やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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原作ルート
かぐや様は誘わせたい


 恋愛。

 それは、男と女が互いに互いを恋い慕うことである。言葉だけで聞けば、とても美しく、素晴らしいと感じるだろう。

 

 だがしかし。

 今の世の中、恋愛とは、そんな綺麗ごとを抜かせるようなものではない。恋愛をする者達が、絶対に幸せになるとは限らない。むしろ、不幸となることだってあるのだ。

 

 中学の俺も、誰かを好きになったりした。しかし、結果は惨敗。それどころか、噂が広がり針の筵状態。恋愛するなとは言わないが、誰かを好きになるなら、それ相応の覚悟をすることなのだ。

 

 さて、恋愛に対して色々と論じた俺こと比企谷八幡だが、今は元気に真面目に生きてます。

 俺が通う高校、私立秀知院(しゅうちいん)学園は、昔貴族や士族を教育する機関として設立された、由緒正しい名門校。貴族制は廃止にされた今でなお、富豪名家に生まれ、将来的に国を背負うであろう人材が多く集っている。

 とはいえ、必ずしも名家に生まれた者達だけが就学しているわけでなく、外部受験でこの高校を選んだ一般人もいるのだ。

 

 俺も、外部受験でこの高校を選んだ平凡の一人。わざわざこんな東京の名門校など普通受験するわけがない。最初は総武高校や海浜総合などを受験しようと考えたのだが、同じ中学の連中がそこに通うと耳に入れたので、断念したのだ。黒歴史を高校にまで広められたらたまったもんじゃない。

 結果、俺が行ける限界ギリギリの高校を他府県で探した結果、ここ私立秀知院学園となった。

 

 そして現在。

 入学式の交通事故やら何かと少しやらかしてしまったものの、平穏な日常を過ごしている……。

 

 というわけでもなく。

 

「そういえば今日、庭の噴水にある甘いりんごと、さくらんぼのレリーフの奥深くにかたつむりが…」

 

「俺の妹が昔暑いからと言って、噴水に入って風邪を引いてな。本当、感情で動くと碌なことに…」

 

 なんでこうなった。

 

 目の前で雑談しているこの二人は、秀知院じゃ有名中の有名。まず、この二人の紹介をしよう。

 

 まず女子生徒。容姿端麗、学業優秀、そして運動神経抜群。完璧な三拍子揃った彼女の名は、四宮(しのみや)かぐや。総資産200兆円を誇る巨大財閥"四宮グループ"の令嬢。そして、秀知院生徒会副会長でもある。

 

 そしてもう一人の男子生徒。名は白銀御行(しろがね みゆき)。こちらは外部受験で秀知院に入学。鋭い目付きが特徴的な男子。四宮とは違い、バックに有名な組織があるわけではない。

 では何故有名なのか。それは、彼が学年一位の成績を誇り、秀知院学園生徒会長を勤める男だからだ。外部受験で入学した一般人が学年一位の成績を誇り、しかも生徒会長になる。有名にならないわけがない。

 

 そんな大物二人が、何故俺の目の前にいるか。

 それは、俺が生徒会の一員だからである。

 

 一年の冬辺りに、白銀と四宮の二人から、生徒会に入らないかという勧誘があった。そうなったきっかけは、追々話すが、とりあえずそんなことがあった。

 正直、生徒会なんぞクソ面倒だし、当初は断ったのだ。白銀はあっさり引いてくれたのだが、隣にいた四宮がまるで暗殺者みたいな様相していたのだ。

 まるで彼女から「会長からのお誘い何断ってんの?」的な威圧だった。そんな彼女が怖くて、渋々生徒会に入ることになった。とはいえ、今では別に悪くないところだと思っている。

 

 白銀や四宮だけでなく、天然っ子の書記係、藤原(ふじわら)千花(ちか)や、アニメやラノベなどで話が合う会計係の石上(いしがみ)(ゆう)など、個性的な人物ばかりではあるが、彼ら彼女らとの関係自体は、悪くないと思っている。

 

 そして、昼休みの現在。

 いつも通り、生徒会の仕事を片付けていたのだが。

 

「なんか映画のペアチケットが当たったんですけど、家の方針でこういうものを見るのは禁止されてまして〜。3人はこういうのご興味ありますか?」

 

 藤原が、恋愛要素丸出しのチケットを取り出す。

 

「俺は別にだな。つか、そもそも行く相手がいねぇし」

 

「比企谷くんは石上くんみたいなこと言いますよね。もしかして生き別れの兄弟?」

 

「なわけないだろ」

 

 確かに、ちょっとキャラが被ってるなって思わないことはないが。

 

「そういえば、週末は珍しくオフだったな」

 

 白銀は手帳を取り出し、何もないことを確認する。

 

「比企谷が使わないなら、四宮、俺達で…」

 

「なんでも、この映画を男女で見に行くと、結ばれるジンクスがあるとか〜。素敵!」

 

 藤原がそう何気なく言った瞬間、白銀は固まってしまう。そしてペンを走らせていた四宮は一度置き、白銀の方を向く。

 

「会長。今、私のことを誘いましたか?」

 

 白銀は、依然固まったまま。そんな白銀を四宮は、揶揄いつつ、そして追い詰めるように言葉を重ねる。

 

「男女で見に行くと結ばれる映画に、私と会長の男女で行きたいと。あらあらまあまあ…それはまるで……」

 

 デートのお誘いでしょうね。

 人間観察を得意とする俺には、そこそこ付き合いの長いこいつらを見て思ったことがある。

 

 こいつらお互いのこと好きじゃね?と。

 

 白銀は四宮を、四宮は白銀を好きになっている。つまり、両想いなのだ。

 しかし、こいつらはまだ付き合っていないのだ。付き合っていないくせに、まるで付き合いだして間もないカップルのやり取りを目の前で展開している。目の前で、こいつらが何を考えてるのかは把握出来ないが、アホらしいことを考えてるのはなんか分かる。

 

「…あぁ。四宮を誘った。俺は別にそういった噂など気にせんが、お前はそうではないみたいだな。お前は、俺とこの映画を見に行きたいのか?」

 

 側から見ていたら、こいつらの日常的なやり取りがいまいち分からん。まるで、相手に強引に何かを言わせようとしているような感じ。例えるなら、常日頃からNGワードゲームを二人で展開しているようなものだ。

 だから俺は思うのだ。

 

 お前らは何をしてるの?と。

 

「…つーか、ジンクスも噂も、変に捻れて広まっただけだろ。そんなので結ばれんならハゲだって結ばれるぞ」

 

「比企谷くんって時々冷めたこと言いますよねー。そんなだから、女の子にモテないんですよ」

 

「ほっとけ。世の中には俺と同じこと答えちゃうおバカさんが沢山存在するだろうが」

 

 こんなので結ばれるってことは、もともと流れでそうなる程度の関係だってことだ。いつかそんな関係は破局するだろうよ。

 

「確かに、比企谷くんの意見は正しいかも知れません。それでもやはり、こういったお話は信じてしまうもので……。…行くならせめて、もっと情熱的にお誘いいただきたいです」

 

 四宮が突如、ピュアピュアな表情を見せる。

 えっ何この動物。俺こんなやつ知らないんだけど。俺が知ってる四宮は、時折殺意を放つ悪魔のようなやつなのだ。

 これは完全に演技。白銀を誘惑するための演技なのだ。

 

「?どうしたんですか、比企谷くん。まるで悪魔が天使に化けたところを目の当たりにした顔をしてますけど」

 

「お前凄い的確なこと言うよな」

 

 藤原さんちょっと黙って。こんなこと今ここで言ってしまったら、四宮に撃ち抜かれてしまう。物理的に。

 そんな恐怖を目の当たりにした俺を気にも止めず、四宮はぐいぐいと白銀に迫る。

 

「私だって、恋の一つもしてみたい年頃なのです」

 

 よし一旦出ていこう。目の前でイチャイチャさせられていることに気分が良くないが、それ以上に四宮の変化ぶりにポロッといらん本音が出そう。よし出て行こう。

 

 そう意気込んだ瞬間。

 

「あ、もしこの手の映画がお嫌いでしたら……"とっとり鳥の助"のチケットもありますよ?」

 

「とっとり…」

 

「鳥の助…?」

 

「ってなんだそりゃ」

 

 藤原は、先程の恋愛脳に塗れたチケットではなく、幼児向けの映画のチケットを取り出す。その瞬間、白銀と四宮は固まる。

 

「それ何?」

 

「これはですね、毒舌な主人公の鳥の助が自分探しのために旅に出るストーリーです!子どもから結構支持を得てるんですよ」

 

「だいぶベクトルが変わったなおい」

 

 しかし、藤原のおかげで妙にハイになっていた白銀と四宮がショートした。少し安堵したのも束の間、ハッと起き上がり、机の上に置かれている饅頭を手に取ろうとした。

 

 が。

 

「あっ。午後の授業始まっちゃいますね。あむっ」

 

 それを藤原がパクリと。二人は新喜劇顔負けのズッコケを見せる。

 

「ではまた放課後にっ」

 

 藤原は饅頭を飲み込んで、生徒会室を出て行く。次に彼らは、俺が普段飲んでいるマッカンに目線を向ける。

 

「…比企谷。それって確か、糖分を含んでいたんだったよな?」

 

「確か、加糖練乳を多量に使用した缶コーヒーとか…」

 

 えっ何その目付き。なんで俺肉食獣を目の当たりにした状況になってんの?

 これまずいやつ。藤原がいなくなった今、ターゲットが俺になったのん?なら取る行動は一つ。

 

「…さいなら」

 

 俺は荷物を持って、生徒会室から走って逃げた。

 やっぱあの生徒会怖ぇ。そろそろやめようかな。

 

 


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