アスカ視点のみで振り返るQシンエヴァと、その後の話 作:アスキス徒
<初号機強奪作戦>
初号機の強奪に成功し一息つく間もなく表示された、パターン青という警告。
「何とかしなさいよ……、バカシンジぃ!!」
話にも聞いていないコード4Bの出現にどうしようもなくなったあたしは、気が付いたら叫んでいた。
どうして叫んでいるのか、分からなかった。
仕組まれた感情だと言い聞かせ自分を納得させていたハズなのに。
もう捨てたはずのモノなのに。
頼るつもりなんてなかったのに。
期待なんてしていなかったのに。
あたしは叫んでいた。
無駄だと思いながらも、あたしは叫んでしまった。
あたしの叫びに答えるかのように、放たれる紫色の光
葬られる使徒もどき。
あたしは、シンジに救われた。
その事実を理解した瞬間。
十四年間シンジに抱き続けていた怒りと悲しみを忘れてしまう程の何かが、私を貫いた。
今までの苦しみを忘れてしまう程の何かが、湧き立った。
嬉しさと驚きの他に、理解のできない何かを確かに感じていた。
人でなくなり、とうに恋愛感情など失っているはずのあたしの中で、一瞬だけ。心が動いたような気がした。
それは使徒にもっていかれた心。過去のあたしが持っていたモノのような気がした。
知ってはいたけど、決して思い出すことのできなかったモノのように感じた。
創られた感情であることがどうでもよくなる程に、ソレは強烈だった。
でも、それを理解することも留めることも、あたしにはできなかった。
一瞬感じたはずのソレは、瞬く間に消えて行き、ただ記憶として刻まれるだけだった。
なのに、どうして――――。
あたしは自覚してしまった、分からされてしまった。
あたしが心の奥底で、まだシンジを求めていた事に。
<シンジとの十四年ぶりの再会>
「アスカ! 良かった、やっぱり無事だったんだね!」
あたしの無事を喜ぶシンジに対して、あたしはおかまいなく拳を叩きつけた。
事情を何も知らないシンジに、拳を叩きつけてしまった。
強化ガラスにヒビを入れてしまう程の、感情任せの一撃を。
長い間ふりに降り積もった怒りと悲しみの累積、地獄のような時間。
シンジの無邪気な笑顔が、許せなかったわけじゃない。
大の大人がやることではないことも、理解はしている。
でも、あたしには大人である実感がない。二十八歳であることが理解できない。
十四年の歳月が二十八歳であると告げているのに、その実感がまったく持てない。
体があたしを、大人だと実感させてくれない。
寝る事ができなくなって、あたしには『昨日』がない。
ずっと『今日』という名の地獄を生きている。
決して覚めることのない『今日』を、ずっと見続けてきた。
十四年という歳月は、あたしにとって月日ですらない。
今日という日に積み重なってきた、怒りと悲しみ。
今日という日に再び出会ったシンジ。
会いに行けば嬉しさよりも憎しみが勝るなんてことは、あたし自身分かっていた。
でも、会いに来てしまった。助けられ、もう一度顔を見たいと思ってしまった。
結局、殴ることになってしまった。
でも、殴って良かったとも思えた。
本物である憎しみには、決着をつける必要があったのだから。
事実。一発で悲しみと憎しみは消え去って、スッキリしたのだから。
シンジに対する思いは紛い物、本物である憎しみも消えた。
コイツに未練なんてない。コイツは、ただのシンジ。
これであたしは、ただのアスカに戻れる。
エヴァパイロットとして戦うだけの、ただの戦闘人形に――――。
「ちょっと待ってよ! アスカなら知ってるだろ! 綾波はどこなんだよ!」
「――――知らない」
立ち去ろうとしたあたしを呼び止めるシンジ。
あたしは立ち止まり、吐き捨てるようにそう言った。
綾波綾波綾波。
十四年たったことを伝えても、あたしやミサトを見ても、自分のことばっかり。
周りを理解しようとすらもしない、その気がまったくない。
「知らないって……、助けたんだよあの時!」
「人ひとりに大げさね。もうそんなことにいちいち反応してる暇なんてないのよ、この世界には。 ――――そうでしょ? 葛城大佐」
ミサトも、ミサト。結局シンジに甘い。
そんなのことは、何のためにもならない。
今のバカシンジには、自分が何をしてきたのかを分からせてやる必要がある。
あたしはミサトに、そのバトンを渡して、その場を立ち去った。
<シンジ零号機と行く>
あっけなく零号機に連れ去られていくシンジ。
「あれじゃぁ、馬鹿じゃなくガキね」
ミサトが何も言わなかったわけない。
ミサトの言うことすら、アイツは聞かなかったに違いない。
わがままばっかの、ただのガキだ。
あたしはシンジに失望し、あたしの中のシンジがバカシンジから、がきシンジに変わった。
<十三号機VSアスカ>
新型エヴァの起動を確認。あたしはそのエヴァを殲滅すべく、攻撃を仕掛けた。
呆れたことに、シンジが乗っていた。
おまけに全部やり直せるだとか、世界を救えるんだとか、バカなことを言っている。
救いようのない、どうしようもないガキだ。
あたしはシンジに対する失望をバネにして、ガキシンジを殺すつもりで、刃物両手に十三号機の脳天めがけて襲い掛った。
「おとなしくやられろ! ガキシンジィィィィ!」
抵抗するシンジに、殺意であたしをねじ伏せ、渾身の力を込めた。
辛かった――――でも、それは仕組まれた感情だと言い聞かせた。
嫌だった――――でも、あたしは大人だと言い聞かせた。
あと一歩のところで、活動限界。
動くことのできなくなったあたしは、そのままシンジに払い飛ばされた。
「女に手を上げるなんて、最っ低……」
あたしの気持ちなんて理解してくれないシンジに、あたしは呟いてしまった。
シンジに対する気持ちが、吹っ切れたような気がした。
でもそれは、シンジに手を上げられたことに対する、悲しさの裏返しでもあった。
<シンジをエントリープラグから救出>
「ガキシンジ。助けてくれないんだ――――、あたしを」
がきシンジのいるエントリープラグの扉をこじ開け、シンジを見下ろしながら、あたしは言い放った。
助けてほしいわけじゃない。
シンジに助けてもらえれば、あたしの中で何かが変わる気がしたから。
この否応ない感情に、終止符を打てるような気がしていたから。
だからそれは助けてくれないシンジに対する、失望混じりのあたしの本心だった。
「また自分の事ばっかり。黙ってりゃ済むと思ってる」
まったく動こうとしないシンジに、あたしは心底呆れた。
振り返ってエントリープラグから飛び降り、そのまま立ち去ろうとした。
死にたいのなら、勝手に死ねばいいと思っていた。
でも、数歩進んだ所で足が止まってしまう。
シンジを見捨てられない自分に、嫌気がさす。
この気持ちすら嘘だと思うと、苦しくなる。
何もかもが誰かの思惑通りだと思うと、腹が立つ。
あたしは引き返し、エントリープラグの中に入り込んで、シンジの背中を蹴り飛ばした。
ただの八つ当たり。シンジなんてものがいるから――――。
あたしの感情はシンジと再会してしまったことで、自分自身ですら理解のできないモノになっていた。
「まだ甘えてる! いつまでたっても手間のかかるガキね!」
結局あたしは、シンジを無理矢理引きずり出して、第三村に連れて行く。
ただ、むしゃくしゃしていた気持ちはシンジの手を引いている間、不思議と消えていた。