その代りといってはあれですが、今回は最初から百合成分全開です。
夜になり、ウマ娘達やトレーナー達は海岸の近くにある旅館にて体を休めている。
この旅館は、毎年必ずと言っていい程にトレセン学園がお世話になっている旅館で、高等部の上級生ともなればもう完全に常連となっている。
旅館内では様々なウマ娘達がゆったりとした浴衣に着替え、各々に好きな場所で息抜きをしたり、土産屋を物色したり、または割り当てられた自分達の部屋にて遊んだりと、自由時間を満喫していた。
そんな中、一人のウマ娘が旅館内を挙動不審全開の様子で歩きまわっていた。
彼女の名は『アグネスデジタル』。
全てのウマ娘を推しとし、同時に心から愛するウマ娘。
トレセン学園に来た理由も至極単純で、ズバリ『近くで押しのウマ娘達を愛でる事が出来るから』である。何とも自分の感情に素直な娘だ。
「あ…あれは……」
旅館内を彷徨っていた彼女が最初に見たのは、自販機の近くにあるベンチに座って読書をしていたフウウンサイキだった。
普段から格闘技ばかりをしているイメージが強い彼女が読書をしている、その光景だけでも相当にレアだというのに、彼女の周囲にいる三人のウマ娘達の存在が更に彼女の視線を釘付けにする。
「ふむ……タキオン。現時点で、お前は一体誰が犯人だと思っている?」
「そうだな。私の推理が正しければ、犯人はこの継母だと思っているよ」
「ほぅ…?」
「何を言ってますの? 犯人は、この弁護士に違いないですわ」
「ぼくは、途中でいきなり第一犠牲者の従姉妹だと発覚したOLの女性だと推理しているが?」
「マックイーンとオペラオーの言っている事も一理あるな……」
いつもの熱血なイメージからかけ離れて、眼鏡を付けた状態でアグネスタキオン、メジロマックイーン、テイエムオペラオーの三人に囲まれているフウウンサイキ。
たががメガネ。されどメガネ。
一つのアイテムを追加しただけで、全く違う魅力を醸し出していた。
「そういえば、フウウンサイキくんが眼鏡を掛けるだなんて珍しいね」
「そうでもないよ。彼女はよく勉強の時や、今みたいに読書をする時などは良くメガネを掛けているもんさ」
「そうなのですか? フウウンサイキさん」
「まぁな。別に視力が落ちたって訳じゃないが、この方が目が疲れないし、なにより集中できるしな」
ここでまさかの情報を入手。
フウウンサイキのファンのウマ娘達も知らないであろう話を、図らずも聞いてしまった。
デジタルは必死に今聞いた話を脳に刻み込んだ。
「しかし、マックイーンやオペラオーはともかくとして、タキオンがこうして暇潰しをするとは意外だったな。てっきり、こんな時も研究一直線だと思っていた」
「そうでもないさ」
「ん?」
「こうして、君と一緒にいること自体に大きな意味があるんだからね。これもまた立派な研究の一つさ」
「タ…タキオンさん…まさか…!?」
「どうやら、レース以外にも強力なライバルになりそうだね……!」
「???」
知らぬは本人ばかり也。
三角関係だと思っていたのに、まさかの四角関係だった瞬間。
早くも、デジタルの心は尊さに満たされた。
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次にデジタルが訪れたのは、椅子やテーブルが設置された休憩所。
ここでも、多くのウマ娘達で賑わっていた。
どこもかしこも推しばかりで目移りしそうだが、そんな彼女の真横を一人のウマ娘が通り過ぎて行った。
(い…今のはまさかっ!?)
トレセン学園に所属するウマ娘達の中でもトップクラスの実力と頭脳を持ち、更には非常に人気がある、デジタルの最推しなウマ娘の一人でもある存在。
「ここにいたのか、我が友ルドルフよ」
「アウセンザイターか。どうした?」
「いやなに。旅館の方から、ちょっとしたおかずの作り方を教わってな。ぜひともまた君に味見をして貰いたくてな」
「ついさっき夕食を食べたばかりだが……」
「心配は無用だ。今回は試験的という意味も込めて、小皿に入るぐらいしか作っていない。実にシンプルな料理だが、だからこそいいものがある。和食と言うのは本当に奥が深いな。日本に来て大正解だった。お蔭で、料理の勉強とレパートリーの増加を同時に行えるからな」
そう言ってテーブルの上に置いた小皿の中には、ネギを使った料理が入っていた。
腹は膨れている筈なのに、見ているだけで不思議と食欲がそそられていく。
「焼きネギのピリ辛ポン酢漬け。その名もズバリな簡単な料理なのだが、思っている以上に味わい深い一品に仕上がっている」
「ごくり…。余り腹は減っていない…なのに、どうしてか唾を飲んでしまう…。い…いただきます」
一緒に置かれた箸を使って、パクッと一口。
その瞬間、ルドルフの目が大きく見開かれた。
「う…美味い…! しかも、これはただ美味いだけじゃない…! 炊き立ての白米に絶対に合う一品じゃないのか…!?」
「フッ…流石は我が友ルドルフだな。その通りだ。この料理は白米や麺料理と言った炭水化物との相性が抜群なのだ。学園に戻ったら早速、色々な組み合わせを試してみよう」
ルドルフが何度も口を動かして味わっている中、ふとアウセンザイターが横を向いて、隣に座っていた二人に話しかけた。
「よければ、お前達も食べないか? ビワハヤヒデ、ナリタブライアン」
「私達も? いいのか?」
「勿論だとも。君達の感想も聞いてみたい」
「そう言われたら、断るわけにはいかないな。いただこうか、ブライアン」
「姉貴がそう言うなら」
アウセンザイターから箸を手渡され、姉妹もぱくりと口に入れる。
すると、先程まで仏頂面だった二人の回に変化が出た。
「美味しい…!」
「食べただけで食欲がそそられる…」
「猛烈にご飯が食べたくなる…」
「フフ…これならば、問題は無さそうだな」
そう言ってから、自分でもパクリ。
「うむ、美味。今度は、これと相性のいいメインの料理を開発しなければな」
「その時は、私達も協力するぞ」
「味見役ならば喜んで引き受けようじゃないか。チケット辺りを呼んだら、美味しさの余り泣きだすかもしれんな」
「それはそれで見てみたいかも」
アウセンザイターにシンボリルドルフ、ビワハヤヒデとナリタブライアン姉妹。
いずれもが非常に高い実力と人気を誇る高等部のウマ娘達。
なんて豪華絢爛な光景だろう。
この組み合わせを見れた自分は、間違いなく三国一の幸せ者ですたい!
デジタルは、部屋の隅の方で両手を合わせながら血の涙を流しつつ幽体離脱をしかけていた。
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今度はどこに行こうかな?
廊下を歩きながら考えていると、ふと少し前にある部屋のドアが開いているのが見えた。
誰の部屋だろうと、単純な好奇心でちょっとだけ中を覗いてみると、そこにはまた驚きの光景が。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」
「ユニコーン…気持ちは分かる。せやけど、それだけはダメや。絶対にダメや」
「けど…けど…ボクは…!」
「そやな…悔しいよな。だけど、それは本当に最後の最後の手段や。安易に頼ってはダメなんや。なぁ…スズカ。グラス」
同意を求めるかのように、タマモクロスが一緒の部屋にいたサイレンススズカとグラスワンダーにも視線を向ける。
すると、二人もまた重々しい顔をしながらゆっくりと頷いた。
「ユニコーンさん…まだ絶望するには早いわ。可能性は残されてる」
「スズカさんの仰る通りですよ。きっと…きっと大丈夫です。だから……」
スマホを持つユニコーンの手に、そっと自分の手を添えて、三人で優しく呟いた。
「通販で豊胸マッサージ道具を買おうとするのはやめるんや…」
「うぅぅ…タマモクロスさん……でも…でも…」
「ユニちゃん…一体何が、あなたをそこまで駆り立てるんですか?」
「…揺れてたんです」
「「「何が?」」」
「ウララちゃんのが! 揺れてたんですよ! 明らかに!!」
「な…な…な…!」
「なんやてぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「嘘…でしょ…!?」
劇画調になって驚きまくる三人。
ドアの隙間から覗いていたデジタルも同じ顔になって驚いていた。
「ンなアホな! ウララはウチらと同じ仲間やったんやないんかっ!?」
「その筈でした……けど、最近になって急激な成長を遂げてきて…もしかしたら、それに伴って胸の方も……」
「実力と一緒にスタイルも…ってこと…!?」
「良く食べて、良く動いて、良く寝て…。絵に描いたような健康優良児ですものね…歳の事を考えても、成長しても不思議じゃないけど……」
「もしかしたら…卒業する頃にはウララちゃんもクリークさんやスカーレットさん、エアグルーヴさんみたいになって……」
「ギャァァァァァァァッ! それだけは言わんといて――――――――っ!!」
「ウララちゃん…あなたはいつまでも、純粋無垢なアナタでいて……」
「時の流れって…残酷なんですね……」
最近になって話題の中心にいるユニコーンドリルに、タマモクロスとサイレンススズカ、グラスワンダーという実力者たちのカップリングに悶絶したいところだったが、それ以上の衝撃があったのでそれどころではなかった。
(ウ…ウララちゃんが…皆のマスコット的存在のウララちゃんが……)
フラフラとした足取りで、デジタルは廊下の向こうへと消えていった。
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ショッキングな事を聞いたデジタルがさ迷い歩いた末に辿り着いたのは、旅館内にある土産物屋。
その店の中で、デジタルは件のウマ娘であるハルウララと、彼女と一緒に楽しそうに商品を見ているライスシャワーを発見した。
「どれも全部美味しそうだね~。何を買って行こうかな~?」
「ウララちゃん。それって、商店街の人達へのお土産にするの?」
「そうだよ! どれがいいかな~? う~んと……」
まるで、二人の間にだけ花畑が誕生したかのような華やかさを感じる。
少し臆病でネガティブなライスと、元気一杯でいつも笑顔のウララ。
対照的な二人ではあるが、どちらとも純粋無垢な心の持ち主という共通点も持っている。
(そっか…これが…これこそが『萌え』なのね……尊い…♡)
守りたい、この笑顔。
そう思わせるような魅力が二人にはあった。
だが、その時…デジタルは見てしまった。
ライスとウララが一緒に並んでいるからこそ分かってしまう違うの差が。
デジタルの記憶が正しければ、少し前までは二人の『大きさ』はそこまで違いは無かった。
けれど、今は明らかに違う。
大きくなっていた。明らかに。自分よりも。
「八百屋のおじちゃんにはこのクッキーにして、果物屋のおばちゃんには…ライスちゃん?」
「ど…どうしたの?」
ウララが土産を決めている間に、ライスはキーホルダーが植われている場所へと移動して、何かをじっと眺めていた。
「そのネコちゃんのキーホルダー…欲しいの?」
「う…うん。けど、ライスが買ったりしたら、無くしちゃいそうで……」
「それだったら!」
ウララはいきなり、ライスが見ていた猫のキーホルダーを二つ取ってから、一つはライスに手渡した。
「はい! 私も一緒に買って、もしもライスちゃんが無くしたら私のをあげればいいんだよ!」
「で…でもでも…それだとウララちゃんのネコちゃんが…」
「だいじょーぶ! その時は、また買うから!」
「ウララちゃん……」
根本的な解決にはなっていないが、重要なのはそこではない。
ライスの為にウララが何かをしてあげようとした。それが一番重要なのだ。
(わ…私はなんてバカなの…。あの優しさの塊みたいなウララちゃんを、そんな汚れた目で見てしまうだなんて…。よし! もう変な目で見るのはやめる! アグネスデジタルは、どこまでも『ウララ×ライス』のカップリングを応援します!!)
密かにデジタルが決意を新たにしているのなんて全く知らないウララとライスの二人は、仲良くレジまで行ってそれぞれに選んだ商品を購入していた。
もう既にお腹一杯だが、夜の時間はまだまだ長い。
アグネスデジタルは無事に寝る事が出来るのだろうか?
今回はフウウンサイキとアウセンザイター、ユニコーンドリルとハルウララの四人の様子をピックアップしました。
次回は残りのメンバーであるパスチャーキングとパーンサロイド、ダブルアールの三人の様子をお送りします。
本当は、この一話で終わらせる予定だったんですけど…そう甘くは有りませんでしたね。