これまで謎だった、彼女の適性はなんなのか?
因みに、私もカレンチャンを当てました。可愛くて強いです。
そんでもって、ほんの少しだけ設定改変をしていますが、分かるかどうかのレベルなので気にしないでも大丈夫です。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
額から滴る汗をジャージの袖で拭いつつ、ユニコーンドリルは膝に手を当てながら前を向く。
陽光が眩しく煌めき、己の身体から確実に体力を奪っていく。
(まだだ…まだ、こんなんじゃダメだ…!)
練習場の芝生の上に汗が落ち、この場に寝転がりたい衝動に駆られる。
だが、そんな事をしている場合ではないと自分に言い聞かせてから、なんとか耐えた。
ユニコーンドリルは焦っていた。
チーム内で屈指の実力を持つダブルアールの帰還に、最近になって急激に実力を上げてきたハルウララ。そして、将来有望な新メンバーのパーンサロイド。
何よりも、ついこの前に五人目の三冠ウマ娘となったフウウンサイキ。
それらの存在が、いつもは冷静な彼女を焦燥させていたのだ。
(ボクは…ウララちゃんみたいにダートが得意な訳じゃないし、パスチャーさんのような圧倒的なパワーも無い…。ダブルアールさんのような爆発的な加速力も無ければ、フウウンサイキさんのように限界を超えた力なんて発揮出来ない…。ましてや、全てにおいて最強の強さを持つアウセンザイターさんのようには絶対になれない…。ボクの…ボクの武器は……)
ユニコーンドリルが最も得意とする距離は『短距離』だった。
刹那の煌めきに全てを賭けるウマ娘達が集う激戦区。
だが、彼女は知っている。短距離には短距離の絶対王者が存在している事を。
その筆頭とも言えるのが『サクラバクシンオー』だった。
以前、ユニコーンドリルは短距離のGⅠである『スプリンターズステークス』に出走したことがある。
そのレースにおいて、ユニコーンはバクシンオーやニシノフラワーといった強豪と壮絶な激走を繰り広げたが、あと一歩と言うところで競り負けて3着に終わっている。
『逃げ』のバクシンオーと『差し』のユニコーン。
他にも数多くの名のあるウマ娘達が彼女達と同じ適性を持っていて、そのいずれもが非常に高い実力を持つ者達ばかり。
それを身を持って知ってから、ユニコーンは少しだけ短距離の世界から身を引いた。
トレーニングの末にマイルや中距離でも走れるようになり、そこでも立派な戦績を残してきたのだが、最近になってまた短距離の事が気になり始めた。
その理由は先ほど述べた通り。チーム内の皆の成長と勝利である。
「もう…一本…!」
「ユニコーンドリル。その辺にしておけ」
「アウセンザイターさん…」
明らかに無茶をしようとした彼女を静止したのは、リーダーのアウセンザイター。
彼女は気付いていたのだ。ユニコーンが焦っている事を。その心情を。
「体力の限界まで練習をしても、いい結果は得られないぞ」
「けど…ボクは……」
「それでもまだ続けたいというのであれば、少しだけでいいから休むんだ。いいな?」
「…はい。分かりました」
この人にだけは逆らえない。
本能的な部分でそう思っているからか、素直に言う事を聞いてコースから離れて座り込んだ。
それを見て、アウセンザイターは心配そうに眉をひそめる。
「ふむ……」
「どうしたんスか? 姉御」
珍しく困った顔をしているアウセンザイターが気になって、さっきまでウララと一緒にダートコースを並走していたダブルアールが近寄ってきた。
「ダブルアールか。実はな……」
その先を敢えて言わず、端の方でタオルを頭に掛けて座っているユニコーンを見た。
それだけで彼女が何を言いたいのかを理解したダブルアールは、同じように眉をひそめて溜息を吐いた。
「あぁ…アイツの事っスね。この前見た時は気合が入っていたように見えたけど……」
「どうやら、空回りをしているようだな」
「YES…今のユニコーンは、見ていて辛いデス……」
パーンサロイドに実戦形式でレースのノウハウを教えていたフウウンサイキとパスチャーキングも様子が気になってやって来た。
図らずも、チーム内の高等部が全員揃った形になる。
「あいつが焦ってるのは一目瞭然だよな……」
「最近は、色んな事が立て続けに起きているからな。それで焦っているに違いない」
「言われてみれば確かにな。パスチャーの壮絶な追い込み勝利に、ウララの急激な成長。新メンバーであるパーンサロイドの加入…」
「そして、フウウンサイキの三冠GETネ。多分だけど、それが一番BIGな原因だと思うワ。あんな凄いRaceを同じTeamのMemberがしているを見たんだから無理も無いと思うワ……」
結局、完全に体力は戻らなかったようで、ユニコーンはそのまま何も出来ずに練習時間を終えた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「はぁ……」
部屋に戻ってからも、ユニコーンは元気が無かった。
夕食を終え、風呂に入ってサッパリしても、ベットに寝転がってボーっと天井を見続けるばかり。
「ユニちゃん、だいじょーぶ? 元気無いみたいだけど……」
「あ…カレンさん」
そんな彼女のルームメイトは『カレンチャン』。
『カワイイ』を極め、世に広げようと頑張っている短距離が得意なウマ娘だ。
彼女もまた、スプリンターとしては非常に高い実力を誇っている。
「ボクなら全然平気だよ。心配かけてごめんね」
「そんな風には見えないんだけどな~」
同級生で同じ部屋で寝泊まりをする仲であるユニコーンを純粋に心配するカレン。
チラチラと横目で彼女の様子を伺いつつも、指だけはちゃんと動いていてパソコンで動画の編集やウマスタを行っている。
自分の『カワイイ』を外にも広げる為に、彼女はこうして日夜頑張っているのだ。
普段の行動からは想像も出来ない影の努力家。それがカレンチャンだった。
「気晴らしに、またカレンの動画に一緒に出てみる?」
「べ…べべべ別にいいよ! ボクなんかが出演しても邪魔になるだけだし、カレンさんと比べてボクなんて全然可愛くないし……」
「そんな事無いよ!」
完全にネガティブ思考に陥りつつあるユニコーンに苛立ちを覚えたのか、いきなり立ち上がってユニコーンの顔を両手で挟み込んで無理矢理に正面を向かせた。
「ユニちゃんはすっごく可愛いよ! それはカレンが保証する!」
「ボ…ボクが可愛い?」
「うん! だから、そんなにも自分の事を卑下しないで! ね?」
「わ…分かった……分かったから離して…」
カレンの珍しい鬼気迫る表情に、思わず首を縦に振ってしまった。
ここでこうしておかないと、後でとんでもない目に遭いそうだから。
因みに、以前にも似たような事があって首を横に振ったら、その週の日曜日に街へと強制連行されて着せ替え人形にされてしまった経験がある。
それ以来、カレンには下手に逆らわない方が良いという教訓が誕生してしまったのだ。
「む~…まだなんか分かってない気がするな~…」
なんでバレたの?
思わず背筋に冷や汗が流れた。
「よし! 今度またカレンの動画に出て、ユニちゃんがどれだけ可愛いかを思い知って貰おう!」
「結構です!!」
「遠慮しなくてもいいよ~。前にユニちゃんが出た時の再生数、本当に凄かったんだからね? カレンが本気で嫉妬しかけちゃったぐらいに」
「えぇ~…?」
ビリヤードと走るしか能のない自分が人気者?
俄かには信じられない事だった。
「これ、その時のコメントね。試しに読んでみて」
「えっと…?」
カレンのスマホを目の前に持って来られ、仕方なく動画のコメントを読んでみる事に。
すると、そこにはこんな事が書かれてあった。
『この子ってまさか、あのユンコーンドリルちゃんっ!?』
『カレンチャンの友達だったのか……なんか納得!』
『カレンチャンもすっごく可愛いけど、ユニコーンドリルちゃんも同じぐらいに可愛かった!』
『この子ってアレだよな? この前のレースで勝ってたウマ娘。凛々しい顔も良かったけど、普段の可愛い顔を見せつけられたら、今まで以上にファンになっちまうな』
『今度また、ユニコーンちゃんのレース見に行くわ。絶対に応援する』
『またカレンチャンと共演してくれよな! 待ってるぞ~!』
皆が皆、自分の事を称賛してくれている。
今にして思えば、ファンの声に耳を傾けた事は余り無かったような気がする。
それをこうして文章として見せつけられるのは、なんだか新鮮だった。
「今度こそ分かった? ユニちゃんがどれだけ皆に可愛いって思われてるか」
「う…うん……」
可愛いとは少し違う気がするが、彼女が言いたい事は理解出来た気がする。
これがカレンなりの励まし方なのか。
「なんだったら、ユニちゃんも動画デビューしてみる? チャンネルの作り方ぐらいなら教えてあげるよ?」
「いや、それは本気で結構です」
「真顔で否定されたッ!? 実はもう作りかけてたのにッ!?」
「危なかったっ!?」
自分の預かり知らない所で別方面のデビューをするとか洒落にならない。
そもそも、どれだけコメントで褒められても、まだ自分がそれほど動画映えしているとは思えない。
「けど、カレンの動画のゲスト出演はもう決定ね。ちゃんと予告もしておくから」
「もう勝手にすれば……?」
「は~い! 勝手にしま~す!」
カレンの流れになった以上、もう自分に勝ち目はない。
観念したユニコーンは、大人しく動画に出る事を決めたのだった。
「というか、そもそもユニちゃんは何を悩んでたの?」
「最初からソッチを聞いてくれれば、ボクも素直に答えたのにな……」
完全に話が関係ない方向に行ってしまったので、悩みを吐露する暇も無かった。
一体どこから動画云々の話になったのだろうか?
「まぁ…いいか。カレンさんになら……」
そうして、ユニコーンはポツポツと語り出した。
自分が感じている焦り。チームメイトの急激な成長と新しいメンバーの加入。
マイルや中距離に移行して頑張ってきたが、最近になってまた短距離への思いが復活しかけている事を。
そして、自分自身の武器について悩んでいる事を。
「そっか~…確かに、最近のウララちゃんは速くなったし、前よりも可愛くなった気がするもんね~」
「可愛いかどうかは別として、確かに速くなってるよ…」
「サイキ先輩も凄かったもんね~。カレンも中継で見てたけど、本気で鳥肌が立っちゃったもん。皆が憧れる気持ちが分かった気がするよね」
「だよね……」
「転入生のパーンサロイドちゃん…だっけ? その子も凄いの?」
「凄いね…。同室のバクシンオーさんが言うには、ゴーカートの世界王者で、あの歳で既に世界の舞台を経験してるから、プレッシャーとかには物凄く強いんじゃないかって」
「うわぁ~…バクシン先輩と一緒なんだ~…。というか、世界王者? トレセン学園も属性豊富になり過ぎじゃない?」
話が噛み合っているような、いないような。
「で、短距離に戻ってくるの?」
「考え中…かな。でも、もしも戻るとしたら……」
その時は編み出さなければいけない。自分だけの走法を。自分だけの武器を。
そうでなくては、あの最強スプリンター集団と互角に渡り合えない。
「カレンも、またユニちゃんと一緒のレースに出たいな」
「一緒のレース…か」
トレセン学園では、同室の相手がレースで競い合う相手になる事なんて頻繁にある。
だからと言って険悪な感じにはならないが。
寧ろ、近くにいるからこそやる気が湧いてくる…と、前にウオッカやダイワスカーレットが言っていたような気がする。
「…ボクもカレンさんと一緒に走りたいな……」
「ホントッ!?」
「え? あ…その……うん……」
ふと漏らした一言を聞かれて、顔を真っ赤にしつつも頷く。
それを見て、カレンは興奮しながらユニコーンに抱き着いてきた。
「キャ~♡ 恥ずかしがるユニちゃん本当に可愛すぎ~♡」
「ちょ…またいきなりなんなのッ!?」
「あ~…これはアレだね。なんかもう、ユニちゃんをカレンのお嫁さんにして独占したい気分に駆られてくるね」
「流石に洒落になってないんですけどッ!?」
目が完全にハートマークになっているカレンを見て本能的にヤバいと感じたユニコーンであったが、疲労で思うように力が出ない今の彼女に、カレンのハグから逃れす術は無かった。
結局、そのまま抗えずにカレンに抱き着かれながら眠る事になった。
余談だが、朝起きて自分もカレンの事を抱きしめて寝ていた事に気が付いたユニコーンは、激しく動揺しまくったらしい。
【ユニコーンドリルの一コマ】
カレン「みんな~! カレンだよ~! 今日は特別ゲストが来てくれてま~す!」
ユニ「どうして、よりにもよってゴスロリ衣装なのさっ!?」
カレン「カワイイから! それ以外の理由なんてないよ!」