例に漏れず、アウセンザイターの料理の大ファンだった。

 空腹時にそんな話を聞かされれば、『絶好調』になるのは必然というもの。

 

「うわぁ……予想はしてたけどよ、こいつはスゲェな……」

「ですねぇ~…どこか席、空いてるかな……」

「…いや、なんか大丈夫っぽい」

「「へ?」」

 

 食堂の賑わいっぷりにげんなりしているダブルアールとタンホイザであったが、ネイチャの一言で変な声を上げる。

 彼女が呆れながら指差す方向には、既に全員の分の席を確保して注文しているスペがいた。

 その顔は今までで一番輝いていて、ある意味ではレースの時以上に生き生きとしている。

 

「行動早っ!」

「食べ物の事になると、スペちゃんって凄い能力を発揮するよね…」

「時々さ…思っちゃうんだよね。レース直前までお腹空かせておいてさ、スペちゃんの目の前にニンジンとかぶら下げとけば、どんなレースでも勝てるんじゃないかって…」

「それはアレだな。試合には勝てるが勝負には負けてるな」

 

 ネイチャの適当妄想をさらっと流しつつ、三人はスペが確保してくれた席まで行くことに。

 

「あ! みなさん! 遅いですよ~!」

「いや…お前が勝手に一人で入って行ったんじゃねぇか……」

「そうでしたっけ?」

「…ある意味、マジで感心するわ」

 

 スペの隠された一面に内心で驚きながら、彼女の隣に皆で座る事に。

 その間にも、次々と注文が入っていく。

 

「おっす。アウセンザイターの姉御。今日も繁盛してるッスね」

「おぉ…ダブルアールか。それに…一緒にいるのはナイスネイチャとマチカネタンホイザ。それにスペシャルウィークまで。これまた奇妙な組み合わせだな」

「「「あはは……」」」

 

 『実はダブルアールを尾行してました』とは言えない三人は、揃って後頭部を掻きながら愛想笑いしか出来なかった。

 

「まぁいい。それよりも、君達は何にする? なんでも好きなものを注文するといい」

「マジっすかっ!? そんじゃあ、オレは久し振りに姉御のグラスパが食いたいぜ!」

「私はマーボーカレーにします」

「こっちはボルシチお願いします」

「グラスパにマーボーカレー、ボルシチだな。任された!」

 

 これまでにも数多くの注文を受けているにも関わらず、全く疲れる様子も無く厨房へと戻っていくアウセンザイター。

 そのスタミナには感心するばかりである。

 

「先輩、グラスパってなんですか?」

「姉御が作ったオリジナルメニューだよ。トロトロのグラタンの中に、茹でたてモチモチのスパゲティーが入ってるんだ。めっちゃくちゃ美味いぞ!」

「アウセンザイター先輩のオリジナル……」

「そっちを頼めばよかったかも……」

 

 ちょっぴり後悔するネイチャとタンホイザの隣で、スペが思い切り愕然としていた。

 

「ど…どうした?」

「そ…そんな隠しメニューがあったなんて…知らなかった……」

「そこまで落ち込む事か?」

「落ち込む事です……」

 

 チーン…という効果音が聞こえてきそうな程に落ち込むスペ。

 同時に、二杯目は絶対にグラスパを食べようと決意する。

 

「因みに、オグリはグラスパの事を知ってるぞ。ほれ」

「うそぉっ!?」

 

 ダブルアールが指さす場所では、オグリキャップが満足そうに超大盛りのグラスパを食べていた。

 口の周りには溶けたチーズが付きまくっているが、本人は全く気にしていない。

 

「姉御の料理なんて久し振りだな~。マジで楽しみだぜ」

 

 まるで子供のようなニコニコ笑顔のダブルアール。

 いつものバリバリな感じの彼女からは想像も出来ない顔だった。

 

「…で、どうしてスペはオレに付き纏ってたんだ?」

「うぐ…それは……」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「オレの事が知りたい…ねぇ……」

「は…はい…」

 

 ダブルアールの迫力に負けて、簡単に白状してしまった。

 決して悪い人物ではないと分かっていても、上級生と言うだけで多少なりの苦手意識は持ってしまうものだ。

 

「スペちゃんはスズカさんにすっごく憧れてて……」

「そのスズカさんに勝った先輩の事がどうにしても気になっちゃうんですよ」

「ふ~ん…あのスズカにねぇ……」

 

 アイツももう、そんな風な相手が出来るようになったのか。

 らしくも無い感慨に耽けながら頬杖を付いた。

 

「…スペは、スズカの奴が『先の景色』しか見てなかったのは知ってるか?」

「えっと…それとなくは」

 

 幾らスズカに強い憧れを抱いているとはいえ、詳しくは知らない。

 だからこそ知りたいのだ。自分の知らないスズカを知っている彼女が。

 

「スズカは強かった。いや…強すぎたって言うべきか」

「強すぎた…?」

「そうだ。少なくとも、あの頃のアイツの同期ではもう、スズカに勝てるウマ娘は一人もいなかった。けど…それが拙かった」

「ど…どうしてですか? 強いのはいい事なんじゃ……」

「普通ならな。けど、アイツの場合は違った」

 

 いつの間にかネイチャが注いでくれていたお冷を飲みながら、当時の事を思い出しながら静かに語り出す。

 

「何回も何回も勝ち続けていく内に、あいつはやがて…周りを全く見ないようになった。要は、チーム内は愚か、学園内でも孤立していってたのさ」

「孤立って……」

「しかも質の悪い事に、スズカ自身もそれを受け入れてしまっていた。もう自分に敵はいない。なら後は、どれだけ自分を極められるか…それがあいつと初めて会った時に言ってた言葉だ」

 

 お冷を飲み干して、お替りを注ぐ。

 それにも口を付けながら、何かを悔いるかのように眉をひそめた。

 

「ストイック…なんて言葉じゃ足りないぐらいにヤバかった。アイツは只管に走る事しか、より速くなる事しか考えていなかった。自分の力に酔って周りを見下すとかの方がまだマシだったな。なんせ、アイツの場合は見下す以前の問題でな。あの頃のスズカにとって、周りのウマ娘達は路傍の石ころも同然だったに違いない。道端に落ちている石を見下したりしないし、対抗心なんて抱く筈も無い。そんな状態だったのさ。ある意味、アイツも問題児だったな」

 

 気が付けば、スペだけでなく、ネイチャとタンホイザもダブルアールの話に聞き入っていた。

 今は皆にも優しく接しているスズカに、そんな過去があったなんて知らなかったから。

 ネイチャたちに関しては、当時は自分達の事で精一杯だったから、そんな余裕が無かったともいえるが。

 

「学園側も相当に焦ってたらしいな。寺田のオッサンの話によると、スズカの事に関して何回も話し合いがあったらしい」

「そう…だったんですか……」

「それを知った、当時スズカが所属してたリギルのトレーナーの東条さんは、いきなりオレの所に来て頭を下げて頼み込んできたんだ。『スズカの事をどうにかしてほしい』…ってな」

「あの人が……」

「それからすぐに、同じ理由でエアグルーヴもオレの所にやって来て、同じよう頭を下げて頼み込んできた。あいつとスズカは同期だったから、どうしても見過ごせなかったんだろうな」

「…どうして東条さんとエアグルーヴ先輩が先輩の所に?」

「多分だけど、昔のオレがスズカと同じだったから…かもな」

「スズカさんと先輩が…同じ…?」

 

 どこかどう同じなのだろう?

 そう尋ねようとした時に、注文した品がやって来た。

 

「待たせたな。ん? 何か話していたのか?」

「昔のスズカの事についてッスよ」

「あぁ…あの頃の彼女は凄かったな」

「アウセンザイター先輩も知ってるんですか?」

「まぁな。昔のスズカは、一言で言えば『修羅』だった。」

「修羅……」

「そうだ。走る事、速くなることに全身全霊を賭けている修羅。それ自体は何も問題は無い。ウマ娘である以上、誰だって大なり小なりは同じような気持ちは抱えているのだからな。問題があるとすれば、それは……」

「あいつは、周り全部を眼中に入れようともしなかったことだな」

 

 ここで、密かに話を聞いていたヒシアマゾンとフジキセキも話に混ざってきた。

 

「どこまで話したんだ?」

「東条さんとエアグルーヴがオレに頼みに来た所までだよ」

「そういや、そんなこともあったっけ」

「昔の先輩がスズカ何と似てたって聞きましたけど……」

「そう言われてみると、確かに似てるかもな~」

 

 腕組みをしながらウンウンと頷きながら昔を思い出すヒシアマゾン。

 

「入学したての頃のダブルアールは、完全にオラオラだったもんな」

「特定のチームに入らないまま、誰彼構わずにレースを挑んでは圧勝する。そんな事を繰り返してたっけ」

「だな…完全にオレの黒歴史だよ。あの頃のオレは、現実を何も知らないガキだったのさ……」

 

 フッ…と笑いながら、注文したグラスパに舌鼓を打つ。

 一瞬だけ幸せそうな顔をするが、すぐにまたシリアスな顔に戻る。

 

「オレは最強。トレセン学園の頂点は自分だって思い込んでた。あの四人が現れるまでは」

「あの四人?」

「それって、まさか……」

「そう…三冠を取った四人さ。今じゃ五人になってるけどな。こいつ等さえ超えれば、真の意味で自分が最強だ…な~んて甘い考えで勝負を挑んだのが運の尽き。見事に完敗しちまった。四人全員にな」

「先輩が負けた…?」

「信じられない……」

「おいおい、オレだって負けることぐらい普通にあるっつーの。…特に、アウセンザイターの姉御と、シンボリルドルフには完璧に負けた。後にも先にも、あんなにも派手に負けたのはあれが最初で最後だったな」

 

 彼女達のダブルアールの印象と言えば、どんなレースも、どんな相手にも真っ向から立ち向かって勝利を掴む。そんな感じだった。

 負けるイメージなんて全く出来ないし、想像すらつかない。

 

「だが、そんなお前も今では我等と互角以上の実力を持つウマ娘へと成長した。負けを知り、強者を知り、勝負を知った事で」

「休学前にやった模擬レースじゃ、ナリタブライアンに普通に勝ってたしね」

「「「ブ…ブライアン先輩に勝ったっ!?」」」

 

 ナリタブライアン。

 トレセン学園の誇る『三冠五人衆』の一角であり、生徒会のメンバーでもある。

 その実力は言うまでも無く、これまでに数多くのウマ娘達に勝利してきた、間違いなく『真の強者』とも言える存在。

 そんな彼女に勝つだなんて、とんでもない事だった。

 

「そういや、ンな事もあったな。また一緒に走りたいぜ」

「向こうもきっとリベンジを誓ってるだろうね」

 

 三冠ウマ娘とライバル関係にある。

 それだけで、ダブルアールというウマ娘がどれだけ凄いのか分かった。

 

「話を戻すけど、スズカの視界を広げるには、誰かがアイツを負かす必要があった。だけど、普通に負かすだけじゃだめだった。姉御たち三冠ウマ娘が負かしても、あいつはそれを当然と受けとめてしまうだろう。相手は圧倒的な実績のある絶対強者だからな。それじゃあ意味が無い。スズカの目を後ろに振り向かせるには、当時はまだ勝ち星は多くても、そこまで有名じゃなかったオレみたいのが一番適役だったのさ」

「思えば、あの頃からダブルアールの実力は急激に上がっていたな。寺田トレーナーの適切なトレーニングメニューの恩恵もあっただろうが、一番はお前が友を知り、仲間を知り、好敵手を知った事で自分が本当にやりたいことを見出したことが一番大きいだろう」

「自分がやりたい事……」

「オレの場合は、姉御たちを越える事だな」

「フッ…今の調子では、それも現実になりそうだがな」

「いやいやいや、まだまだ鍛えないとダメっしょ」

 

 手を振ってから謙虚な姿勢を見せるダブルアール。

 これこそが、彼女の本来の姿の一部なのかもしれない。

 

「その後…勝ったんですよね。スズカさんに」

「おう。逃げを最も得意としていたアイツは、レースじゃまだ一回も誰かの背中を見たことが無かった。だから、オレの背中を特等席で見せてやったのさ」

「あの時のレースは今でもよく覚えている。まさに圧巻の走りだった。あのレースを境にして、一気にダブルアールの名が世間に知れ渡ったしな」

 

 これまで常勝不敗だったサイレンススズカに圧勝してみせたウマ娘。

 ダブルアールの名前は、たった一回のレースで日本中に広まっていった。

 それを本人に話すと、照れくさそうにする貴重な彼女を拝む事が出来るぞ。

 

「初めての『本当の負け』を知ったスズカは、ダブルアールの事を『越えるべき壁』と認識した。それからだったな。彼女が『速さ』ではなく『勝ち』に執着し始めたのは」

「ある意味、あの時ようやくスズカはウマ娘としてスタートラインに立てたのかもしれないね」

 

 スタートライン。

 フジキセキの一言を聞いて、スペは思い出す。

 自分が初めてスズカと出会った日の事を。

 あの時には、もう既に彼女はダブルアールに負けた後だったのか。

 

「つーかスペ…お前さ、図書室でレースの映像とか見てないのかよ?」

「ふぇ? レースの映像…?」

「はぁ……えい」

「ふにゃっ!?」

 

 溜息を吐きながら、目が点になるスペに軽くチョップ。

 変な声を出してはいるが、痛みは無い。

 

「別にトレーニングに専念するのもいいけどな、時には見稽古っつーのも重要なんだぞ? 過去の実力あるウマ娘のレースを見る事で勉強になる事もあるもんだ。これは、色んなウマ娘がトレーニングや勉強の合間にやってる事だぞ?」

「先輩達も…ですか?」

「「「「勿論」」」」

 

 上級生組は揃って頷く。

 その間もちゃっかりと食事をしているのがダブルアールだ。

 

「その…二人も?」

「「うん」」

「………………」

 

 ネイチャとタンホイザも同時に頷き、遂に黙ってしまった。

 でも、ちゃんと手だけは動いている。

 

「明日でいいから、図書室に行って見てこいよ。借りる事も出来るし、図書室で見る事も出来る」

「はぁ~い…」

 

 肩を落としながら返事するスペ。

 体を動かすだけがトレーニングではないのだと知る事が出来ると同時に、スズカとは別に尊敬できる先輩が出来た一日だった。

 

 

 

 

 

 




【アウセンザイターの一コマ】

ザイター「実家から輸送ヘリで食材を持ってきたぞ!」
ルドルフ「本当に済まない…。恩に着るよ…」
スペ&オグリ「おぉ~!!」
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