【暴喰】に弟がいるのは間違っているだろうか   作:せんせん

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原作前
第一話 プロローグ


 俺には兄がいる。そして強い。身内贔屓だと聞こえるだろうが実際に強いのだ。

 

 自分よりも早くゼウスファミリアに入り、その兄の勧めで俺も同じファミリアに入った。兄は神達が言うところのレアスキル【神饌恩寵(デウス・アムブロシア)】を発現させていた。

 その能力は【強喰増幅(オーバーイート)

 人や獣、怪物(モンスター)などの万物を喰らうことで能力(ステイタス)を上昇させる。

 正に【暴喰】の二つ名にふさわしいスキルであった。

 

 そんな兄に憧れた俺は兄と隣に立ちたい、兄をも超える英雄になりたいという思いに強く引かれた。だから俺は兄の真似事をしてみた。まずは試しにモンスターを喰らってみた。最初は余りの不味さに吐き気をもよおし、胃痛を起こしたのは言うまでもない。

 

 だが、何度か繰り返していく内に胃痛はしなくなった。むしろ、喰らえば喰らうほどステイタスが跳ね上がっていくのがわかった。俺は迷宮(ダンジョン)の帰りにゼウスに頼みステイタスを更新してもらった。

 すると、スキル欄に兄と同じスキルが発現していることが判明した。あのゼウスでさえ、驚きのあまり腰を抜かしていたが、俺のスキルが発現したことを喜んでくれた。その話はゼウスファミリア全員に伝わり祝福してくれた。

 

 そして、それを聞いた兄は、まるで自分の事のように喜んでくれた。俺は兄と同じスキルが発現した事に現実感がなかったのだが、兄に褒められたことで嬉しさのあまり柄にもなく涙が出てしまった。そんな俺を皆は暖かい目で見守ってくれた。

 

 それから何年かたち、俺がlevel5に到達した時にある話が舞い込んできた。

 

 それは、三大冒険者依頼(クエスト)

陸の王者(ベヒーモス)】、【海の海王(リヴァイアサン)】、【隻眼の竜(黒竜)】をヘラファミリアと同盟を組み討伐するという話だ。

 

 当然、そのクエストに志願したが相手は人類三大クエスト。ベテランならともかく、level5になったばかりの俺には早すぎると判断され、俺は闇派閥(イヴィルス)を抑制するために居残り組としてオラリオに残された。

 

 そして、ついに三大クエストのひとつ、『ベヒーモス』の討伐のために大遠征が行われた。遠征にはオラリオにいる神や冒険者、住民達が見物人として訪れていた。俺はそんな兄達の姿を見つめることしかできなかった。

 

 皆が『ベヒーモス』討伐に向かい、1ヶ月がたった。俺は闇派閥を牽制しながらダンジョンを攻略している内にステイタスがランクアップするのに十分なほど成長した。するとある日一人の冒険者がゼウスファミリアの本拠地(ホーム)入ってきた。最初はまた闇派閥が何か仕出かしたのかと予感したのだが違った。

 

 それは同盟軍(ゼウスとヘラ)が『ベヒーモス』を倒したという情報だった。これにはオラリオに住む全員が歓声を上げた。そして俺にとって何より嬉しい事はベヒーモスを討ったのが兄だと聴かされたからだ。

 

 それから1ヶ月後に団長(マキシム)達が還ってきた。オラリオの人々は英雄達を讃えた。ある程度、行軍が進むと兄の姿が見当たらないことに気づく。そこで団長達に話し掛け兄がどこにいるかを聞くと皆、暗い表情になる。俺はこの時胸にざわめいたものを感じた。

 

 そして団長はゆっくりと話してくれた。ベヒーモスとの戦いは苛烈を極め、なんとかこちらが優勢であったが奴に対する決定打が不足していた。すると兄は自分のスキルを使いベヒーモスの肉を喰らいステイタスを爆発的に上昇させることでトドメをさしたのだそうだ。

 だが、代償が大きかった。ベヒーモスは猛毒を司る怪物。全てを蝕み、全てを溶かし、全てを殺す(いにしえ)の怪物の毒肉を喰らったことで、まるで呪いのように内側から腐らせるようになり、兄の体を蝕むようになった。その証拠に(とこ)に伏せる兄の体は一部が紫色に変色して苦しんでいた。

 

「治す方法はないのか?」と問うてみたが『ベヒーモス』の猛毒を治せるものなら三大クエストに数えられてるわけがない。つまり、兄は一生『ベヒーモス』の猛毒と共に生きなければならず、生の地獄を味あわなければならないのだ。

(何故だ?何故、ベヒーモスを討った英雄である兄がこんな目に遭わなければならないのだ)とこの時の俺は運命というものを呪った。

 

 あれから、兄は元気を無くしてしまった。ベヒーモスを討ったことでlevel7に到達できたが猛毒の蝕まれた今は体を無理に動かすだけで毒の進行を早めてしまうため、ダンジョン攻略が出来なくなってしまった。仲間達はそんな兄を気遣って毎日見舞いに来てくれたが、ダンジョンの話がでるたびに悔しそうな顔をする兄の姿を見るたびに心が痛んだ。

 

 戦線を退くことになった兄の代わりを務めるために、俺はダンジョン攻略をこれまで以上に行った。時には無茶をして死んでもおかしくない大ケガをおったこともあり、ゼウスと仲間達には何度も止められたがそれでもダンジョン攻略を行った。兄の無念を、三大クエストを果たすために、強くならなければならないのだ。

 

 ベヒーモス討伐から1ヶ月近くが経過し、遂に俺はlevel6に到達する事ができた。すると団長から『リヴァイアサン』の討伐を行うと聞かされた。

 第一級冒険者に到達をしている俺は討伐隊にくわえられた。出発前に兄の下に挨拶に向かった。兄は「無茶だけはするな」と言われたがベヒーモスを討つために無茶を行った兄に言われても説得力の欠片もなかった。

 

 2回目の行軍にも多くの人々が集まってくれた。初めての三大クエストに武者震いを起こしていることがわかった。俺はこの時兄の大剣を借り受けていた。兄が側にいる、兄の力ならば必ずややり遂げられるという確信めいたものを感じた。

 

 オラリオから出発して2ヶ月が経過し、ついに『リヴァイアサン』が縄張りにしている海域に到着した。団長達もヘラファミリア、そして今回は海の戦闘を得意としている【ポセイドン・ファミリア】も参戦し気合い十分といった様子であった。すると俺達の気配を悟ったのか海の中から現れた。その圧倒的姿にゴクリと生唾を飲み込んだ。団長はゆっくりと剣を鞘から取り出しリヴァイアサンに向ける。「突撃────!!!」という合図と共に俺達は敵に向かって突撃した。

 

 あれから、何時間が経過したのだろうか。リヴァイアサンとの戦闘は苛烈を極めた。ベヒーモスと違い猛毒などは持っていなかったが、海を利用しながら変幻自在に動き回りながら攻撃はかなり苦戦した。

 

 何とか、この窮地を脱するために海から顔を出したリヴァイアサンに近づいた。【神饌恩寵】を使えばステイタスが上がり、起死回生の一撃を与えられると考えたからだ。

 だが、こちらの動きを詠んでいたのかリヴァイアサンは俺を弾き飛ばす。体を海面に何度も打ち付けられようやく止まる。俺を標的と定めたリヴァイアサンは飲み込まんと大きな口を開けながら突進してくる。俺は死を覚悟し目を瞑る。

 

福音(ゴスペル)

 

 まるで鐘のようなゴーンという音と共にリヴァイアサンが吹き飛ばされる。すると隣には灰色の髪のブロンドヘアーの美女が佇んでいた。

 その女の名はアルフィア。二つ名は【静寂】

 ヘラファミリア所属で俺と同じlevel6。『才能』に愛され、『才能の権化』にして『才禍の怪物』と評された女だ。

 

「ありが「弱いな」

 

 俺が感謝の言葉を伝えようとすると、遮るように罵倒された。最初は何を言われたのかわからなかったがその言葉を理解すると同時に怒りが湧いたがそんなことはお構い無しとばかりにアルフィアは言葉を続ける。

 

「本当にあの【暴喰】の弟なのか?あの男は圧倒的な存在感があったがお前にはそれがない。嫌、あの男と同じ気配なのだがまるで質が違う………ああ、そういえばヘラが『あの弟は【暴喰】の猿真似をしている(まがい)い物に過ぎん』と言っていたが本当のようだな」

 

 その言葉に反論することもできなかった。

 そうだ、自分は所詮兄を真似ることでしか力を得られなかった本当の英雄は自分の力で偉業を成し遂げた者をいうのだと改めて思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は英雄にはなれないのだと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を俯くことしか出来なくなった俺にもう用はないと言わんばかりにアルフィアは『リヴァイアサン』の下に向かうが俺はその後ろ姿を見ることしかできなかった。武器と魔法が飛び交う音、まるで何時間も聞かされているような感覚がした。

 

福音(ゴスペル)】────【サタナス・ヴェーリオン】

 

 すると先ほどよりも、比較にならないほどの鐘の音が戦場に鳴り響く。その音が鳴り止むとリヴァイアサンは断末魔をあげながら倒れた。遂にリヴァイアサンを倒すことに成功したのだ。

 団長が勝鬨(かちどき)をあげると共に全員が叫び声をあげる。共に抱き締め合いながら喜びを分かち合う者、涙を流し感動を噛み締めている者など様々であるが皆喜んでいた。

 嫌、俺だけは皆が歓声をあげる中で暗い顔をしていた。自分は所詮凡人の中では強い方でも本当の英雄達の前では弱者でしかないと思い知らされた戦いであった。

 

 帰還した俺達に待っていたのはオラリオの人々の暖かい祝福であった。皆はその祝福に喜んでいたが俺は素直に受け取ることができなかった。自分はリヴァイアサンの戦いにおいて一度も活躍していない。寧ろ、皆の足を引っ張ってしまった事に罪悪感が芽生えたからだ。

 

 ホームに帰った俺は兄の元に向かった。「よく頑張ったな」と褒めてはくれたが今の自分には胸に突き刺さる言葉であった。

「俺は所詮、兄者の真似をすることしかできない弱者だ」、「皆の役に立つどころか、足を引っ張ってしまった」と兄に弱音を吐いてしまった。病人である者に弱音を吐くとは自分がいかに愚かなのかがわかった。

 

 そんな俺を兄は責めるどころか、俺の頭に手を乗せ乱暴に撫で回した。自分に失望したのではないのかと不安だったのだが疑問に思った。

 

『剣と女も、人生すらも、思い立った時こそが至宝』。突然ゼウスの教えを言い出した。最初は意味がわからなかったが次に兄はこう言った。

 

「お前は自分の人生に後悔があるのか?俺の真似事をした事に後悔はしたのか」と質問をしてきた。

 否、確かに自分が弱者であることは認めるがそれをすれば兄を弱者だと認めることになってしまう。俺は全力で否定した。

 

 すると兄は豪快に笑いだし「それでいい!自分の信じた道を進め!」と言いもう一度頭を撫で回した。

 

 

 

 

 あれから数ヶ月が経過し、俺はランクアップは果たせなかったもののステイタスは十分にあげることができた。そして遂に三大クエスト最後の一つ『黒竜』の討伐をおこなうと聞かされた。

 三大クエスト最後の一つということで団員達は皆今まで以上に闘志を燃やしていた。

 

 オラリオを出発する頃には今まで以上の歓声で俺達を見送ってくれた。既に俺達の勝利を確信していると言わんばかりの熱狂だった。

 

 そして討伐隊は黒竜が住み着いていると言われている山脈にさしかかる。道中、黒竜の劵属と思われるワイバーンなどの第一級冒険者並みの強さを持つモンスターが襲いかかってきた。勿論、俺達は難なくこれを撃退した。

 

 すると、突然晴々としていた空は闇に閉ざされた。空に上を向けるとリヴァイアサンと比較にならないほどの圧倒的存在感を漂わせて黒竜は姿を現した。

 

 団長達も、最初はその姿に圧倒されていたがすぐに立て直し戦闘体制に入る。仲間達も気合い十分であった。そして黒竜の咆哮と共に戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 だが俺達に待っていたのは伝説に語り継がれるような戦いでもなく怪物(モンスター)による────

 

 

 

 

────────災厄の蹂躙であった。

 

 

 神々にも実力を認められ、自負にも溢れた強者(つわもの)どもがかつてないほどの蹂躙にあった。粉々にされ、八つ裂きにされ、焼却され、餌にされ………戦意を失ってしまった俺の視界に映ったものは血の海しか残っていなかった。

 そして、生き残った者達は………『最強の英雄達』と讃えられた眷族達は()()()()()

 

 その中には自分も含まれていた。マキシム達の死に恐れをなし、不様に泣き叫びながら死ぬわけにはいかないと『弱者』という泥に身を汚しながらも逃亡した。

 

 なんとか黒竜から逃亡できた俺はオラリオに帰還することができた。無様に逃げ帰ってきた自分に冒険者達はどう言葉をかけていいのかわからず、同情に近い視線を送られた。それは俺にとって罵倒以上につらいものだった。

 

 ホームに帰るとゼウスが慌てた様子で出てきた。俺の姿を目にすると目に涙を浮かべ「よく帰ってきた!」と自分を強く抱き締めてくれた。あのエロ爺がここまで悲しい表情を浮かべるとは、やはり多くの眷族(子ども)達を喪ったことが相当こたえたようだ。

 

 それからは大変であった。多くの劵族を喪ってしまったゼウスに追い撃ちをかけるかのようにギルドから追放命令が出されたのだ。おそらくは美神(フレイヤ)道化師(ロキ)による策略なのであろう。ヘラファミリアも同じように命令されていた。反発すると思っていたゼウスとヘラは大人しくオラリオを去った。

 ゼウスがいなくなったことによりファミリアは事実上の解散になってしまった。俺は兄を連れ誰もいない山奥に向かった。

 

 

 

 

 

 あれから7年。自給自足の生活をしながら兄と一緒に穏やかに暮らした。最近、陸の王者(ベヒーモス)の『毒』に晒され続けきたあの地に一部枯れることのない『薬草』が群生するようになった。それは兄の症状を抑えるための『解毒剤の素材』になるようだ。それを飲ませることで兄は少しずつではあるが体を動かせるようになった。

 

 ある日俺達兄弟の下にある人物…嫌、神物(じんぶつ)が訪れた。漆黒の髪に一部灰色が混ざった珍しい髪に、神らしく整った顔立ちをした男神だ。その神の名はエレボス。最近になって下界に降りてきた新米の神のようだ。ある目的のために俺達を探していたとのこと。

 

 最初は警戒をしていたが話だけでも聞こうと家の中に入れた。話をするための席を用意し、エレボスは話始めた。ゼウスとヘラが全滅してから、闇派閥は急激に勢力を拡大しているとのこと。このままでは【黒き終末】を討ち滅ぼすことはほぼ不可能。そこで次代の英雄をつくるために旧代の英雄達を探していたとのこと。

 

 ふざけるな!

 

 俺は怒りに震えた。それはつまり兄を、『英雄』と讃えられた男に世界のために悪に堕ちろと言うことか。仮に成功しようと失敗しようと兄は死後、『堕ちた英雄』と語り継がれるだろう。それだけはダメだ、自分にとって兄はいつまでも語り継がれるような英雄なのだから。

 

 自分は断ったが兄は「わかった」と返事をした。最初は信じられなかったが俺はすぐに兄を説得した。「その体では無理だ!」「兄者が世界の踏み台になる必要は何処にもない!」と何度も説得したが兄はさっさと自分の装備を整え、出発しようとした。

 

 俺は兄の前に立ちはだかった。「どうしても行くと言うのであれば俺を倒してみろ!」と言って、エレボスは困り顔、兄は無表情で「…わかった」と返事をし、大剣を引き抜く。

 

 お互いに大剣での決闘。周りからはこの戦いに邪魔が入らないように気を配っているのか風や獣達の声などは一切しなかった。風が吹いていないのに一枚の木の葉がヒラリヒラリと俺と兄の間に落ちてくる。その葉が地面に落ちた瞬間、俺達の闘いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 結果は………惨敗であった。

 相手はlevel7とはいえ、戦闘から一線を引いた者。互角とはいかずとも一撃を食らわせられると考えていたのだが、兄は攻撃を全て捌ききり、一撃を食らわせてきた。その一撃はまるで山と錯覚するような威力であった。

 

 一撃のもとに沈んだ俺は薄れゆく意識の中で必死に兄に向かって手を伸ばす。動いているかもわからない口で「行かないでくれ………兄者」と情けない声をあげる。そんな俺に兄は悲しそうな表情を浮かべたが、背を向けてエレボスの下に行く。

 

 小さくなっていく兄とエレボスの背中を見つめながら、俺の意識はゆっくりと闇へと堕ちていった。

 

 

 

 兄がエレボスと共にオラリオに向かい一年がたった。オラリオは闇派閥によって地獄とかし、更には各地でも一斉に蜂起することでオラリオは包囲されたという情報が翔んできた。その中には【暴食】と【静寂】が闇派閥に堕ちたということも判明した。兄とアルフィアはエレボスが臨んだ『必要悪』となったのだ。

 

 そして俺の下に闇派閥の者達がやって来た。最初は俺を始末しに来たのかと警戒をしていたが違った。闇派閥がオラリオの冒険者に敗れ去ったこと。その戦いで兄が【猛者(オッタル)】との死闘に敗れ討たれたと聞かされた。

 

 この時の俺は絶望に落とされた。俺の英雄が、憧憬が、未来の英雄をつくるための『踏み台』となり、命を散らせたのだ。俺は泣いた。嗚咽を漏らしながら、唯一の肉親の死を嘆いた。

 

 しばらく、泣き叫び少しずつ落ち着いてくると闇派閥達は兄から手紙を預かったとのこと。渡された手紙に何が書かれているのか一抹の不安を感じながらもゆっくりと開き、読んでいく。

 

『◯◯◯へ

 

 お前がこの手紙を読んでいるということは、俺はオラリオの冒険者達に敗れ去り、この世にはいないということであろう。

 

 まずは謝らせてほしい。あの時、何も相談せずにお前の下を去ったことを。お前のおかげで外を歩ける体になったというのに俺は恩を仇で返してしまった。勿論、この選択に後悔はない。だが、解ってほしい。解毒剤があるとはいえ、『ベヒーモス』毒は強大だ。いつか薬の効果が効かなくなり俺の命はなくなるかもしれん。ならば俺はいつかオラリオの冒険者達が【黒き終末】を終わらせてくれることを信じて世界のための礎となりたいと思う。』

 

 

 

(そんな勝手な………………勝手なことを抜かすな!!!?)

 最初はその内容に怒りが湧き手紙をビリビリに破いてやろうと思ったが気持ちを落ち着かせてから続きを読んでいく。

 

 

 

『実はお前に頼みたいことがある。あの『男』がヘラの【眷族】を、『アルフィアの妹』を孕ませたことを覚えているか?』

 

 

(……『あのバカ』がやってくれたことか)

 ゼウスファミリアで唯一【猛者(オッタル)】と【勇者(フィン)】に負けるほど弱く、『サポーター』のくせに率先して逃げるわ、主神と一緒に女湯を覗きに行くわ、散々な男。ヘラの眷族を孕ませたと聞いた時は兄と一緒になって『なにしてんだ、アイツ!?』と本当に震え上がった。

 

 

『頼みたいこととは、あの二人の子を見に行ってほしいんだ。アルフィアの話ではゼウスに預け山奥に暮らしているらしい。たとえ『あのバカ』の子供とはいえ、俺達の家族だ。どんな子なのか気になってしまってな。図々しいのは理解しているがこんなことはお前にしか頼めない。

 

 

 そして最後に

 お前は好きなように生きろ。もう俺に縛られることはない。これからは自由にやりたいことをやれ。お前はいつも自分は『弱い』と言っているがお前の頑張りは俺が一番よく知っている。たとえお前がどんな人生を歩もうとも俺は、兄は弟のお前をいつまでも見守っている。だから強く生きていけ。

 

 

 

 ザルドより』

 

 

 

 手紙を読み終える頃には、涙が止まらなかった。これが最後に聞くことになる兄の言葉とはなんとも残酷なのであろうか。もしも、俺もエレボスについていけば、嫌、『陸の王者(ベヒーモス)』との戦いの際、無理にでも着いていき自分が肉を喰らっていればもっと違う運命を辿れたのではないかと後悔が募る。

 

 闇派閥の者達は「オラリオの冒険者達に復讐しましょう」と誘ってくるが、兄を喪った今ではどうでもよかった。だが俺にはやらなければいけないことがある。兄の最後の願い、『あのバカ』の子供を見てあげることだ。

 

 俺は闇派閥の誘いを丁重に断り、早速荷造りの準備を行う。そして翌日、旅に必要そうな物を一通りまとめて鞄を背負う。家を出る際、八年間の生活を振り返る。冒険者時代の頃には考えられない穏やかな生活、この日常がいつまでも続くと思っていたが運命は俺達を許してはくれなかった。

 

 こうして俺は、兄との生活が馴染み深い家を後にした。だが、ここに戻ってくることはもうないであろう。何故かはわからないがそんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、【暴喰(英雄)】に憧れながらも英雄になるができなかった男──────ハイドが織り成す。

 新たな〈眷族の物語(ファミリア・ミィス)




ハイド

年齢:27歳(15年前)~35歳(7年前)
身長:210センチ
容姿:目元の傷がなく、髪が灰色のザルド
装備:銀色の鎧と青いマント
武器:大剣
詳細:ザルドとは10歳ほど年が離れているが周りからは「双子ではないか?」と言われるほど瓜二つ。本人達は否定をするが、好物や趣味も同じになることから益々双子疑惑が高まってしまう。その事からハイドはザルドの武器や装備を同じでもいいのではと考え、銀と青を基準にした大剣と鎧を用意してしまう。そのせいで彼の二つ名はザルドと似ている物になってしまったとか。
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