アスカ視点のみで振り返るQシンエヴァと、その後の話 作:アスキス徒
<空白の十四年間(次回予告とシンエヴァより妄想)>
あたしの最期の記憶は、笑えることを気が付かせてくれたシンジに体をバラされ、エントリープラグごと潰されたことだった。
目が覚めた時には、自分がなぜ生きているのか分からなかった。
過去の自分が何を思っていたのかも思い出すことができなかった。
まるで自分が自分でないような、死んでいるような感覚だった。
抜け殻同然だったあたしはリツコから、あたしが使徒に汚染されていることを知らされた。
記憶を理解できないのは、使徒に魂の一部。心を持っていかれているからと聞かされた。
シンジに対する気持ちを失っているにもかかわらず、理解のできないシンジへの思いが湧いてくるのは、あたしの感情が仕組まれたものであるからと教えられた。
日向やマヤから、あたしを殺したのはシンジではなくダミーシステムであったことを知らされた。
やっけになったシンジがネルフにクーデターを起こそうとしたと、聞かされた。
シンジはエヴァパイロットを辞め、一度ネルフを出て行ったと聞かされた。
それでもバカシンジは戻って来て、使徒を倒したと聞かされた。
使徒に取り込まれたエコヒイキを助けるため、ばかシンジがニアサードを引き起こし、今は初号機に取り込まれていると聞かされた。
気持ちの整理もつかぬ間に、ニアサードに関する事情聴取のため、あたしたちは幽閉された。
そこでは、あたしの処分案が出されていた。
ミサトが居なければ、あたしは殺されていた。
ミサト達があたしの有用性を解いてくれなければ、あたしは消されていた。
あたしは、やっとその時決心した。
もう一度エヴァに乗り、ミサト達を助けると――――。
旧ネルフとの戦いは、サードインパクトによりあっけなく終わった。
ギリギリのところで止める事はできたが、それは滅亡を逃れられた程度の勝利だった。
あたしたちの完全な敗北だった。
そしてそこから始まったのが、本当の地獄だった。
あたしの体は、すぐに睡眠を必要としなくなった。
食事もそうだった。食べられていたはずのものが、いつの間にか食べられなくなった。
自分がもう生き物ですらないと、自覚させられた。
シンジに対する紛い物の気持ちすがりながら自分を慰める毎日も失った。
慰めたいという感情そのものが、湧かなくなった。
性的な欲求が消えさったのだと、理解した。
女であることを、あたしは忘れてしまった。
ヴィレの任務で第三村を訪れる度、孤独を味わった。
周りはみんな変わっていった。見た目も中身も変わっていった。
それはヴィレのメンバーも同じだったけど、同い年だった人たちが変わっていく様は、強い孤独をあたしに感じさせた。
あたしだけ取り残されていくような感覚だった。
置いて行かれてしまうような気がした。
見た目の変わらないあたしに、第三村の人達は不信感を抱いていった。
いざこざが起こった。
村にいられなくなったアタシは、第三村滞在時はケンスケ宅に転がり込むようになった。
それからも時間は経っていき、世界であたしだけが独りになってしまうような気持ちに陥った。
世界に捨てられてしまうような恐怖に煽られた。
独りになることなんて大したことでないと思っていたのに、独りになるのが怖くなってケンスケに肉体関係を迫った事があった。
そんな自暴自棄になるあたしを、ケンスケは止めてくれた。
断られたことにショックを感じながら、あたしはケンスケに救われたとも感じた。
その時、ケンスケに対して強い『信頼』のような気持ちが芽生えた。
それ以来あたしはケンスケを、『ケンケン』と呼ぶことにした。
あたしは人でなくなった自分を受け入れた。
独りになることは、もう怖くはなかった。
ただ人として死ぬことが、あたしの生きる意味になった。
あたしはもう負けないと、心に誓った。
<ケンスケ宅、裸のアスカ>
ケンスケがシンジを連れて来た。
あいかわらず何も変わっていないシンジに、あたしはさらに呆れた。
あたしの裸を見ても、なんのリアクションもなし。
あたしもそう。仕組まれた気持ちがあるのに、なにも感じない自分がいる。
シンジに会うたびに、あたしはあたしにイラつく。
シンジに会うたびに、あたしは自分と戦う羽目になる。
どうしようもないシンジを見ていると、シンジに期待してしまった分、辛くなる。
あたしのDSSチョーカーを見て吐き出すシンジに、もうシンジはダメになったのだと、あたしは思った。
<アスカ、飯を食わす>
飯も食わず、ただ寝ているだけのシンジ。
あたしがどんな気持ちで助けてやったかなんてこと、気にもしていない態度。
あたしは我慢できなくなって、シンジに無理やり飯を食わせた。
――――あたしを助けてくれたシンジに会いたかった。
――――こんなガキじゃなく、もっと違うシンジに会いたかった。
怒り任せになればなるほど、抑え込んでいた気持ちに歯止めが利かなくなる。
気持ちを制御できないあたしには、シンジに優しくすることなんてできなかった。
結局シンジはそんなあたしの気持ちなんて分かってくれず、家を出て行った。
あたしはシンジを助けているのに、シンジは助けてくれない。
シンジはあたしのことなんて、どうでもいいんだ……。
「あたしなんて、誰もいらないのよ――――」
あたしは人形片手に、呟いてしまった。
<ガキに必要なのはママ>
「姫、わんこ君とどうだったん?」
「べつに。興味ない。ガキに必要なのはママよ(キレ気味)」
あたしは保護者役としてシンジに接するしかなかった。
そんな関係になりたかったわけじゃなかった。
記憶に有るいつかのあの日のように、シンジとは背中を支え合って戦いたかった。
そんな関係になりたかった。
シンジに必要だったのは、ママとしてのあたし。
そんなのは、あたしじゃない。
マリに聞かれ、あたしはカッとなって答えた。
<アスカの告白>
『――――わたしはそれでいい』
綾波タイプの言った言葉が、あたしに刺さっていた。
シンジに好意を抱くようにプログラムされていても、それでもかまわないというあの言葉が。
あたしはこれから最後の戦いに挑む。
無謀な作戦。生きて帰れる保証なんてない。
死に装束のように感じるプラグスーツ。きっとあたしは死ぬと悟っている。
もしもの時は、DSSチョーカーで、あたしは死ななければいけない。
シンジは船に乗った。
でも、まわりにエヴァに乗るなと言われているから、アイツは結局乗らないでいる。
周りに言われているから、止められるから、結局乗らないでいる。
シンジはエヴァに乗ろうと思っている。
あたしは自分の気持ちに決着をつけるため。シンジの背中を押してやるため。
シンジのいる場所に向かった。
「なんであたしが殴ったか分かる?」
「――――僕が何も決めなかったから、責任を負いたくなかった」
あたしの問いかけに、シンジはそう答えた。
シンジは本心で話している、シンジはもう逃げていない。
あたしもいつまでも逃げているわけにはいかない。
シンジに負けてなんかいらんない。
あたしは初めて、素直な自分を引き出そうとした。
「最後だから言っておく。いつか食べたあんたの弁当おいしかった。あの頃はシンジのことが好きだったんだと思う。でもアタシが先に大人になっちゃった。じゃ――」
(自分はクローンであり、創られた感情。
人間でなくなって、性的な欲求もなくなって恋が分からない。自分が分からない。
だけどシンジのお弁当を食べて、美味しくて、嬉しくて――――。
その感情は、シンジのくれたお弁当を食べて生まれた、間違いのないモノ。
紛い物なんかじゃない。
シンジがくれた、シンジの気持ち。
だからきっと、シンジのことが好きだったと思う。
今は好きなのか? 嫌いなのか? もう分からないけど、人だった頃のあたしはシンジのことが好きだったと思う。
そして今の気持ちが、本当のあたしだと思う。
もう伝えることは伝えた。死んでも、あたしに悔いはない。
あたしは自分に決着を付けた。でも、あんたはまだ。
じゃあね、シンジ)
結局素直には言えなかった。
でも、ずっと抱えて来た自分の思いに決着を付けられたようで、あたし自身を取り戻せたようで、あたしはスッキリした。
<大人アスカ、告白される>
「――――あたし、寝てた?! ばかシンジ」
「良かった、また会えて。これだけは伝えておきたかったんだ。ありがとう、僕を好きだと言ってくれて。僕もアスカが好きだったよ」
なに? この気持ち。
心があったかくなるような。すごく、恥ずかしい気持ち。
あたし、なんでこんなに嬉しいの?
そっか――――、あたしシンジのこと、好きだったんだ……(微笑み顔)。