やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

105 / 114
 続く3番手は可愛い可愛い四条眞妃ちゃんです。


四条眞妃エンド

 

 私、比企谷八幡はまたしても海外へと飛んでいます。しかも今度はファーストクラスなんて生易しいものじゃない。まさかのプライベートジェットでございます。

 

「何をソワソワしてるのかしら、八幡」

 

 機内に設置されているダブルベッドに寝転ぶ俺の隣に密着する皆の人気者、四条眞妃ちゃん。

 

「いや、普通は落ち着かんだろ。だってハワイ行く上にプライベートジェットでひとっ飛びだぞ。どんな人生歩んだらこんなわけの分からん事態になるんだよ」

 

 このプライベートジェットどうやら四条家が購入した物らしい。いや購入したとかどうでもよくて。大学生の夏休みってこんなインターナショナルな旅行するの?俺の頭がおかしいの?

 

「もう少しは落ち着きなさい。近い将来、あんたも四条の名前を名乗る事になるんだから」

 

 私、比企谷八幡は。

 この度、四条眞妃と結婚する事になりましたー!どんどんぱふぱふー!

 と言っても、婚約という形で今は落ち着いている。だから厳密に言えば、四条……じゃなくて、眞妃は婚約者に当たる。

 

『お、お兄ちゃんが……お婿さんに!?』

 

『八幡……あんた何したらこんなフィクションみたいな状況作るのよ』

 

 小町は仰天し、母は驚くを通り過ぎて疑っていた。

 まさか俺が四条家のご令嬢と付き合う事になるとは。まさか俺が婿入りするとは。四条八幡と名乗る事になるとは。一体、誰がこんな事予想出来ただろうか。

 

「…実感無いな」

 

「…それは私もだけどね。あんたと結婚するなんて、夢にも思わなかった。まぁ?私の頭脳があればあんた1人告らせるぐらいどうって事も無いけどね?」

 

「うぜぇ…」

 

 確かに告ったのは俺だ。だが告られた彼女は、今みたいに偉そうにしていなかった。

 

『ほ、本当…?本当に私で良いの…?』

 

『だから告白してんだけど…』

 

『そ、そうよね!私の事が好きだから告白したものね!………嬉しい』

 

 なんだあれ可愛いなちくしょう。そういう不意打ちは良くないですわよ。表面上はツンツンというか、ちょっとプライド高めなキャラを作ってはいるが、素の時はとても可愛らしい。

 

「…それで、ハワイ行って何すんの。もう今更どこに行こうが驚きはしないけども」

 

「到着したらまずはホテル周辺を観光ね。それだけで1日が消えてしまうほどの魅力がハワイにあるから」

 

 インドに次いでハワイに旅行に行くとは思わなんだ。あの時は単に悟りを開く為に行ったが、今回はただ楽しむだけに赴く。しかも国外旅行の代名詞とも言えるハワイ。

 

「到着は、ハワイの時間では正午辺りになる。長い道のりになるから、しっかり身体を休ませておきなさいね」

 

 ハワイだけでも初体験だと言うのに、プライベートジェットにあるベッドで1泊するとは。まるでお金持ちになったと錯覚してしまう。ホテルの代金は眞妃持ちなんだけど。

 ていうかインドの時も思ったけど、金を使う事に躊躇無さ過ぎじゃないか?しかもまたホテルの代金は眞妃持ちだし。これこのままだと俺こいつのヒモになっちゃうんじゃね?

 

「お金の事なら心配要らないわよ。あんたは自分の分の事だけに使えば良いから」

 

「俺何回か施し受けるの嫌って言ってるんだけど?」

 

「ホテルの代金なんてあんたは気にしなくて良いの。お金を大切にしてないわけじゃないけど、お金よりもっと大事なものを八幡から貰ったから。…そう」

 

 眞妃は俺の耳元で吐息と共に囁く。

 

「あんたの人生をね」

 

 …今更だが、彼女も人並み以上に愛が重い。基準が分からないが、少なくとも好きな人の為にハワイのホテルの代金を肩代わりするのはやり過ぎだ。

 それだけじゃない。眞妃は俺に一体いくら投資したのだろうか。10万なんて付き合う前から超えている額だ。付き合ってからは億単位と言っても過言では無い。

 

「だから施しじゃないわ。その気なら、私があんたを養ってあげても良い。まぁ正直、家柄上そんな事は出来ないだろうけど、私は別にそれでも構わないの。八幡が隣にさえ居てくれるのなら」

 

 ほらな?伊井野や早坂よりは軽いけど、やっぱり重い。

 

「八幡の人生は、私にとって最低でも単位の価値はあるの」

 

 垓なんて単位初めて聞いたんだけど。確か京の次の単位だっけ。なんにせよ、俺の人生は眞妃にとってどうやら兆すら凌駕する高価なものらしい。

 

「でも、私と離れようとするなら許さないわ。もし女が理由ならその女は確実に生かさない。他の理由があったとしても、私はその理由を全て葬り去る。八幡が私から離れたら、もう人を信用すら出来ないかも知れないから」

 

「お前…」

 

「お金で繋ぎ止めてると思われても仕方ない。でも、何をしてでも私は八幡を離したくない。それぐらい、あんたの事が好きなの。ずっと私に寄り添ってくれたあんたが大好きなの。……だから、離れないでね?」

 

 不安げにこちらを見つめる眞妃に対して出す俺の返事は。

 

「あぁ。ずっと隣に居る」

 

「…嬉しいっ」

 

 彼女はもっと密着する。即ち抱擁。

 こんな幸せそうに引っ付く彼女から離れるわけがない。離れられるわけがない。もし離れる奴が居たらそいつは人の心を持たない鬼だろう。

 俺達はハワイに到着するまでの時間、互いが互いの身体に腕を回して眠りについた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あっつ…」

 

 俺達はようやくハワイに到着した。機内から出ると、それはもう恐ろしいまでの暑さ。現在、日本が冬だけに寒暖の差を激しく感じているのだろう。

 

「年間気温24度辺りだと言われているハワイだからね。常夏の島、とはよく言ったものだわ」

 

「日本帰ったらこれクソ寒いんだろうな」

 

 既にもう半袖を着ても良いのではないかと思案している。ハワイはそれほど暑いのだ。

 

「それで、最初はどこに行くんだ?こっちの時間だともう昼飯時だぞ」

 

「そうね…。やっぱりハワイと言えば、ロコモコよね」

 

 ロコモコ。ハワイにおける有名なグルメ。白ごはんの上にソースがかかったハンバーグと目玉焼きを乗せた料理。1度も食べた事がない故に、少し楽しみである。

 

「そうと決まれば、早く行きましょう。その後は周辺を散策して、夕方辺りに海に行きましょう。私の水着であんたを悩殺してあげる」

 

 もしかして眞妃さんが1番楽しみにしていたのではないでしょうか。ちょっとウキウキしてますしおすし。

 俺達は空港から街中へと移動。ホテルに向かう道中にあるビッグ・シティ・ダイナーというところで昼食を摂る事にした。

 

「そういえばあんた英語大丈夫なの?」

 

「可もなく不可もなくだな。喋れん事は無い」

 

 常に英語が飛び交う。日本人用に日本語を話す現地人も居るんだろうが、とにかく英語での会話が成立するのがこのアメリカなのだ。

 まぁ俺の場合は日本に居てもまともに人と話せないんだけどね。海外に行っても八幡節は変わらないのである。

 

「そういえば海行くとか行ってたな。俺そもそも水着なんて持ってなかったぞ」

 

「大丈夫よ。持って来てるから」

 

「ん?」

 

 何を言っているんだろうかこの子は。実家にも小町の居るアパートにも水着なんて無い。そもそもプールや海に行く事が無かったのだから買う理由も無かったのだ。

 

「あんたの水着は私が買っておいたわ」

 

「いや怖い」

 

 何故ナチュラルにそんな事を当然のように言う。しかもサイズを把握してるとかあり得ねぇだろ。見ただけで相手の身体を数値か何かで把握すんの?何それ相田リコちゃん?

 

「愛する八幡……いえ、の事はなんでも知らなくちゃいけないの。この程度の情報を抜かるほど、この私は甘くないわ」

 

「だから怖い」

 

 大方、使いの者に調べさせたのだろう。前から思っていたのだが、こいつ執念が凄い。おそらく、俺の個人情報の全てを把握しているに違いない。なんか本当に怖い。

 

 そこが可愛いと言えなくも無いのだが。

 

 そうこう話しているうちに、頼んでいたロコモコが運ばれて来た。情報では知っていても、生で見るのは初めてであった。初めて食べるロコモコを、撮らないわけにはいかない。ホテルに到着したら小町に送ってやろう。

 

「いただきます」

 

 写真を撮り終え、頂く事に。ご飯と共にハンバーグを切って、一口。

 

「美味い」

 

 初めてロコモコを食べたが、ネット上で評価が高くされるだけはある。ハワイで食べるから尚の事かも知れないけど、それを差し引いても普通に美味い。

 

「そうね、美味しいわ」

 

 すると、彼女はこちらに顔を向けて。

 

「八幡と一緒だから、尚更ね」

 

 そう揶揄うように微笑み掛ける。

 それはちょっと狙い過ぎじゃないですかね。正直グッと来ましたよ、うん。

 

「あれだけ女を侍らせておきながら、この程度の事で照れてしまうなんて。お可愛いこと

 

 ここぞとばかりに揶揄う眞妃。というか最後のは四宮の決め台詞だろうよ。お前が言うのかよ。

 

「そろそろ女に慣れなさいよ。もう私と肉体の関係まで持ったと言うのに」

 

 この子結構ぶっちゃけるようになったよな。前なんて"セッ…!"って言って言い切れなかったのに。

 

「女は男のそういう隙を突いてくるの。いやらしく、そして浅ましくね。だからこの程度で照れちゃダメ。その表情は私と2人の時だけにしなさい」

 

 今のお前が悪いと思うんだけど。完全に不意打ちだったろうよ。

 

「まぁ八幡の事だから私以外に靡かないだろうけど。それに、他の女にあんたを渡しはしない。そんな汚い雌犬は私の手で始末するわ。誰の男に手を出したのかって思い知らせてあげる」

 

 クツクツと笑う眞妃。それだけ俺の事を好いてるって事だから、それは良いんだけどさ。言う事がもう物騒なのよ。

 

「八幡もよ。万が一、私以外の女に靡くようなら容赦はしない。大丈夫、殺しはしないわ。殺しは、ね」

 

 可愛いけど怖い。俺は何も言えず、引き続きロコモコを食し始める。眞妃の嫉妬深さが気にならんように、現実逃避をし始めたのだ。あー美味いなー。

 

「ふふふ…」

 

 眞妃の怪しげな笑いをスルーして、俺は黙々とロコモコを食べ進んだ。眞妃も同様に、ロコモコを着々と食べていく。そして互いに完食して、お代を払って店を出た。

 

「アラモアナセンターに行くわよ。ここからはそう遠くないから」

 

 アラモアナセンター。ハワイでは有名なショッピングモールだ。特に何か買いたい物があるわけではないが、折角ハワイに来たのだから何か買って帰っても良いのかも知れない。小町へのお土産も、何か良い物があれば買おう。

 

 というわけで。

 

「さて、最初はどこから周ろうかしら」

 

 アラモアナセンターに到着。どうやらイオンやららぽーとののような室内ではなく、屋外のようだ。上を見上げると青空が見え、ショッピングモールというよりかはアウトレットに近いものを感じる。

 

「ハワイって、日本よりも安い値段で売られているブランドがあるらしいわ」

 

「ほーん」

 

 そんな豆知識があったのか。全部が全部そうではないのだろうが、少しお得な気もするな。皆もハワイに行った時は、ぜひとも日本で売られているブランド店に寄ると良い。安い値段で売られている物があると思うから。

 

「最初に向かう場所は決まったわ。行くわよ」

 

 眞妃は俺の指に自身の指を絡めるように握って、引っ張る。眞妃が向かう所に俺は連れて行かれ、彼女の買い物に満足行くまで付き合う。所々で、俺も何か買える物がないかと探していた。それが数時間も続いた結果。

 

「重い……」

 

 俺は眞妃の荷物持ちと化していた。どうせ買う物が多いだろうと予想していた俺は、彼女の負担を減らす為に持つと進んで言ったのだが、流石は女子と言うべきか。あれも欲しいこれも欲しいと巡り巡ったのだ。

 結果として、俺の両手は眞妃が買った物によって塞がった。

 

「あら、もうこんな時間。一旦ホテルに行って荷物を置きに行きましょう。夕飯は近くのお店で済ませて、その後に海に行くわよ」

 

「…仰せのままに」

 

 恋人というより、お嬢様に付き従う侍従みたいな立場になってないかな俺。うっかり「仰せのままに」って返しちゃったし。俺ってばもしかして誰かの下に付くのがお似合いなのん?

 眞妃の下に付くならちょっと悪くないかなって思い始めてる俺はもう病気。なんならこれで一句出来るレベル。

 

 病気かな 病気じゃないよ 病気だよ

 

 これはもう病気ですね。一句詠んでる時点でもう病気。病気病気言い過ぎてゲシュタルト崩壊しそうだ。

 

「何ボーっとしてるのよ。早く行くわよ」

 

「お、おう」

 

 眞妃がそう促して、ホテルまでの道のりを先導する。俺はそんな彼女の背中を追った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夕飯も終えて、俺達はホテルから少し歩いたカハナモクビーチとやらにやって来た。

 夕日に照らされる海は絶景である。これが俗に言うサンセットビーチなのだろうか。エモい、エモ過ぎるわこれ。なんならちょっと泣いちゃうまである。これはもうフォルダに保存だろ。

 

 俺はパシャパシャとスマホで夕日のビーチを撮影していると。

 

「綺麗な夕日ね」

 

 どうやら水着に着替え終えた眞妃がやって来たようだ。眞妃に視線を向けると。

 

「…ぉう…」

 

 赤いビキニを着て同じく夕日を眺めていた。そんな姿に俺は目を奪われてしまう。夕日の光も相まって、彼女の水着姿が美しく映った。褒めるところしか無いのに、褒める言葉が出ない。

 

「あら、悩殺しちゃったかしら?」

 

 俺の反応を見て揶揄う眞妃。

 やられたよ。もう普通に悩殺されたわ。悩が瞬殺されちゃったわこれ。

 

「まぁ四条の令嬢たる私の水着姿を見惚れない人間なんて居ないからね。そんな奴居たらそれこそ不調法者よ。だからあんたの反応は正しいわ」

 

「…撮って良いか?」

 

「へ?」

 

「や、お前が嫌なら良いんだけど…。言ってる事気持ち悪いし。…その、凄ぇ似合ってる、から…写真に保存したいと思って」

 

「えっあ、そ、そう…?」

 

 なんなら、夕焼けをバックに佇む彼女の姿を撮るのもありだろう。エモ過ぎる。というか普通に昼間でも彼女が綺麗な事に変わりはないと思うが。

 

「ま、全く。八幡ってば私の事どれだけ好きなのかしら。私の水着姿を収めたいなんて……ふふふ」

 

 と言っている眞妃はなんだか嬉しそうである。やっぱ可愛いな。ちょっとツンツンするとこあるけどそれをも凌駕するデレデレっぷりが可愛い。眞妃こそ至高。眞妃たん万歳!

 

「さ、思う存分撮りなさい」

 

 彼女の姿は勿論、一挙手一投足もスマホに収めた。それなりに撮って彼女に見せる。

 

「凄ぇ綺麗に撮れてるぞ」

 

「これが映えってやつかしら。良い具合に撮れているけれど…」

 

「ん?」

 

 何か気に入らないところでもあったのだろうか。四宮のように写真家になりたい為に撮影の練習をしていたわけではあるまいし、テクニックとしてはお粗末かも知れないが。

 

「八幡と一緒に写りたかったわ」

 

 こういうとこ。素直になるとこが可愛いんだって何度言わせれば分かるんだ。

 自撮りのようなスタイルで撮れば一緒に写る事が出来るが、それは眞妃も分かり切っている。こいつが言いたいのは、俺と眞妃の全身、そしてバックには夕焼けやビーチが写るような写真を残したいという事なのだろう。

 

「なら、私が撮って差し上げましょうか?」

 

「え?」

 

 名乗りを挙げたのは女性の声。俺と眞妃はその女性に視線を向けた。何故なら、その声は今まで幾度となく聞いた人物の声だったのだから。

 

「か、かぐや……?」

 

「俺も居るぞ」

 

 と、四宮の後ろから現れたのは。

 

「白銀……なんでお前まで…」

 

 四宮と白銀の再会。秀知院を卒業して以来、もう会う事が無いものばかりだと思っていた。そんな人物が、まさかのハワイでの邂逅。驚きを隠せないのも無理はない。

 

「かぐやとアメリカを旅行しようと思ってな。俺がどこの大学に進学したか、忘れたわけでも無いだろ?」

 

 白銀はスタンフォード大学に進学。スタンフォードはアメリカにある。だから同じアメリカのハワイに行こうと思えば行けるわけなのだが、だからと言ってハワイで再会するなんて誰も思わないだろうよ。

 

「かぐやがカメラマンって、大丈夫なの?ブレまくったりしないわけ?」

 

「私を甘く見ないでください。四宮の名を持つ者に、不可能はありません」

 

「へぇ。なら試しに撮って見せてごらんなさいよ。八幡、行くわよ」

 

「え、お、おう」

 

 眞妃は、海に足首が浸かる程度の所まで俺を引っ張った。そして、カメラマン四宮の方に姿勢を向ける。

 

「じゃあとりあえず、1枚撮りますね」

 

 カメラがフラッシュする。眞妃が写り具合がどの程度なのかを確認する為に、四宮のカメラに覗き込みに行った。

 

「まぁ悪くはないわね。これなら任せてあげても良いわよ」

 

「貴女が上から目線なのは非常に鼻につきますが、今日のところは良いでしょう。それよりも、まだ何枚か撮るのでしょう?」

 

「えぇ。私達のラブラブっぷりをそのカメラに見せつけてやるわ」

 

 と言って、眞妃はこちらに戻って来る。え、ラブラブっぷりって何するのん?俺聞いてないし知らないんだけど。そんな疑問を浮かべている俺の正面に、眞妃は遠慮なく抱きついて来た。

 

「何してるのお前」

 

「写真に残す為よ。あんたも腕回して」

 

 眞妃の言う通りにして、俺も彼女の腰に両腕を回す。正面から共に抱き合って、互いの表情しか見えないようになった。

 何これクソほど恥ずかしいんだけど。なんか周りから指笛やら声やら聞こえるのだが。

 

「お似合いの2人じゃないか」

 

「ちょっと黙って?」

 

 外野で揶揄うなこのモンスター童貞が。いや、もう童貞じゃないんだっけ。なんでもいいがとりあえず腹立つわあいつ。

 そこから、眞妃の指示に従いながら写真を撮られ続けていた。正面から抱き合うとか夕日を眺める俺達の背中姿とか。もうこれそういうプレイか何かじゃない?

 

「後どれくらい撮りますか?」

 

「そうね…」

 

 眞妃は四宮のカメラを再び覗き込んで、確認しながら思案する。すると、眞妃は何かを思いついた表情をする。それを俺には言わず、四宮に耳打ちをしていた。

 何、なんの話?まさかここで俺の陰口とかじゃないよね?目が腐り過ぎて私の姿が台無しなんだけどーとか言われたらもう移植するしか無いよ?

 

「…良いですよ。ウルトラロマンティックな写真になるでしょうね」

 

 ウルトラロマンティックな写真てなんだ。そんなエモい写真が出来るのか?

 

「最後の写真よ。早く撮って遊ぶわよ」

 

 そう言って彼女は、再び俺の正面に抱きついた。

 

「これさっきやったくない?」

 

「良いから従いなさい、この不調法者」

 

 よく分からないまま、俺は彼女の腰に両腕を回す。すると彼女はこちらを見上げて、話しかけて来た。

 

「八幡。あんたと出会って、とても素晴らしい時間を過ごす事が出来たわ」

 

「え、何急に。死ぬの?」

 

「良いから黙って聞け。…あんたという人間が居なかったら、私はきっと押し潰されていたと思う。翼くんの事とか、渚の事とか。友達でも無かった時から、八幡は私をずっと支えてくれた。灰色だと思ってた人生が色づいたの」

 

「…俺は別に何もしてないだろ。そんな大層な事」

 

「八幡にとってはそうかも知れないけど、私にとっては大層な事だったのよ。だから改めてお礼を言いたいの。…ありがとね、私をずっと支えてくれて」

 

 そう微笑む眞妃が眩し過ぎるせいで、俺は視線を晒してしまう。こいつ小悪魔かな。俺を落としに来てるよねこれ。いやもう落ちてるんだけどさ。

 

「面倒な女かも知れないけど、こんな私を支え続けてくれたら嬉しいわ」

 

「…分かってる。面倒なのも重いのも、全部ひっくるめて支える」

 

 眞妃も中々に面倒で重たい。だが、それは俺も同じ事。

 だから2人で支え合う。彼女が尽くすなら俺も尽くす。彼女の愛が大きいならば、俺もその愛に負けない気持ちをぶつける。

 

 人という字は人と人が支え合って生まれた字。今までは片方が寄りかかっていたと考えていた。1人に負担が掛かるのが、人という字の概念だと思っていた。

 けれど、眞妃と過ごしてその考えは変わった。片方が寄りかかるのであれば、もう片方も寄りかかれば良い。片方が支えるのであれば、こちらも支えれば良い。寄りかかり合う、または支え合う事こそが、きっと人の字の概念なのだろう。

 

「そういう事を言ってくれるから、あんたの事がもっと好きになっちゃうの。…八幡」

 

「ん?」

 

 眞妃は屈託のない笑みで、俺に一言。

 

「愛してるわ」

 

 そう言って、彼女は俺の唇を奪った。その瞬間、カメラのシャッター音が聞こえた。どうやらさっきに四宮に耳打ちしていたのは、この瞬間を収める為だったようだ。

 

 …眞妃には、いつだってしてやられてしまう。今だってそう。不意打ちにキスをして離れない。最後の写真だと言うのに、それすら忘れて俺を激しく求めて来る。写真があっても無くても、最初からこうするつもりだったのかも知れない。

 

 それでも、俺はそんな彼女が好きだ。だから彼女の想いに応えるように、俺も彼女を激しく求めた。眞妃は一瞬目を見開いたが、すぐに受け入れる。

 

「えっちょっと、人が沢山居る往来の場でそんな激しいキッス…!」

 

「比企谷……あいついつの間にそんなメンタル手に入れたんだ…」

 

 四宮の声も白銀の声も、外野の声も漣の音も聞こえない。それどころか、何もかもが俺達の周りから消える。

 

 ただ俺達が感じているのは、愛し合っているという事だけ。

 

 今の俺達に、それ以外は何も要らない。

 




 なんか単純にラブラブカップルの小説が出来上がった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。