やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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 早坂とミコに劣らないヤンデレヒロインの圭がご登場です。最初は可愛かったのに……。


白銀圭エンド

 

 俺は今、久々に秀知院にやって来ていた。その理由は、1つである。

 

「八にぃっ!」

 

 俺を"八にぃ"と呼ぶ人物はこの世に1人しか居ない。クラスTシャツを着てやって来たのは、白銀御行の妹の白銀圭。

 

「こんな人多いとこでいつも…」

 

「良いでしょ別に。だって私の彼氏なんだもん」

 

 そう。今まで圭とは近所の知り合い的な関係だった。だが今の圭は、比企谷八幡の彼女でもある。そんな彼女も、今では高校3年生。だが接し方が大して変わらない。

 

「良いなぁ〜圭ちゃん。比企谷さんを自分のモノにして」

 

 そう言って現れたのは、藤原千花の妹の藤原萌葉。圭を迎えに来ると必ずこいつも現れる。正直現れんで良いのだが。だって怖いし。

 

「ねね、今日1日比企谷さんを私にも…」

 

「ダメだよ萌葉、それ以上言ったら」

 

 一気に圭の声色が低くなる。藤原妹ですら冷や汗を掻くほどの、凍える声。

 

「八にぃは私のだから。萌葉にも、それに他の女にも。絶対に渡さない。触れさせない」

 

 昔は可愛げのある子だったと言うのに、いつの間にかヤンデレになってしまったのだ。きっと早坂や伊井野の登場が彼女になんらかの影響を与えたのだろう。1番の影響は、間違いなく俺なんだろうが。

 

「それじゃ行こっ、八にぃ」

 

「お、おう…」

 

 俺は圭に手を引っ張られて、正門を潜る。

 今日は秀知院学園文化祭、通称"奉心祭"当日。大学が休みの為、圭に誘われて来ていたのだ。

 

「ねぇ八にぃ。ちょっとスマホ貸して?」

 

「急に何?いやまぁ、別に良いけど」

 

 そんな見られて困るようなものは無い。エロサイトなんて調べてたら圭の逆鱗に触れるのは分かり切っている。だからえっちぃものは何1つ無い。

 俺は特に怪しむ事も無く、圭にスマホを渡した。圭が俺のスマホを操作していると、途端に空気が変わるのを感じた。

 

「この"姫菜"って女、誰?」

 

「あ……」

 

 圭はこちらに向けて、姫菜と呼ばれる者のアカウントを見せる。その時の表情がまた恐ろしい。光を灯さず、昏く鋭い目でこちらに視線を向ける。

 

「それだけじゃない。私の知らない間に、女のラインが増えてる。"優美子"とか。ねぇ、誰?

 

 どっちも知ってる奴である。俺個人としては特に親しくしているわけでも無いのに、講義が一緒で偶然話す事になった結果、なんかラインを交換する程度の関係になってしまったのだ。

 

「…大学の知り合いでございます」

 

「言ったよね、私以外の女のラインは消してって。この間もさ、"かおり"とかいう女と"いろは"とかいう女が知らない間に追加されてて。八にぃからは消しにくいだろうから、私が消したのに。なんでそうやって他の女の連絡先増やすの?」

 

「えっとですね、その、講義が一緒で…」

 

「そんな事情聞きたくないよ。八にぃが私以外の女と関わっているところを想像するだけでどうにかなっちゃうから。とりあえずまた消して良いよね?要らないでしょ、私以外の連絡先なんて」

 

「…どうぞ」

 

 圭ちゃんのこの病み具合がレベチ。付き合って以降、愛の重さが数倍にも増したのだ。それほど俺の事を好いているという事だから、そこに関して別に嫌じゃない。

 彼女が異常なほどに俺を好きになっているのは、伊井野のような依存でもなければ、早坂や龍珠のような特殊な事情に介入した結果でもない。

 

 圭は真面目で実直な性格。嘘や怠惰を嫌う、俺とは真反対の人間。

 

 そういう人間は好きになった人に対して一途になる。圭は俺に対する好感度が高かった。誕生日でヘッドドレスをプレゼントして以降、更に好感度が上がったのは目に見えて分かった。手前味噌ではあるが、圭は俺にベッタリだった。

 

 だからこそ、好感度が上がり過ぎると人の愛は重くなり、ヤンデレになってしまう。好きになったその人しか見えなくなり、その人の為ならば手段は選ばない。もし隠し事なんてしようものなら、今のように問い詰める。真面目な奴なら尚更。

 

 さっきも言ったように、早坂や伊井野などの登場が圭を焦らせたのだろう。圭は中等部で、高等部での生活なんて知る由も無かった。だから自分の知らない女子が出て焦燥感を露わにしたのだ。「私の知らない女に、八にぃが取られる」とかそんなとこだろう。

 

 色々話して来たが、圭の愛が重くなったのは単純に俺への好感度が限界突破したからだ。

 

「なんで人の彼氏に手ぇ出すのかなぁ。これだけ八にぃに私のだって印を付けてるのに」

 

 俺の首筋には、大量のキスマークが付いている。1つ2つとか言うレベルではない。まるで赤い首輪かのように、圭のキスマークがたっぷり付けられているのだ。

 

「手は出されてないと思うけど」

 

「出されてるよ。そもそも私の知らないところで女に話しかけられてるとか嫌だって言ったよね。ライン交換までしてさ。逆の立場だったら、八にぃだって嫌でしょ?知らない間に、私が八にぃの知らない男に話しかけられて、仲良くされてたら」

 

「そんなん許すか。その男見つけ次第処すぞ」

 

 あれ?これもしかして俺も圭と同じ穴の狢?ヒッキーってまさかのヤンデレ属性持ってる?

 

「そういう事。私は八にぃしか要らないし、八にぃも私しか要らない。それだけで良いの」

 

 圭は俺の右手を自身の右手で絡めるように握って微笑む。それは天使の微笑みとかではなく、天使が堕ちた時の笑みそのものである。

 

「さ、行こっか」

 

 再び圭に引っ張られて、俺達は校舎内に入って行く。

 

 圭が病んだ過程には、実はまだ言っていない部分がある。確かに彼女は俺にベタベタで、その愛が深過ぎる故に今の圭に至っている。しかし、それ以前に彼女には白銀母の影響が深く根付いていたのだ。

 圭曰く、母はリアリストでエゴイスト。愛情を総量と算出する利害関係と見做している。その考えは彼女達の人格形成に及んでしまった。故に、圭は無条件の愛情を信じる事が出来なくなっていたのだ。

 

 だが、その考えが俺の介入によって破綻。

 

 圭とも最初から仲が良いわけじゃなかった。白銀と関わるようになって、家に招かれて、そこから圭と関わるようになった。彼女の勉強を見たり、それこそ誕生日プレゼントを渡したり。おそらく、関わるようになってから少しずつ彼女の人格が削れていったのだ。

 彼女達の複雑な過去を知らずに、俺は彼女に無条件の優しさを与えてしまっていた。「中学生が気にするな」と、「別にこれぐらいどうもない」と。あくまで小町みたいな妹として、近所の子としてとして見ていなかったのだ。

 

 彼女のあからさまな好意が剥き出しになったのは、それがきっかけだ。それでも俺は関わり方を変えずに圭と接していた。その結果が、今の圭である。

 多分、客観的に見ても今の圭は面倒で重たい女の子だと思うだろう。それでも俺が彼女の隣に居る事を決めたのは、彼女が好きだから。どれだけ病んでいても、どれだけ重たくても、俺はそれでも隣に居続ける。

 

 それが、比企谷八幡の意思だから。

 

「それで、最初はどこ行くんだよ」

 

「私のお店に行く。私のクラス飲食店だから、八にぃに食べてもらいたいなって」

 

「まぁ時間的にもう昼頃だし…それは全然構わんぞ。なんなら腹減ってるまである」

 

 そうして向かった先は、圭のクラス。どうやらたこ焼き屋として出店しているようだ。

 

「じゃあ私はたこ焼き作ってくるから、八にぃは待ってて」

 

「おう」

 

 圭が教室の中へ行き、たこ焼きを作るらしい。わざわざ俺の為にたこ焼きを作るというのがポイント高い。ほんと良い子。これでわさびとかからしとか入れられたら多分ショックで泣く。色んな意味で辛いから。

 

「はい、お待たせ……って、なんで泣きそうなの?」

 

「いや、なんでもない。世の中甘いだけじゃないって思い出しただけだ」

 

「?何言ってるか分からないけど、別に変なの入れてないよ。そんなロシアンなたこ焼きは作らないし」

 

 そう言って、圭はたこ焼き船の上に乗せられた6個のたこ焼きを渡す。

 

「そういえば、俺が高2の時はたこ焼きの中にハートが入ってるのもあったらしいけど。今年もそういうのあんの?」

 

「奉心祭の伝説は伝統行事みたいなものだからね。そういう注文さえすれば、中にハートの形をしたウィンナーを入れるよ。でも八にぃのは違うよ」

 

 今の言い方だと、ハートが入ってないという意味に聞こえる。しかし、確かに俺達は結ばれているっちゃあ結ばれてるから、今更ハートを渡してもあんまり意味が無い。

 

「6個全部具がハートだよ」

 

 うん、違った。まさかのたこ焼きという名のたこ無しかこれは。

 たこでハートの形を作れはしない。となれば別の食材でハートの形にするのが妥当である。とはいえ、まさかたこ全部抜かれて変わりが全部ハートだなんて誰が想像出来るだろうか。

 

「なんでこんなハートだらけなのん?つか、今の俺らにハートって意味あるのん?」

 

「実はさ、奉心祭伝説にはある一説が加わったんだ。と言っても、多分この説は学生が徒に加えただけだろうけど。…心臓を意味するモノ、即ちハート型の何かを意中の相手に贈る事で、永遠の愛が齎される。それが奉心祭の伝説」

 

「そうだな」

 

 実際それで、白銀や石上は付き合えてるわけだから。文化祭マジックとはよく言ったもんだ。

 

「でも永遠なんて、普通に考えれば人間の一生。つまり、今生きている人間の1回しかない人生を意味する。それが私達人間の間で効果的な永遠の愛。死んでしまったら、永遠も何も無いでしょ?」

 

「そりゃまぁな。仮に輪廻転生があっても記憶が残るわけがない。死んでから先の記憶があるなんて誰も実証出来ない。それが死だからな」

 

「そう。でも、それを覆す為の一説が加えられた。学生達の間で、この奉心祭を盛り上げる為だけに加えられた一説。それが、ハートを複数個贈る事で、永遠の先を超えた愛の関係が確約される

 

「なんじゃそれ」

 

 永遠の先ってなんだよ。永遠に先もクソも無いだろうよ。伝統行事にこんな学生のノリをぶち込んで良いのか。恋愛脳どもがでっち上げた言葉に効力なんてあるのかよ。

 

「ハートを複数個贈る事で、輪廻転生してもその人間とまた繋がれるって事らしいの。何度生まれ変わっても、その人と一緒に居る事が出来るように」

 

 て事は何?馬鹿みたいに大量のハートの風船を用意した白銀は、何度生まれ変わっても四宮と結ばれると?ハートの量=愛の大きさなのは分かるが、圭の理屈で言うならあいつらは何世紀に渡っても一緒だと言う事になるぞ。最早怖いわ。

 

「…って、ちょっと待て。じゃあお前、たこ焼きのたこ抜いて全部ハート型のウィンナーにしたのは……」

 

「そうだよ。学生の間で作られた説だから信憑性は無いけど、それでも私がどれだけ八にぃの事好きかってのは分かるよね」

 

 彼女ははにかむ。しかし瞳から光が全く見えない。目だけ笑っていないというのは、もしかすればこの事なのかも知らない。

 

「今もこれからも、例え死んで魂だけになっても、輪廻転生したとしても。私は八にぃの隣に居る。他の女が横槍を入れる隙なんて見せないから」

 

 彼女の好意に嫌悪感などは一切ない。それくらい好きだって事が伝わるから良いのだが、顔が引き攣ってしまうほど、彼女の愛は深く、重い。この愛の大きさは、兄に似たのだろうか。

 

「それじゃ他のとこに行こ。まだ奉心祭は始まったばかりだよ」

 

「いや先にたこ焼きもどき食べさせて?」

 

 そういって熱々のたこ焼きを食べ始める。猫舌の俺はたこ焼きを冷ます為に息を吹きかけていると、圭が隣でパシャパシャと写真を撮り始めた。

 

「なんか可愛いなって」

 

 俺に可愛い要素なんて全く無いと思うんだが。むしろ太々しさしか無いまである。

 このように、俺と圭は2人で楽しんだ。特に行きたい所が無い為、基本的には圭に任せて周り続けた。

 

 そして、奉心祭全てのプログラムが終了。最後のプログラムである、後夜祭でのキャンプファイヤー。伊井野が頑張って成就させたキャンプファイヤーは、毎年恒例として行われているらしい。

 

「毎年恒例の行事だけど、何度見ても綺麗だね」

 

「そうだな」

 

 はしゃいでいる者も居れば、何故かフォークダンスも踊る者も居る始末。色んな人間が1つの眩い炎に魅了されている。卒業して見に来ても、奉心祭の終わりを告げるこの炎は、いつだって悪くないものだ。

 

「ねぇ、八にぃ」

 

「ん?」

 

「いくらハートを渡しても、いくら愛を伝えても、きっと離れ離れになる事もあるよね。こうして私達付き合ってるけど、何かの歪みで別れるかも知れない。離れるかも知れない。…それが酷く不安で、怖いの」

 

 圭が放った、その重みのある言葉。

 圭の両親は離婚している。そこからくる経験談は、圭だからこそ訴えれる言葉なのだ。

 

「私は八にぃの事が好き。大好きなの。何度生まれ変わっても、八にぃの隣に居たい。でも、そういう気持ちが強ければ強いほど、八にぃと離れる事が怖くなる」

 

「圭…」

 

「…ごめんね、変な事言って。離れるつもりも、離すつもりも無いのに。なんか不安になっちゃって」

 

 しかし、圭の表情には未だに不安が残っている。どれだけ気持ちを伝えても、どれだけ愛を捧げても、結局何かのすれ違いとかで関係が崩れてしまう。それが人間なのだ。

 圭が俺の事を好いているのは伝わるし、俺が離れようものならどんな手段も厭わないだろう。しかし、不安なものは不安なのだ。それを己で拭い去るのは困難と言える。

 

 だからこそ、俺が取る行動は。

 

「圭」

 

 圭はこちらに視線を向けると、瞬時に目を大きく開かせる。俺は彼女に向けて、ハート型のアクセサリーを差し出したのだから。

 

「俺はお前に言ったな。俺の全部やるから、代わり俺に全部くれって。それでも不安にさせたのなら、それは俺の言葉が遠回り過ぎたのが悪い。だからあの時の答えを要約して、はっきり言う」

 

 息を吸って、そして。

 

「俺と結婚してくれ、圭」

 

 目を見開いたまま、彼女の頬は一瞬で赤くなる。

 

「け、結婚…!?」

 

「結婚しても、確かに離れる事があるかもしれん。離婚なんて言葉があるくらいだからな。でも、俺はお前から離れるつもりはない。なんなら、離すつもりも無いまである。圭に色目使う輩が居たら即座にレーザーポインター浴びせれる自信はある」

 

 言葉を言い換えても、圭の不安を解決出来るわけでも無い。しかし解消は出来るかも知れない。彼女との関係をはっきりさせ、そしてその関係を保つ為の何かを彼女に贈る。

 

「本当なら指輪の方が良いんだろうが、生憎俺にそんな金は無い。ちゃんと働いて金を貯めて、そんで改めてお前に渡す。このハートは指輪を渡す為の約束だと思ってくれりゃ良い」

 

「は、八にぃ……」

 

「最初は、小町みたいなもんだと思ってた。小町みたいにそこまで手のかかる奴ではないけども、でもどこか放っておけなくて、なんだか可愛がってやりたくて。それは親愛なんじゃないかって、心のどこかで、自分自身を騙していた」

 

 俺は続ける。

 

「もしそうだとしたら、その気持ちは偽物だから。…でも今は違う。小町は小町だし、圭は圭。俺はもう、お前を小町みたいな妹みたいなものだと、単なる近所の子だとは思えなくなった。……改めて言うわ」

 

 先ほどと同じ言葉を、俺は圭に伝えた。より強く、より重く。彼女の心に伝わるように。

 

「白銀圭。…俺は、お前の事が好きだ」

 

 カラカラに渇いた喉から振り絞った告白。彼女の反応はどうなのかと窺う前に、圭は俺の身体に飛びつくように抱きしめる。

 

「私も、八にぃが好き」

 

「…知ってる」

 

「捻くれまくってるけど、親身になってくれるところが。偽りのない優しさが。諸々全部が好き」

 

「俺もこんな自分が好きだぞ」

 

 悲観的でペシミスティックなとこも嫌いじゃない。自分大好きっ子の比企谷八幡ですよろしくどうぞ。

 

「…私も、八にぃと結婚がしたい。お金貯めて、結婚式を挙げて。白銀圭から、比企谷圭に名前を変えるの。新婚旅行にも行きたい。2人で居る間は、いっぱい愛し合いたい。八にぃとの子どもも欲しい。幸せな家庭を築き上げていきたいの」

 

「…おう」

 

「八にぃのプロポーズ、私もちゃんと返すね」

 

 圭は一旦離れて、はにかみながら。

 

「私を、比企谷八幡の妻にしてください」

 

 圭はそう返した。圭の言葉に俺が返した言葉は。

 

「おう。これからも、よろしく頼む」

 

 すると突然、周りから大喝采が。

 

「えっ、何?どうした」

 

 キャンプファイヤーが盛り上がっているのかと思い視線を向けると、逆に俺と圭が注目を浴びていた。

 

「会長、結婚おめでとうございます!」

 

「ついに叶いましたね!」

 

 あーこれ聞かれてたタイプのやつか。いったいいつから聞かれていたんだろう。どこから聞かれていたにしてもすんごい恥ずいんだけど。聞かれてないと思ってプロポーズしてたのに。俺の馬鹿野郎この野郎。

 

「はーいお2人は真ん中に行きましょうか〜」

 

 すると藤原妹が俺と圭を押し出していき、皆が囲んでいるキャンプファイヤーの近くまで連れて行かれた。いや熱いし。近くにめっちゃ燃えとるやん。俺ら今から火炙りの刑にでもされんの?

 

「これ何。俺ら一体何されんの。ていうか恥ずいから離れていい?」

 

「そんな事したら私の家で監禁しちゃいますよ〜。良いんですか〜、圭ちゃんを悲しませて」

 

 藤原、お前の妹どういう教育受けたんだ。普通に生活してれば嬉々として監禁するなんて事は言わんぞ。絶対藤原か藤原姉からの悪影響だろこれ。

 

「ここに連れて来られた意味が分からないほど、鈍感じゃないですよね〜?」

 

 悪魔かこいつ。こんな大勢に囲まれた中で俺にそんな事させるのかよ。確かに見る側はロマンティックかも知れんけど、俺からしたら公開処刑よ?そういうのは式まで取っとくもんでしょうよ。

 

「わ、私は…」

 

 ほら、圭だって嫌がってる。互いに嫌がるこの状況じゃ時間の無駄だろ。

 

「良いよ…?」

 

 圭ちゃんの許可がログインしました。マジか。いやまぁ結婚式でも大勢の前でするわけだけども、それでもなんか恥ずくない?

 

「圭ちゃんはOK出しましたよ〜?ここで断っちゃうんですか〜?」

 

 こいつ本当楽しそうだよな。あれだよな、赤羽業と組ませたら絶対に碌でもない事が起きるよな。1つのクラスが壊滅するぞ。

 

 逃げ場はゼロ。意を決して、やるしかない。俺は身体の正面を圭に向けるように立ち、また圭も俺の正面に対して正面で立つ。やっばい心臓がバクバク言ってる。

 

 俺は圭の両肩に、両手を乗せて。

 

「愛してるぞ、圭」

 

 そして圭もまた。

 

「私も。愛してるよ、八にぃ」

 

 刹那。俺と圭の唇が触れ合う。

 

 周りは大きく盛り上がる。そしてキャンプファイヤーの火柱も、観客と同じく祝福するかのように、更に激しく燃え上がった。

 

 …何このウルトラロマンティック。

 


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