「恋愛相談?」
「はい!私、もうどうしたらいいか分からなくて……。生徒会はそういう相談も受けてくれると聞いて…!かぐや様だけが頼りなんです!」
どうやらこの間に続いてまた恋愛相談。とりあえず四宮に頼るってなる以上、俺は一旦抜けないとな。
「そういう話なら、俺抜けるわ」
「待ちなさい。この手の相談は男性側の意見は重宝されます。比企谷くんも、相談に乗ってあげなさい」
「いや、四宮が頼りって言ってんだから俺いらんだろ」
「いえ!出来れば、男性側の意見も聞きたいです!」
「えぇ…」
そんなこんなで、俺は男子Aの彼女、柏木渚の恋愛相談を受けることとなった。
「して、どのいった内容の相談なのでしょう」
「円満に彼氏と別れる方法が知りたいんです」
男子A、ドンマイ。お前の春は散ったな。
しかし男子Aといい柏木さんといい、なんで相談する人選をミスっちゃうかな。この四宮かぐや、まだ付き合ってすらいない上に、性知識が絶望的に欠落してる。
「かぐや様は凄くモテますし、恋愛においての知識量半端ないとか!そんなかぐや様なら、凄く良いアイデアをお持ちなのでしょう!」
うっわ四宮への期待半端ねぇ。
とはいえ、白銀と同等にプライドが高い四宮が一度受けたことを取り消すなんてことはしないだろう。俺がここにいたのは、ある意味運が良かったのではないか。並の恋愛知識なら、俺だって兼ね備えているからな。
「…どうして別れようと?」
「それが…彼と付き合い始めたのも最近なんです。突然告白されて、勢いでOKしちゃって…。でも、彼のことよく知らなくて…どうやって接したらいいか分からなくて……。むしろ前より距離が出来ちゃったくらいで…彼に申し訳なくて、こんなことなら別れた方が良いんじゃないかって…」
長々と話を聞いた結果、分かったことがある。
要するに、白銀が編み出した(仮)壁ダァンがこんな面倒な状況を引き起こしているということだ。あの時、やっぱり無理でも止めときゃあ良かったか。
「…彼氏のこと、嫌いなのか?」
「そんなことはありません。…でもこれが恋愛感情かと言われると分からなくて…」
「…そうね。ではまず、彼のいいところを認識するところから始めてみては?」
「好きなところを?」
「えぇ。誰にでも長所や可愛らしいところはあるものです」
なんだ。結構それっぽいところ言えてるじゃないか。確かに相手のいいところを探せば、自ずと好きになっていくのかも知れない。俺の場合、相手の嫌な部分ばかりを見つけてしまうのだが。
「例えば、真面目なところだとか、勉強が出来るところだとか。努力家なところとか、実はすっごく優しくて困ってる人を放っておけないところ」
おっとこの子、例えで人のいいところを挙げているつもりが、いつの間にか白銀のいいところを挙げちゃってる。
「目付きが悪いところとか」
ほーらドンピシャ。知らず知らずにちょっと惚気ていることにそろそろ気付こうね。
「目付きが悪いのは欠点じゃ?」
「違うの!目付き悪いのを気にしてるところが可愛いの!」
しかし、自分が何を言っているのかを理解した四宮は一度冷静になり。
「目付きが悪い人が好きなんですか?」
「…今の忘れて」
「かぐや様の周りで目付きが悪い人といえば…」
柏木さんがチラリとこちらを見る。
「ちょっと待て。俺じゃねぇ」
むしろ、多分四宮は俺のこと底生生物以下としか考えてないだろうよ。白銀以外の男は、多分そんな感じに思われてる。四宮の男子への価値観がエグい。
「その通り。比企谷くんではありませんよ」
「じゃあ会長…」
「違いますよ?決して」
めっちゃ必死に隠すやん。まぁ確かに、好きな人を知られて噂されたら恥ずかしいからな。分からんでもない。
「…話を戻しますよ。一ついいところを見つけて、そこをいいなって思い始めたら、いいところがいっぱい見えてきて…。気付いたら、その人から目が離せなくなっていて…。毎日見てると、どんどん好きになっていっちゃうもの…」
四宮は再び、白銀を連想しながら惚気る。すごい恋してる乙女のような表情で、柏木さんに話していく。
「と、比企谷くんがこの間言っていました!私の話じゃないですよ?」
こいつ途端に俺を売りやがった。誰がこんな純情な恋愛話をこいつにせにゃならんのだ。柏木さん「マジかこいつ」みたいな表情で見てるけど、俺の話じゃないよ?四宮の話だよ?
「おい四宮、流石にそれは…」
「何か?」
「あっはい。そんなこと言った気します」
こっわこいつこっわ。今すっごい笑顔でこっち見たけど、その実めっちゃ威圧してた。「これ以上余計なこと言ったら生きていけるだなんて思わないことね」っていう意味を孕んでいそうで怖かった。死にたくないので、もうそういうことにしとこう。
そんな恐怖で体が震えそうになった瞬間、生徒会室の扉が勢いよく開かれる。
「話は聞かせてもらいました!」
「藤原さん!?」
そこには、赤色の鹿撃ち帽を被った藤原が現れた。
「私抜きで恋バナなんでずるいです!そういう話はこのラブ探偵チカにお任せください!」
「…なんだそのテンション。つか、なんで息切れしてんの?」
めっちゃはあはあって肩で息してる。やだこの子やらしいわ。
「実はもっと早くからいたのですが、ダッシュで演劇部から衣装を借りて来たので」
本当、こいつどこからでも湧くよな。流石、早坂でさえ手を焼くと言われるほどはある。
「あなたは彼への想いを見つけられずに悩んでいる……そうでしたね?」
「はい」
「ではその恋という名の落とし物……この名探偵が見つけ出して差し上げます!」
藤原がいて大丈夫?余計ややこしくなったりしない?
「ではその人が他の女とイチャコラしているところを想像してみてください」
「どういうことですか?」
「まぁ想像してみてください」
四宮と柏木さんは、好きな相手が自分と違う女とイチャコラしているシーンを想像し始める。すると、柏木さんはムッとした表情になり、四宮に関しては隠すことが不可能なほど嫉妬の表情を見せている。
「…なんだか嫌な気持ちになりました」
「でしょー?つまりそれは嫉妬。彼のことが好きだから、やな気持ちになってしまうってことなんです。やな気持ちの分だけ、愛があるってことなんです!」
なるほど。藤原にしては、頭のいい策だ。
彼氏を好きになれているか分からない柏木さんに、彼氏と自分と違う女がイチャコラしてるシーンを想像させて嫉妬させることで、自分は彼氏のことが嫌いではないと自覚させるということか。
「流石はラブ探偵チカ。一瞬で解決したな」
「でしょでしょー?もっと褒めていいんですよー?」
「いやこれ以上は調子に乗るから遠慮する」
「むー!」
むくれてもダメです。それに藤原を褒めるとか、丸焦げクッキー食べて美味しいっていうくらいあり得ないんだぞ。それぐらい自分が異端だということに気付け。
「…まぁあれだ。嫉妬する気持ちがあるんなら、そいつへの好きって感情がなくなったわけじゃないってことだろ。それを大事にすりゃいいんじゃねぇの?」
「…そっか。私、告白までしてくれた人のことを好きになれない冷たい人間なんじゃないかって思ってたんです。…そうですよね!私、ちゃんと彼が好きなんですよね!」
「うんうん!」
「どうしたらもっと彼と自然に話せるようになりますか…?」
そんな柏木さんの尋ねに対して、四宮が代わりに答える。
「そうですね…。認知的均衡……ロミオとジュリエット効果が使えるのではないでしょうか?」
「ロミオとジュリエット?」
四宮の出した言葉に、俺達は分からずに復唱した。
「ロミオとジュリエットは恋の障害……敵対する両家といった強大な敵を共有することで、その愛を深めたという考えです」
四宮の言いたいことは大体理解した。例えば"受験"という仮想の敵を共有し、どう対処していけばいいかを二人で話していけば、そのうち二人の仲が深まると。
…普通に共有の話題とかでいいんじゃないのかと俺は思うのだが、ここで横から口を挟めばまた四宮に睨まれる。それだけはごめんだ。
「…でも、そんな敵は私達に…」
「いえ!誰もが立ち向かわなきゃならない強大な敵はいます?」
「だ、誰ですか?」
「それは………社会です!」
……ほえ?
「終わらない戦争!なくならない貧富の差!これほど強大な敵いませんよ!」
だいぶ規模が大きいなおい。一応これ、恋愛相談だよね。いつの間にか、強大な敵に立ち向かっていく壮大な話になってるんですが。
「な、なるほど!二人でこの腐敗した社会に反逆すればいいんですね!?」
藤原も考えなしではないと思うのだが、話の内容がだいぶ仰々しい。
間に受けた柏木さんはお礼を言って、すぐに準備を始めるために生徒会室から出て行った。
「大丈夫!?私達、反社会因子生み出しちゃってない!?」
しかし、藤原は普段のように笑ってこう言った。
「大丈夫ですよ」
そして翌日。とある駅前に、俺達生徒会へと赴いた。そこで起きていたのは。
「募金活動にご協力お願いしまーす!」
「お願いしまーす!」
柏木さんと柏木さんの彼氏、そして小さな子ども達が募金活動を行なっていた。
「あの二人、もともと慈善活動に興味があったみたいなんですよ。いいきっかけにもなったみたいです。…平和を願う気持ち。これこそが、真の意味で社会への反逆なのかもしれませんね」
「何言ってんだ」
…とはいえ、どうやら恋愛相談は解決したようだ。結構仲良く見えるし、これでもう別れようという相談はしばらく来なくなるだろう。
「…あいつもよくやるわ」
どっかの誰かさんは、自分から進んで慈善活動をサポートしていたようだ。
流石は生徒会長、ってところだな。