第六話・俺と視察と体育祭開幕
「皆―! 朝のHRが始まる前に席につけー!」
「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」
臨時休校から一夜明けた次の日。教室は一昨日の襲撃やそれに関するニュースについての話題で持ちきりとなっていた。とそこに我がが学級委員長、飯田が注意を呼び掛ける。がしかし、飯田以外は全員席についていたため、飯田は何故か悔しそうにしながら席に着く。。
「梅雨ちゃん、今日のホームルーム誰がやるんだろ」
「そうね、相澤先生はケガで入院中のはずだし……」
芦戸の問いかけに蛙吹が答えたその時、ちょうど教室のドアが開いた。
「お早う」
開いたドアから教室の中に入ってきたのは、ケガで入院中のはずの相澤先生だった。
……ただし包帯ぐるぐる巻きで、抹消ヒーローイレイザーヘッドというよりはミイラヒーローバンテージヘッドって名前のほうが似合いそうな姿だったが。
「「「相澤先生復帰早えええ!!!!」」」
「プロすぎる……」
上鳴が顔を青ざめる。それもそうだろう、俺も見てて痛々しいのでもっとちゃんと休んでほしいって思ってるもん。
「先生、無事だったのですね!!」
「無事言うんかなぁアレ……」
無事ではないでしょ、多分。だって相澤先生眼窩底骨が粉々になってるってお医者さん言ってなかったっけ? 後遺症残るかもしれないんじゃなかったっけ?
「俺の安否はどうでも良い、何よりまだ戦いは終わってねぇ」
「戦い?」
「まさか……」
「まだヴィランがー!!?」
相澤先生は包帯の隙間からまっすぐ俺達を見据えて言った。
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「体育祭……!」」」
「クソ学校っぽいの来たあああ!!」
「待て待て!」
一気にテンションが最高潮になる切島をとりあえず落ち着かせる。
「ヴィランに侵入されたばっかりなのに、体育祭なんかやって大丈夫なんですか!?」
「また襲撃されたりしたら……」
耳郎と尾白が俺達の不安を代弁する。
相澤先生の話によれば、ここで逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示したいので、警備を例年の五倍に強化して開催するとのこと。
なにより、"かつてのオリンピック"に代わる雄英体育祭はヒーロー科にとって最大のチャンス、ヴィランの侵入ごときで中止していい催しじゃないらしい。
俺も雄英を目指していたってのもあって、何度か見たことはあるけどあれは凄まじい。個性を使ったド派手なバトルは、見ているだけでも手に汗握るものだった。
……去年の二年生の部はある意味汗が出たけどね。競技中にマッパになる男子生徒を見たときは冷や汗が止まらなかったよ。まさか地上波で無修正のモノをみる羽目になるとは。
そして昼休み。
「あんなことはあったけど……なんだかんだでテンション上がるなオイ!!」
「活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」
うおおおおおおおおお!!と燃えている切島たちを尻目に、食堂へ向かおうとする。
「あ、響崎。ちょっと待って」
「わかった」
USJでの一件を経て、俺と耳郎の間にあった謎の気まずさは解消された。とは言っても一日しか謎の気まずさは存在してなかったわけだけど。
「お待たせ。いこっか」
「おっけー。というか俺達、雄英体育祭に出る側になったんだね。あんまり実感湧かないよー」
耳郎と駄弁りながら、食堂へと向かう。さて今日は何を食べようかなあ……?
*
Side.芦戸三奈
「なあ芦戸、あいつらもとからあんな空気感だったか……?」
仲良く教室を出て行った響崎と耳郎を見た切島が私にそう問いかける。いや、少なくとも私が知ってる限りではあんな感じじゃなかった、いまの二人はいうならばそう――。
「付き合いたてのプラトニックなカップルみたいになってる……」
「「「それだ!!」」」
その場にいた全員が声を合わせた。皆思うところは同じなのだろうか。
「前々から仲いいなあーとは思ってたけど、あんな感じじゃなかったよね……」
と尾白。そういう尾白も随分葉隠と仲いいみたいだし、そこを問い詰めたい気もするけど、今はそれどころじゃないので我慢する。
「なんだろう、特段過度なスキンシップとかがあったり、明らかに好意を抱いてる風とかじゃないのに……」
「やけにカップルっぽいよね……」
「普段なら血涙流すくらいには悔しいって思うけど、響崎が女子にしか見えないせいでオイラ珍しくおだやかな気分だぜ……」
「峰田の言いたいことわかるぜ……百合に見えちまう」
瀬呂や葉隠、峰田や上鳴までもがそう言った。
これは後で問い詰める必要がありそうだね……。
*
Side.響崎結弦
午後の授業も無事終わり放課後。
俺達が帰宅しようと教室のドアを開けると、そこには凄まじいまでの人だかりが出来ていた。
「何ごとだあ!!!?」
「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」
「敵情視察だろザコ」
何ごとだと騒ぎ立てる峰田に爆豪が辛辣な一言を投げる。
こいつらがここにいる理由は恐らく二つ、そして目的は一つ。興味本位、ないしは偵察。
「ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。
今日も爆豪フルスロットルだなあ……。
初対面の人相手にモブ呼ばわり、ここまでブレないのもある意味才能かもしれない。
「噂のA組、どんなもんかと見に来たが随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」
「ああ!?」
緑谷とか飯田は首を横に振りまくってるけど当の本人は喧嘩腰だ。爆豪って雄英で一番キレやすい人なんじゃないのかなって最近思うようになってきた。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴結構いるんだ。知ってた?」
青髪の眠そうな目をした生徒が話を続ける。爆豪は「知るかよ」くらい言うと思ったけど言わなかった。意外。
「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……。敵情視察? 少なくとも
「おうおうおう!! 隣のB組のもんだけどよぅ!! ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!! 偉く調子づいちゃってんなオイ!! 本番で恥ずかしいことんなっぞ!!」
そんな他クラスの大胆不敵な発言も全く気にせず、爆豪は人混みを押しのけて強引に帰宅しようとする。
「待てコラどうしてくれんだ。おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」
「関係ねえよ……。上にあがりゃ関係ねえ」
爆豪のその一言で静かになるA組。切島や常闇は言うねみたいな反応だし、まあ実際言ってることは正しい。
「他クラスの皆、わざわざA組まで敵情視察だか宣戦布告だか何しにきたかなんてどうでもいいけどさー……。人の下校の邪魔をするような奴らがヒーローになれるだなんて到底思えないよ」
俺の言葉にハッとする他クラスの生徒達。俺は構わず続ける。
「
静寂、見ると先程啖呵を切っていた二人だけでなく、その場にいる全員がうつむいていた。
でも意味は伝わったようで、バツの悪そうな顔をしながらも徐々に人が減っていく。
「よし、耳郎。帰ろうか」
「う、うん」
耳郎がとんでもないものを見たとでも言いたげな表情でこちらを見てくる。何か変だったかなと聞いてみても「意外だっただけ」と返してくるだけだった。
「ま、いいや。緑谷達も帰ろう」
そう言って俺達は、すっかり人が少なくなった廊下へ出て、その場を去った。
*
体育祭本番は二週間後。その間、俺やクラスメイト達は各々個性の特訓や筋トレに勤しんでいた。
そうこうしているうちにあっという間に時間は過ぎ、雄英体育祭本番当日。控室で轟が緑谷に宣戦布告をするといったイベントも発生したが、無事に開会式が始まった。
『一年ステージ、生徒の入場だ!!』
プレゼント・マイクのアナウンスで呼ばれたクラスから入場する手筈になっている。
それにしてもプレゼント・マイク、今日はやけにテンション高いな……。こういうお祭りごと好きそうだもんな。
余談だが、雄英体育祭に使われる三つの会場、これはなんと雄英体育祭専用のスタジアムらしい。体育祭の為だけに三つもスタジアム作るなんて頭おかしいよ雄英。そしてそのスタジアムの外には出店が立ち並んでいる。つまりお祭りという表現は決して過言ではないのだ。
『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはと鎬を削る年に一度の大バトル!!』
この戦い、俺も負けてはいられない。二週間の特訓の成果を存分に発揮しなければ。そう意気込んでいると入場の合図が会場に響き渡る。
『どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!! ヒーロー科、1年A組だろぉぉ!!?』
プレゼント・マイクのアナウンスで会場のボルテージは最高潮に達した。
「わあああ……人がすんごい……」
緊張している様子の緑谷を見て、俺は自分の緊張を隠してアドバイスをする。
「ききき緊張する気持ちは痛いほどわかるけどおおお落ち着け緑谷。あれだ、観客をジャガイモだと思い込むんだ」
「響崎くん、すっごい震えてるけど……」
一瞬でバレたわ。昔からこういう場面でめっちゃ緊張する質なんだよね。始まっちゃえば勢いで何とでもなるけど始まる前はもう口から色々まろび出そうなくらいには緊張しちゃう。
「ったく、しっかりしなよ」
緊張による震えが加速して、緑谷から本気で心配され始めたその時、バシッと耳郎に背中を強めに叩かれた。
「あんたも特訓したんでしょ? なら今更心配する必要ないじゃん」
そう言ってニッと笑みを浮かべる耳郎の顔を見ると不思議と緊張も少し和らいだ。
すると前を歩いていた芦戸が振り返って
「そいえば二人に聞こうと思ってたんだけど――」
「選手宣誓!!」
タイミングの悪いことに、芦戸のセリフは1年ステージの主審、18禁ヒーロー≪ミッドナイト≫の声によってかき消された。
「18禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい」
「静かにしなさい!!」
ミッドナイトはそう言いながら手に持った鞭を打ち鳴らし、常闇と峰田を黙らせる。
……というかなんで鞭なんか持ってんのあの人。
「選手代表!! 1-A爆豪勝己!!」
「えー、かっちゃんなの!?」
「あいつ一応入試一位通過だったからな」
驚いた様子の緑谷に瀬呂が答える。するとこれ見よがしにため息をつき「ヒーロー科の入試な」と補足を入れる普通科の女子。
「せんせー」
爆豪は両手をポケットに突っこんだまま台へ上り、選手宣誓を始める。どう見てもやる気ないようにしか見えないけど。
「俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
思わず切島もそう叫んでしまうほど予想通りなセリフだった。当然そんな言葉を受けた生徒たちはというと。
「調子乗んなよA組オラァ!」
「このヘドロヤロー!」
「なぜ品位を貶めるようなことをするんだ!!」
大ブーイングの嵐だ。というかとばっちりを受けたA組からもブーイングが飛んでいる。それらを受けた爆豪は親指で首を掻っ切る仕草をしながら
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
と燃え盛る炎にガソリンをぶちまけた。大ブーイングの中悠々と元の場所へ帰っていく爆豪を見届けて、ミッドナイトが先に進める。
「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう! いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が
そう言ってモニターに映る文字を指すミッドナイト。その指の先には……
「障害物競走……」
雄英の障害物競走、多分だけど普通の障害物競走とは一味も二味も違うだろう。
これは初っ端から大波乱になりそうだぞ……!!
UA2000感謝!
前回感想乞食をしたんですけど、はやくも感想を一件頂いてテンションが上がっております。モチベ上がっちゃうわね!
これからも頑張りますので応援のほどよろしくお願いします!