これでようやくユニコーン編も完結です。
「なんだよあれ……」
「信じられないわ……」
「あの距離から逆転してみせるだなんて……」
およそ有り得ないような事を見てしまったトレーナー三人は、大きく目を見開いたまま固まっていた。
感動や興奮よりも先に、驚きの方が勝ってしまっていたから。
「て…寺田さん! あのユニコーンの末脚は一体何なんですかッ!?」
「あれこそが、ユニコーンドリルが編み出した必殺走法…その名も『ファイナルアタック』さ」
「ファイナル……」
「アタック……?」
沖野達に説明するようにゆっくりと語る寺田であったが、その手はさっきからずっと拍手をし、その目には涙が溜まっていた。
一人のトレーナーとして、ウマ娘の大きな成長に感動を禁じ得ないのだろう。
「最後の最後…ラストの直線に入った直後、それまでに貯め込んでいた全ての力を一気に大爆発させて、それらを微塵も残さずに出し切る。しかも、これの雛型を生み出したのは他でもないユニコーン自身でね。僕はただ、それを明確な形にしたに過ぎない」
「全ての力を残さずに出し切るって……」
「簡単に言ってますけど、そんなの絶対に不可能ですよ?」
全部の力を出し切る。
実際にそんな事が出来るウマ娘…否、生き物がこの世に一つでも存在しているだろうか。
もしもそんな事が本当に可能ならば、それを自在にコントロール出来たとしたら。
それは最早、生物として確実にワンステージ上の存在と言っても過言ではないのだろうか。
「その不可能を可能したのが彼女なんだよ。見た限りでは、素養自体は最初から持っていたみたいだしね」
前世においてデータウェポンだったユニコーンドリルだからこそ『出し切る』という行為が出来、同時にその選択肢が自然と生まれた。
世の中の常識に真っ向から対立する覚悟が無ければ、今回のレースは勝てなかっただろう。
「寺田さん…今回のレース、間違いなく海外にも届いている筈ですよ。その意味…分かってらっしゃるんですよね?」
「勿論だとも。寧ろ、こちらもそれを望んでいるしね」
東条の一言に対し飄々と返す寺田。
多くは語らなかったが、だからこそ理解出来た。
これは牽制なのだ。
海の向こうにいる、まだ見ぬウマ娘達に対する牽制。
日本のウマ娘を決して舐めるなよ。
最後の一瞬まで油断をせずにかかって来い。
ゴールする瞬間であっても、十分に逆転することが可能なのだと。
「アウセンザイターにフウウンサイキ…そこから更にユニコーンドリルまで…。こりゃあ…世間がチームSRWの事を放ってはおかねぇぞ…?」
これからの事を心配しつつ、沖野は大歓声に包まれている会場を眺めていた。
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「やったわね…ユニちゃん」
「それでこそデータウェポンの代表だ。本当に…本当に見事だったぞ…グス…」
実の妹を見守るような目で涙を浮かべるドラゴンフレアの横では、強がりながらも感動の余り涙を流しているフェニックスエールがいた。
そんな彼女にハンカチを貸しているキバストライカーも、優しい笑みで人々からの喜びの言葉を受けているユニコーンを見ていた。
「ほんと…大した奴だよ」
「お祝いに、ユニちゃんにたっくさんの牛乳を送ってあげないとね!」
「程々にしておきなさいよ。変に余らせてもユニちゃんが困るだけだし」
「うぐ…! ユニちゃんの感動の瞬間を絶対にカメラで押さえようと思っていたのに…完全に姿がぶれてるじゃない! これ一応、最新式の奴なんですけどッ!?」
「それだけユニコーンの足が速かったって事だろ? おーい!」
データウェポン同士、彼女達は殆ど姉妹関係に近い。
その一人であるユニコーンドリルが見事にレースを制してみせたのだ。
全員が色々と言ってはいるが、その目尻には共通して涙が溜まっている。
そしてそれは、解説席も同じであった。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! こんなにも感動したレースは生まれて初めてだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』
『カミナの言う通りだ。正直、本当に誰が勝っても不思議ではないレースではあったが……』
『実に素晴らしいレースだった。いずれのウマ娘も称賛に値する…が、ここは敢えて優勝したユニコーンドリルにこの言葉を送らせて貰おう』
テーブルに足を掛けた状態で男泣きをしているカミナの横で、徐にフロンタルが椅子から立ち上がり、その手にマイクを持ってから会場全体に聞こえるような声で叫んだ。
『ユニコーンドリル。勝利の栄光を君に!』
因みに、解説の女性はずっと隣でハンカチで涙を拭き続けていた。
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「ハァ…ハァ…ハァ……か…勝った…の…?」
ゴール直後、今にも倒れそうな足取りで減速しながらユニコーンは虚ろな目で周りを見渡す。
自身の勝利を告げるコールが聞こえはしたが、未だに現実味が無いようだ。
「その通りだよ…ユニちゃん」
「カレン…さん…?」
目の前にカレンの姿を見つけた途端、足がもつれて前に倒れそうになる。
それを彼女が優しく抱きとめてくれた。
「凄かった…本当に凄かったよ…。負けて悔しいけど…それ以上に惚れ直しちゃったな……」
「凄かった…か……」
カレンの言葉を聞いて、ようやくユニコーンの目にも涙が溜まる。
そこに、共に走ったライバル達もやってきた。
「今回はお姉さんの完敗ね。まさか、あそこから抜かれるとは思ってなかったわ」
「ユニコーンさん! 本当に凄かったです!」
「けど、ネクストはこうはいきまセン!」
「へへ…望むところですよ……」
本当は正面から堂々と答えたいが、ファイナルアタックを放ったが故に今のユニコーンにはまともに歩行するだけの体力すら残されていなかった。
「ユニコーンドリルさん」
「バクシンオーさん……」
顔じゅう汗だらけになりながらも、爽やかな顔だけは崩さないバクシンオーが手を差し出している。
その意図をすぐに悟ったユニコーンは、ゆっくりとではあるがその手をしっかりと握りしめた。
「最後の末脚…素晴らしいバクシンでした。最後の一瞬一秒まで諦めようとしないその気迫…もしかしたら、私はそれをずっと待っていたのかもしれません」
いつものハイテンションなバクシンオーではなく、レース中の静かな闘志を秘めた彼女のまま語っていた。それが意味するのはただ一つ。
「今度は、私が…私達があなたにリベンジをする番です。受けてくれますよね?」
「当然…ですよ。だってそれが…勝者の義務…ですからね」
力強い笑顔と共に握手を交わす両者。
だが、そこに同じようにリベンジを誓う者が現れた。
「その話…私も乗らせてもらうわ!」
「キングヘイローさん……」
いつの間にか観客席の最前列にまで移動していたキングヘイローが、腰に手を当てつつユニコーンを指差す。
その顔はもう何も恐れてはいない。只管に眼前に好敵手を見つめるだけだ。
「あなたは、このキングを破って今回のレースへと挑んだ。ならば当然、私にもリベンジをする権利はあるわよね?」
「そうですね…ボクもまた、キングさんと一緒に走りたいですし…」
「ユニちゃんッ!?」
自分の知らない所で意外な二人が仲良くなっている事に、カレンが人知れず危機感を覚える。
相手は色んな意味で強敵のキングヘイロー。
生半可なことでは勝てないかもしれない。
そんなカレンを更に危惧させるウマ娘が大声と一緒にやって来た。
「ユニコーンドリル! 次は私と勝負をしろ!」
「ナ…ナリタブライアン先輩…?」
またもや、姉を置いてきぼりにした状態でいつの間にか最前列にまで来ていたブライアンがユニコーンに勝負を申し込む。
流石に今度は全く接点が無いので、ユニコーンもキョトンとせざる負えない。
「ちょ…オレとのリベンジマッチはいいのかよっ!?」
「それはそれ。これはこれだ。勿論、ダブルアールにもちゃんとリベンジは果たす。だが、その前に私はユニコーンドリルと走ってみたい」
「おいおい…マジかよ。どんだけお前は飢えてんだよ……」
隣でげんなりしているダブルアールを余所に、カレンはまたもや別の意味で戦慄していた。
(さ…三冠ウマ娘五人衆の一角がユニちゃんを狙ってるっ!? これは本気で由々しき事態なのではッ!?)
確かに狙ってはいるが、それはまた別の意味であることをカレンは知らない。
恋をすると、こんな所まで盲目的になるのか。
「ったく…。ユニコーン!」
「は…はい?」
「よくやったな! 今日のお前…最高に輝いてたぜ!」
サムズアップと眩しい笑顔でユニコーンを労うダブルアール。
それにつられて、思わず彼女も笑顔になる。
「ユニコーン…まさか、お前まで『こちら側』へと足を踏み入れるとは思わなかったぞ」
「こちら側って……」
「それはそれとして…見事な末脚だった。お前がチームメイトで私も誇らしいよ」
「フウウンサイキさん……」
チーム内で今、最も注目されているフウウンサイキにそこまで褒められる。
たったそれだけで、ユニコーンは嬉しさを隠しきれないでいた。
「ユニちゃーん!!」
「ユニコーンさん! 今回のレースを見て改めて思いました! 私…トレセン学園に入って、チームSRWに入って本当に良かったです!!」
ウララが満面の笑みを浮かべながら手を振り、その横ではパーンサロイドが完全に号泣している。
どれだけハンカチで拭いても拭いても涙が止まらない。
「ユニコーン……本当に…本当にCongratulationよ。よく頑張ったわネ……」
「はい…ありがとうござます…パスチャーさん」
いつものハイテンションな彼女はどこへやら。
まるで聖母のような綺麗な笑みで一筋の涙を流すパスチャー。
それだけ、心からユニコーンの勝利を祝福しているという事なのだろう。
「なんだろう……レースが終わった途端、急にお腹が空いてきたな……」
今のユニコーンは体力の全てを使い果たしている状態なので、空腹を訴えてしまうのも無理は無かった。
だが、そんな状態の仲間に対して彼女が何もしない訳は無かった。
「ならば、その役目は私に任せて貰おう!!」
「あはは…なんか普通に予想出来た」
大歓声を遮るほどの勢いで叫ぶアウセンザイター。
伊達に専用BGMで割り込んではいない。
「今日の主役は間違いなく君だ。その優勝を祝わない理由はあるまい。学園に帰ったら、食堂を貸し切ってのユニコーンの優勝記念パーティーでも開くとしよう」
「それはいいな。生徒会として、是非とも私達も手伝わせてくれ」
「無論だ。我が友よ」
そして、またまたいつの間にか近くまで来ていたシンボリルドルフとエアグルーヴが話に混ざる。
どうやら、彼女達も興奮を抑えきれなかったようだ。
「なんか…凄い事になってきた気がする…」
「ムムム…!」
なんか急にライバルが増えたような気がしたカレンは、ここで先制攻撃を仕掛ける事に。
「ユニちゃん…カレンは諦めないからね!」
「う…うん?」
絶対に言葉の意味を理解してない。
疲労でフラフラじゃなかったとしても理解出来ていたかは怪しいが。
「というわけで…夏合宿の約束通り、ユニちゃんが勝ったからカレンがユニちゃんの彼女になります!」
「そういえば、なんかそんな話をしてたっけっ!? あれ本気だったのッ!?」
「当たり前じゃない! カレンはいつだって本気だよ!」
「ですよねー…」
大観衆の前でのいきなりの爆弾発言にユニコーンの元気が少しだけ戻った。
どれだけ疲れていてもツッコみ脊髄だけは健在だったようだ。
「ところでユニちゃん。なんか私達以上に疲れてない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ…物凄く疲れてるだけだから。流石にウィニングライブまでには少しは回復すると思う」
「よかった~! 折角のユニちゃんとカレンのデュエットを台無しにしたくは無いもんね!」
「「「「いやいやいや」」」」
ウィニングライブで歌うのは二人だけではない。
ちゃんとレースに参加した全員で歌い踊るという事をすっかり忘れているカレンだった。
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専用の衣装に着替え、ユニコーンはライブ会場のセンターに立っていた。
奇跡的としか言いようがない大逆転の末に勝利を手にした彼女の歌を、この場にいる全ての人々が今か今かと待ち侘びている。
「ボクは、今日にいたるまで本当に多くの人達に支えられてきました」
マイクを持ってスポットライトを浴び、彼女は今の自分の素直な気持ちを言葉にする。
どうしても、これだけはライブの前に言っておかないといけないような気がしたから。
「ボクを応援してくれたファンの人達。チームメイトの皆。家族同然の大切な仲間達。こんなボクの我儘を聞いてくれたトレーナー。同じ学園に通う皆……」
誰かが鼻をすする音が聞こえた。
涙を拭き、彼女の感謝の言葉を一言一句漏らさず耳に焼き付ける。
「その人たち全てに最大の感謝の気持ちを…この歌と一緒に送ります。聞いてください」
「W-infinity」
次回は優勝記念パーティー。
そこで今回、出したくても出せなかったキャラ達も総登場させるつもりです。