体育祭の翌日の昼。俺は待ち合わせ場所の駅まで来ていた。
来る途中に乗った電車で大勢の人に「君、ヒーロー科の響崎くんだよね!」だとか「体育祭、良かったぜ」「本当に男の子なの!?」ともみくちゃにされたが、まあ皆節度を守ってくれていたので問題はない。
……正直、最後の言葉は効いた。俺ってそんなに男らしくないかなあ?
そんなことを考えていると、待ち合わせの目印に指定された"何の動物を模しているのか全く分からない謎オブジェ"の前に到着した。
周囲を見渡すと、そこにいたのは赤い髪を逆立てた男とピンクの髪にピンクの肌が特徴的な女子。
「切島、芦戸。早いね」
「おお、響崎か! 楽しみでつい早く来ちまった」
「全く、切島ったら子供っぽいんだから」
お前も同じ時間に来たじゃねえかと反論する切島にニシシと笑って返す芦戸。
思わず仲がいいんだねと呟くと、切島が中学が同じだったんだと話してくれた。
なるほど、同じ中学出身なら仲が良いのも頷ける。まあ世の中には仲の悪い幼馴染も存在するけどね……緑谷と爆豪とか。
そうこうしているうちに徐々に人が集まってきた。
昨夜上鳴から送られてきた連絡によると、本日の参加者はあの時誘われた俺と耳郎、そして主催の上鳴。一番乗りだった切島と芦戸に葉隠、麗日、瀬呂、そして緑谷の9人だ。
他のメンバーも誘ったらしいけど、用事があってこれない人が多かったようだ。昨日の今日だし仕方ないね。
「うっし! 皆揃ったことだし行きますか!」
全員集まったことを確認した金髪の主催者がそう告げ、一行は打ち上げ会場へと移動を開始した。
*
歩くこと数分、駅前に所狭しとならぶ雑居ビルの中にその店はあった。
「さあさあやってきましたカラオケボックス!! 今日は思う存分歌って騒ごうぜ!!」
上鳴がそう叫ぶと芦戸や葉隠がいえーい!と続いた。
かくいう俺も友人とカラオケなんて久しぶりの事だから結構テンションが上がっているのは内緒だ。
9人という大所帯なこともあり大部屋に案内された俺達は、席について荷物を降ろした。
各々ドリンクバーで飲み物も入れて準備万端だ。
「そういや上鳴。なんで打ち上げでカラオケなんだ?」
「いやあ、全員参加できるなら飯でもいいかと思ったんだけどよ。来れねえならカラオケとかにしといた方が良いかなあって。俺らだけで旨いもん食うってのも寂しいだろ?」
「上鳴くんにしては考えたね!」
「なんだよ葉隠。昨日から耳郎と言いお前と言い……俺ってそんなに何も考えてなさそうに見える?」
「「「うん、見える」」」
「うそーん……まじかあ」
容赦のない言葉に項垂れる上鳴。そんな彼を見て、その場にいる全員が笑う。
その間にパパッとリモコンを操作した切島が椅子から勢いよく立ち上がった。
「よっしゃあ! 俺、切島鋭児郎! 一番手行きます!!」
「いけいけ切島ぁ!!」
切島の口上にノリノリで煽ったのは芦戸。やっぱりこの二人仲良しだなあ。
そして緑谷からマイクを受け取った切島が歌い始めたのはまさかの演歌。
でも切島の声と曲が合ってるし、何より感情がこもっている。漢らしい切島が歌うとぶっちゃけ結構かっこいい。
俺達もノリノリで合いの手を入れたり手拍子を打ったりして一曲目から大盛り上がりだ。
切島が歌い終えると、皆がわーっと歓声を上げた。
「なかなかやるじゃん切島! 演歌好きなの?」
「おう、昔からよく聞くからな!」
「へー!! あんまり意外じゃないね!」
葉隠も結構ずばっと言うよね……。本人気にしてなさそうっていうか何ならうれしそうだから良いけど。
「じゃあ次はアタシだぁ! いっくよー!!」
そう言って芦戸が歌い始めたのは今人気の女性アーティストが歌うCMにも起用されている有名な曲だ。
芦戸は途中から楽しくなってきたのかマイク片手に踊り始めた。趣味に挙げるだけあってキレのあるダンスを披露しながら見事一曲を歌いきった彼女に感嘆の声があがった。
「どーよ、かっこいいでしょーが!!」
「うん、凄いよ芦戸さん! 流石はA組女子の中でもトップの運動神経の持ち主だ!」
素直に目を輝かせて褒める緑谷に、芦戸は満更でもないような顔をしている。
「そんじゃ次は緑谷、いってみようか!!」
「えええ!!? 僕ゥ!!!?」
「ここに緑谷は一人しかいないだろ。さあ早く曲選んで選んで!」
芦戸と上鳴がいきなり緑谷にマイクを渡して曲を選ばせる。緑谷もまさか褒めたら歌わされるだなんて思ってもいなかっただろう。
結局緑谷は言われるがままに曲を選んで歌い始めた。
最初こそ両手でマイクを握り締めてガチガチになりながら歌っていたが、俺達が手拍子をしながら聞いていると徐々に緊張も解けてきたようで最後には伸び伸びとした見事なロングトーンを魅せてくれた。ロングトーンがこんなに綺麗に……こいつ、伸びるな!
「皆めっちゃ上手だねー! それじゃあ私も歌っちゃおうかな」
俺が緑谷の秘めたるポテンシャルに驚いていると、葉隠がそう言っておもむろにマイクを手に取り、立ち上がる。
よっしゃいくぞーっ!と葉隠が予約したのはアイドルソング。
持ち前の元気さでかわいらしく歌う葉隠に、またしても皆のテンションが上がった。芦戸と上鳴なんてノリノリでオタ芸やコールまでしてるし。……一体どこで身に着けたんだそれ。
その後も"ギャップの男"瀬呂が洋楽バラードを歌ったり、上鳴が邦ロックを歌ったり、麗日が有名なボーカロイドの恋愛ソングを歌って芦戸と葉隠に恋バナを振られるといったイベントもあって、ようやく俺に順番が回ってきた。
「お、次は響崎か」
「お手並み拝見だな」
上鳴と瀬呂がそう言うのをスルーして、リモコンを操作する。
入れる曲は最近アニメの主題歌にも起用された割と有名な曲だ。
画面に曲名が表示されると、皆知っている曲だったようだ。上鳴と芦戸はすでにタンバリンを手に取っている。
「響崎、その曲好きなんだ。つかそれ、女性ボーカルの曲で音域結構広いけど大丈夫なの?」
そう首をかしげて聞いてくる耳郎にサムズアップして、俺はマイクを手に取って歌い始めた。
*
歌い終えると皆の拍手が聞こえた。
久しぶりのカラオケで思わず熱唱してしまったなあ……なんて考えながら、閉じていた目を開くと。
「響崎くんすごいんだね! めっちゃ上手だったよー!!」
「凄すぎて言葉がでねえよ……」
「オメーこんな特技持ってたのかよ! 隠してたなんて水臭いぜ!」
「特技って言いふらすもんやないけどね……」
麗日の言葉にそれもそっか!と返す切島。すると耳郎が肩を突いて話しかけてきた。
「やるね、びっくりした。なんかやってたの? 声楽とか」
「いや、単純に歌が好きでよくカラオケに行ってたってだけ。俺の個性って音を扱う個性だから昔から音楽が好きなんだよね」
そう言うと皆はなるほどと納得したように呟いた。
「なんてゆーか、透明感がある天使の歌声って感じだね」
「フェアリークリアボイスだ!」
「それって男の声の表現としてどうなの……?」
葉隠と耳郎が多分褒めてくれたが、正直なところ男らしい声じゃないって言われてるようで引っ掛かる。まあ歌声に関しては半分吹っ切れてるけどね。あとついでに芦戸、天使はエンジェルだよ。フェアリーだと妖精になっちゃうから。個人的に天使よりも妖精のほうが嫌だ。
「まあ男らしい歌声かって言われるとちげえよな! どっちかっつったら中性的って言うのか? そんな感じの声だな!」
「ガハッ」
切島の何気ない一言で致命傷を負い、思わず吐血してしまいそうなほどのショックを受けた。やっぱ吹っ切れてないわ、これ。
「んじゃ次は耳郎だね。はい、マイクどーぞ」
「ん、ありがと」
そう言ってマイクを受け取った耳郎はパパッとリモコンを操作した。
画面に表示された曲名は結構有名な海外のロックバンドの曲だ。
そういや耳郎、ロックが好きってこの間言ってたなあなんて思いつつ、耳郎の歌声に耳を傾けようとして、耳郎が歌い始めたその時。
――衝撃が走った。
吸い込まれるような少し低いハスキーな声に一同が言葉を失う。
うますぎる、あまりにも。芦戸や葉隠は興奮した様に目を輝かせたり腕をブンブン振ったりしているし、上鳴なんてあまりの衝撃に目を見開いて崩れ落ちている程だ。
その場にいる全員を虜にした耳郎の歌が終わり、全員からわっと歓声が沸き起こった。
「響崎くんも上手だったけど、耳郎ちゃんもすっごい上手だね! 私感動しちゃったぁ!」
「ハスキーセクシーボイスだー!!」
皆が口々に耳郎の歌を褒めると、耳郎は頬を赤く染めてイヤホンジャックをツンツンと突き合わせ、すっかり照れてしまった。
その後、デュエット曲を歌ったり、採点対決をしたりと時間いっぱいまでカラオケを満喫した俺達は、あまり遅くまで遊びまわるわけにはいかないと特に寄り道をすることも無く家に帰ったのだった。
……それにしても、言いそびれたけど耳郎の私服めっちゃ似合ってたな。
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