そしてレクリエーションも無事終了し、いよいよ最終種目ガチバトルのお時間だ。
俺の出番はまだまだ先なので、観客席で観戦することにする。
「響崎は一回戦、どうなると思う?」
隣に座るジャージ姿の耳郎がこの戦いの勝敗についての予想を聞いてきた。チア衣装は脱いでしまったらしい、似合ってたのに……。
それは置いといて、正直この戦いは緑谷が初見殺しに引っかかってしまっておしまい、というパターンになりそうだけど……。
「尾白がさっき、緑谷に心操の個性を教えたって言ってたから緑谷有利な気もする。……ただ」
「ただ?」
心操が緑谷を怒らせることに成功すればって考えるとどうとも言えないのが現状だ。
『一回戦!! 成績の割になんだその顔、ヒーロー科緑谷出久!!
プレゼント・マイクの出場者紹介だ。随分と癖が強いけどまあ的を射てる。
ルールは相手を場外に落とすか行動不能にする、もしくは降参させれば勝ちのガチンコバトル。ただし命に関わる場合は教師陣が止めに入るらしい。
『そんじゃ早速始めよか!! レディィィィィイSTART!!』
開始と同時に緑谷が何かを叫びながら前に走った。
しかしその足はすぐに止まってしまう。
『オイオイどうした、大事な緒戦だ盛り上げてくれよ!? 緑谷開始早々、完全停止!?』
「ああ緑谷折角忠告したってのに!!」
「あちゃー、こうなりゃもう緑谷はムリかな……」
尾白が頭を抱え、耳郎があきらめたように呟いた。
まあ心操の洗脳は衝撃を加えれば解けるけど、何もないステージ上で緑谷に衝撃が加わることはまずない。
ステージの上で完全停止した緑谷はくるりと後ろを向いて歩きだした。おそらく心操が「振り返ってステージの外まで歩いて行け」とでも言ったのだろう。
『おっと緑谷、ジュージュン!! このままステージの外まで出てしまうのか!?』
前へ前へと歩を進める緑谷。段々と場外判定ラインへと近づき、その足はラインを越え――
ることはなかった。
緑谷の左手が突然凄まじい勢いで動き、暴風が巻き起こる。土煙が晴れたその場所には、ラインぎりぎりで踏みとどまった緑谷の姿。
『――これは……緑谷!! 踏みとどまったああ!!?』
うおおおお!!!と観客席の熱量が一気に最高潮に達した。
「緑谷、指暴発させたのか……!」
「すげえ……無茶を……!」
ステージ上では心操が必死に何かを叫んでいるが、緑谷は答えず負傷した指を庇いながら心操に向かって走り出した。心操は必死に緑谷に何かを訴えかけるが緑谷は止まらない。
ガッと緑谷が心操の肩を掴み、力任せに押し出そうとし始める。体格では心操に軍配が上がるが、どうやら基礎身体能力では緑谷のほうが優れているようで、心操は徐々に後退していく。
苦し紛れに心操が放った拳が吸い込まれるように緑谷の頬にヒットするも、緑谷は怯まず心操を押し続ける。
心操が緑谷の負傷した指を攻撃し、力が緩んだところで立ち位置を入れ替え、一転攻勢にでて緑谷を押し出そうとする。
すると緑谷は自分の顔を掴んでいる心操の右手を負傷した手で掴み、
「あ」
以前、屋内戦闘訓練で見せた背負い投げを心操にお見舞いした。
緑谷に投げられた心操の足は場外判定ラインを越えてしまった。
「心操君場外!! 緑谷くん二回戦進出!!」
再び沸き立つ会場。初っ端からハラハラする試合を見せられた俺達A組の面々はホッと安心したような表情で緑谷に声援を送っていた。
「すごかったね緑谷。いきなりあんな戦い見せられたらこっちが委縮しちゃうよ」
たはは……と苦笑いをする耳郎。
「俺もびっくりした。というか心操の個性をあんな方法で解くとは思わなかったよ。顔に似合わず無茶するよね、緑谷って」
「あんたも大概だと思うけどね」
そんなバカな。
「おい響崎、控室行こーぜ。そろそろだろ俺らの出番」
先程爆豪にアホ面呼ばわりされてすごい表情になっていた上鳴がそう誘ってくれる。
「そういやそうだね。そろそろ行こうか」
俺は早めに向かっておいた方が良いだろうと判断して席を立つ。上鳴と控室に向かおうとする俺の頬を耳郎がプラグでつんつんとつついた。何事かと振り返ると耳郎はにやりと笑みを浮かべて一言。
「頑張りなよ。応援してっから」
「……うん!」
耳郎からの激励に思わずやる気が漲ってきた。隣で「俺への激励は無いの!?」とか叫んでるバ上鳴なんてけちょんけちょんにしてやろう。
上機嫌になった俺は、未だ騒いでいる上鳴を引きずって控室へと向かった。
*
Side.葉隠透
「……ねえ葉隠」
響崎くんと上鳴くんが控室へと向かって行った後、響香ちゃんが飲み物を買いに行ってしまった。すると見計らったように隣に座っている三奈ちゃんが小声で私の名前を呼んだ。
うん、三奈ちゃんが言いたいこと私もわかるよ……。
やっぱりさ……
「「あれで付き合ってないって噓だよね?」」
「あれだけ新婚さんみたいなやり取りしておいて付き合ってないは流石に無理があるでしょ!」
「響崎くんも響香ちゃんも顔赤くなってたし、実はお互いのこと好きなんじゃないの!?」
「芦戸、そろそろ試合始まっからその辺に……」
「葉隠さんも落ち着いて……」
暴走し始めた私たちを切島くんと尾白くんが止めてくれた。そうだね、そろそろ響香ちゃんも帰ってくるしおとなしくしてよう。
……でもやっぱり。
「「気になるー!!」」
*
Side.響崎結弦
「へくち!」
なんかさっきからくしゃみが止まらないんだけど……、誰かが俺の噂話でもしてるのかな?
おっとそんなことを考えてる場合じゃない、もうじき出番だ。
どうやら瀬呂と轟の戦いは一瞬で決着がついたらしく、思っていたよりも早く出番が回ってきてしまった。
「ふぅー……。よし、やるぞ」
緊張をほぐすために大きく深呼吸をしてからステージに出る。
ステージの向かいには上鳴。普段良く喋る仲の良い友達だけど、今回ばかりは友達だからって手加減をする気はさらさらない。
『さあステージを乾かして次の対決!! 白髪の美少女!! だと思ってる奴ら、痛い目見るぜ!? ヒーロー科の
おい誰がトラップボーイだふざけんな。
……ちょっと待ってくださいミッドナイト、なんであなたまで信じられないみたいな顔してるんですか。まさかとは思いますけど俺の事女子だと思ってました?
『
「響崎、今回ばかりは相手が悪かったな」
プレゼント・マイクの選手紹介を聞いた上鳴が、俺に向かって笑みを浮かべながらそう言った。
「お前の個性は俺の個性と相性が良くねーからな。まあ安心しな、一瞬で終わらせてやっからよ……!」
『START!!』
試合開始の合図と共に上鳴は個性を発動した。
「無差別放電、130万
「寝言は寝て言うもんだよ上鳴!」
上鳴の体から電光が迸るが、俺はそれよりも早く身体強化を使って真上に跳び上がった。
「空中に逃げたら身動きがとれねえだろ!」
「身動きする必要がないから空中に行ったんだよ!」
俺は空中で身を捩り、手のひらを上鳴に向けた。
「音響放出、デトネーティングノイズ!!」
手のひらから放たれた衝撃波はまっすぐ上鳴の元へと向かって飛んでいき、上鳴の頭を揺らした。
「ぐうぇい……!」
頭を揺らされた上鳴は一時的に個性の制御ができなくなり、放電も止まる。
見るとすでに上鳴はアホ面になってきている。いきなり最高出力をぶっ放して上鳴ももう限界だろう、だから。
「これで終わりだ!」
俺は地上に降り立ち、身体強化30%の拳で上鳴の胴体を射抜き、場外まで吹っ飛ばした。
するとミッドナイトが俺の立っている側の手を上げた。
「上鳴くん場外! 響崎くん二回戦進出!」
『速攻! あえてもう一度言おう、速攻!』
沸き立つ会場。俺は悪意のあるプレゼント・マイクの言い回しに苦笑いしながら、試合前に彼が言った言葉を思い出して一瞬で真顔になった。ちなみに俺に吹き飛ばされた上鳴は瓦礫の中から顔を出してウェイウェイ言ってるから多分無事。脳神経ショートしてるけどほっときゃ治るし。
俺は一応まだウェイウェイ言ってる上鳴に礼をし、ステージを降りた。
観客席へと向かう道中にあった自販機でコーラを買い、客席へと戻ろうとして振り返ったその時。
「わっ!」
後ろから歩いてきていた人とぶつかってしまった。反射的につぶってしまった目を開けるとそこには燃え盛るひげを蓄えたガタイの良い男の人。
「ごめんなさい……ってアレ? エンデヴァー? なんでこんなところに」
ナンバーツーヒーロー、エンデヴァーがいた。
エンデヴァーは俺が誰だか気づいたのか
「ん、ああこちらこそすまんな、余所見をしていた。貴様は確か先程戦っていた響崎だったか。いつも焦凍が世話になっている」
それだけ伝えるとエンデヴァーは行ってしまった。
そう言えばエンデヴァーって轟のお父さんだったっけか。あんまり轟がエンデヴァーの話してるの見たことないけど……っていうか轟あんまり喋ってくれないからなー。
そんなことを考えながら俺は観客席へと戻った。
*
「たっだいまー……ってなにこの空気」
「お帰り。ステージ見たら嫌というほどわかるよ……」
耳郎が言うので仕方なくステージを見るとそこには。
『この対ヴィラン用網射出銃は、簡単操作でホラ! 暴れまわるヴィラン相手でもお手軽に拘束することが出来……』
何やら憤慨したような表情の飯田と、マイクを使ってサポートアイテムの紹介をしまくる商魂たくましい頭のおかしい人が通販番組をやっていた。
「ごめん耳郎。みてもわかんないや」
「奇遇だね、ウチも」
嫌というほどわかるんじゃないのかよ。ちなみにこれ、どのくらいやってるの? と聞いたら10分間だと教えられた。
飯田10分も走り回ってるのか……そりゃ大変だね。
そんな話をしていると途中で耳郎は控室に行ってしまった。もうすぐ試合だもんね。
足早に去っていく耳郎に「応援してる」とだけ言い送り出す。耳郎の相手は芦戸。ぶっちゃけ相性最悪だしきっと俺は試合中峰田を何回かぶちのめさないといけないだろうが耳郎には頑張ってほしい。
そうしてしばらく経つと飯田を翻弄していたサポート科の女子はもう思い残すことはないと言って自主的に退場してしまった。
何だったんだと思うと同時に、「嫌いだぁあ君ー!!」と叫ぶ飯田の姿は見ていてとても悲しかった。
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