果たして彼女は、己の必殺走法『ファイナルアタック』習得できるのか?
これ、ゲームなら間違いなく☆3の時の固有スキルですよね…。
今日も今日とて、ユニコーンドリルは芝のコースを懸命に走り、自分の限界と戦っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ジャージの袖で汗を拭いつつ、悔しそうに頭を振る。
自分が成すべき事は見い出せても、其処に至る道筋が余りにも遠く、険しかった。
(まだだ…まだ、こんなもんじゃない…! 全然体力は有り余ってる…!)
不可思議な事に、ユニコーンには
故に分かるのだ。ファイナルアタックを放った後の強烈なまでの解放感と消耗感を。
今の身体で言えば、立ち上がる事は愚か、指一本すら動かせない程に疲弊するような感じなのだ。
それに比べ、今の自分はまだまだ余裕がある。限界なんて程遠い。
(限界を『越える』じゃなくて『出し切る』って、こんなにも大変な事だったのか……)
体力の限界を出し切るなんて、言葉だけを聞けば非常に容易そうに思えるが、それを『走る』という行動に全て向けるとなれば話は別だ。
しかも、ユニコーンが目指している『限界』と、我々が想像している『限界』では全く意味合いが違う。
彼女の場合は、文字通り気力と体力を一滴残らず『走る』ことへの燃料にする事なのだ。
その感覚を体に慣れさせて、レース終盤時にフルブーストを掛けられるようにする。
これまで誰もやった事のない練習なので、何から何まで手探りの状態から始まっているのが現状だ。
「ユニちゃん…すっごく走ってるね~…」
「自棄…じゃないですよね。必死に何かを探している…そんな顔をしてる気がします」
休憩中のウララとパーンサロイドが心配そうにユニコーンの事を見ている。
顔中が汗だくで、今にも倒れそうなのに、彼女はずっと立ち続けていた。
「成すべき事を見つけても、其処に至るまでの道は険しい…か」
「あいつなりに頑張ってるっぽいッスけど……」
「ミー達にも何かHelp出来ることはないのかしラ……」
アウセンザイターとダブルアール、パスチャーキングも険しい顔でユニコーンを見守っている。
そんな彼女達の視線に気が付いたのか、ユニコーンはコースから出て皆の元まで歩いてきた。
「休憩か?」
「はい。あの状態で続けても意味はありませんから」
倒れるようにして、ウララとパーンの隣に座り込んでから、自分の鞄の中から適度に冷やしたスポーツドリンクを出して口にする。
「ほれ」
「わっぷ」
そこに、ダブルアールが彼女の顔目掛けてタオルを投げて寄越した。
頭から被って、少しだけ視界が遮られる。
「ダブルアールさん…?」
「水分補給は良いけど、その前にまずは汗を拭けッつーの。風邪を引いたら元も子もないだろうが」
「あはは…すみません」
苦笑いを浮かべながら、右手で汗を拭き、左手でドリンクを持つ。
体を休めているユニコーンの顔は、迷いは払拭出来ていても、別の意味で悩んでいるように見えた。
「ユニコーン。君は今、何の特訓をしているんだ? よければ聞かせてくれないか?」
「…自分の限界を出し切る特訓です」
「限界を……」
「出し切る…ですカ?」
余り聞き慣れない特訓を耳にし、パスチャーとパーンは揃って小首を傾げる。
「はい。自分の持つ体力、パワーの全ての一ミリも残すことなく消費して走り抜く。それを出来るようになる特訓をしている…つもりなんですけど……はぁ…」
最後に溜息が漏れる。
ということは、特訓はお世辞にも順調ではないという事だ。
「限界を出し切る…ねぇ……」
「もしも、そんな事が出来れば……」
「間違いなく『究極の末脚』になりますね。流石はユニコーンさんです!」
「きゅーきょくっ!? なにそれかっこいい!」
生半可な事じゃ、その領域には到達できない事は、これまでに幾多のレースを制してきた高等部の面々には否が応でもわかる。
アウセンザイターとダブルアールは、眉を顰めながら呟くが、そんな二人の心情なんて全く知らないパーンとウララは純粋にはしゃいでいた。
そんな時、いつもの格闘技教室で少しだけ遅れてきたフウウンサイキが手を振りながらやって来た。
「おーい。ユニコーンはいるか?」
「あ…はい! なんですかフウウンサイキさん?」
名前を呼ばれて慌てて立とうとするが、彼女達が休憩中なのを知って手で制する。
「いや、休んでいるのならば無理をして立たなくてもいいよ」
「けれど、ボクに何か用事があったんじゃ…」
「あぁ。寺田トレーナーがお前の事を呼んでいた。別に急ぐ必要はないが、休憩が終わったら行ってやってくれ」
「分かりました」
一体自分に何の話があるのだろう?
緊張と好奇心を綯い交ぜにしながら、ユニコーンは空を眺めながら体を休めた。
「ところで、さっき皆が話していた『限界を出し切る』ってなんだ?」
((((地獄耳……))))
(ヘルイヤーね…)
(え? え? サイキちゃん、いつ聞いたのかな?)
フウウンサイキは、身体能力だけではなく聴力も超人的な域に達している事を知った面々だった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「失礼します」
「おぉ…待っていたよ」
普段、トレーナーが仕事をしている部屋に向かい、ノックをしてから入るユニコーン。
寺田は腰で手を組みながら、窓の方を見て立っていた。
「ボクに用事ってなんなんですか?」
「ふむ…ユニコーン。君は最近、いつも以上にトレーニングを頑張っているようだね」
「は…はい!」
「何があったかは知らないが、自分の中にあった迷いを払拭し、再び前を見てくれた事を嬉しく思うよ」
「あ…ありがとうございます」
入って早々の褒め言葉に、ユニコーンは顔を赤くしてしまう。
だが、これが本題ではない事は彼女も分かっていた。
「よければ、君が今何をしようとしているのか教えてくれないかな?」
「わ…分かりました。実は……」
ここで、ユニコーンはこの間の休日の際に皆から貰ったアドバイスと、自分がやりたいと思っている事を全て説明した。
それを聞きながら、寺田は何度も頷く。
「成る程…自分の限界を出し切る…か」
「はい。けれど、そう上手くは行かないみたいで……」
苦笑いを浮かべてはいるが、ユニコーンの顔色は優れない。
それを横目で見た寺田は、そっと呟いた。
「成る程ね…けど、それは口で言うよりも簡単じゃない事だ。それは…分かるね?」
「はい……」
「けど、ユニコーンが再び短距離へと戻る決心をしてくれたのは純粋に嬉しい」
ここでようやくユニコーンの方に振り向くが、彼の顔は影となっていてよく見えない。
「今から約一年前のスプリンターステークス…あのレースで負けた君は、これまでの短距離から離れ、マイルや中距離のレースで走るようになった。実際、君には少なからずその適正はあったし、僕も一人のトレーナーとして全力でサポートをした。その結果、ユニコーンは今までとは違う距離でも見事に結果を残してみせた」
近くにあった自分の椅子に座り、机の肘を付きながらジッとユニコーンの事を見据える。
寺田の何を考えているのか分らない目に、彼女は思わず少しだけ怯んでしまった。
「けどね、君が一着を取る度に思ってしまうんだ。これは彼女の距離じゃない…ってね」
「…………」
「君が何かを模索し、それを目指そうとしているのならば、僕はまた全力で協力するし、応援もする。君が今やっているという特訓も面白いと思うしね」
「面白い…ですか?」
「あぁ。自分の限界を出し切る。こんな事をやってのけたウマ娘は未だ嘗て誰一人もいない。ある意味、君はフウウンサイキと似たような事をしていると言える」
「ボクが…フウウンサイキさんと一緒……」
そんな大層な事をしている自覚は全く無かったが、トレーナーである寺田からそう言われると、急に恐縮してしまう。
「よければ、僕なりにユニコーン専用のトレーニングメニューを組んでみようと思うんだが…どうかな?」
「い…いいんですかっ!?」
「おいおい…僕は曲がりなりにもチームSRWのトレーナーだよ? 所属するウマ娘の助力をするのは当然の事だろう?」
「あ…ありがとうございます!」
寺田がメニューを組んでくれるのであれば百人力だ。
実際、彼が組んでくれたメニューをこなす事で、ウララはメキメキと実力を伸ばしてきているし、パスチャーキングも超絶的な追い上げ技術を身に着けた。
「その上でユニコーンに一つ提案があるんだが……」
「なんでしょうか?」
「…今年のスプリンターズ・ステークスに出場してみないか?」
「スプリンターズ・ステークス……」
短距離適性を持つウマ娘達が一堂に会するGⅠレース。
一瞬の油断や隙が命取りになる、嘗て自分が敗北を喫したレースでもある。
「今のユニコーンならば、必ず勝てると信じてる。短距離復帰戦には最高の舞台だと思うんだが…どうかな?」
「…一つだけ聞かせてください」
「なんだい?」
「サクラバクシンオーさんは出場するんですか?」
「当然だ。このレースに彼女が出ない理由は無いからね。今回は、彼女以外にも数多くの名のあるウマ娘達が出る予定になっているが……」
バクシンオーが出る。
それだけで、ユニコーンの答えは決まっているも同然だった。
「…出ます。スプリンターズ・ステークスに出させて下さい!」
「君ならば必ずそう言ってくれると信じていたよ。では、これから一緒に頑張っていこう!」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、ユニコーンが次に出るレースが決定し、同時に彼女のリベンジに向けた特訓が始まったのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夕食時になって、相も変わらずアウセンザイターはキッチンに立ち、席は沢山のウマ娘達によって賑わっている。
ユニコーンやフウウンサイキを初めとするチームSRWのメンバーも今日は一緒に食事を取っていて、皆揃ってカウンター席に座っていた。
「そっか…今度のスプリンターズ・ステークスに出るのか」
「はい。それに向けてのトレーニングメニューを組んでくれるって寺田トレーナーが言ってくれたんです」
「良かったじゃないか。お前ならば必ず勝てるさ。気休めとかじゃなくてな」
三冠を取って、今や完全に目指す側から目指される側になったフウウンサイキから背中を押されると、どうもむず痒くなる。
ユニコーンにとっては、彼女もまた憧れの先輩であることには違いないのだ。
「うぅ…スプリンターズ・ステークス…バクシンオーさんも出るんですよね…」
「そう聞いたよ?」
「私は一体どちらを応援すればいいんですかぁ~!? 普段から凄くお世話になっているルームメイトのバクシンオーさんか、もしくは憧れのウマ娘であり頼れる先輩でもあるユニコーンさんか……うにゃぁ~っ!?」
「お前はネコか。変な事で悩んでんじゃねぇよ」
隣でカツ丼を食べているダブルアールが、頭を抱えて悶絶しているパーンサロイドに軽いツッコミを入れる。
その反対側では、無邪気な笑顔を浮かべているウララが真理をブチ込んだ。
「どっちとも応援すればいいんだよ~!」
「ど…どっちともっ!?」
「うん! サクラちゃんとユニちゃん、どっちも大切なお友達なら、どっちも応援すれば大丈夫でしょ?」
「そ…それは……」
ウララの真っ直ぐな瞳に見つめられ、頷く事しか出来なくなるパーン。
もしかしたら、チーム内でのヒエラルキーの頂点はウララかもしれない。
「スプリンターズ・ステークス…か。ユニコーンならば問題無いとは思うが…」
話を聞いていたアウセンザイターが、彼女達の傍までやって来ていた。
どうやら、いつも通りスペとオグリ、更にはライスの三人におかわりを届けて戻って来た所のようだ。
「今回のレースには前回以上のメンバーが出場すると、我が友シンボリルドルフから聞いている」
「そうなんですか?」
「その話ならば、私もタキオンから教えて貰った」
「フウウンサイキさんまで?」
自分の知らない所で、次回のステークスは学園内にてかなり話題になっていた。
これからはもっと周囲の情報に気を配ろうと思った。
「サクラバクシンオーが出るのはもう知っているな?」
「はい。トレーナーも言ってましたから」
「それ以外にも、タイキシャトルにマルゼンスキー、ニシノフラワーも出場をするらしい」
「マジかよ…錚々たる面々じゃねぇか…」
ダブルアールでさえ驚きを隠せない程の実力者達。
名前の挙がった三人だけでも、次のレースが想像以上の激戦になるのは簡単に想像出来る。
「あと、お前と同室のカレンチャンも出るらしい」
「カレンさんも…出場する…?」
確かに、カレンチャンも短距離に完全特化したウマ娘であり、その実力は折り紙つきだ。
以前は、あのバクシンオーとも互角以上に渡り合った事もあるほど。
そんな彼女が短距離適性ウマ娘の祭典とも言うべきスプリンターズ・ステークスに出場しない訳が無かった。
「正直、彼女達はこの私でさえも真っ向から立ち向かえば苦戦は必至だ。今度のレース……もしかしたら、今までにお前が出場したどのレースよりも荒れるやもしれんぞ。気を引き締めていけ」
「は…はい!」
あのフウウンサイキにそこまで言わせるようなメンバーに自分は挑む。
思わず唾を飲み込み、今から心臓がバクバクと激しく動き出す。
(フウウンサイキさんの言う通り…対戦相手はいずれもがボクと互角か、もしくは格上のウマ娘達ばかり…けど、それでもボクは絶対に勝つ! 応援してくれたみんなの為にも! 何より、ボク自身が過去を乗り越える為に!)
全ての準備は整った。
後はただ…駆け抜けるのみだ。
電子の一角獣…覚醒の時は近い。
パーンサロイドの一コマ
サクラ「バクシン! バクシーン!」
パーン「やりますね! 私も負けませんよー! バックシーン!」
タイシン「あんたら二人揃って五月蠅い! レースゲームぐらい静かに出来ない訳っ!?」
サクラ&パーン「無理です!」
タイシン「自信満々に言うなぁッ!?」