彼女の登場を予期していた人もいるぐらいですから。
勿論、レース場以外でも大活躍します。
トレセン学園の食堂。
在籍している数多くのウマ娘達の食事の為に、ここは学内でもかなり力の入れられている施設の一つである。
そんな食堂なのだが、今日はいつも以上の賑わいを見せていた。
「このマルゲリータ…最高…♡」
「こっちのリゾットも極上に美味い。幾らでも食べられそうだ」
「こんなにも美味しいパニーニを食べたの…初めてかも……」
先程から物凄い勢いで目の前にある料理を平らげているのは、スペシャルウィークにオグリキャップ、それからライスシャワーの三人だった。
スペシャルウィークとオグリキャップが大食いであることに関しては学園中の誰もが知っている事なので驚きには値しないが、普段から大人しく優しい性格をしているライスシャワーが二人に匹敵する程の大食漢だとは誰も想像していなかったようで、誰もが目を丸くして三人の様子を伺っていた。
そして、テーブル全体を覆い尽くすような量の料理をあっという間に完食し、三人揃って食堂全体に響くかのような元気な声でこう叫んだ。
「「「おかわり!」」」
その声に応えるのは、学内最高の料理の腕前を持つウマ娘。
軽くウェーブの掛かった銀色の髪を持ち、何故か常にサングラスを掛けている謎が多い、世界最上級レベルの実力を誇る皆からの尊敬を一身に受け続けている誰もが認める完璧超人。
「よかろう! 少しだけ待っているがいい!」
彼女の名は『アウセンザイター』。
ある日突然にトレセン学園へとやって来たドイツ出身のウマ娘で、チームSRWのリーダーも務めている。
噂では、とてつもない名家の出身で、実はトレセン学園のスポンサーでもあるとか無いとか。
「相変わらず、見ているだけで胃が凭れそうな食欲だな…あいつ等は」
「ライスさんも同類だったのは少しだけショックですけど…」
「ン~! 本当に美味しそうに食べるから、なんだかコッチもお腹が空いてきちゃうわネ!」
食堂の調理室へと戻っていったアウセンザイターを見ているのは、同じチームメイトのフウウンサイキとユニコーンドリル、パスチャーキングの三人。
彼女達の前にもアウセンザイターの料理が並んでいて、楽しそうに食事をしている。
言うまでも無い事だが、量は普通だ。
「行くぞ! シュルター・プラッテ!(フライパン)」
容姿、実力、性格。
あらゆる点で全く隙が見当たらないウマ娘なのだが、なんでか自分の持っている色んな物に名前を付けたがる不思議な癖があった。
しかも、それを真面目な顔、真剣な口調でするのだから馬鹿にも出来ない。
それ以前に、このトレセン学園にアウセンザイターをからかうような度胸を持ったウマ娘は一人もいない。
「トロンベよ! 今が駆け抜ける時!!」
「どこに行くつもりだ。どこに」
奥から聞こえてきた叫び声に、思わずツッコみを入れてしまうフウウンサイキ。
彼女にこんな事を自然とさせてしまうのは、トレセン学園広しと言えども、恐らくアウセンザイターだけだろう。
「待たせたな! カニカマチャーハンと天津飯、それからオムライスだ! 無論、君達に合わせた量にしてある」
それは『山』だった。
漂ってくる匂いだけで、それが極上の一品なのは分かるのだが、誰が食堂で山脈を見ると思うだろうか。
「私は、このチャーハンを貰いますね!」
「ラ…ライスは、このオムライスがいいな……」
「では、私は天津飯にしよう」
三人の腹は年頃の少女としては見るも無残な姿となっているにも拘らず、そんな事なんて知るかと言わんばかりに軽々と大皿を持ち上げて自分の下まで持っていく。
それから、三人仲良く手を合わせて一言。
「「「いただきます!」」」
…もう誰も何も言わない。
ツッコむだけ無駄たと諦めているから。
「あぁ~! マジで最高にカッコいいぜ! 何をしてても絵になるとか凄すぎかよ!」
「確かに…アウセンザイター先輩は完全に別次元の存在よね。私も、あの人から一番を取れる自信は無いわ……」
再び登場のダイワスカーレット&ウォッカの二人。
彼女達もそれぞれにアウセンザイターの作ってくれたカレーとビーフシチューを食べている。
「間違いなく、お嫁さんとして必要な要素を全部持ってるわよね…」
「このカレーもマジうめぇ~! もう一杯ぐらいは余裕でイケちまうぜ!」
大食い三人衆に気を取られがちだが、食堂には他にもアウセンザイターの手料理目当てで来ているウマ娘達が大勢いる。
彼女の最も凄い所は、そのオーダーを全て完璧に把握し、全部の料理の手に抜かない事だ。
「大盛況だな。アウセンザイター」
「シンボリルドルフか」
皆の憧れの的である生徒会長が来た途端、食堂が一気に騒然となった。
シンボリルドルフとアウセンザイター。
この二人が並び立つ光景を見られるなんて、滅多に無いからだ。
因みに、ちゃんとシンボリルドルフの後ろには副会長であるエアグルーヴも控えている。
「この前の天皇賞…見させて貰ったぞ。まさに圧巻の走りだった。私も負けていられないな」
「フッ……君ほどのウマ娘にそこまで言わせられたのであれば、こちらも全力を出した甲斐があったというものだ」
互いに認め合うライバル同士であり、親友同士でもある両者。
これまでに出場したレースで、全て一着を取り続けてきた二人が一緒に走ればどうなるのか。
少なくとも、歴史的な一戦になる事だけは確実だろう。
「だが、君に挑む前に戦うべき相手がいるがな」
「フウウンサイキか?」
「そうだ。修行を終えてからの彼女は完全に別人と言っても差し支えない。このまま行けば三冠はほぼ確実。となれば、史上五人目の三冠ウマ娘が誕生する事になるな」
ミスターシービーにナリタブライアン、シンボリルドルフ。
そこにアウセンザイターが加わって、学内では『三冠四天王』と陰で呼ばれているとかないとか。
「正直、今から楽しみでならないよ」
「君にそう言われれば、彼女も奮い立つだろう」
チームリーダーであるアウセンザイターにとって、メンバーのウマ娘達は掛け替えのない仲間であり妹のような存在。
彼女達の成長を見守る事も、今のアウセンザイターの楽しみの一つとなっていた。
「アウセンザイター先輩」
「エアグルーヴ、どうした?」
二人の会話が僅かに途切れた瞬間に、後ろにいたエアグルーヴが前に出てアウセンザイターに話しかける。
彼女にとっても、尊敬する会長と同格の存在であるアウセンザイターは憧れの存在であると同時に目指すべき目標でもある。
そのせいか、柄にもなく緊張しているようにも見えた。
「会長も仰られていましたが、先の天皇賞での走り…感服致しました。その雄姿を見ているだけで、数多くのことを学べた気がします。優勝…本当におめでとうございます」
「ありがとう。叶うのであれば、いつの日か君とも走ってみたいものだな」
「わ…私とですか?」
「あぁ。我が友であるシンボリルドルフが認めている君の実力…是非ともこの身で体験してみたい」
サングラス越しに見つめる彼女の目は、どこまでも真っ直ぐにエアグルーヴを見つめている。
自分は今、挑戦を受けている。世界有数の実力を持つウマ娘から。
そう思うだけで、自然と気が引き締まる。
「…その時が来た時は、胸を借りるつもりで挑みたいと思います」
「フッ…また楽しみが増えたな」
爽やかな微笑みを見せるアウセンザイター。
それにより周りのウマ娘達がキャーキャーと騒いだのは言うまでもない。
「そうだ。折角こうして食堂まで来たのだから、何か御馳走しよう。何がいい?」
「では、私は前に食べさせて貰ったチーズ入りハンバーグを頼もうかな。あれは本当に美味しかった」
「そ…それじゃあ、私はナポリタンをお願いします」
「心得た! 行くぞトロンベ!!」
サングラスをキラーンと光らせたアウセンザイターは、ブランシュタイン家の紋章が刻印されている特別製の包丁を手に調理室へと向かった。
「会長といい、アウセンザイターといい、最強クラスの実力を誇るウマ娘はいずれも性格に一癖も二癖もある連中ばかりだな」
「本当は擁護したいけど…否定できないんですよね……」
「It`s very delicious! ミーにもオカワリくださーイ!」
しみじみと語るフウウンサイキとユニコーンドリルの隣で、声高々におかわり宣言をするパスチャーキングなのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ファン感謝祭。
それは、普段あまり交流が出来ない一般の方々との触れ合いを目的としたトレセン学園の有名なイベントの一つである。
その運営を担当しているのは主に生徒会なのだが、現在…かなりのピンチに陥っていた。
「会長! 午後からの借り物競争に出場予定だった子が体調不良になって出られなくなりました!」
「なんだってっ!?」
生徒会室に飛びこんできたウマ娘から放たれた衝撃の一言。
現在の時間は午前の11時半を過ぎた辺り。
なんとかして頑張れば代役を見つけられそうだが、他のウマ娘達は既に午後の予定が詰まっている状態だ。
「仕方がありません。会長、ここは私が代わりに出場します」
「しかし、お前も午後から予定があるだろう?」
「急いで終わらせれば問題ありません。大丈夫です」
エアグルーヴからの提案を素直には受け入れられないシンボリルドルフ。
ここで彼女に頼るのは簡単だ。
だがしかし、それで負担を強いてしまっては意味が無い。
この危機的状況をどうすればいいのか。
その時、生徒会室に突如として一人のウマ娘が姿を現した!
「その役目は私に任せて貰おう!」
「お…お前はッ!?」
「アウセンザイター先輩っ!?」
生徒会室の扉の所で腕を組んで立っているアウセンザイターが力強く叫ぶ。
そうだ、彼女がいた。
皆がピンチの時には必ず駆けつける彼女が!
「私のすべき事は既に全て終わっている。故に、午後からの時間はたっぷりと空いている」
「…頼めるか?」
「フッ…任せておけ。我が友よ!」
「と…とんでもない事になった……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
もうすぐ借り物競争が始まる時間。
出場予定のウマ娘達がスタートラインに並んで行く中、突如としてアナウンスが流れる。
『申し訳ありませんが、出場予定だった子が体調不良になってしまったため、代わりのウマ娘が走る事になりました』
来場した者達は急にざわめきだす。
一体誰が代わりに出場するのか。
それが気になって仕方がないのだ。
「お…おい! あれってまさか……」
「ア…アウセンザイターッ!? あの三冠四天王の一角が借り物競争に出るってのかっ!?」
「し…信じられない……」
「俺…感謝祭に来てよかった……」
予想の遥か上を行く代役に、観客も出場するウマ娘達も驚きを隠せない。
特に、ウマ娘達は自分達が普段から憧れている存在と肩を並べて走る事が出来ると思うだけで、色んな意味で高揚しまくっている。
「そんな訳で、よろしく頼むぞ」
「ひゃ…ひゃい! よろしくおねがいしましゅ!」
緊張のあまり思わず噛んだ。
そんな事は簡単にスルーされ、借り物競争が始まる。
『では、位置について…よーい……ドン!!』
全員が一斉にスタートを切る。
勿論、先頭はアウセンザイターだった。
圧倒的な速さで紙が置いてある場所まで行き、自分が持っていくべき物を確認する。
「……ふむ。成る程な。承知した」
納得したように何度か頷くと、いきなり何処かへと向かって走り出した。
「ど…どこに行くつもりなんだ…? なんか校舎に入っていったけど…」
「というか、あの紙には何が書いてあったんだ…?」
皆の疑問は尤もだった。
だが、その答えはすぐに分かる事になる。
「あ。物凄いスピードで戻ってきた…って、あれぇっ!?」
「なんじゃありゃあっ!?」
校舎から出てきたアウセンザイターが抱えていたのは、あろうことかシンボリルドルフだった。
彼女の事をお姫様抱っこしながらも、全く衰える事を知らない驚異的な脚力でコースへと戻ってきて、そのままゴールへと一直線。
「ちょ…ちょっと待てアウセンザイター! これは一体どういう事なんだっ!? というか、まずは降ろしてくれ!」
「残念だが、幾ら親友の君の言葉とは言え、今は聞き入れる訳にはいかない」
「なんでだっ!?」
「これが借り物競争だからだ!」
「意味が分からないぞ! まさか、紙に私の名前でも書いてあったのかッ!?」
「フッ…少し違うな。それについてはゴールをしてから話そう。駆けろ、トロンベ! その名の如く!!」
抱えられているシンボリルドルフの訴えを完全に無視した状態で一着でゴールイン。
その速さもさることながら、同年代の少女をお姫さま抱っこしながらゴールするという衝撃的な姿に全員が度肝を抜かれていた。
「私という荷物を抱えているにも拘らず、安定の一着…か。本当に恐れ入るよ。で、何が書いてあったんだ?」
「これだ」
まずはシンボリルドルフを降ろしてから、彼女に自分が手に取った紙を見せる。
そこにはこう書かれてあった。
「『大切な親友』…?」
「その通り。それを見た途端、私の頭には真っ先にお前の事が思い浮かんだ。だから、生徒会室まで迎えに行ったのさ」
「全く…お前って奴は……」
苦笑いを浮かべながらも、その顔は羞恥心で真っ赤になっている。
それが後の『夏の祭典』で薄い本を厚くしたのは必然だった。
いつでもどこでも安定のトロンベ。
それこそがアウセンザイター。
シンボリルドルフとの百合も完備と、全方位に隙がありません。
取り敢えずは、私が予定していたチームSRWのメンバーはこれで勢揃いです。
貯蓄していたネタが尽きたので、次回以降はどうなるか不明です。