音のヒーローアカデミア   作:いろはす/1roh4su

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第十二話・俺と轟と決勝進出

「ほい、これで十分だろう。さ、顔を洗っておいで」

 

試合後、俺はリカバリーガールの出張保健所で手当てを受けていた。

飯田の猛攻によって体は擦り傷だらけで、鼻血は出てるわ軽い脳震盪起こしてるわといった状態だったようで、勝ち進んだという事でしっかりと治してもらった。

言われた通りに顔にこびり付いた自分の鼻血を洗面所で洗い流し、リカバリーガールに手渡されたタオルで顔を拭う。

 

「そんじゃさっさと席に戻りな」

 

そう言って手を払ったリカバリーガールに感謝の言葉を伝えて部屋から出た。

観客席へ向かう道を歩きながら、先程リカバリーガールに貰った飴玉を口に含む。

 

彼女の『癒し』はあくまでも自然治癒力を高める個性なので、治癒を受けた対象者は大きく体力を損耗してしまうらしい。そのため、生徒に治癒を施した際はエネルギー補充を目的として飴玉やグミなどのお菓子を配っているそうだ。

 

ほんのり苦いオレンジの味がする飴玉を舌の上で転がしながら歩いていると、不意に誰かとぶつかってしまった。ぶつかったのは黒髪で妖しく光る真紅の瞳の男子生徒。よく見ると異形型なのか耳が尖っている彼は心底申し訳なさそうな顔で冷や汗をダラダラかき、恐る恐るといった風に声を掛けてきた。

 

「あ、スンマセン……。って、アンタさっきベスト4進出した人!!」

 

俺の容姿を見て先程までステージ上で激闘を繰り広げていた人と同一人物だと気づいたらしい彼は驚いたようにそう言った。

雄英のジャージを着ていて一年の会場にいるから、十中八九同い年だろう。

こちらこそぶつかってごめんねと言うとダイジョブっすとそそくさと去って行ってしまった。

 

……それにしても今日はやたらと人とぶつかるな。そういう日か?

 

そんなことを考えながら俺は、観客席を目指して再び足を進め始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

ただいまと席に戻り、ステージを見ると切島と爆豪が激しい攻防を繰り広げていた。

どうやら芦戸対常闇の試合は終わってしまったらしい。結果は上鳴曰く常闇の圧勝だったそうだ。常闇の個性は芦戸の『酸』では相性が悪かったのだろう。

 

……というか緑谷はまだ帰ってきていなかったのか。相当ボロボロだったし処置に時間がかかっているのかも知れない。さっきカーテンを閉じっぱなしのベッドがあったしそこにいたのかな?

 

「響崎くん! 飯田くんに勝ったんだね、おめでとう!」

 

噂をすればなんとやらとはよく言ったもので、声の主を見るとそこには腕を首から吊っている緑谷がいた。リカバリーガールの元へ行っていた割には治っていない怪我が気になるが、おそらく体力の限界で完全治癒まではできなかったのだろう。

 

「うん。一発手痛い蹴りを喰らっちゃったけどね」

 

「あの時は勝てたと思ったのだがな。油断してしまったよ」

 

「飯田くん!」

 

後ろを振り返ると飯田が奇怪な動きで拳を握り締めてガッツポーズをしていた。

 

「緑谷くん、手術、無事成功したんだな!」

 

「うん、ありがとう」

 

なるほど、緑谷の帰りが遅かったのは手術をしていたからってことか。なんにせよ無事で良かった。

 

ふとステージに目をやると、先程まで切島の『硬化』に歯が立たず、防戦一方だった爆豪の『爆破』が、切島の硬い装甲を破ったところだった。

 

「爆豪の攻撃が効いてる!」

 

その言葉に慌ててステージを見た緑谷は、すぐさま戦況を把握し、いつもの(ブツブツ)を始める。

 

「……かっちゃんは切島くんの硬化が緩む隙をずっと狙ってたんだ」

 

「なるほど! 彼、そういう弱点を突くの好きそうだもんな!」

 

「飯田、その言い方はどうかと思うよ……」

 

俺に指摘されてしょんぼりした飯田を尻目にステージを見ると、爆豪に容赦のない連撃を浴びせられた切島がノックダウンされてしまうところだった。

 

『爆豪エゲツない絨毯爆撃で三回戦進出!! これでベスト4が出揃った!!』

 

「マジか、今帰ってきたばっかなのに……行ってくる」

 

「行ってらっしゃい。頑張ってね!」

 

「応援してるぞ! 俺の分まで勝ってきてくれ!」

 

緑谷と飯田の応援を受け、俺はステージへと向かった。轟は強敵だけどやってやるさ。

 

 

 

 

 

 

『準決! サクサク行くぜ。お互いここまで強者故の余裕で勝ち上がってきた者同士の勝負だ! よく見たら二人とも白髪だぜ! 響崎結弦(バーサス)轟焦凍!!』

 

プレゼント・マイクのアナウンスを聞きながら、俺と轟はステージで向かい合う。その表情は互いに真剣そのものだ。

 

『START!』

 

本日何度目かの合図で試合が始まった。すると早速轟が右足から冷気を放ち、氷結を俺に向かって放ってきた。

間一髪、後方に飛び退ることで回避する。が、轟はそれを見越していたかのように着地した俺に向け再び氷をけしかける。

 

「響崎、おまえ何かとバックステップで避ける癖あるよな」

 

……実際に見越していたらしい。相変わらず才能マンは恐ろしいなと思いつつ、俺は迫りくる氷塊を身体能力増強で蹴り砕くことで対処した。

 

「そんな癖があるなんて自分でも気づいてなかったよ。教えてくれてありがとね」

 

そう言うと俺は攻勢に出るべく、身体強化を50%まで引き上げた。そして瞬時に加速し、轟へと接近する。

轟は反射的に氷壁を生み出すことで俺の進行を妨げようとするも、そんなもので止まる俺ではないと言わんばかりに殴り砕き、轟の懐に入り込んで脇腹に一撃を加えた。

 

「っがっ」

 

吹き飛ばされる轟は咄嗟に氷壁で場外を免れたようだ。

 

……ん? なんか右腕がひんやりする。

 

そう思った俺が右腕を見ると、手首から肘にかけての範囲が凍り付いてしまっている。おそらく殴り飛ばされる瞬間に凍らせたのだろう。

 

「かなりハイスピードなはずなんだけどなあ……」

 

「悪ぃな。これで右腕は封じさせてもらった」

 

そう言いながら立ち上がる轟。彼の言う通り、ひじも凍らされてしまっている現状、右腕で殴ったところで有効打にはならないだろう。まんまと彼の思惑にはめられてしまったというわけだ。

 

「やってくれるね……」

 

「おまえの身体強化は厄介だからな」

 

そう言って白い息を吐く轟に、俺はそりゃどうもと返す。

……轟に勝つには接近戦に持ち込まないと。そう思った俺は再び地面を蹴り、轟に近づく。

轟もまた、氷壁を展開するも俺はそれを易々と砕いた。

 

「チッ……、やっぱ砕いてきやがるか……」

 

轟は自身に迫る左腕でのストレートを、先程と同じようにカウンターで凍らせようとする。

だが俺は轟に触れられる前に左腕を引き、氷結を回避した。

 

が、才能マン轟はそれさえも予想していたようで。

俺が左腕に気を取られている隙に、下からの氷結が襲い掛かってきた。たちまち両足が凍り付く。

轟は、両足を凍らされて動揺し動きの止まった俺に触れて首から下を氷で封じ込めた。

 

「ぐうッ……」

 

「悪ぃな」

 

そう言って轟が俺から離れ始め、主審のミッドナイトも旗を上げ、轟の勝利を告げようとする。

 

会場中の誰もが、轟の勝利を確信し、俺も諦めかけたその時。

 

「響崎っ! 負けるなぁ!!」

 

突如会場に響いた少女の声に、全員が動きを止める。

俺が声の主を探して観客席を見渡すと、席から身を乗り出している耳郎の姿が見えた。

その声を意に介さず俺から離れようとする轟に、俺はぼそりと呟いた。

 

「ま……ねえよ」

 

「?」

 

「まだ終わってねえよ、バカ野郎!!」

 

俺はそう叫ぶと、()()()()爆音を放出し、体に纏わりつく邪魔な氷を粉々に粉砕した。

 

「なっ!!?」

 

驚いたような表情を浮かべる轟に俺は接近し、渾身のタックルをお見舞いする。

体格差があるとはいえ、不意を突いた攻撃に思わず体勢を崩した轟。その隙を見逃すはずもなく、俺は容赦なく顔面に裏拳を叩き込み、そのままの勢いで後ろ回し蹴りを喰らわせる。

 

『凍らされ、絶体絶命化と思われた響崎、なんと氷を砕いて脱出し格ゲーのような連撃を轟に叩き込んだァ!! こいつあスゲー!!!』

 

『やけにサマになってんな……昔誰かに教わったとかか?』

 

後ろ回し蹴りで吹き飛ばした轟はゆっくりと立ち上がった。鼻からはさっきの裏拳で出たのだろう血が流れだしている。

俺は未だ戦意の衰えない轟に追撃すべく、轟に向かって身を低くして突撃する。

轟は俺を近づけまいと氷結を繰り出す。が、その瞬間に俺の姿が消えた。

 

「!?」

 

轟は一瞬驚いたように動きを止めるも、すぐに周囲全方位を凍らせる。

 

だが俺はそこにはいない。

 

「うおおおおあああ!!!!」

 

俺の咆哮を聞いた轟が俺の居場所に気づいた。俺は()()()()()そのままに轟へと拳を振りかぶる。

轟は上空から落下してくる俺の攻撃をかわすことが出来ないと判断し、せめて威力を殺そうと氷壁を自分の前後に展開する。

俺の拳は防御のための氷壁を粉砕し、轟のボディを捉え、その体をぶっ飛ばした。轟の体は背後の氷壁を突き破って飛んでいき――。

 

 

壁にぶつかって崩れ落ちた。

 

「轟くん場外! 響崎くん――……決勝戦進出!!」

 

『こいつはアチィー!! 拘束を破ってからの響崎の猛攻で轟場外! 響崎、本体育祭優勝候補を捻じ伏せ、決勝進出だ!!』

 

 

 

 

 

 

轟との準決勝第一試合を終えた俺は、席に戻るなりクラスメイトからの手厚い世話を受けていた。

全身を凍り付かされたあの攻撃で体が冷えに冷えてしまっていたのだ。

 

「響崎くん、これを使いたまえ」

 

飯田が予備のジャージを取ってきてくれたり。

 

「これもお使いくださいまし」

 

八百万が個性で厚手のブランケットを創ってくれたり。

 

「響崎、これ飲みな」

 

耳郎が温かいミルクティーを買ってきてくれたりとそれはもう手厚かった。

 

「ありがとね皆」

 

俺はそうお礼を言ってありがたく厚意を受け取った。

 

「ところで響崎くん。あの凍り付いた状態からどうやって脱出したの?」

 

とヒーロー分析が趣味の緑谷が質問してくる。ステージは俺と轟の戦いで凍り付いているため第二試合の開始まではまだ時間があるし、どうやら他の皆も気になっているようなので簡単に解説をすることにした。

 

「まあ簡単な話だよ。俺の個性は音を放出することもできる個性ってことは皆も知ってるでしょ? いつもは手のひらから放出してるけど、別に手のひらからしか放出できないとは言ってないしね」

 

「なるほど……」

 

手のひら以外から音を放出すると指向性の設定がうまくいかないから普段は手のひらから出してるだけで、今回のような拘束ならやろうと思えば簡単に抜け出せてしまうというわけだ。

……まあ実は咄嗟に思い付いてダメもとでやってみただけなんですけどね。

それを暴露してもかっこ悪いだけなので黙っていよう。

 

そうこうしているうちに、轟の氷を全て溶かし終わり、準決勝第二試合が始まった。

 

……この戦いはかなり一方的なものになってしまったが。

 

開始直後、爆豪はいつも通りに爆撃を浴びせ、それを常闇の黒影(ダークシャドウ)が防ぐも、第一回戦第二回戦を猛攻で乗り切った割には防戦一方だった。

それもそのはず、決着のついた後に緑谷から聞いた話によると、常闇の黒影(ダークシャドウ)は光で弱体化してしまう厄介な特性があるらしいのだ。爆豪の爆発は発光を伴うので防戦一方となってしまうのは必然だったといえる。

だが当然そのことを爆豪は知る由もないが、見た目に似合わず聡明な彼のことだ、途中で感づいたのだろう。爆発で強い光を放って黒影(ダークシャドウ)を弱体化させた後に常闇を組み伏せ、見事降参させたのだった。

 

それまで破竹の勢いでトーナメントを勝ち進んできた常闇のまさかの敗北に、会場は沸き立った。

 

そしてこの時点で、雄英体育祭決勝戦で俺と戦う相手が確定したのだった。

……爆豪と戦うの嫌だなあ。




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