ドラゴンクエスト〜愛が全て   作:フライハイ

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(筆者注 「※※※」印まで、前章と同じ内容です。読み飛ばしてもらっても問題ありません。)


Un Home Et Une Femme

 元々はラルス16世の求めに応じ、このアレフガルドを救うのが目的だった。遥か遠き昔この地を救った伝説の英雄、ロトの血を引く者として私は幼き頃から有事に備え、日々鍛錬してきた。竜王という恐ろしい敵がこの地を脅かす今、我が一族の真価が問われているのだ。ラダトームの城で王と謁見した時、私は使命に燃えていた。

 

 しかし。今の私に、あの時のような情熱は無い。今の私にとっては、ローラ姫が全てだ。こんなにも誰かを愛するなど、姫に会うまでは考えたこともなかった。今まで私は、死を恐れたことは一度も無かった。しかし、今は死んでローラ姫に会えなくなってしまうのが怖い。竜王の爪は鉄を引き裂き、そして吐く炎は岩をも溶かすという。果たして私は勝てるのだろうか。ああ、出来ることなら竜王の脅威が届かない何処か静な所で、彼女と二人細やかに暮らしたい。

 とは言うものの、ローラ姫が竜王を倒すことを望んでいる以上、私は戦わなければならない。ロトの血を引く者の使命ではなく、ただ、愛する人のために。

 

 そして。幾多の苦難を乗り越え、私は遂に竜王の城の最深部に辿り着いた。竜王は意外にも私達人間と同じような姿格好をしていた。私を見て竜王は微笑みかける。

「よく来たロトの血を引く者よ。わしが王の中の王、竜王だ。わしは待っておった。そなたのような若者が現れることを。もし、わしの味方になれば、世界の半分をお前にやろう。どうじゃ?味方になるか?」

 私が死ぬか、竜王が死ぬか。二つに一つ。そのどちらかでしか、この冒険は終わらないと思っていた。思いがけない彼の提案に私は驚いた。世界の半分というものに興味は無い。しかし、竜王と争わずに姫との平穏な生活が手に入るのなら。

 

「はい。」

私は彼の提案を受け入れた。

「本当だな?」

「はい。」

竜王はより一層、笑顔になった。

「そうか、取引成立じゃ。わしは約束は守る男じゃ。」

 

「コイルーラ!」

バビンチョ!(効果音)

竜王が強制召喚の呪文を唱えると、二人の前にローラ姫が飛ばされてきた。

突然のことに彼女は狼狽えたが、私の姿に気がつくと、安心したようだ。

「ああ、勇者様!ではいよいよ最後の戦いが始まるのですね!」

 

※※※

 

「ロトの血を引く者よ!では世界の半分を与えよう!お前にとって、世界とは。ローラが世界の全てであったな」

「わしは二人を祝福する!末永く暮らせるとよいがな!」

竜王の手から発せられた閃光が、ローラ姫を包んだ。

 

 吃驚して彼女に駆け寄る。

「二人とも心配は無用じゃ。ローラの心の半分を頂いただけじゃ。それ以外は何も変わっていない。」

心配する私に気をかけたのか。にこやかな顔をして竜王は話す。今一状況が飲み込めないが、確かに姫は無事のようだ。

彼女が叫ぶ。

「私は大丈夫です、それよりも勇者様、早く竜王を!」

私に竜王との最後の戦いを促す。事情を知らない姫に、私は竜王と和平を結んだことを説明した。

 

「勇者様、意味がわかりません。竜王を倒すのでしょう、さあ早く!」

私の話は彼女にとって理解し難いものらしい。彼女は混乱しているようだ。それでも私は粘り強く説明する。やがて彼女も状況が飲み込めてくる。と、同時に彼女の罵倒が始まった。私達二人の遣り取りを、竜王はニヤニヤしながら眺めている。

「全ては私と姫、貴女の穏やかな生活のため・・・」

そう言いながら伸ばした私の手を払い、憎しみを込めた目で彼女は吐き捨てる。

「私に触るな!汚らわしい、裏切り者!」

そう言われて、やっと私は気がついた。竜王が言った、奪ったという「ローラの心の半分」。彼女の心から、私への愛が無くなったのだと。

 

 私が状況を理解したのを確認した竜王が、やっと口を挟んできた。

「さあて、どうするのじゃ、ロトの血を引く者よ。彼女は君のものじゃが。ここで切り捨てるのも良し。縛って持ち帰るのも良し。好きにするが良い。じゃが、一つだけ言っておこう。彼女が君を愛することは、もう二度と無い。二度と、じゃ。」

更に竜王は続ける。

「実を言うとな、あの閃光はただの演出じゃ。人の心を変える効果など無い。ただ単に、君の決断が彼女を失望させ、その結果、君はフラれた、それだけのことじゃ。」

 

 もはや修復は不可能だった。

「竜王、このクズを殺せ!お前の命を狙っているのだぞ!」

もはやどちらが敵でどちらが味方なのかも分からない。呆然とする私の耳に、何時までも姫の罵声が響いた。私は竜王の甘言に騙されたのか?しかし、剣を振るい、竜王に立ち向かう気力はもはや無く。私は一人、此処を立ち去るしか無い。ローラ姫はどうするか。愛されていないのならいっそ。。。いや、そんなこと出来るはずもない。といっても、彼女を解放するやさしさを見せる余裕など、今の私にはなかった。私は姫を元の地下通路に幽閉するよう竜王に頼み、その場を立ち去った。

 

 私は、世界のすべてを、失った。

 

 

 

 そして。その後、どうなったかと言うと---。

 

 

 

 なんと!竜王は倒され、世界に平和が戻った!ロトの血を引く者の手によって!

 

 全くもって意味が分からない。一体どういうことなのだろう。気が重いが仕方ない、状況を確認するため、私はラダトームの城へ向かった。忍び込んだ城内で私は一人の衛兵を捕まえた。姫を恋い慕い、私に嫉妬して憎いと口にした男だ。私の顔を見た時、ぱっと彼の表情が明るくなったが、すぐに険しい顔になり、人目につかぬよう、部屋に私を押し込んだ。一度姫を助けた件で、彼は私にとても感謝してるという。しかし、状況は少々複雑なようだ。私は竜王の間者としてラダトームに派遣された敵だったという事にされていた。捕まれば間違いなく死罪だ。また、私によるローラ姫の救出劇は無かった事として緘口令が敷かれているとか。真実とは異なるが、言い争っても無意味だろう。尤も、私はもうラダトームに関わる気はないし、人間相手に負ける気はしないから大した問題ではない。それよりも私が知りたいのは、竜王を倒した男の事だ。

 

 私は全く気が付かなかったが、ロトの血を引く者として竜王討伐の勅命を受けたのは、私一人ではなかった、ということだ。私の血縁にそんな猛者が居たのかと驚いたが、それも違うと彼は言う。実は「ロトの血を引く者」なんていうのは、どうでもいい話だったのだ。言われてみれば確かにそうだ。私だって家系図で誇り高き血を示したわけではない。初めてラルス16世に謁見した時も、ロトの末裔であることは口頭で伝えただけだった。そして太陽の石や雨雲の杖を入手するなどの実績で周りを認めさせたのだ。ただの力自慢であっても周りが彼こそロトの末裔だと認めれば、それで済む話だったのだ。王のお墨付きなら尚更だろう。

 中には力量が足らず、何度もスライムベスに殺されては生き返るという無限地獄に陥った者もいるとか。王の元で冒険の書に名前を記した自称ロトの末裔は、100万人以上と言われた。アレフガルドの総人口より多い、とツッコミを入れたくなったがまぁ、いい。兎も角、竜王を倒した男の素性が大したことがないと知った私は、偽勇者に対する興味を失った。彼に礼を言い、私は城を後にした。

 

「お前だけが頼りだ」と言っていたラルス16世に騙されていた事はとても不愉快だ。ご先祖様、王家はロトの血を、必要としていなかったのです。嘆かわしい話だ。そんなことを考えながら城下町を歩いていると、宿屋のオヤジにばったり会った。彼は私の顔を覚えていたようだ。私と目が合うと吃驚して逃げようとしたのでとっさに私は彼を追いかけ、直ぐに捕まえた。私の抜いた剣先が彼の進路を塞ぐ。私には彼が逃げる理由に心当たりはなかったが(註 あんたは、お尋ね者ですヨ)、なにかしら後ろめたいことがあるのだろう、彼を問い詰めた。初めは怯え、渋っていたが次第に彼は話し始めた。

 

 彼は私とローラ姫が泊まった時のことをよく覚えていた。宿泊したことを覚えている、という意味ではなく、私と彼女が部屋で何をしていたかを覚えているという。彼は覗きが趣味で、私たちのことも覗き見していたというのだ。私としたことが、全く気が付かなかった。宿を出る時、「ゆうべはおたのしみでしたね」と言われたが、あれはそういう意味だったか。そしてなんと、偽勇者もまた彼女を連れて同じ部屋に泊まったというのだ!わななわと沸き起こる怒りを沈めながら、話を聞き続ける。

 偽勇者と泊まった時も、彼女の振る舞いは私の時と同じだったという。上目遣いで相手を見つめる仕草が同じ。「あなただけを愛しています」と云う台詞が同じ。「貴方が助けに来るのを、私は待っていました」や「初めてなの。優しくして下さい」と言った台詞も同じ。ぺらぺらとオヤジは得意気にしゃべり続ける。今、彼が口にしているのは覗きという犯罪行為の告白であり、私はその被害者だ。かつ、今私は剣を手にしている。彼が私に殺されるとは考えもしていないのと同様、私も彼を殺そうと思わないほどの混乱状態にあったのは、彼にとって幸いだった。

 偽勇者と姫のお楽しみを覗いていた時、オヤジは彼女のことを「救出された囚われのお姫様プレイ」が得意な売春婦かと思っていたそうだ。しかし後になって本物の救出された囚われのお姫様だと知り、とても驚いたという。二人目の男(偽勇者)は竜王を倒した英雄だ。これは分かる。では、一人目(私のことだ)は誰だったのだろう?そう考えた時、彼は青ざめた。結論としては、初め私と一緒に居た女性はローラ姫と瓜二つの別人だった、そう思うことにしたそうだ。勿論、この事は絶対誰にも話してはならない。そう固く誓ったという。そういうわけだから先程私を見かけた時、関わってはいけないと思い、逃げ出したのだという。実際には今、私の前でにこやかに話しているのだが。

「そうだ、私が今まで見た、すごいお楽しみベスト10もお話しましょうか?あ、それともあっしと女房の・・・」

饒舌な変態オヤジの下衆な話に興味は無く、半ば放心状態のまま私はラダトームの街を後にした。

 

 帰路。まさに、絶望しか無い。単に彼女の変わり身が早いだけなのか。それとも実は初めから私は愛されてはいなかったのか。今の私には分からない。そもそも「愛しています」と言われた一人目が私だったのかというのも怪しい。竜王の城でローラ姫にフラれた時、これ以上の絶望は無いと思った。でもまさか、それ以上の絶望があったとは。

 

 人間不信に陥った私は、一人静かに暮らすことにした。一度、ラダトームの大軍と交戦し、もはやこれまでかと思ったが、幸いにも生き延びることが出来た。気がついた時、所持金の半分を失っていたが命さえ無事なら安いものだ。その後、探索隊の動きはぱったりと止んだ。私が死んだと勘違いしたのかどうか分からないが、今後、無駄な血を流さずに済むのは良いことだ。

 

 時たま、街のニュースが耳に入ってくる。偽勇者が正式にロトの末裔と認められたこと。ローラ姫が彼と結婚したこと。二人はラダトームの城を継がず、新天地を求めたこと。直ぐに男の子が生まれたこと。

 私とローラ姫があんなに愛し合ってから、未だ一年しか経っていないというのに、二人の距離はもうどれだけ離れてしまったのだろう。そしてもう二度と交わらない。

 

 あらあら おやおや それからどんどこしょ〜

 

 さらに時は流れる。人里離れて日々鍛錬する私の日常はもう何十年と変わらないが、向こうはいろいろ変化があるようだ。偽勇者が興したローレシア国は3つに分割され、新たにサマルトリアとムーンブルクが建国されるという。偽勇者が退位して長兄がローレシアを継ぐと同時に、その弟達がそれぞれの国の王位に就くのだそうだ。偽勇者は長男と折り合いが悪く、国のすべてを継がせるのが嫌だったとか。しかし、私には関係ないことだ。

 

 関係ない?

 否、そんな事はない。大いに関係あるではないか。

 

 私はすべてを失ったと思っていたが、一つ、どうしても守らなければならないものがあることに気が付いた。それは幼き日から、ずっと守ってきたもの。ロトの名を守ることだ。偽勇者の子供らが治めるローレシア、サマルトリア、ムーンブルク。これらの王室にロトの末裔を名乗らせてはいけない。

 

「ハーゴン様をローラはお慕い申しております。」

目を閉じて、遥か遠い昔、幸せだった頃のローラ姫の台詞を思い出す。彼女のことを想うのは、これを最後としよう。私は彼女の子孫らを手に掛けるのだから。

 これは私怨では無い。ローラ姫よ、ロトの末裔である私を選ばなかった、貴女が悪いのです。

 

 若い頃のような腕力はもう無い。しかし魔力はまだまだ若い者に負けぬつもりだ。以前打ち負かした竜王配下のモンスターの中に、降伏して私に従順の意を示すものもいた。あの頃は魔物を手懐けることに興味はなかったので適当にあしらったが、魔物の軍団を組織するというのも面白いかもしれない。ご先祖様の中には魔物を惹きつける、不思議な力を持った者も居たと聞く。私にもその力があるかもしれない。

 

 長い間虚無の淵に沈んでいた感情が、またふつふつと湧いてきたのを感じる。かつて、私は竜王の策略の前に敗れた。しかし、これから新しい戦いが始まるのだ!

 

to be continued ドラゴンクエスト II

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