今回は、またもやゲストとして登場する方々のご紹介です。
一回限りではあるのですが、だからこそ豪華にしたいという欲もあるのです。
観客席の一角に、ユニコーンドリルの姉妹とも言うべきデータウェポンの少女達がレースを見る為に集っていた。
自分達の大切な仲間の晴れ舞台なのだ。見に来ない理由は微塵も無かった。
実はこれまでのユニコーンのレースもこっそりと見に来てはいたのだが。
「皆の分のドリンク、買ってきたわよ」
「きたぞー」
「ご苦労様。バイパーちゃん、レオちゃん」
「別にいいわ。じゃんけんで負けた結果だし。全員分のお金を出してくれたのはドラゴンじゃない」
「一番稼いでいる身としては、これぐらいはね」
ドラゴンフレアにお釣りを渡しながら、バイパーウィップは全員に勝ってきたドリンクを手渡していく。
「はい。ブルちゃんはミルクティーで、ボアちゃんは烏龍茶。フェニックスがアップルジュースで、キバ姉さんがカフェオレ。んで、ドラゴンがオレンジジュースだったわね」
「バイパーちゃん達は何を買ったの?」
「私はドリアンジュース。レオちゃんは……」
「アイスココアだぞ」
自分の手に持っているカップを掲げながら、嬉しそうに自分の席に座る。
この場にはウマ娘がいない為、誰に何もツッコまないが、もしもここに一人でもトレセン学園の関係者がいたら迷わずこう言う事だろう。
レオサークルとツインターボ、そっくりすぎじゃね? …と。
「にしても、今回のレースは物凄い盛り上がりよねぇ~」
「前にユニちゃんに聞いたんだけど、ウマ娘の短距離のレースは余り注目されにくいらしいわ」
「まぁ…世間的にレースの花形と言えば中距離や長距離でしょうしね」
「実際、テレビ中継でもその二つのレースの方が視聴率が凄いらしいわ。特に、有馬記念とか日本ダービーみたいな大きなレースになると、最高視聴率50%オーバーする事もあるんですって」
「50って…すごっ」
それぞれに自分達のドリンクを飲みながら、喧騒に塗れながら話をしていく。
当人たちは気が付いていないが、全員揃って美女&美少女揃いなので、道行く人々…特に男性陣からは凄く注目されていた。
「今回ユニちゃんが出走するこの『スプリンターズ・ステークス』は、数少ない短距離のGⅠで、ここで優勝する事は即ち『日本一のスプリンター』になる事と同義なんだって」
「ボアちゃん、なんでそんなに詳しいの?」
「ユニちゃんがトレセン学園に入ると聞いた時から、ずっと勉強してました」
眼鏡をキラーンと輝かせながらニヤけるガトリングボア。
オタク気質な彼女だからこその執念なのかもしれない。
「…去年、ユニちゃんは全く同じレースで痛い敗北を喫してる」
「そうね。あの時の事は今でも鮮明に覚えてるわ。表向きは平気そうにしてたけど……」
「一人になると物凄く泣いてた。私達の事すらも気遣って絶対に涙を流そうとはしてなかったけど……」
「…かなり悔しかったんだろうな」
当時、意気消沈している仲間に掛けるべき言葉すら見つからなかった面々。
だからこそ今回のレースだけは絶対に勝ってほしい。
そう願わずにはいられない。
「しかも、その時の負けた相手ってのが……」
「今回のレースの一番人気。事実上、日本最強最速のスプリンター『サクラバクシンオー』さん……」
「それだけでも厄介なのに、今回のレースには他にも短距離で名を馳せてるウマ娘達が勢揃いしている」
「ライバルが全員格上…か。ユニコーンのこれまでに培ってきた力が試されるな……」
別にユニコーン自体がアウェーという訳ではないが、それでも今回は6番人気となっていた。
勝ち目が薄いと思っている者がいれば、奇跡を起こしてくれると信じている者もいる。
それでも彼女達はユニコーンの勝利を信じ続ける。
可能性は誰にも平等に有る筈だから。
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解説席には、前にフウウンサイキが出場した秋華賞を実況した女性が座っていて、その隣には三人の男達が並んで座っていた。
『さぁ…本日のスプリンターズ・ステークス。近年稀に見る盛り上がりを見せています。それも当然の事で、今回のレースには多くの駿足自慢が揃っているからです! 出場選手を見ているだけでも大盛り上がりなのに、実際にレースが始まってしまったどうなるのか!? 私には想像もつきません!』
鼻息を荒くして興奮している女性アナウンサーは、今にもドび上がりそうな勢いだ。
だが、まだ早い。己の中にある熱い滾りを解き放つ時間ではない。
『では、ここで今回のレースを共に見る特別ゲストを御紹介しましょう。まずは『GEARトレーニングセンター』でトレーナーを務めていらっしゃる『アルテア』さん』
『アルテアです。よろしく』
『『国公立袖付きトレーニングセンター』にてトレーナーとセンター長を兼任しているフル・フロンタルさん』
『フル・フロンタルだ。今日はよろしく頼む』
『そして、国内最大級の規模を誇る『大グレントレーニングセンター』のトレーナー兼センター長のカミナさんです』
『おうおうおう! 天下に轟く大グレン団! 不撓不屈の鬼リーダー…じゃなくて、鬼トレーナーのカミナ様たぁ…俺の事よ!!!』
『はーい。自己紹介は良いですけど、机の上には立たないでくださいねー』
まるで子供をあやすようにカミナに注意をするアナウンサー。
どうやら、彼と共演をするのはこれが初めてではないようだ。
『早速ではありますがお三方。今回のレースで注目しているウマ娘はいますか?』
『ふむ…矢張り、以前のステークスでも見事に優勝をしているサクラバクシンオーだろう。こと短距離レースにおいて、彼女の実力は限りなく最強に近いと言える。ここ最近のレースでも、彼女は常に一着を取り続けている。今回も期待をしてしまうのは私だけではない筈だ』
『成る程…確かに、ここから見ても、サクラバクシンオーの様子は万全に見えます。今日もまた、彼女の常識はずれの駿足が見れるのでしょうかっ!?』
フロンタルの説明を聞き、アナウンサーは前のめりになりながら解説席に設置してあるカメラに接近する。
『私はニシノフラワーに期待している』
『ほほぅ…アルテアさんはニシノフラワーですか。理由をお聞きしても?』
『彼女は他の者達と比べても体が一回り小さい。通常ならばそれは大きな弱点となりうるが、ニシノフラワーはそれを弱点から己の武器にまで昇華させてみせた若き天才だ。小柄な体格を存分に活かし、他の者達の隙間を縫うようにして勝利をもぎ取ってくれるだろう』
『そうですね! そういえばアルテアさん。いつも被っている仮面はどうなさったんですか?』
『……妹に暑苦しいと言われて…仕方なく…』
『あぁ~…』
アルテアは普段、実況などに呼ばれる際は妙な形の仮面を被って出演しているのだが、今回は素顔のままでカメラの前に出ていた。
『あれ…割と気に入ってるんだがな……』
『アルテアの旦那の仮面は見ているこっちでも暑苦しいからな。もうちっとこう…フロンタルの旦那みたいな仮面にすりゃいいんじゃねぇのか?』
『よかったら、私の予備を貸してもよいが?』
『いや…気持ちだけ頂いておこう…』
男三人の奇妙な友情を見せられて視聴者はどうしろと?
実際、アナウンサーも普通に困っていた。
『で…では、カミナさんは誰か注目している子はいますか?』
『んなもん一人に決まってるじゃねぇか!!』
『誰ですか?』
『ユニコーンドリルだよ!』
『彼女ですか。ユニコーンドリルは一年前に短距離から離れ、その後はマイルや中距離で見事な成績を残してはいますが……』
『それぐらいは俺だって知ってる。その離れた理由もな』
『ではどうして? 怪我などではないですが、一年間走っていない距離を久方振りに走るというのは、かなりのブランクがあると思われますが……』
『だからいいんじゃねぇか!! アイツにとって、今回のレースはリベンジなんだ! 一年前の借りを返す絶好の機会! しかも、その相手は最強クラスばかりときたもんだ! こんなシチュエーション…魂が燃えねぇ方がおかしいだろ!!』
瞳にメラメラと燃える炎を宿し、またもや机の上に足を乗せて力強く語るカミナ。
一見するとマッチョな意見にも聞こえるが、彼の言葉には何とも言えない不思議な説得力があった。
『なにより、名前がカッコいいからな! ドリルだぜドリル! 男の浪漫じゃねぇか!』
『ユニコーンドリルは女の子ですが…』
『んなのは関係ねぇ! 大事なのはドリルなんだよ!!』
『はぁ…』
『ユニコーンドリル!! お前のドリルは天を突くドリルだ!! 運命すらもぶち抜くドリルだ!! いいか! ドリルが一回転すればその分だけ前に進む! それがドリルなんだよ!!』
興奮が現段階で最高潮になってしまったカミナは、マイクを持った状態で大々的にユニコーンの事を応援し始める。
その魂の叫びを聞き、他の観客達も徐々にユニコーンに注目し始めた。
『ユニコーンドリルか…。言われてみれば、彼女は過去の敗北から立ち上がってこの場にいる訳か』
『己が苦渋を飲まされたスプリンターズ・ステークス…本人からすれば、このレースに出るという決意をするだけでも相当に勇気がいるだろう。並大抵の精神では出来ない偉業だ』
『だが、アイツは自分の足で今ここに立っている。テレビの前のテメェら!! そして、この会場にいる奴等も目ん玉かっぽじってよ~く見とけ!! 今回のレース…間違いなくスゲェことになるぞ!!』
『…という事らしいので、一旦スタジオにお返ししまーす』
なんだか収集が付かなくなってきたので、アナウンサーはごり押しで話を終わらせた。
長年ウマ娘のレース実況をやっていたわけではないという事か。
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一方その頃。パドックに出てきていたユニコーンは顔を真っ赤ににして恥ずかしがっていた。
「う~! どうしてレース前から、こんな辱めを受けないといけないのさ~っ!?」
「それだけユニコーンさんに期待されているって事じゃないんですか?」
「だとしても言い方ってものがあると思うんですけどッ!?」
ニシノフラワーの純粋な意見を聞かされても素直には納得できず、まだ彼女の顔は真っ赤のまま。
タイキシャトルやマルゼンスキーはその光景を微笑ましく見ているが、只一人だけ真顔で興奮しまくっているウマ娘がいた。
「ユニちゃん」
「カ…カレンさん? 真剣な顔でどうしたんですか?」
「このレースが終わったら、そのまま真っ直ぐに市役所に行こ? 大丈夫。ちゃんともう婚姻届は書いてあるから。後はユニちゃんがハンコを押せば完璧だよ」
「ボクの知らない所でなんちゅーことをしてくれてんですかねっ!? というか、絶対に行かないからねッ!?」
「心配いらないよ。カレンも初めてだから」
「何がッ!?」
「それを女の子の口から言わせないでよ…ユニちゃんのエッチ♡」
「ボクも立派な女の子なんですけどッ!?」
レース前から完全にカレンチャンのペースに。
今から世紀の決戦が始まろうとしているのに、当の本人達はトレセン学園にいる時のまんまだ。
という事は、当然のように彼女も絡んでくるわけで。
「皆さん! 今から大事なレースが始まるんですよっ!? もう少し緊張感を持ってですね…」
「なんて言いながらも、バクシンオーも顔がニヤけてマスよ?」
「ちょわっ!?」
タイキシャトルに指摘されて慌てて口を押さえるバクシンオーであったが、手の隙間から笑顔が漏れているので意味が無かった。
「ま、いつも通りに話せてるって事は、それだけリラックスしてるって証拠よ。なんたって、ここにいる皆それぞれに何度もレースには出場してるんだから。多少の高揚感なんかはあっても、ガッチガチに緊張して両手足が同時に出る…なんてことはしないでしょ?」
ウィンクしながら皆に諭すように話しかけるマルゼンスキーを見て、全員が力強く頷く。
そう、これは彼女たちなりに儀式でもあるのだ。
日常の己から決別をし、一人のウマ娘として勝負をする為の儀式だ。
「それじゃ、そろそろゲートに入りましょうか」
「そうですね。皆さん…僕、負けませんから」
「それはお互い様よ。いいレースにしましょうね」
笑顔で頷きながら全員が次々とゲートへと入って行く。
それを見送りながら、ユニコーンは一人、胸の前で力強く拳を握りしめながらゲートを見つめる。
(遂に来たんだ…この瞬間が。ここから…僕の再誕が始まるんだ)
目を瞑りながら最後にゲートへと入って行き、その瞼が開かれた瞬間……。
「「「「「!!?」」」」」
ゲートに入っているウマ娘…否、会場全体が凄まじいまでのプレッシャーに覆われた。
やっとここまで来ました。
次回、遂にレース開始です。
それと、今回のゲストについてですが……。
アルテア=まんま電童繋がり。
フロンタル=ユニコーン繋がり。
カミナ=ドリル繋がり。
…で出演させました。この三人については、ユニコーンのレースを描くと決めた時から出ることが確定していました。