「んじゃ次の英文のうち間違っているのは?」
波乱の個性把握テストの翌日。
本日から雄英高校で学ぶ日々が本格的に始動するわけなのだが、午前中は必修科目である英語などの普通の授業が行われる。
「おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれー!!!!」
普通だ……。
英語の授業は、プレゼント・マイクのテンションがやたらと高いことを除けば普通の授業だった。偏差値が高いだけあって難易度はかなり高かったが。
そして昼は大食堂で、クックヒーロー≪ランチラッシュ≫の一流の料理を安価で頂ける。
有名なクックヒーローの料理というだけあって、死ぬほど美味しかった。
「白米に落ち着くよね、最終的に!!」
そして午後にはヒーロー科にしか受講を許されていない授業がある。
今からその一つである、ヒーロ―基礎学の授業を受けるのだが……。
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」
今年から雄英で勤務することになったナンバーワンヒーロー、オールマイトが講師を務めるらしい。
「オールマイトだ……!!」
「本当に先生やってるんだな……!!!」
「あれ
「画風違い過ぎて鳥肌が……」
ファンサービスのつもりか、オールマイトは銀時代と呼ばれる時期のコスチュームを身に纏って登場した。
……緑谷がすっごいキラキラした目で見てる。ファンなのかな?
「私の担当はヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!! 単位数も最も多いぞ」
オールマイトは教壇に立つとカードを取り出し、俺たちに見せた。
「早速だが、今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」
カードには"BATTLE"の文字。
戦闘訓練、確かにヒーローの素地を形成するにあたってかなり大事な分野だ。
どれだけ正義感のあるヒーローでも、敵に勝てなければ市民は救えない。
「そしてそいつに伴って……こちら!!!」
オールマイトが小型のリモコンを操作すると、壁から番号が書かれたケースが出てくる。
「入学前に送ってもらった"個性届"と"要望"に沿ってあつらえた……
「「「おおお!!!!」」」
教室に歓声が響き渡る。
俺の、俺だけの戦闘服……。要望通りにできてるかな?
「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!!」
「「「はーい!!!」」」
俺は、ワクワクに胸を躍らせながら更衣室へと向かった。
*
「恰好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!! 自覚するのだ!!!! 今日から自分は……ヒーローなんだと!!」
着替えを済ませ、グラウンドへ出る。もうすでに皆集まっているようだ。
「いいじゃないか皆、格好いいぜ! さあ始めようか、有精卵共!!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」
「お、響崎。コスいいね、似合ってるじゃん」
「耳郎もめっちゃ似合ってる。かっこいいというかロックな感じだ」
頑張って考えたコスチュームを褒められた、うれしい。
頑張って考えたとはいっても俺のコスチュームはオーバーサイズの白いパーカーに黒のダメージスキニーというただの私服のような外観だ。
素材は耐火耐刃性能もばっちりで実用性は抜群という点では私服とはかなり異なるけど。
一方耳郎のコスチュームも私服のような見た目で、コーラルピンクのような色のダメージTシャツに黒い丈の短いジャケット、黒のズボンにブーツ。さらには白い指貫グローブとロックでかっこいい風貌だ。
「先生! ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!?」
ん? 飯田の声だ。
声のした方を見ると、西洋の鎧とバイクのような意匠が混ざり合ったコスチュームを着ている人がいたので、多分あれが飯田なのだろう。
それにしてもかっこいいコスチュームだな。誰かのコスチュームに似てる気が……誰だっけ?
「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での
なるほど。捕り物としては屋外の方が目立つのは当然、屋内の方は人目に付きにくいが故に凶悪な犯罪が起こりやすい……と。
「君らにはこれから"敵組"と"ヒーロー組"に分かれて、2対2もしくは2対3の屋内戦を行ってもらう!!」
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知る為の実践さ! ただし今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントヤバくない?」
「んんんー聖徳太子ィィ!!!」
オールマイトが汗を垂らしながらツッコむ。
……というか一人おかしいのいなかった?
「いいかい!? 状況設定は敵がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている! ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収すること。敵は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえること。コンビ、チーム及び対戦相手はくじだ!」
「適当なのですか!?」
くじで決めることに対して飯田が不満の声を上げる。
いいじゃんくじ。相澤先生じゃないけど合理的な手段だよ。
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういうことじゃないかな……」
「そうか……! 先を見据えた計らい……失礼いたしました!」
「いいよ!! 早くやろ!!」
緑谷の補足を受けて納得した様子の飯田。あいつはどこまでも真面目だなあ……。
ということでチーム分けはこんな感じになった。
Aチーム:麗日お茶子、緑谷出久
Bチーム:
Cチーム:
Dチーム:飯田天哉、爆豪勝己
Eチーム:
Fチーム:
Gチーム:
Hチーム:
Iチーム:
Jチーム:上鳴電気、響崎結弦、耳郎響香
「響崎達とチームか、よろしくな!」
「よろしく。何かと縁があるねウチら」
「耳郎と俺は特にね」
まさかの面子に思わず苦笑いしてしまう。
出会って間もないとはいえ、このクラスでは確実に最も仲の良い三人だ。チームワークは他と比べてとりやすいだろう。
第一試合はヒーローのAチーム対敵のDチームの戦いだ。
俺達はオールマイトに促され、モニタールームへと向かった。
「さぁ君たちも考えてみるんだぞ!」
緑谷と麗日がビル内に潜入した。狭い通路を警戒しながら進んでいる。
「麗日達、随分慎重に進んでんね」
「奇襲を警戒してるんじゃないかな。爆豪とかそんなことやりそうだし」
と言ってるそばから爆豪が奇襲を仕掛け、緑谷達とエンカウントした。
「いきなり奇襲!!!」
峰田が声を上げると同時に爆豪の右手が爆発し、緑谷のコスチュームの一部を吹き飛ばす。
「爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねえ!!」
「奇襲も戦略! 彼らは今実践の最中なんだぜ!」
思わず抗議の声を上げる切島をオールマイトが窘める。
確かに実践で敵に奇襲なんてずるいと言ったところで、奴らは聞く耳を持たないだろう。
ここで爆豪が大きく振りかぶった右腕を緑谷が掴み、見事な一本背負いを決めたことで、モニタールームは沸き立った。
「すげえな緑谷!」
「入試1位と個性使わずに渡り合ってるぞ」
そうこうしているうちに戦況は移り変わり、麗日は一人で核確保に向かい、緑谷が逃走する。
その様子を見た爆豪が苛立ちを隠しもせず両手を爆発させている。
「なんかすっげーイラついてる。コワッ」
上鳴の気持ちもわかる。だって今の爆豪、すっごい凶悪な顔してるもん。
ふと麗日の様子を写すカメラを見てみると、どうやら飯田の守る核兵器の下までたどり着けたようで、潜伏しているところだった。
ん? 麗日が噴き出した。飯田が何か言ったのか?
今の音で飯田に麗日の場所がばれてしまったようだ。
「爆豪少年ストップだ、殺す気か!」
オールマイトの焦った声。
何事かと爆豪のモニターを見ると何やらコスチュームの籠手についているピンを抜こうと――
KA-BOOOOOM!!!!!!!
「んな!?」
「授業だぞコレ!」
先程までの爆破の比じゃないほどの爆発が起こり、二人が戦っていたビルの一角を派手に吹き飛ばした。
「緑谷少年!!」
緑谷は……無事だね。何とか避けたようだ。
にしてもなんだあの威力!! 訓練で出す火力じゃないぞ!
「先生止めた方がいいって! 爆豪あいつ相当クレイジーだぜ、殺しちまうぜ!?」
「いや…………。爆豪少年、次
オールマイトからの指導が飛ぶ。
にもかかわらず爆豪は苛立ったように頭を抱え、緑谷に向かって飛び出した。
カウンターを入れようとした緑谷の頭上を飛び、背後から一撃。
そのまま右手で緑谷の腕を掴み、意趣返しのつもりか緑谷を背負い投げた。
「リンチだよコレ! テープを巻きつければ捕えたことになるのに!」
「ヒーローの所業に非ず……」
「緑谷もすげえって思ったけどよ……戦闘能力に於いて爆豪は間違いなくセンスの塊だぜ」
逃げ出すように爆豪から距離を置く緑谷。
何かを言い合い、互いに右腕を振りかぶる緑谷と爆豪。
緑谷が個性を発動し、爆豪も右手から火花を散らせる。
「先生!! やばそうだってコレ! 先生!」
切島が危険を察知し訓練中止を訴える。
オールマイトが訓練中止を呼びかけようとしたその時だった。
緑谷が、大きく振りかぶっていた右腕で、
その拳から放たれた衝撃波で天井は崩れ、上の階へ飛散した瓦礫を麗日がいつの間にか持っていた柱でフルスイングして飛ばした。
飯田が瓦礫の対処に追われているところを、自分を浮かせた麗日が跳び越えて核に抱きつく。
「ヒーロー……ヒーローチーム……WIIIIIN!!」
オールマイトの合図と同時に緑谷は力尽き倒れこんだ。
その左腕は爆豪の爆破をモロに喰らった影響で焼け焦げ、右腕は個性の反動で変色してしまっていた。
「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら……」
「勝負に負けて試合に勝ったというところか」
「訓練だけど」
その後緑谷が搬送され、彼を除いた3名がモニタールームへ帰ってきたところで、公表が行われた。
オールマイトや八百万曰く、今戦のベストは一番状況設定に順応していた飯田がベストだった。
そして場所を移し第2戦。
ヒーロー側Bチームと敵側Hチームの戦いは速攻だった。
障子が個性で索敵し轟がビル一棟を丸々凍らせることで敵チームを無力化。
そのまま核を回収しゲームセット。
そして第3試合も無事終わり第4試合。
俺達の出番だ。ヒーロー側は俺達Jチームで敵側はCチーム、八百万と峰田のところだ。
「始まるまでに個性を確認しておこう。俺の個性は『蓄音』、音を蓄えることができて、蓄えた分だけ身体能力が向上する個性。
蓄えた音を一気に放つこともできるけど……それをしたら身体能力ががた落ちするから最終手段でしか使えない。2人は?」
「ウチの個性は『イヤホンジャック』。この耳たぶのプラグを刺して、自分の心音を増幅させたり、周囲の音を聞き取って索敵したりできる」
「俺は『帯電』。体に電気を纏わせて放出することができるっつー個性だけど、使いすぎると脳がショートして一時的にアホになる。それと味方の近くで使うと皆を巻きこんじまうから……正直屋内戦じゃあんまり役に立てねえかもしれねえ」
「いや、味方への感電さえ防げればかなり有用な個性だと思う」
俺達の個性を組み合わせて出来る作戦は……。
「よし、この作戦でいこう」
*
「3階の中央から心音が2つ。立て籠もる気だね」
耳郎が索敵を終え報告してくれる。
やっぱり籠城か。八百万の個性は細かいところは解らないが、昨日オートバイとか出してたし様々なものを生み出す個性だと考えていいかな。
「おっけー。耳郎はここに残って索敵を続けて何かあったら無線で連絡して。上鳴は一緒に……多分罠が仕掛けられてると思うから、慎重に行こう」
「りょーかい!」
「任せたよ」
耳郎と別れ上鳴と二人で上層を目指して歩き出す。
「つってもそんなうまくいくもんかね?」
「まあ相手の個性を把握しきってない以上賭けでしかないけど。まあ逆を言えば俺の個性なんて予測できる人ほとんどいないから……上鳴、罠だ」
「はいよっと」
俺が見つけた罠に上鳴が手を触れ、電流で焼き焦がす。
だんだんと罠の数が増えているので耳郎の言う通り2人はこっちにいるのだろう。
そうこうしているうちに目的の部屋の前まで辿り着いた。
本来ドアなどないはずなのだが、シャッターのようなもので出入り口がふさがれている。
おそらく八百万だろう。
「この中に2人がいるのか……」
「上鳴、作戦通り動くぞ」
「わかってる」
そう言って上鳴を出入り口の前に残し、俺は隣の部屋へと移動した。
俺は個性を発動させて身体能力を底上げし、目的の部屋の方角にある壁に向かって回し蹴りを叩き込んだ!
壁に開いた大穴の向こうには驚いた表情の八百万と峰田。
その傍らにはやや厚手の布が用意されている。恐らく上鳴対策の絶縁体だろう。
昨日の個性把握テストで、上鳴が電気系の個性を持っていることは割れている、用意していると思っていたよ。
その為の俺だ。
俺はすぐさま残った壁に身を隠す。
すると再び破砕音。手筈通り、上鳴がシャッターを蹴破った音だろう。
「喰らえ! 無差別放電130万
「まずッ……!! 申し訳ありません峰田さん!」
八百万は焦って手元の絶縁シートを被った。
が、来ると思っていた放電が来ない。
まさかと思い、慌てて絶縁シートを放り捨てるとそこには不敵な笑みを浮かべた上鳴がいた。
「核があるとこで、放電なんかするわけねえだろ! やっちまえ、響崎!!」
「ッ!? しまっ……」
「出力……全開ッ!!」
俺は上鳴の声を聴いた直後、個性をフルパワーで使用し、壁に開けた穴から飛び出した。
「くっそお、させるか! くらえ、もぎもぎ!!」
絶縁シートを被っていなかったが故に復帰の早い峰田が、頭の謎の球をもぎって投げまくってきた。
身体を捻り間一髪、すべての球を回避して核に触れた。
『ヒーローチームWIIIIIN!!』
オールマイトのアナウンスが鳴り響く。
俺は上鳴とハイタッチを交わし、勝利を喜んだ。
「やったな、響崎! 作戦通りだ!」
『お疲れさま、2人とも』
耳郎からの無線だ。俺はすぐさま返答する。
「耳郎が索敵を引き受けてくれたおかげで安心して攻めることができたよ、助かった」
『さ、早くモニタールームに帰っておいで! 講評をしようじゃないか!』
オールマイトのアナウンスに促されるように、俺達はモニタールームへと向かった。
*
「さて、講評だが……今回のベストは響崎少年だ!! なぜだかわかるかな? ハイ、蛙吹少女」
「味方2人の個性を適した用途で使用するための完璧な作戦を考えたこと。そして核のある場所で上鳴ちゃんの個性を使わせなかったその判断力、想定外の出来事に対する対応力が優れていたからだと思うわ。オールマイト先生」
「ウン、正解だ!!」
まじでか、俺がベスト……思ってたよりうれしいな。
その後の試合も無事終了し、放課後。
「くだらねぇ帰る」って言って帰った爆豪や、予定がある人以外は教室で反省会をすることになった……のだが。
「私、葉隠透って言います! いやーそれにしても響崎くんすごかったよね、コンクリートの壁蹴破ったのびっくりしたよー!」
「私は芦戸三奈、やっぱり増強系の個性なの? ぱわふるだったし速かった!」
「俺ぁ切島鋭児郎、熱かったぜ、アンタの蹴り!」
クラスの皆に質問攻めにされてるこの状況は何なんだ?
「俺の個性は『蓄音』っていう個性だよ。まあ増強系みたいなこともできるけど本質はそこじゃない」
そんなことを話していると、教室のドアが開いて緑谷が入ってきた。
「おお緑谷来た!!! おつかれ!!」
切島が声をかける。入ってきた緑谷は腕にギプスを巻いていた。
リカバリーガールに治してもらえなかったのか?
「ってあれ、緑谷は?」
「デクくんならいま爆豪くんを追いかけて行っちゃったよ」
爆豪を? 今日の訓練のことかな?
まあいいか。俺が首を突っ込むようなことじゃないでしょ。