今回は全員集合…じゃなくて、主に高等部のメンバーを出す予定です。
ついでに言うと、お正月編も出す予定ですのでお楽しみに。
完全に日も落ち、すっかり暗くなったトレセン学園。
学園は冬休みに入り、生徒達は各々に里帰りをしている。
故に、本来ならば学園に残っているのは宿直の人間などしかいない筈なのだが、中には実家には帰らずに学園の敷地内で年を越そうとする者達も少なからず存在している。
彼女達もまた、その数少ない者達の一部だった。
「もう大晦日…か。早いもんだな」
「時間が過ぎるのなんてあっという間さ」
「that`s right。それだけ私達が夢中で頑張ったっていう証拠ヨ」
「フッ…こうして、静かに過ごす年の瀬というのも悪くは無い」
すっかり明かりも落ちた学園内にて、未だに光が灯っている食堂。
そこにはチームSRWの高等部メンバーである『アウセンザイター』『フウウンサイキ』『パスチャーキング』『ダブルアール』の四人が静かに大晦日の夜を過ごしていた。
「しかし…本当に良かったのか、ダブルアール? 我々はそれぞれに故郷が国外にあるが故に、そう簡単には帰郷出来ないから、こうしてまだ留まっているが……」
「いいんスよ。オレは休学って形で家にずっといたし、それに……」
「それに?」
「電話越しに兄貴たちにこんな事を言われたんス」
『学校を休んでまでこっちを手伝ってくれたんだ。だから…』
『年末ぐらいは仲間達と一緒に過ごしてきやがれ!!』
「…って。だから、寧ろ帰ったら兄貴たちにぶっ飛ばされちまう」
「なんとまぁ…あの人達らしいというか…」
「相変わらずwildなBrothersね…」
ファン交流会や聖蹄祭などで、よくダブルアールの兄たちは学園に訪れているので、チームメイトの彼女達は彼らの事を良く知っていた。
大切な妹が世話になっているという事もあってか、普段は非常に強面な彼らも穏やかな顔つきになる。
「にしても大変ッスよねぇ…外国から来てるってのは。確か…アウセンザイターの姉御がドイツで、フウウンサイキが香港。パスチャーキングがアメリカだったよな」
「改めてそう言われると、チームSRWはとても国際色溢れるチームだな…」
トレセン学園には数多くのチームが存在しているが、ここまで外国出身のウマ娘が所属しているチームもまた珍しい。
特に、香港から来ているフウウンサイキは非常に稀有な存在と言える。
「今年も色んな事があったよなぁ…。パスチャーがダービー制覇して…」
「フウウンサイキが我等と同じ領域…無敗の三冠ウマ娘になった」
「ダブルアールが休学から復帰して、それと同時に新メンバーである『パーンサロイド』の加入…」
「そして…ユニコーンドリルの短距離界への復帰…ネ」
こうして言っていくと大したことは無さそうだが、実際には全ての出来事が非常に濃密な事ばかりだった。
今でも鮮明にその時の事を思い出せる程に。
「そういや、よくこの時期に食堂の貸切とか出来たッスね」
「私から秋川理事長へ直に頼みに行ったのだ。そうしたら…」
『許可っ! 君達チームSRWならば何の問題もあるまい! 遠慮なく使ってくれたまえ!』
「…と、二つ返事でOKサインを貰えた」
「あのロリっ子理事長…しっかりしてそうで、割とその場のノリで生きてるよな…」
余談だが、ここにいるアウセンザイター以外の面々はいずれも初対面の時に秋川理事長の事を学園に迷い込んだ子供だと勘違いをして怒られた経験がある。
彼女の容姿を考えれば無理も無いのだが…。
「結局、姉御たちは里帰りはしないのか?」
「今年中にはしないな。まだ冬休みはあるし、少し落ち着いてきた頃に一度帰ろうかと思っている」
「ミーも同じよ。向こうで待ってるパピー達とも会いたいし」
「フウウンサイキは?」
「私はここに残ってるよ。向こうに戻ってもやる事なんて何もないしな」
「そっか……」
ふと壁掛けの時計に目をやると、もう22時を回った。
まだまだ眠たくは無いが、少しだけ小腹が空き始めた。
「そろそろ、年越し蕎麦の準備を始めるか」
「待ってました!」
「と言っても、もう仕込などは朝の時点で済ませておいたのだがな」
「流石はアウセンザイター…Careful preparationネ…」
「それってどういう意味だ?」
「『用意周到』って意味ヨ」
「あ~…成る程な。普通に勉強になる…」
アウセンザイターが椅子から立ち上がって食堂の調理場へと向かおうとした瞬間、食堂の扉が開かれて誰かが入ってきた。
「どうやら、ナイスなタイミングだったようだな」
「そのようですね」
「「「え?」」」
入ってきたのは、アウセンザイターの親友にして最大のライバルであり、トレセン学園の生徒会長でもあるシンボリルドルフと、出身地が同じエイシンフラッシュの二人。
「ルドルフとフラッシュがどうしてここに…? というか、帰省してなかったのか…」
「あの二人は私が呼んだんだ」
「姉御が?」
「ルドルフの方は普通に誘ったら了承してくれて、フラッシュの方は私と同じ理由で帰省をする時期を意図的に遅らせているので、まだ学園内にいるんだ」
「そういや…姉御とフラッシュって同じドイツ出身だったっけ…」
まさかの人物達の登場に、他の三人は少しだけ気まずそうにする。
別に彼女達が苦手と言う訳ではない。
そこにはまた別の理由が存在していた。
「こんばんわ、三人共」
「あぁ…こんばんわ。ルドルフ。フラッシュ」
「席ならいっぱいあるから、好きな場所に座るといいワ」
「なら…遠慮なく」
そう言うと、二人は近くにあったテーブルを引き寄せてきて、三人の傍までやって来た。
「…なんでテーブルを寄せる?」
「折角ですから」
いつもは几帳面なフラッシュが、今日はなんだか少しだけ緩く感じる。
大晦日という事もあって、彼女も肩の力を抜いているのかもしれない。
「しっかし…参ったな…。まさか姉御が会長達を呼んでるとは…」
「私達が来ては何か拙かったのか?」
「いや…そうじゃないんだけどよ…」
「では、どうして?」
「実は…オレも呼んでるんだよ。別の奴を」
噂をすれば何とやら。
ダブルアールが告白をしたと同時に、再び食堂の扉が開いて誰かが入ってきた。
「あ~…寒かった。とっとと温まりたいぜ…」
「そうね。あ…いた」
入ってきたのは、ダブルアールのルームメイトのエアシャカールと、チームスピカで唯一(?)の高等部であり、スペシャルウィークの良き先輩でもあるサイレンススズカ。
「ダブルアールが呼んだのって…あの二人か?」
「正解。あいつ等も今年は戻らないって言ってたからよ。折角ならと思って誘ったんだ」
「ふむ…お前もだったのか…」
「って事は、まさかフウウンサイキも…?」
「あぁ…流石に一人では寂しいだろうと思って誘ったんだ」
スズカとシャカールの後ろから、もう一人別のウマ娘がいつもと全く変わりのない様子で入って来る。
その特徴的な白衣を見ただけで誰もが一発で分かった。
「お邪魔するよ。おや…これまた随分と豪華なメンバーじゃないか」
「フウウンサイキが呼んだのってタキオンか…」
「最近になってフウウンサイキとGet alongだったものね」
アウセンザイターにダブルアール。そしてフウウンサイキと三人揃って誰かを呼んだ。
このパターンからして、パスチャーキングも誰かを誘ったのではないか?
そんな意味を込めて彼女の方を見ると、眩しい笑顔と共に見事なサムズアップをしてくれた。
「勿論、私も素敵なゲストを呼んでおいたワ」
「「だと思った…」」
シャカール、スズカ、タキオンがこっちまで来たタイミングでまたもや扉が開かれる。
それは、いつもテンションが高く元気な彼女。
「ヘーイ! ハッピーニューイヤー!」
「やっぱり…」
「タイキシャトルか…」
やって来たのは、トレセン学園でも割と多いアメリカ出身のウマ娘のタイキシャトル。
故郷が同じという事もあってか、パスチャーキングとは非常に仲がいい。
「タイキ。まだ年は越してないわヨ?」
「おっと。ソーリー…気が早かったみたいですネー…」
最初は四人だけだったのに、いつの間にか賑やかになってきた夜の食堂。
溜息を吐きつつも『結局はこうなるのか』と微笑を浮かべるダブルアールなのだった。
「思ったよりも大人数になってしまったな。だが、こんな事もあろうかと…ちゃんと多めに食材は用意してある。全く以て問題は無い」
「でも、一人では大変だろう。私も手伝うよ、アウセンザイター。お前にはいつも世話になりっぱなしだ。こんな時ぐらいは恩返しをしなくてはな」
「感謝する。我が友ルドルフよ」
そうして、アウセンザイターとルドルフが二人並んで調理場へと入ろうとした瞬間……非常に聞き覚えのある声が食堂内に響いた。
「いやー! まさか、今年最後にアウセンザイターの年越し蕎麦が食えるなんてな! 最高過ぎて思わずバルマー星まで行ってルアフのガキンチョに幼稚園児のコスプレをさせちまいそうだぜ!!」
「い…いつの間に食堂に来た…ゴルシ…」
なんと、誰にも気が付かれること無くフウウンサイキの傍まで椅子を持って来て座っているゴールドシップの姿がそこにあった。
流石にこれには全員が本気でドン引きした。
「何言ってんだよフウウンサイキ。ゴルシちゃんはゴルシちゃんでゴルシちゃんなんだから、ここにいて当たり前だろ?」
「そ…そうか」
まさか、気配すらも感じなかったとは。
まだまだ修行が足りないと思ったフウウンサイキは、またいつか山籠もりの修行をしようと決意をした。
「それに、来てるのはアタシだけじゃねぇぞ?」
「なに?」
ゴルシが徐に後ろの方を指差すと、そこには涎を垂らして興奮気味のオグリキャップと、それをなんとかして押さえようと必死のタマモクロスが。
まさかの二人に、遂には立ち上がって驚いた。
「オグリとタマモもいるだとっ!?」
「あいつらこそ帰省したんじゃなかったのかよ…?」
「年末年始は電車とか込み合うからな。外国組と同じように時期をずらして帰るつもりなんだと」
「みんな…事情は似たり寄ったりなのネ…」
国内でも国外でも、考える事は同じ。
この分だと、まだまだ学園内に残っているウマ娘は多そうだ。
「アウセンザイターの作る年越し蕎麦…! これを食べずに帰るなんて言語道断…! もしも逃したら、悔やんでも悔やみきれない…!」
「いや…なんでG1出る時以上に真剣な顔をしとるんや…。そないに心配せんでも、アウセンザイターのことやから、ちゃんとウチらの分も用意してくれてるはずや。それよりも、あんまり食いすぎたらあかんで? 食べるのはウチらだけやないんやからな?」
「それぐらいは分かっているよタマ。今日だけは我慢してお替りはしない…その代り、超大盛りで頼む!!」
「全然分かっとらんやないかーい!」
思わずタマモクロスのツッコミが炸裂。
だが、この程度では彼女は怯まない。
「心配は無用だ! 我が友オグリキャップよ! 君が来ることも私はあらかじめ想定していた! 故に君には……」
ドン! っと、テーブルの上に巨大な器が置かれ、その中には並々と大盛りの年越し蕎麦が盛られていた。
「この超巨大すり鉢に入った蕎麦を御馳走してやろうではないか!」
「幾らなんでもデカすぎやー!! どこで手に入れたんや!?」
「普通にそこらの雑貨店に売ってあったが?」
「マジでッ!?」
もうツッコミが追いつかない。
忘れられがちだが、オグリに負けず劣らず、アウセンザイターも相当な天然キャラである。
もしかしたら、実力派のウマ娘とは天然娘が多いのかもしれない。
「完全にコントになってやがるし…。ある意味じゃ年末っぽいけど」
「特番って意味か?」
「うん。もうさっきまでの雰囲気が壊れちまったな」
呆れつつも笑っているダブルアールとフウウンサイキ。
なんだかんだ言いつつも、この雰囲気が嫌いじゃないのだ。
「いいんじゃないのかな。実に私達らしくて」
「そうかもしれんな、タキオン」
「最後の最後まで賑やかで…なんだか凄く和むわね」
「そういうお前も、すっかりこの雰囲気に慣れちまってるな…スズカ」
「先輩がいてくれたからですよ」
「そーかよ」
しれっとダブルアールの方に椅子をずらして近づくスズカ。
その顔は少しだけ赤く染まっていた。
「みんな…待たせたな! 全員分(オグリの分を除く)の年越し蕎麦が出来上がったぞ!」
「「「「おぉ~!」」」」
「どれでも好きな物を取ってくれ。具材のトッピングも自由にしてくれていいぞ」
テーブルの上に数多く並べられている蕎麦の近くには、お揚げや掻き上げを初めとした多種多様の具が揃っていた。
見ているだけでも唾を飲む光景に、全員が思わず見とれてしまう。
「よし! オレは揚げと揚げ玉を入れようっと」
「ならば、私はこの天ぷらにするか」
「ほならウチは…豪華に全部乗せやー!」
皆揃って色々と話ながら蕎麦を取っていき、全員にちゃんと行き渡った。
そうしてから再び時計を見ると、もう既に時間は23時30分を経過していた。
「うぉっ! もうすぐ新年じゃねぇか!」
「では…ルドルフ。生徒会長らしく挨拶を頼むよ」
「そうだな…分かったよ。フウウンサイキ」
椅子を動かしてから全員の顔を見渡せるようにしてから、ルドルフは箸を持ってから手を合わせた。
「早く皆も食べたいだろうから、長々とした事は言わない。だが…これだけは言わせてくれ。みんな…今年もご苦労様だった。来年からもまた、互いに切磋琢磨しながら頑張っていこう! いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
挨拶が終わった途端、全員が揃って箸を手にとって蕎麦を食べ始める。
麺を口にした瞬間に皆の表情が笑顔に変わった。
あのタキオンやシャカールでさえも。
「本当に素晴らしい…! 味もさることながら、栄養配分まで完璧…! 非の打ち所がない!」
「ここまで計算され尽くしてるッつーのに、この極上の美味さ…やっぱアウセンザイター先輩は只者じゃねぇな…」
賑やかに話をしながら年越し蕎麦に舌鼓を打っていると、遠くから除夜の鐘の音が聞こえてきた。
「カウントダウンが始まったな」
「来年はどんな年になるんだろうな…」
「それは誰にも分からないワ。でも…」
「分からないからこそ、そこには無限の可能性が広がっている」
四人で窓から夜空を見上げていると、空から雪が降ってきた。
「あ…雪だ」
「積もるかな?」
「さぁな」
「もしも積もったら、皆で雪合戦をしたいわネ」
「それ…確実に寮対抗戦になるな…」
全員がそばを食べるのに夢中になっている中、フウウンサイキ一人だけがチラッと時計を見た。
もうすぐ深夜の12時。年が明ける。
(5…4…3…2…1…0…)
新年突入。
だが、まだ誰もその事に気が付いていない。
だから、心の中で静かに呟いた。
(新年…おめでとう。今年もよろしくな…)
今年最後の投稿終了!!!
活動報告でも言っていますが、改めて言います。
今年一年…お疲れ様でした!
皆さん、良いお年を!