ボクっ娘薬師は勇者に媚薬を渡した【完結】   作:ボクッコスキー

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これは私の兄の弟の父親の息子が送りつけてきたものだ。彼の名?そうだな匿名ではあるのだが……以降はアイノオモイコスキーと呼ぼう。


僕っ娘薬師は格闘娘に毒薬を渡さない

 やあ、ボクだよ。そう、またなんだ。

 

 なんというか後片付けはきちんとしてくれたようで、目の覚めたボクを迎えたのは整えられた寝具であった。事に参加したお二人は、片付けた後に自室に戻ったようだ。

 

「おや?」

 

 寝巻きを着せられているし、なんなら体のベタつきもない。体まで拭いてくれるなんてサービスが行き届いている。まあ、巻き込まれ事故の恨みは消えないのだがね。

 

「しかし……本当にボクは天才だな」

 

 昨日飲んだ疲労回復薬、実は一回の服用で3日ほどは効果が続く。おかげで疲労感はまるでない。なに?仕組みが知りたいだって?もちろんダメだよ、機密事項だからね。

 

 身支度を済ませてコーヒーを淹れる。熱々の状態で啜れば、独特の苦味が口の中に広がる。世間一般ではミルクなり砂糖なりを入れて飲むものらしいが、ボクはそのまま飲む。苦さが寝起きの頭に効くからね。

 そういえば朝コーヒーについては、一つ面白い実験をしたことがある。コーヒーの成分を抽出し同じ効果の出る薬を作ったのだ。

 結果は、コレジャナイの一言に尽きる。確かに目は覚めるし、午後からの活動も捗った。しかし、何かが不足している気がしてならないのだ。

 

 というわけで、朝のコーヒータイムは私が唯一リラックスして時間を過ごす時となっている。しかし、今朝はそうもいかないようだった。

 

コンコン

 

「おや、こんな朝早くから訪ねてくる人がいるとはね。入ってきていいよ」

 

「……おはよう、レニ」

 

 かわいい耳をピコピコさせて入ってきたのは、このパーティー唯一の異人族、格闘娘ことサラだ。正確には猫人族という種族の彼女は、なんともまあ驚くべきことに王女らしい。参加の動機としては人間族に恩を売り、猫人族の中での地位を固めると言った所だろう。

 

 しかし、いつもは私の研究を怖がって決して近づこうとしない彼女のことだ。おそらく重大な要件があるに違いない。

 

「珍しいじゃないか、君が一人で訪ねてくるなんて」

 

「頼みがあって……来た」

 

「まあまあ、まだ朝なのだからのんびりコーヒーでも飲んでいかないかい?」

 

「……何を入れるかわからないからいらない」

 

 それは残念だ。2、3種類ほど試してみたい薬があったのだが……。

 

「それより、ここからはナイショの話」

 

 彼女がグイッと近づいてくる。艶のある髪が朝日を反射して眩しい。耳元で囁くように言われた内容。ボクは思わず彼女の瞳を見つめる。

 

「……本気で言っているのかい?」

 

 思わず聞き返してしまったが、彼女はこくりと頷く。どうやら本気のようだ。

 

「なぜ毒薬なんてものが必要なんだい?」

 

「……殺さなきゃいけない相手が出来た」

 

「そいつはまた物騒だ。しかしまあ、答えるならば……」

 

 彼女の殺意は本物だ。

 

「駄目だ。君に毒薬は渡せない」

 

「……作れないの?」

 

「まさか!ボクは天才薬師だよ?すぐに全身の穴から血を噴き出して死ぬものから、痕跡が一切残らないものまで、なんでも作れるさ」

 

「じゃあどうして」

 

「これはボクのものだからだ。力も技もないボクだけが使える唯一の武器、それが毒薬さ」

 

 ボクの作った毒は、もちろんボクにも効く。薬師というものはある程度の耐性を持っているものだが、ボクの毒はお構いなしに対象を破壊する。

 

「例えば……君の受け継いだ秘伝の格闘技、あれを教えてくれと言われて簡単に教えるかい?」

 

「それは……教えないけど」

 

「それと似たようなものさ。ボクの毒はボクが管理できる範疇でしか運用しない。それがボクの方針だ」

 

「わかった……」

 

「物分かりが良くて助かるよ」

 

 コーヒーを継ぎ足すために火元へ行ったボクに、後ろから彼女は声をかけてくる。

 

「じゃあもう一つお願いがあるの」

 

「……一応、聞こうか」

 

「アンナを、殺して」

 

 まあ、そうだろうなと思っていた。

 格闘娘の実力はボクも理解している。そんな彼女がボクの毒薬を求める相手となれば、やはり身内だろう。痕跡を残さないという点において、ボクの毒薬ほど有用なものはないからね。

 

「理由を聞いてもいいかい?彼女との仲は悪くはないように見えていたが」

 

「確かにアンナは良くしてくれてる。でも……今朝匂いで分かった。アンナは私のウィルに手を出した」

 

 ウィルとは勇者の名前である。

 というのは今はどうでもいい。ボクはバレないように、逃げ口として使えそうな扉と窓の位置を確認する。

 

「どうしたの急にキョロキョロして」

 

「いやいや、そそそんなことしてないよ?」

 

「……そう。それで、引き受けてくれる?」

 

「嫌と言ったら?」

 

「レニも殺す」

 

「だろうね」

 

 うーん、お手上げである。というかまずい。今はなぜか気づいてないようだが、昨晩の盛り場はこの部屋なわけで、つまりは匂いなんかはここにも染み付いているはずで……

 

「ねぇ、早く答えて。この部屋、薬臭くて嫌い」

 

 今まで生きてきた中で一番、自分が薬師であった事に感謝した。ありがとうボク。

 

 そして神に感謝。部屋の外から足音がする。

 神はこのどうしようもない状況に救世主を送り出してくれたようだ。

 

「レニ、おはよう!おっと、サラもいたのか。おはよう」

 

 勇者である。格闘娘が気を取られている間に、この場を立ち去ってしまおう。

 

「やあウィル。ボクは今から女将さんに用事があるから、サラのことは頼んだよ?それじゃあ」

 

 そう言って勇者の傍を通り抜けようとした時、彼の頑丈な手でがしりと腕を掴まれる。

 

「……なんだい?」

 

「いや、なんだその……昨晩はすまんかった」

 

 勇者に向いていた視線が、ギョロリとこちらに向くのを肌で感じる。ええい、手を離せ!君のせいでボクの人生が危険なんだよ!

 

「……レニ?」

 

「い、いやぁ……そのだね?」

 

「ううん、何も聞かないよ」

 

 そう言う格闘娘は、これまでの道中で一切見せなかった満面の笑みを、ボクに向けていた。ボクにもわかる。聞かないというのは宥免の意ではなく、拒否の意だ。

 

 どうやら、彼を遣わしたのは神ではなく邪神であったようだ。

 




次話まで格闘娘パートかもしれないしそうでないかもしれない。次話に進むまで、その二つの事象が平行して存在したりしなかったりする。
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