12月23日。クリスマス・イヴに行われる百鬼夜行に対する会議が行われていた。
そこへ、伊地知が五条 悟に声をかける。
「五条さん。手紙が届きました。読んでください」
「伊地知、会議中だぞ」
「それが……夏油 傑からです。25日の日付指定の」
「25日指定? 貸して」
手紙を受け取り、読み上げる。封筒から、USBが落ちた。
「『かつて親友だった五条 悟様へ。私はちゃんと、君へ遺言を残せたでしょうか。万一失敗した場合に備えて、手紙でも遺言を残しておきます』……は、ウケるね。死ぬ前に届いちゃってるし。っていうか分厚っ」
「続きを読め、悟」
夜峨が急かす。傑には悪いが、公衆の面前で届いた以上、読むしかない。
「『私の体は必ず絶対に確実に一片たりとも残さず君の手で燃やしてください。というのも、御三家を含む優秀な術師の肉体を盗み、体を乗っ取る術師、通称メロンパン? メロンパンナ?に私は狙われているので。加茂家最悪の呪詛師といえばわかるかな? 私なりに彼については調べておいたので、別紙に資料とUSBにデータを渡しておきます』 ……伊地知。このUSB、コピーして回して。こっちもコピーして」
「はっ はい!」
資料が即座に回される。
それは、教団によって調べた各地の呪物とメロンパンの計画、特級呪霊の数々、未来情報としか思えないもの、諸々だった。……その中には、傑が精神に作用する薬を盛られていたことについてや依頼傾向についてのデータもあったと後で知った。
「『悟。君は私を殺したことについて、全く気に病むことはない。だって私は、君に殺されて、君の手で火葬された時点で幸せ選手権に優勝なんだから。まあ、メロンパンに囚われたら不幸せ選手権で優勝なんだけど。出来るだけ布石を打ってきたつもりだし、気づかれていないつもりだけど、やっぱり怖いよ。あれだよね。わかっているだけでも男として9人、女として一人子供作ってるわけだし、絶対身体取られたら薄い本な展開が待ってるよね。勘弁してくれ。純粋に気持ち悪い。でも、この手紙が読まれる頃には私は悟に火葬されてるわけだからね! ざまあ! 呪霊在庫一掃セールにつきあわせたのは本当にごめん。一応、私が死ぬまではメロンパンを騙さないといけないから、死人は出すつもりでやるよ。代わりと言っては何だけど、折本リカの解呪は出来るだけ頑張るから。 できれば家族達が望んだ時は保護してもらえると嬉しい。家族達がメロンパンに殺されるのは嫌だからね』」
メロンパン。その言葉に覚えがあった。寝ている間、メロンパンがどうだの言って魘されていた。あの頃から狙われて、怯えてたっていうのかよ。呪詛師だってことも、全部全部、演技ってことか? 10年間も、一人で、戦って……。
「『後は、頼んだよ。ハッピーエンドなんてありえない職業だってわかっているけれど、願わくば、君が無事にメロンパンに勝てますように』 ……傑の手紙はこれで終わってる。で、傑が送ってきた資料見せて」
「東京壊滅だと!? 馬鹿な!」
「これは……! 夏油傑は呪詛師へのスパイだったというのか!?」
「伊地知。すぐにこれらに書かれた情報の裏とりを」「は、はい!」
「相手が姿を乗っ取る術式を持っていて、それを使って全体にまで巣食っていると言うなら、傑が危ない。悪いけど、互いに監視をつけさせてもらうよ」
「何だと! 貴様にそんな権利が……!」
「当然、僕にもついてもらうけど? 協力しないなら、探られて痛い腹があるってことかな? 今なら騙されていたですむけど?」
「……っ しかし! 夏油が裏切っていなかったなど信じられるはずが!!」
「僕は信じるよ、夏油先輩のこと!」
「……実際に百鬼夜行は起こすわけだし、裏取りするまでなんとも言えないかな。迎撃の準備はしておこうか。傑は高専で一旦保護して事情を聞く。それに、サプライズもさせてもらおうかな」
そして、僕は頭に継ぎ目をペイントして、高専で傑を出迎えた。
傑は、僕の頭を見ると驚愕し、ぺたんと座り込んでしまった。
え。なんかすっごく意外な反応なんですけど。
「め、メロンパン……悟? 嘘、だろ……なんで……どうして……!」
ガチガチと傑は震える。
「私は、ちゃんとバレなかったはずだ! 細心の準備を払って、誰にも知られないようにして、ちゃんとお前の誘導どおりに動いて……!! それに、こんなに早く表に出るはずが……! 悟がやられるはずが……! 悟が負けるのは、一年後のはずで、それも、私が人質にならなければ、なかったはずで……!」
「過去に戻る術式でも手に入れたのかな? すごく興味があるな」
僕が普通に聞いたつもりで近づくと、傑はびくっと震えた。
「さと、悟の身体は、開放してあげてくれ。わた、私の術式が、呪霊操術が欲しかったんだろ? この体なら、あげるから。悟は、悟は……すまない、悟。私が、あの時、馬鹿な理由で打ち明けなかったせいで……!」
「へぇ、気になるな? 教えてよ」
傑は既にべしょべしょと泣いている。いや、これ、弱いもの虐めじゃない?
演技中じゃなければ写メ撮ってるんだけど。
「だって、だって、言えないじゃないか……!! 最初は信じなくて、次は忙しくて、説明が億劫で、その挙げ句忘れて、気がつけば手遅れで、どうして早く言わなかったのか怒られるのが嫌で、10年も黙ってたなんて、言えないじゃないか……!!」
「はぁ?」
「入学当初は、たとえ本当でも事前に未来知ってるわけだからなんとかなるなる、なんて思ってたんだ、私、私……!」
「はぁぁ!? 入学当初!?」
「流石に、ふと私物のお茶を水槽に入れたら金魚がすぐに浮かんだ時点で、ほんとに狙われてるのかな、っとは思ったんだよ! でも口に出したら本当になりそうで……!」「その時点で既に本当だよね??」
「気がついたときには、本当に情報通りに非術師の言葉が言葉として聞こえなくなっちゃって、もう戻れない場所にいて! これで事前に知ってましたなんて打ち明けたら悟が何ていうかと思うと何も言えなくなって……!」「待て。ちょっと待て。そんな理由?」
「途中から、私メロンパンと戦うの絶対嫌だし、収穫されるまで後10年はあるし、悟に殺されて火葬されて平和に人生を終えられるなら全然ありだなって思って! 最後メロンパン入れにされることを除けば、映画化決定な美しいシナリオ、って聞いて、ならそれもありかなって」「ねえよ! 誰が言ったんだよ、映画化決定なシナリオって!! バッドエンドじゃねぇか!」
「うええええええええええ悟がメロンパン入れになっちゃったああああああああ」
「そんで、その親友のために戦おうとしねえの? 何のために呪霊あんの?」
「そんな事言って、抵抗したら酷い目に合わせるんだろ? 君の悪行、どれだけ知ってると思ってるんだよ。そんな怖い真似出来ないよ。悟の前じゃ格好つけてたけど、これでも前世普通の女子高生だぞ。多分」
まさかの戦闘放棄。
いらっときた僕は傑の胸ぐらをつかむ。というか女子高生ってなんだよ。そして、すうっと深呼吸して気持ちを落ち着け、気絶させた。
マジで抵抗しなかった、傑。
傑を拘束する間に、裏とりと傑の家族の捕縛は終わっていた。
傑は目を覚ますと、拘束された状態でグスグスと目を伏せた。
「……悟」
ぽつりと呟いて、涙をこぼして、そして顔を上げる。
「縛りをしよう。なんでも言うことを聞くから、悟の身体は返して欲しい」
「……いいぜ。【傑が僕に絶対服従する代わりに、僕の身体はメロンパンの好きにはさせない】」
「?……なんか違和感が」
「早くしろよ」
「っ う、【受けた】」
「五条先生、お疲れさまです」
「乙骨、ありがとう」
そして、乙骨が現れ、温かいタオルを五条に渡す。
五条が頭を拭き、ペイントが消えた。
「!?」
唖然とした顔をする傑。ウケる。
「さ、さと、悟!? どうして!??」
「あー。皆さん、傑が絶対服従の縛りを結びました。これと持ち帰った情報の功績で助命になりませんか? もちろん、俺が責任持ちます」
「は???」
「傑は呪詛師のスパイしてた呪術師。ok?」
「オーケーなわけないだろ。私、もう非術師が猿にしかみえない重度の精神疾患に掛かってるんだぞ。そもそも普通の生活が無理なレベルだぞ。人混みとかきついし。あとで吐くし」「じゃあなおさら高専にいろよ、前世女子高生?」
「あー! あーあーあー!! ずるい! それはちょっとどころじゃなくずるいぞ悟!! 大体、どうして……!!」
「手紙が昨日届いたんだよ。明日に日付指定の」
「あ”あ”あ”!!! 訴訟! 私はちゃんと日付指定した!! 死んだ後に届くように!」
「で、前世女子高生ってなんだよ。言え」
「夜、夢の中に私の前世だって言う女子学生が出るんだよ。その子が未来情報教えてくれて。あああ! 絶対誰にも言わないつもりだったのに! 絶対頭おかしいって思われる!!」「裏取りしといて東京壊滅なんて重要な情報黙ってたほうが頭おかしいわ」「そ、そうかな?」「そうだよ」
傑はうーうーと唸る。
「私、殺しといたほうが後腐れがないよ? 絶対メロンパンに狙われるし」「逆に囮にできるだろ」「メロンパン入れは嫌です……。頭の取れたトンボは嫌です……死んでから子沢山も嫌です……」
傑が泣く。
「ああもう、調子狂うな」
「メロンパンだけは、メロンパンだけは……」
「わかったよ。メロンパン倒した後にきちんと呪術師として復帰しろよ」
「社畜も嫌だ……」
「わがまま言うな。……今度は、ちゃんと潰れないように見ててやるから」
全く。メロンパンさえ消せば以前の傑が戻ってくるって言うなら、やってやるよ。
僕、最強だし?
その後、無事傑のあだ名が前世女子で定着した。ウケる。