音のヒーローアカデミア   作:いろはす/1roh4su

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第四話・俺と飯田と委員長

 ナンバーワンヒーロー、オールマイトが直々に教鞭を執るというニュースは、全国を驚かせ連日マスコミが押し寄せる騒ぎになった。

スクープを追い求めるマスコミの毒牙は、当然生徒たちにも向けられて――。

 

 

「オールマイトの授業はどんな感じです?」

 

「え!!? あ……すみません僕保健室行かなきゃいけなくて……」

 

緑谷が前日の怪我の治療のために取材を断ったり。

 

 

「"平和の象徴"が教壇に立っているということで様子など聞かせて!」

 

「様子!? えーっと……筋骨隆々!! です!」

 

麗日が何故か四字熟語でオールマイトの様子を答えたり。

 

 

「教師オールマイトについてどう思ってます?」

 

「最高峰の教育機関に自分は在籍しているという事実を殊更意識させられますね。威厳や風格はもちろんですが他にもユーモラスな部分等我々学生は常にその姿を拝見できるわけですからトップヒーローとは――」

 

飯田が真面目っぷりを遺憾なく発揮して逆に取材陣を困らせたり……といった風に、少なからず俺達の学園生活に影響を及ぼしていた。

 

……もちろん、ただただ登下校の邪魔なので鬱陶しいだけなのだが。

 

当然、俺を含めたクラスメイト達も取材という名の登校妨害を受けたらしく、席に着き相澤先生を待つ皆の顔は少しくたびれているように見えた。

 

 

「あー……、みんなお疲れのようだがHR(ホームルーム)を始める」

 

マスコミへの対応でもしていたのか、相澤先生もいつにもまして疲れているみたいだ。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績、見させてもらった。爆豪、おまえもうガキみてえなマネするな。能力あるんだから」

 

相澤先生の注意に何か思うところでもあるのだろうか。

爆豪は顔を歪ませて「……わかってる」と呟いただけだった。

 

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か。個性の制御……いつまでも「できないから仕方ない」じゃ通させねえぞ。俺は同じこと言うのが嫌いだ。()()さえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

相澤先生なりの励まし……なのか?

まあ緑谷はやる気出したみたいだし励ましてるのか。

 

「さて次の本題だ……。急で悪いが今日は君らに……」

 

瞬間、まだであって間もないはずのクラスメイトの心は一つになった。

 

(((何だ……!? また臨時テストかなんかか!?)))

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「「「学校っぽいの来たー!!!」」」

 

いい意味で予想は外れ、活気を取り戻したクラスメイト達は我こそはと手を上げる。

 

「委員長!! やりたいですソレ俺!!」

 

「ウチもやりたいス」

 

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30センチ!!」

 

「ボクの為にあるヤツ☆」

 

「リーダー!! やるやるー!!」

 

「俺に!! やらせろ!!」

 

……なんか一名ほど不純な動機の人がいた気がするけど。

こういうことに熱心そうな切島や芦戸はともかく、爆豪まで立候補しているのが少し意外だ。めんどくさがりそうだと思ったのに。

 

「というか耳郎もこういうの興味あるんだね、ちょっと意外」

 

「そりゃだってヒーロー科の学級委員長とかリーダーシップ磨くのにうってつけじゃん」

 

なるほど。皆がこぞって立候補しているのはそういう意図か。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

全員が好き勝手に喋ったことで騒がしくなった教室が飯田の一声で静まり返る。

 

「"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……! 「やりたい者」がやれるモノではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら、これは投票で決めるべき議案!!!」

 

「「「そびえたってんじゃねーか!! なぜ発案した!!!」」」

 

飯田……、せめてその高くそびえたつ右手が下がってればもう少し格好もついたのに。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

 

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

「だからこそここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間という事にならないか!? どうでしょうか先生!!!」

 

飯田の提案に相澤先生は寝袋に入りながら「時間内に決めりゃなんでも良いよ」とのことで、誰が委員長にふさわしいかの投票が行われたわけだけど……。

 

「僕三票ー!!!?」

 

結果は緑谷が三票、八百万が二票、俺と麗日と轟がゼロ票、他が一票。というわけで委員長は緑谷、副委員長は八百万に決まった。

 

「なんでデクに……!! 誰が……!!」

 

「まーおめぇに入るよかわかるけどな!」

 

緑谷に票が入っていたことに憤る爆豪と、的確なツッコミをする瀬呂。

 

「一票……! 誰かが俺に入れてくれたのか……! だが流石に聖職といったところか……!!」

 

「他に入れたのね……」

 

「お前もやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田……」

 

地面に手をつき項垂れる飯田に至極まっとうなツッコミを入れる八百万と砂藤。

……まあ飯田に入れた一票ってのは俺のことなんだけど、黙っておこう。

 

「じゃあ委員長緑谷、副委員長八百万だ」

 

「ママママジでマジでか……!!」

 

まさか自分が委員長に抜擢されるとは思っていなかった緑谷は驚きのあまりガッチガチだった。

 

 

 

 

 

 

そうして早くも午前の授業が終わり。

 

「昨日も思ったけど、人すごいなあ……」

 

「ヒーロー科の他にサポート科や経営科の生徒も一堂に会するからな」

 

俺と耳郎、緑谷、飯田、麗日の五人は、食堂で一緒に昼食をとっていた。

 

「お米がうまい!」

 

「でもいざ委員長やるとなると、務まるか不安だよ……」

 

と、かつ丼を食べながら不安を口にする緑谷。ちなみに麗日はサバの味噌煮定食、飯田はカレーライス、耳郎は肉野菜炒め定食、そして俺は唐揚げ定食を食べている。

唐揚げは俺の大好物のうちの一つなのだ。

 

「ツトマル」

 

「大丈夫さ、緑谷くんのここぞという時の胆力や判断力は、"多"を牽引するに値する。だから君に投票したのだ」

 

麗日と飯田が緑谷を励ます。

というか緑谷に入った三票のうち一票は飯田か。

 

「つか飯田も委員長やりたかったんじゃないの? あんだけそびえたってたんだし」

 

 

「メガネだし!」

 

麗日、意外とざっくり行くなあ……。

メガネが皆委員長だとは限らないんだよ?

 

「"やりたい"とふさわしいか否かはまた別の問題……。僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

 

「「「"僕"……!!」」」

 

飯田がしまった! というような顔をする。もしかしてだけど飯田って――。

 

「ちょっと思ってたけど飯田くんて、坊っちゃん!?」

 

「坊!!!」

 

また麗日がばっさり言った……。多分悪気はないと思うけど。

 

「…………そう言われるのが嫌で一人称を変えてたんだが……。ああ俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ」

 

「「「ええー凄ー!!!」」」

 

「ターボヒーロー≪インゲニウム≫は知ってるかい?」

 

「もちろんだよ!! 東京の事務所に65人もの相棒(サイドキック)を雇ってる大人気ヒーローじゃないか!! まさか……!」

 

「そう! それが俺の兄さ!」

 

緑谷が知っていると答えたとたん、飯田はあからさまに機嫌がよくなって、メガネをくいっとしながら自慢げにそう言った。

そうか……飯田がインゲニウムの弟……ん?

 

「ああー!! そうだインゲニウムだ!!」

 

「うっわびっくりした!」

 

耳郎が驚いて味噌汁をこぼしそうになっていたのをすんでのところで止める。

 

「ごめんごめん。昨日の戦闘訓練で飯田のコスチュームを見たときに、誰かのコスチュームに似てる気がするなって引っ掛かってたんだよ。あーすっきりした!」

 

「ああそのことか。もちろん、意図的に似せてある。規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!! 俺はそんな兄に憧れ、ヒーローを志したからな。どうやら人を導く立場は、まだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい!」

 

飯田、相当お兄さんに憧れてるんだろうな。緑谷がオールマイトに憧れたように。

 

そんな和やかな談笑も、唐突にうちきられた。

けたたましいサイレンが学校中に響き渡る。

 

「警報!?」

 

緑谷が驚いて席を立つ。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

警報についての放送がなった。

飯田が周囲にいた上級生に声をかける。

 

「セキュリティ3て何ですか?」

 

「校舎内に誰か侵入してきたってことだよ! 三年間でこんなの初めてだ!! 君らも早く!!」

 

促されるままに食堂から出ようとすると、同じく避難しようとする生徒の波にのまれてしまった。

パニックを起こした人の波で緑谷、麗日、飯田達と分断されてしまう。

 

「緑谷ぁー!!」

 

「これ合流は無理だね……っていたっ!」

 

耳郎の言う通り、このパニックが収まらなければ緑谷たちとの合流はできない。

 

「とりあえず耳郎、こっちに!」

 

「きゃっ!」

 

俺は今にも人混みに流されてしまいそうだった耳郎の手を取り、自分のところまで引き寄せた。

 

「っと、大丈夫? っておわー!!!」

 

「え!? ちょちょちょま!!」

 

耳郎を引き寄せたまではいいものの、俺達は絶えず押し寄せる波の勢いに負け、ガラス窓へと押し付けられてしまった。

……俗に言う"壁ドン"のような体勢で。

 

いくら非常時だと言っても俺も立派な健全な思春期の男子。恥ずかしいだとか緊張だとか言った感情は持ち合わせているわけで、心臓が早鐘を打ちはじめる。

耳郎も状況に気が付いたようで耳の(プラグ)まで真っ赤にしている。

恐らく俺も同じような顔色になっているだろう。

 

そのまま見つめ合っていたのは数秒のことだと思う。

でもなぜだか、俺にはその時間がとても長く感じて――。

 

「大丈ー夫!!」

 

廊下中に響いた飯田の声で現実へと引き戻された。

声のする方向を見れば、飯田が非常口のピクトグラムのようなポーズで、パニックを起こした生徒たちに呼びかけていた。

 

「ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません大丈ー夫!! ここは雄英!! 最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!!」

 

やるじゃん飯田、かっけえよ。

やっぱり人を導く立場は、飯田にふさわしいと俺は思った。

そんなことを考えていると、腕の中から小さな声が聞こえた。

 

「響崎……。いつまでこの体勢でいるつもりなの……?」

 

「あっごめん!」

 

うつ向いている耳郎に謝り、元の体勢に戻って一緒に教室へと帰った。

耳郎から離れたというのに、なぜか俺の胸は高鳴ったままだった。

 

 

 

 

 

 

あの後、他の委員を決める前に、緑谷が飯田に委員長の職を譲渡した。

あの時現場にいたらしい上鳴や切島も賛成したことでこの件(学級委員長)については一件落着した。

 

……にしても、あの時の胸の高鳴りはなんだったのだろうか。

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