ボクっ娘薬師は勇者に媚薬を渡した【完結】 作:ボクッコスキー
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もうそろそろヒューマンドラマ名乗っていいですか?あっダメ、そう……
えっと、初めましてだな。俺はウィル。田舎の生まれだからただのウィルだ。
なに?知ってる?まあ俺は勇者だし知っててもおかしくないか。そうじゃない?……なんか君たち俺に対してあたりが強くないかい?
自己紹介を続けよう、俺は勇者だ。ある日突然力を得て、人間族と魔族との戦いを終わらせるために立ち上がった。
道中、様々なことがあった。仲間も増えた。だが一つ言いたい。どうして仲間になってくれるのが女ばかりなんだ。いや、彼女たちの実力を疑っているわけではないんだ。ただ、神の意思だとか世界の理だとかそんなパワーのようなもので、一芸に秀でた女性ばかり仲間に増えていった。
幼馴染のアンナは、俺にはもったいないくらいにいい女で、見た目はもちろん世話焼きな性格は将来良い嫁になること間違いなしである。
異国の姫君ことサラは、こちらが庇護欲を感じてしまうくらいに儚げながらも、その格闘技は人間族には手に入れられないほどの鋭さがある。
魔術師のローザとは、実を言うとあまり話せていない。そもそも彼女が自分語りをしない性格ではあるのだが、パーティーへの加入時期が遅かったと言うのもある。すぐに激戦続きとなったから、腰を据えて話す余裕すらなかったのだ。
そして最後に、薬師のレニだ。
彼女は研究好きでミステリアスに見られがちだが、意外と話せる方なのである。よく夜中に呼び出されては、実験と称したお茶会を開いたものである。なに?それは本当に実験だったんじゃね、だと?そんなわけあるか。現になんの症状も出てないしな。
まあとにかく、こんな素敵な4人と旅ができたのは、俺自身満足だったんだ。だから国に帰ったら、またどうにか皆で一緒に過ごしたいって考えてた。
『勇者、お前は国に帰ればその日に殺される』
戦争を終わらせた日、突如として夢に現れた神を名乗る男が俺にそう告げるまでは。
夢の中で俺は色々と喚き散らかした記憶がある。でも、どれだけ叫ぼうともその男にこちらからの声が届くことはなかった。
『国に帰るな、仲間を捨てて一人で逃げろ』
『仲間を信じるな』
それだけ言うと、夢は掻き消えてしまった。仲間を捨てろ?冗談じゃない。それに俺は勇者だぞ。『勇者を殺せる脅威』を放置して一人逃げることなんてできない。
その脅威とやらが彼女であることは、次の日の夢で告げられた。
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昔、確か夜中のテンションのままレニと変な話をした。あの時は深夜というのもあり、やけに口が回った。でもよく覚えてるのは、きっと『実験』という体で飲まされたものの発酵した匂いが強烈だったからだろう。
「ウィル、君は誰を選ぶんだい?」
「んあ?なんだよいきなり」
「なに、前々から気になっていてね」
レニは言う。魅力的な女性に囲まれてながらも一切手を出さない姿勢は素晴らしいが、同時に男としてどうなのか、と。
「んなもん……言えるわけねぇだろ」
「まあまあ、そう言わずにさ」
「選べるわけねぇだろぉ!皆いい子過ぎんだよぉ!それに、俺に好意があるかどうかなんてわかんねぇしよぉ!」
「うーむ」
レニは唸った後に言葉をつなげた。
「君は勇者といえど、道中の安全は保証されたわけではない。むしろ危険ばかりだ。それなりの目的があろうとも、君に好意がなければついてこないと思うがね」
「レニ……」
「まあ、葛藤できるのも知能生命体の良いところだ。存分に悩みたまえよ」
くくくと笑うレニは、それはそれはもう本当に楽しそうだった。
「まあでももし……」
俺はその後に続く言葉で息を呑んだ。
「もし本能に全てを任せたくなったならば言ってくれたまえ。相手の身も心も溶かし尽くす毒から、記憶を少しだけいじくる薬まで、君に処方してやろう」
「んなこと大事な仲間にできるわけねえだろ……」
「なぁに、君は勇者だ。基本的にオンナというものは強い男に惹かれるものだから大丈夫さ」
そういうレニの顔は、月明かりだけでしか照らされていなかったが、それでも十分に赤みを帯びていた。
この時はもしかしてレニは俺に……だなんて思っていた。彼女のことだ。『魅力的な女性』だの『基本的なオンナ』だのに自分を含めているわけがない。
じゃあこの赤みは何か?発酵した匂いって言ったろ。つまりそういうことだ。バカバカしい。
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俺は殺されないために一つの方針を立てた。彼女をおとしてしまおうというものである。馬鹿らしいって?俺もそう思う。でもこれがあの時考えた、『誰も死なず誰も殺させない』ための最善策だったんだ。
思い立ったが吉日と言わんばかりに、俺は夜中に彼女の部屋を訪ねた。
あとはまあ、俺の口から語るほどのことでもないかな。なに、語ってほしい?うーん、じゃあある程度端折りながらいくぞ。
無事に女をおとす薬を手に入れた俺は、それを彼女に使った。その後のことは、鮮明に覚えている。
普段の冷静沈着な彼女はどこへやら、腕の中で声も抑えずに踊る彼女は艶やかで美しかった。普段のこちらを試すような視線はなく、あるのはこちらを期待するように見つめる瞳だけ。薬の効果はそれほどまでに絶大だった。
ただ一つ失念していたことが、一般人である彼女と勇者である俺の体力差だった。
ああもう一つ。後日聞いた話だが、この薬は実験すらまだの開発品で、どうやら粘膜接触による効果の伝搬が多少あるらしい。
俺の理性まで吹っ飛ぶことになるとは、流石に想定外の事態だったってわけだ。
翌朝、ベッドから抜け出されて目が覚める。彼女に話しかけた俺は、悟る。
まるで昨晩のことが嘘のように普段通りに会話する彼女は、俺の薬頼りだった計画が失敗したことを表していた。
ならばと思い彼女との接触時間を増やそうとすればするほど、何かしらの用事なり他人なりが邪魔をして、気がつけばどんどんと王都へと近づいていた。
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王都に近づけば近づくほど、自然と街とが調和した街並みへと変わってくる。外ののどかな畑の様子とは対照的に、中心街は人で賑わい活気づいている。
そんな場所だからこそ、王都の情報も多く入ってくる。
「なぁ聞いたか?王が凱旋パレードに参加するってさ」
「ああ。でもおかしな話だよな。普通勇者が城で待つ王の元へと帰る道のりになるんじゃないのか?」
「馬鹿だなぁ。勇者は人類最強だぞ?王ですらも平伏す唯一の存在なんだ」
「なんだそれ。ここは勇者のための国じゃないぞ」
「勇者っていいよな。努力もせずに力を手に入れてよ」
「勇者を崇めよ!我らは勇者と共にある!」
「勇者ってなにさね。私みたいな一般市民にはなんの関係もない話さ」
仕方のないことだ。目立つとはこういうことなのだと言い聞かせながら街を歩いた。だが、流石に疲れたと路地裏に入った時にその会話は聞こえた。
「王が勇者を殺そうとしているらしい」
「馬鹿!お前誰かに聞かれたらどうするんだよ!そもそも根拠はあんのか?」
「俺も詳しくは知らない。だが火のないところに煙はたたないはずだ」
「ああその話なら俺も聞いたぜ。なんでも複数人がそう言う夢を見てるってな」
「お前ら物語の読みすぎだぜ」
疑念は確信へと変わった。俺は、王の命によって、レニに殺されるのだと。
レニに殺されるのならばもういい気もした。二度ならず三度まで理性もなくおそってしまっていたし、三度目なんてもう……目が覚めた時の惨状は思い出したくもないほどだ。
彼女からも恨みを買っているだろうし、王や人間族はもう、俺を必要としていない。勇者なんて過度な力を受け止め切れる器なんて、この世に存在しないのだ。
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数日もすれば、王都へとたどり着いた。
王に謁見する際、自分がどんな顔をしていたかわからない。だがレニが個別に呼ばれた時、やはり……とつい反応してしまった。
最期だからとパーティーを楽しむつもりだったが、パーティーと称したただの酔っ払いたちの絡み合いを見ている気にもならず、俺はいい感じの所で上手く抜け出した。
用意された部屋へと向かえば、気配がある。ただ、安心する気配だ。
「……あれ、部屋はここだって聞いたんだけどな。すまない間違えた」
すこし演技っぽくなり過ぎたかと彼女を見れば、疑ってる素振りはない。ほっと思いつつ部屋へと入り、鍵を閉める。
酒精の飲み過ぎでつらいというのは嘘だ。なんなら今夜は一滴も飲んでいない。
出された水を飲む。すこしピリピリとしたので、きっとこれが毒だろう。
何か入れたのかといえば、彼女は悪びれもなくレモンだと言った。その冷静さは詐欺師ですらも感嘆するだろう。
2杯目は無味無臭だった。きっとこっちがただの水だ。
しかし毒が回るのには少し時間がかかるようだった。現に手足の先の方は痺れてきたが、まだ話すのに問題はない。
「なあ、レニはこれからどうするんだ?」
二つの意味で聞いた。俺を殺したあとのことと、後の人生のことと。
意図は伝わらなかったようだけど。
彼女は旅をするかもといった。ああ、素敵なことだ。
「それなら俺と……」
いや、俺たち5人で旅を……
言葉はもう出なかった。どうやら時間切れのようだ。
レニが俺の脈や心音を確かめてから口を開く。
「さようなら、勇者。心身ともに大変だった旅だけれど、楽しかったよ」
ああ、俺も楽しかったよ。永遠に続いてほしいと思うくらいに……な。