あんな最終回を見せつけられた上に、いきなりピックアップ大当たりで別衣装のテイオーが当たってしまったら、書きたくなるってもんでしょうが!!
そんなわけで、今回はちゃんとトウカイテイオーが登場します。
地味にノーマルな方のテイオーも持ってるんですよね。
なんだか、ウマ娘に関しては割とガチャ運があるような気がします。
ある日の放課後。
授業を終えたフウウンサイキは、チームメイトたちと合流してトレーニングをする為に教室を出た。
「さて…と。早く行くとするかな。まずはいつも通り、ストレッチをしてから軽く走り込みをしつつ、それから……」
ブツブツと虚空に向かって今日のトレーニングメニューを呟きながら歩いていると、いきなり彼女の背後に気配が現れる。
ウマ娘としてだけではなく、格闘家としても一流の腕前を持つフウウンサイキには一発で分かった。
「…私に一体何の用だ? トウカイテイオー」
「君にどうしても聞きたい事があって」
トウカイテイオー。
チームスピカの一員であり、メジロマックイーンのライバルとも言える存在。
その一方で生徒会長であるシンボリルドルフを心から尊敬し、彼女のようなウマ娘になりたいと常日頃から頑張っている少女。
いつもは明るい笑顔を周囲に振り撒いている彼女が、今日は珍しく険しい顔をしていた。
「フウウンサイキ…君も『三冠ウマ娘』を目指しているの?」
「なに?」
三冠ウマ娘。
文字通り、3つのクラシックレースを制したウマ娘の事を指す言葉だ。
海外と日本とでは指す競争は異なるが、日本の場合は主に『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』、もしくは『桜花賞』『オークス』『秋華賞』を制した者達の事を言う。
実際には他のレースも対象にはなっているが、ここでは割愛させて貰う。
現在、国内にてこの三冠を制したウマ娘は4名のみ。
その事実だけで、三冠を制するという事がどれだけの偉業なのかが伺える。
「君は今までに『桜花賞』と『オークス』を圧倒的な速さで勝ってみせた。しかも、それ以外のレースでも全て負け無し。フウウンサイキが三冠を狙っていると思うのは自然な事なんじゃないかな?」
かくいうトウカイテイオーもまた、同じように無敗の三冠ウマ娘を目指している一人。
自分が最も敬愛しているシンボリルドルフが成した大偉業を己も成し、いつの日か必ずや彼女の背中に追いつくことがテイオーの目標であり夢でもある。
「ふむ…確かに、私はこれまでに数多くのGⅠを制してきた。それは認めよう」
「それじゃあ……」
「だが、私は三冠ウマ娘を目指している訳じゃないよ」
「……え?」
彼女の口から出てきたのは意外過ぎる言葉。
誰もが一度は目指すであろう目標を、フウウンサイキは目指していない?
「もし仮に私が無敗の三冠ウマ娘になったとしても、それは単なる結果論に過ぎない」
「け…結果論……?」
「あぁ。私が目指している場所は、もっと遠くに位置している」
「それって一体……」
恐る恐るテイオーが尋ねると、彼女の後ろからこれまた非常に見知ったウマ娘がやって来た。
「その話、是非とも私にも聞かせて貰えないか?」
「今度はシンボリルドルフか…一体何なんだ?」
「会長……」
腕組みをしながらやって来たシンボリルドルフだったが、今日の彼女は少し様子が違った。
まるでレース前の精神集中をしているかのような、そんな顔をしていたのだ。
「お前の実力は最早、国内最高クラスに達している。お前が次に出場を予定しているという『秋華賞』も、ほぼ確実に勝つと思っている。そうなれば、お前は五人目の三冠ウマ娘となる」
「そうだな」
「だというのに、お前はそれすらも『過程』としか見ていない。良ければ教えてほしい。フウウンサイキ…お前はどこを見ている? 何を目指しているんだ?」
「私が何を目指している…か。ふっ…そんなもの、最初から決まっている」
ゆっくりと振り向き、彼女は廊下のど真ん中で堂々と宣言した。
自分が目指す場所を。生涯の夢を。
「出場する全てのレースに勝つ。私が引退をする、その瞬間までな」
「「なっ……!?」」
まるで子供の夢のような言葉に、二人は本気で驚く。
全てのレースに勝利する。言っている事は単純だが、それは三冠を取るよりも遥かに遠く険しい茨の道だ。
そんな事を、フウウンサイキは真っ直ぐに言ってのけた。
「分かっているのか……その言葉が意味する事を……」
「当然だ。全戦全勝…今時、そこらの子供でさえも言わない事だ。だが、私はそれを絶対に成さねばならない」
「どうして…?」
「お前と同じ理由だよ、テイオー」
「ボクと…同じ…?」
「そうだ。お前がシンボリルドルフを目標とし、同じような『無敗の三冠制覇』をしようとしているように、私にも心から尊敬してる人物がいるのさ」
ここで初めて、フウウンサイキは年頃の少女のような笑みを浮かべた。
昔の事を思い出すと、自然と笑みが零れる。
「嘗て、私の『師匠』は前人未到の全戦全勝を掲げ、それを見事に成し遂げてみせた。そして、もう一人…私にとって『大切な人』もまた同じように全戦全勝を宣言し、達成した。二人の意志を継ぐ者として、私も同じ道を歩みたいと思うのは当然だろう?」
「「…………」」
フウウンサイキの目指している場所は、誰よりも遠く、大きかった。
普通ならば一笑に付すことを、彼女は本気で目指している。
この時初めて、テイオーとシンボリルドルフはフウウンサイキの強さの秘密を知ったような気がした。
「しかし、私ばかりにかまけてていいのか? テイオー」
「それってどういう意味さ?」
「能ある鷹は爪を隠す…ということだ」
「え?」
「「え?」」
一応、最も分かりやすい諺を選んだつもりだったのだが、テイオーには全く伝わっておらず、思わずフウウンサイキとシンボリルドルフが固まってしまった。
「…今度、国語を教えてやるからな」
「私も付き合おう……」
「ホント? やったぁ~!」
ほんの少しだけ、テイオーの学業が心配になった二人だった。
「と…とにかく、一緒について来れば分かる。百聞は一見に如かず…だ」
「分かったよ。(ひゃくぶ……なにそれ?)」
全然分かっていなかった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
練習用のコースに来ると、もう既に他のメンバーはストレッチを始めていた。
前屈をしているユニコーンドリルの背中をパスチャーキングがゆっくりと押しているのだが、その際に彼女の豊満な胸が背中に当たって非常に複雑な顔をしていた。
「……後で牛乳飲もう。ブルちゃんの農場から送られてきた奴を」
「何か言いましたカ?」
「何でもないです…くすん」
まだまだ成長期。希望はあるぞユニコーンドリル!
「よし。次は屈伸だ」
「は~い! いっちに~さんし~…」
その傍では、ハルウララがアウセンザイターと一緒に足を延ばす。
傍から見ていると、完全に歳の離れた姉妹だ。
「悪い、待たせたな」
「フウウンサイキか。遅かったな…どうしたんだ?」
「いやなに。来る途中で少し話し込んでしまってな」
親指で後ろを指差すと、テイオーとシンボリルドルフが並んでいた。
「我が友シンボリルドルフに、トウカイテイオーか。御馴染みの組み合わせだな。どうしたのだ?」
「フウウンサイキに誘われてな。『爪を隠した能ある鷹』を見に来たのさ」
「本来ならば他のチームのウマ娘に自分達の練習風景を見せるのは余り宜しくは無いが、どうしても『あいつ』の変貌ぶりを見せてやりたくてな」
「成る程な…了解だ。まだトレーナーは来ていないから問題は無かろう」
そう言われて初めて気が付く。
確かに、ここにはトレーナーらしき人影が無い。
「どこに行ったんだ?」
「理事長室だ」
「なんだ? まさか飲酒運転でもしたのではあるまいな?」
とんだ言いがかりである。
「トレーナーは下戸だ。それは有り得んだろう」
(今のはフウウンサイキなりの冗談だと思うのだが…それにすら真面目に答えてしまうのか。ふむ…矢張り、アウセンザイターの言動は全てが勉強になる…!)
何が勉強になるのかは知らないが、止めておいた方が良いと言っておこう。
「げこ? トレーナーさんはカエルさんなの?」
「えぇっ!? チームSRWのトレーナーってカエルなのぉっ!?」
「TrainerがFrogになっちゃったんですカッ!? それは大変ネ~!」
「そんなわけないでしょうっ!? って、いたたたたたた! 痛い! パスチャーさん! ちょっと押しすぎですからぁ~! 僕は体操選手みたいに体がそこまで柔らかくは無いんですけどぉ~っ!?」
ボケが一人追加されてツッコミが追いつかない。
しかも、その拍子にユニコーンドリルがパスチャーキングに押し潰されそうになっていた。
「下戸とは、酒が苦手という事だ」
「そ~なんだ~! 先輩は物知りだね~!」
「だよね~! アウセンザイター先輩は何でも知ってるんだよ~!」
完全にアウセンザイターに懐いているハルウララ。
ある意味では、シンボリルドルフとトウカイテイオーのような関係なのかもしれない。
「トレーナーは例のレースに関する話し合いをする為に遅れるらしい。彼が来るまでは基礎トレだけに留めておくように、とのことだ」
「分かりました」
「OK!」
「は~い!」
「承知した」
こうして、二人の意外な客から見守られながら、チームSRWのトレーニングが開始されたのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
トレーナーが不在なせいか、最年長でありチームリーダーでもあるアウセンザイターが後輩たちの指導をしていた。
「よし! その調子だユニコーン! その呼吸を忘れるな!」
「はい! それじゃあ、もう一回行きます!」
ストップウォッチを持ちながら、芝の上を疾走するユニコーンを指導する。
その傍らでは、遅れてストレッチを終えたフウウンサイキが座禅を組んでいた。
「あいつは何をしているんだ?」
「彼女はいつも、トレーニングや試合の前にはああして精神集中をしているのさ。フウウンサイキの日課みたいなものだな。なんでも、夜寝る前にもやっているとか」
「徹底しているな……」
どんな時も絶対に手を抜かない。
フウウンサイキは、本気で有言実行をするつもりでいると行動で実感出来る。
「いいですカ、ウララ。ミーやアナタのようなタイプはspeedだけじゃなくてpowerも重要になってくるノ。けど、ウララはミーよりもbodyがsmallだから…」
少し離れた場所では、パスチャーキングがなにやらハルウララにコツのようなものを伝授していた。
ウララはそれを真剣な顔で聞き、何度も頷いている。
「パスチャー、そっちはどうだ?」
「問題ナッシング! All rightヨ!」
「よし。ではウララ。いつものように芝の隣にあるダートコースに出てくれ」
「は~い!」
元気よく手を上げたウララは、そのまま一人でダートコースに向かった。
その様子を見た見学組の二人は驚きを隠せないでいた。
「ちょ…ちょっと待ってよ! ウララちゃんがダートって…いいのっ!?」
「ダートコースは多くのウマ娘が苦手とするコースの筈……まさかっ!?」
ふと頭に過った可能性に、思わずまだ座禅を組んでいるフウウンサイキの方を振り向く。
視線を向けられた彼女の顔はニヤリとしていて、何も言わない。
これから起こる事をよく見ていろ。
無言でそう語っていた。
「距離は…短距離の1400でいいだろう。どうだ?」
「全然だいじょ~ぶ!」
大きく手を振りながら応えたウララは、すぐに表情を切り替えてから走り出す構えを取る。
「遠慮せずに全力で行け! では、ヨーイ……スタート!」
アウセンザイターの合図と共に、ウララが砂埃を巻き上げながら走り出す。
「出だしは決して悪くない…寧ろ、理想に近いとも言える」
「あの感じ…ウララちゃんって『差し』なの…?」
最初はそこまで速度を上げずにスタミナを維持。
それが激変したのは、コースの半分まで差し掛かった時だ。
「!!!」
「な…なんだとっ!?」
「ちょ…マジでッ!?」
信じられないような速度で砂上を疾駆する。
通常よりもパワーが要求されるコースであるにも拘らず、ハルウララはそれを難なく走破していた。
「これまでにウララが出走したレースは、全て芝な上に中距離から長距離といったものばかりだった。それで負けるのは当たり前の話。なぜなら、全く彼女の適性に合っていなかったのだから」
ウララの練習走行を見ながら、徐にアウセンザイターが語り出す。
その顔は誰よりも満足げだった。
「だが、そんな彼女を我らがトレーナーは決して見捨てなかった。その慧眼でウララに最も合った適性を見抜き、彼女の最大にして最強の長所を生かせるトレーニングメニューを考案したのだ」
「その長所と言うのが……」
「ダート…って事…?」
「その通り。ウララは全ウマ娘の中でも非常に稀有な、ダートコースを最も得意とするウマ娘だったのだ」
そうして話している間に、ウララは無事に1400を走り切った。
ダートを走っていた時のスピードは、学内にいる他の実力者達と遜色が無い。
そして知る。フウウンサイキが言っていた『爪を隠している能ある鷹』が誰なのかを。
「ダートで短距離。この二つの条件が組み合わさったレースならばウララは間違いなく無敵だ。最近はスタミナも増え始めているから、マイルも行けるかもしれないな」
「は…ははは……これは参ったな……」
「ウララちゃん……」
正直、テイオーはウララの事は全く眼中になかった。
学内でも人気はあるし、誰にでも優しくて元気がある可愛い女の子。
それぐらいの認識しかなかった。
けれど、今回の事でその認識は根底から覆される。
自分だけじゃない、他の皆が最も苦手とする事が、彼女にとっての最強の武器だったのだ。
「だから言っただろう? 私ばかりを見ていていいのか…と」
「フウウンサイキ……」
座禅を終えたフウウンサイキが、ドヤ顔でテイオーの隣まで来た。
完全にしてやったりと思っている顔だ。
「一つ、いい事を教えてやろう」
「なに…?」
「他の全てを捨てて、自分の長所を極限まで極めた者は…最強を越える」
「それが…今のウララちゃん…?」
「あぁ。自分の進むべき道を見つけた今のウララは…強いぞ?」
チームSRWには天才的な才能を持つウマ娘が勢揃いしていると言われている。
そんな中で唯一、ウララだけが例外とされてきたが…それは大きな間違いだった。
彼女もまた立派な『天才』だ。
自分達とは全く別のベクトルでの天才児だった。
「どうやら…私の目もまだまだのようだな。後輩の隠れた才能一つ見抜けないとは……」
「無理もあるまい。私とて、最初は分からなかった。全てはトレーナーの采配のお蔭だ」
「らしいな。これからは、ハルウララを見る目が変わりそうだよ」
冷や汗を掻きながら、シンボリルドルフは嬉しそうにパスチャーキングと抱き合うハルウララを見つめていた。
それまでは芽すら息吹いていなかった花が、蕾になり、大きく美しく咲き誇った瞬間だった。
またもやフウウンサイキの出番を多くして、更には少し影が薄くなっていたハルウララにスポットライトを当てました。
まぁ、私が単純にウララちゃんが大好きなだけなんですけどね。
まだ右も左も分からない頃、ウララの笑顔と能力に何度助けられたことか……。