波乱のバトルが繰り広げられた雄英体育祭最終種目も残りは決勝戦のみとなった。
出場選手の体力回復のため、試合は10分後に開始されるそうだ。
そんなわけで俺は今、選手控え室で試合開始を待ちつつ休息をとっている。
……正直勝てるビジョンが見えない。爆豪の『爆破』はかなりの脅威だ。回避は出来ても切島の『硬化』のような防御する手段は俺にはない。それに加えて爆豪は機動力がウリの戦闘スタイルだ。回避しきれる保証もない。
正直、準決勝だって、轟が
緑谷に攻略法を聞くという手段も思いついたけど、そんな卑怯な真似をしてまで勝ちたくはない。俺の、今の俺自身の実力で奴に勝ちたいのだ。
とは言っても……。
「どうしたもんかなぁ……」
頭を抱えながら唸っていると。
突然、大きな音と共に控え室のドアが開いた。
「あ?」
「へ?」
思わず音の発生源を見ると、そこには片足を上げて硬直している爆豪。
「あれ!? 何でてめェがここに……控え室……あ、ここ2の方か! クソが!!」
「お、おう……せ、せやな」
驚きのあまりつい
爆豪は硬直する俺を一瞥すると苛立ったように出て行ってしまった。
「チッ! 邪魔したな女顔野郎」
――そんな捨て台詞を残して。
「…………って誰が女顔だ! ふざけんな爆豪!!」
俺の渾身の怒号は控え室の中で虚しく響いた――。
*
『さァいよいよラスト!! 雄英1年の頂点がここで決まる!! 決勝戦、響崎対爆豪!!!』
プレゼント・マイクの声が会場に響いた。それと同時に沸き立つ観客たちの声援を聞いた俺は、ついにここまで来てしまったのかと思わず身を震わせた。
テレビで何度も見た雄英体育祭決勝戦。俺と爆豪は既にそのステージの上に立っている。プレゼント・マイクの合図次第ですぐにでも戦いが始まるだろう。
……それにしても爆豪の獰猛な笑みがド迫力すぎる。これは将来"ヴィランっぽい見た目のヒーローランキング"上位入賞は間違いないだろう。それくらいすごい顔してる。
そんなことを考えながら、俺は上体を前に傾けて構えた。
『今!! START!!!!』
試合開始の合図と共に、爆豪が両掌から爆破を放って加速して真正面から突っ込んできた。
俺は回避を選択し、身体強化50%で全力回避を敢行した。
「チッ! 避けてんじゃねえよクソ白髪!!」
「無茶言うなよ!」
まだ50%で回避できるスピードだ。でもスロースターターの爆豪相手に持久戦は不利、決めるなら速攻!
俺は再度突撃してくる爆豪に個性で増幅した猫騙しを喰らわせた。
飯田との戦いで見せた
『おおっとここで響崎! 飯田戦で見せた猫騙し!! 爆豪モロに喰らったかァ!!?』
「クソが……!」
そう呟いた爆豪はまたしても突っ込んでくるが、明らかに動きが鈍い。
先程よりも余裕を持って避け、お返しに無防備な背中に一撃を叩き込む。
「がぁッ!?」
良いのが一発入ったはずなのだが、爆豪はそのまま爆破の勢いを利用して空中で体勢を立て直して上を取り、爆破を浴びせてきた。なんだこいつ、タフかよ。
「うわぁ!?」
「死ねやぁ!!!」
爆風で地面に叩きつけられた俺に爆豪が追撃を仕掛けてくるが、地面を転がって脱出しすぐに立ち上がる。
くっそお……麗日の時に見てはいたけどここまでの反応速度とは……。厄介だな……。というか猫騙しの効果もう切れたの? 早くない?
そう思いながら身体強化を75%にまで引き上げ、後ろへ跳んで距離を置くがそれを予想していた爆豪は飛んで距離を詰めてくる。
轟にも言われたけどやっぱりバックステップするの癖になってるのかな……?
そんなことを考えながら右の大振りを躱し、ガラ空きのボディに一撃を喰らわせた。
『おーっと!! ボディに生々しいのが入ったァ!!』
「がはっ……! てめェ……」
吹っ飛ばされながらも受け身を取って物凄い形相で睨みつけてくる爆豪に気圧されながらも口角を吊り上げて誤魔化す。
――世の中にはピンチの時や恐怖を誤魔化したい時に笑みを浮かべる人間がいるという。俺はきっとこのタイプの人間なのだろう。もっともオールマイトのような堂々としたモノではなく無理やり口角を上げたような歪な笑顔に見えているだろうけど。
見ると爆豪も口角を上げて笑っている。もっとも彼の笑顔はとても邪悪な雰囲気を感じさせるモノだが。……やっぱヴィラン顔だよこいつ。
ヴィランのような笑顔を顔に貼り付けた爆豪が、先程までとはレベルの違う速度で突っ込んできた。
突然上がった速度に対応が遅れた俺はなすすべもなく爆破され、ダメージを負った。
「とっとと死ねやあ!!」
「ぐうっ……!!」
爆豪の一撃に思わず膝をついた俺は、このままではダメだと身体能力向上を100%にまで引き上げる。
そして追撃を喰らわせようとした爆豪の左手を避け、急激な加速に驚きの表情を浮かべる
『響崎の回し蹴りが決まったが、爆豪も反撃! この戦いはどうなるか読めないな! どう思うイレイザー!』
『正直、響崎が戦闘センスに関してはA組トップクラスの爆豪にあそこまで立ち回れるとは思っていなかったな。特にあの裏拳からの回し蹴りのコンボはかなり洗練されている。裏拳を当てられたら俺でも回し蹴りを回避しきれるかわからん』
『珍しくちゃんと褒めてんじゃねーか!! やったな響崎!!』
『おい試合中にあんま声かけんな』
『こいつあシヴィー!!』
……まじか。相澤先生って褒めてくれるんだ。
そんなだいぶ失礼なことを考えながら爆豪を見ると、相変わらずにやりと邪悪な笑みを浮かべている。
「おい女顔。名前は?」
「覚えてないの!!? 響崎だ、響崎結弦!! というか俺は女顔じゃない! ぶっ飛ばすぞ!!」
「ハッ! 勝つのは俺だ」
「俺だって負ける気はないよ」
そう言うと俺は腰を低く構える。爆豪も同じように腰を落として両手を後ろに構えた。
「うおおおおおお!!!!」
「死に晒せやああ!!!!」
爆豪はその場で爆破を使って大きく跳び上がり、上空からこちらへと接近する。
対して俺はその場で両方の手首を合わせ、両手を開いて迎撃の体勢を取った。
「
「デトネーティング……」
空中で両手から爆破を放って回転しながら突っ込んでくる爆豪。
それを見た俺は、生半可な威力では受け止めきれないと判断し、これで決めてやると両掌に音を最大限まで蓄えた。
錐揉み回転しながら突撃してきた爆豪はその勢いを乗せたまま、特大火力の爆発を叩き込む。
対する俺は両掌に溜め込んだ音を一気に放出した。
「
「ノイズッ!!!!!」
その瞬間、この場から音が消えた。
俺が残っている音を全て注ぎ込んだデトネーティングノイズは爆豪の
膨大なエネルギーを持つ二つの攻撃がぶつかり合い、ステージを瞬く間に瓦礫の山へと変える。
その荒れ狂う力の奔流は俺と爆豪の体をも吹き飛ばした。
*
Side.耳郎響香
ステージには爆破による煙が立ち込め、二人が吹き飛ばした瓦礫の破片が降り注いでいる。
『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えまさに人間榴弾の如き攻撃を繰り出した爆豪! 対する響崎もバカみたいな火力の音波で迎撃だあ!! 果たして……』
「響崎……」
さっきの爆発は緑谷と轟の時のよりかは小規模だったけど、それでも途方もない爆風を生み出した。
正直どうなったかなんて煙が晴れないとわからない。
A組だけじゃなく会場中が静寂に包まれ、特大火力の攻撃――いわば必殺技をぶつけ合った結果を見届けようとしている。
煙が晴れた時、思わずあっと口に出したのは誰だっただろうか。もしかしたら自分だったかもしれない。
ステージに立ち込める煙が消え、そこに見えたのは――。
――ステージ上でうつ伏せに倒れて起き上がろうとする爆豪と、場外に吹き飛ばされて壁にもたれかかっている響崎だった。
それを見たミッドナイトがその手に持つ鞭を上げ、勝敗を告げる。
「響崎くん場外!! よって――……爆豪くんの勝ち!!」
『以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭1年、優勝は――……A組、爆豪勝己!!!!』
わあああああああああっ!! と割れんばかりの歓声が会場に響いた。
この体育祭で一番の盛り上がりを見せた決勝戦。それを半ば身を乗り出して見続けたウチはホッと息をついて椅子にもたれかかった。
ステージ上ではこれぞ接戦、これぞ決勝戦と言わんばかりの激しい攻防を繰り広げた二人がボロボロで、それでいてどこか満足したような笑みを浮かべていたのだった。
*
Side.響崎結弦
「それではこれより!! 表彰式に移ります!」
青い空に色とりどりの花火が咲く中、雄英体育祭1年の部の表彰式が始まった。
地面からせり上がってきた表彰台の上に立っている俺はどこか清々しい気分でいた。
俺が立っているのは2位の台で3位の台には轟と常闇が、そして1位の台にはどや顔で勝ち誇る爆豪の姿があった。
「それではメダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
ミッドナイトがそう言うと、どこからか高らかな笑い声が聞こえてきた。
……この笑い声はオールマイトだね。こんな笑い方する先生オールマイトくらいしかいないでしょ。
「私がメダルを持って「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」来た」
…………。
ダダ被りじゃねえか!!
決めゼリフを台無しにされた
「打ち合わせしておいてよ……」
思わずそう呟くと、気を取り直したようにオールマイトがメダル授与を始めた。
まずは3位の常闇からだ。
「常闇少年おめでとう! 強いな君は!」
「もったいないお言葉」
常闇の首にメダルをかけ、その体を抱きしめながらオールマイトは続ける。
「ただ! 相性差を覆すには"個性"に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」
「……御意」
続いてオールマイトがメダルを授与したのは同じく3位の轟。
「轟少年、おめでとう。準決勝で左側を使わなかったのにはワケがあるのかな?」
と地味に俺も気になっていたことを聞いたオールマイトに轟が答える。
「緑谷戦でキッカケをもらって……わからなくなってしまいました。あなたが奴を気にかけるのも少しわかった気がします。俺もあなたのようなヒーローになりたかった。ただ……俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ駄目だと思った。清算しなきゃならないモノがまだある」
「……顔が依然と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと精算できる」
どこかすっきりした表情で話した轟をオールマイトはグッと抱きしめた。
そして順番的には……次は俺の番だ。
「響崎少年、おめでとう。君もまたとても強かったな! 正直、君が爆豪少年相手にあそこまで立ち回れるとは思っていなかったよ」
そう言うと、オールマイトは俺の首に銀メダルを掛けて同じように抱きしめてくれた。
「今回はあと一歩及ばなかったが、君の戦い方は素晴らしいものだ。これからの努力次第で君はもっと優れたヒーローになれるだろう。励みたまえよ!」
「……っはい!」
良しと歯を出して笑ったオールマイトは、隣の台に立つ爆豪の元へと向かった。
首に掛けられたメダルの重みに思わず顔が綻んでしまう。
「さて爆豪少年!! 伏線回収見事だったな」
「当たり前だ、俺はいずれアンタをも超えるヒーローになってやるんだからな」
「うむ! その志は素晴らしいものだ。君が私を超えてくれる時を楽しみにしているよ」
そう言ってオールマイトは爆豪の首に金メダルを掛け、くるりと前を向いた。
「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にも
オールマイトがそう言うと、会場がほのかに色めき立つ。
「皆さんご唱和ください!! せーの」
「「「プルス……「おつかれさまでした!!!」えっ……!?」」」
思っていた言葉と違う言葉を声高々に叫んだオールマイトに会場中からブーイングが浴びせられた。
「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」
「ああいや……疲れたろうなと思って……」
どこか締まらない言葉と共に、雄英体育祭は幕を降ろした。
*
「おつかれっつうことで明日明後日は休校だ。プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」
相澤先生がそう言い、体育祭終了直後の
飯田が早退してしまったようだが、どうしたのだろうか。
そんなことを考えていると、不意に上鳴が後ろを向いて話しかけてきた。
「なーなー響崎、耳郎! 体育祭も終わったことだし、明日あたりに何人か集めて打ち上げ行かね?」
「お、それは名案だね」
「上鳴、アンタアホの癖にいいこと思いつくじゃん」
「うっせ」
上鳴は参加者を増やしてくるわと言ってどこかへ去ってしまったので、俺達は帰ることにした。
クラスメイトの連絡先は全員分交換済みだし、今日の夜にでも上鳴がグループを作ってくれるだろう。
そうして家に帰った俺は、疲れからかいつもより2時間以上早く眠りについたのだった。
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